読了本その６４

ブレヒト



「三文オペラ」

ブレヒトの代表作。悪党や胡散臭い登場人物達が繰り広げる賑やかな喜劇。処刑寸前の盗賊団のボス、メッキースが最後の最後に唐突に女王に恩赦されて救われるという話。そのフィナーレは「不正など追及するな、この世の冷たさに遭えば不正さえ自ずと凍死する。」という内容の歌が出演者全員で歌われて強引にハッピーエンドで終わる。劇の全編に人を食ったようなシニカルな雰囲気が満ちていて笑える。劇の合間に挿入された多くの歌（クルト・ヴァイル作曲）の詞がとてもいい。
ブレヒトはこの時３０歳で、スキャンダルにまみれていて、演劇界だけでなく文学界でもかなりの有名人だったそうだ。芸術家の天才的個性という古い価値観に反逆した彼は、何人かの協力者との集団創作という方法で、周囲に何人もの協力者を持ち、同時にいくつかのプロジェクトを平行して進めるという作業方式を取っていた。作品の中に多くの人の多様な価値観を巻き込んだような勢いを感じる。活気のある時代が持っている熱気のようなものがあるね。