あれから、一ヶ月ちょっと経つ。
重傷だったはずの自らの身に起きた異変。「自分が自分でなくなる」と言った表現が良いだろうか…。漆黒と紅の衣に身を纏い、冷徹に、自らの数倍以上ある巨大な竜に果敢にも立ち向かっていったあの日から…。
それでも、命の営みは続き、ドラゴン襲撃を辛うじて躱しつつ、同盟諸国は新たなる道を歩み始めていた。
「もう一ヶ月ですか…。」
7月末に自らに起きた異変、そして、その力を初めて使ったあの依頼。
青年にとってはどうしても忘れられることが出来ないだろう。
「あの力を再び使うのですね…。あまり使いたくないのですが…。」
「ドラゴンの力と人の心を持った人間」とでも形容したらいいのだろうか、「ドラゴンウォーリア」という力を得てから、その力を守るためとはいうもののためらうきらいがあった。
しかし、同盟諸国に危機が訪れれば否応なしに、その力を使わざるを得ない。それもまた、青年の心をむしばんでいた。
力に自惚れた成れの果てが、ドラゴンなら私が持った力は一体…。
ドラゴンウォーリアになって、初めて思った事がこのことである。
ドラゴン特務部隊の死闘によって得た力、それはありがたい力でもあるものの、失った人の悲しみを考えると、その力で母なる大地を守る事を誓うのが情なのかもしれない。
そして、ドラゴンウォーリアによって、各地に現れたドラゴンは駆逐され、今度はドラゴンウォーリアが、ドラゴン界へ攻め入ろうとしているのである。
皮肉と言えば、皮肉なのかもしれないが…。
「此の力、敢えて、使わせて貰います…。」
嘗て、旅団にいた少女が亡くなった。知人が、参加し、無事に戻ってきた。
その二つの出来事が葛藤させていたのも事実である。
しかし、ドラゴン界へ攻め入る事が、せめてもの弔いになればと思う。
命のはぐくみは未来永劫続くのだから…。