ありがとう。あなたの有難くも美しいそのお心を、私は高く高く、そして私のために働くそのご意志に心から感謝するところです。ありがとう。
それでは始めよう。
今日は、かつての私達が後々影響・・・それもプラスと思われるものを与えられたある出来事についてお伝えしていただこう。
あれは、今から大分、前のことである。
時の流れはそちらのあなたの居られる所と今の私のいる場所とは異なるのであるが、それは、今から遠い昔のことではあった。
あなたと私はまだ知り合って間もなくの頃のことである。
私は、その頃から徐々に人とのいろいろな相談にのったり、街に出て様々な人々からの声掛けや話題に応じ始めていた頃であった。
ある体の小さな若い男が私の姿を見て、急ぎ足で近づいて来た。
そして言った。「ちょっと待ってくれ・・・私の話を聞いてもらえないか」
この言葉に「ああ、喜んで・・・」と私は言って立ち止まった。そして、彼が早口に語り始めた内容は、彼のフィアンセと今の言葉で表現する女性とのことであった。
彼には子供のころからよく一緒に遊んで育った近所の女の子がいて、その子と近い将来、今で言う結婚をしようと話をしていたのだった。
それは男女の仲の不思議さと言うか、昔から必ずしも約束した通りにはいかない成り行きとなっていったのを、彼は話し始めたのである。
かいつまむと、こういうことになる。
その近所の仲の良かった女の子が心変わりをしたのである。
その、美しくて可愛いらしい・・と彼は表現したが、彼女に言い寄ってくる男子が他に出て来て、徐々に彼女の心が彼の方へと向いていき、ついに彼と一緒に居る時間が多くなり、ついに彼の所へ行ってしまったということである。
自分の前から姿を消してしまい、会えなくなり、彼は毎日悶々として彼女の姿を捜し回っているとのことだった。
その話を、私に口ごもりながらも目に涙を浮かべながら話す姿に、私の心にも悲しみが痛いように伝わってきた。
「僕は、どうしたら良いのか・・・このままだとご飯ものどを通らない。どうしたら良いだろう」と私を見つめながら、口にした。
その時、大きな若い男が私達の側に何気ないように近づいて来たので、私達二人はゆっくり歩きだし、彼と離れて二人だけで話を続けようとしたが、その身体の大きな男はそのまま私達についてきた。
「ごめんよ・・・僕も話に入れてくれ」と言ったが、もう一人の相談した男が
首を横に振りながらわめくように口にした言葉は「やめてくれ・・・これは、僕のとても大事な、そして、知られたくない話なのだ・・・」と口にして僕の顔を助けを求めるように見たので、私も彼に向かって言った。
「申し訳ないが、二人にしてくれ。また別の機会にお話を聞かせてくれ」と言うと、彼は言った。
「イヤイヤ、今だから私は言いたいのだ。この男の相談内容は分かっているからこそ、ついて来たのだ。僕もその女の子を気に入っていたからね。彼女の行き先を知ってるのだ。」
ハッと顔色を変えた相談者が彼の方をキッとにらんだような表情で発した言葉は「かまわんでくれ・・・僕は僕だけの気持ちで話をしているんだ。お前の話など聞きたくない。あっちへ行ってくれ・・・」で、この言葉に彼は頷いて「そうか、彼女のいる場所を教えたかっただけだよ。」
またサッと顔色を変えた彼が、「アッなんだって・・・そうか、どこにいる?彼女は・・・教えてくれ」
「そうだろう、知りたいだろう、教えてやるよ」
と、彼は、彼女が言い寄って来た隣町の男と一緒に逆の方角の隣町に二人で行き、そこで仲良く一緒に生活し始めたということだった。
そう話す男も彼女が好きだったので、遠くから何気ないふりをして何回か見に行き、その様子に諦めたという話をしてくれたのだった。
それを耳にした小柄な男は、悲しそうな表情と意外だというような表情を浮かべながらそれをじっと聞いていて、その話が終わった時、首を何回も縦に振りながら言ったのは「そうか、やっぱりそうだったのか、おかしいとは思っていた。ありがとう、教えてくれて。悪かったナ・・・わざわざ教えてくれたのに」と、彼に謝るようにお礼の言葉を言いながら、私にも一言「ありがとう、またの機会に。今日はこれで帰って考えるから・・・」と口にして、その二人の男は私の元から去って行ったのであった。
そして、その何日かして耳にしたのは、その相談した男が、自分の身を自ら滅ぼした・・・つまり、自殺した、ということであった。
悲しいとても残念なそのニュースに、私の心は深い悲しみと後悔の念を持ったのである。もう少しあの時話をしていれば、なんとかもっと彼の気持ちを悲しみから救えたのではないか、との思いが私の心をしばらく苦しませたのである。
人の命と気持ちとの悲しい結末はその後しばらく私の心を苦しませ、色々考えさせられたものだった。そして、私の得た教訓は次のようなものだった。
私の力は本当に何にもならない程、弱かった。あの時、なんで、もっと彼に寄り添ってあげなかったのか・・・明るい方向に目を向けるための何らかの手伝いは出来なかったのかと、しばらく私は思い悩みながら、天の声を求めてみた。
「私はどうすれば良かったのか。どうすれば、彼の悲しみをやわらげ、命を救うためにはどうしたら良かったのか・・・」と。
天の声はこうだった。
「あなたはそれで良かった。正しいこと、やるべきことを為したので後悔するのはやめなさい。彼は、自分の思い、考えからあの自滅の道を選んだのであって、誰も彼の道を止められなかったのである。
しかし、命の大切さ、そして育てたご両親の悲しみを多少なりとも救うことは出来ただろう。その悲しみに寄り添って心を慰めるお手伝いは出来たかもしれない。
人の道は各々であり、歩み行く足を止めることが出来ないこともある。
あなたのするべきことは、これからも人の為・・・心を痛め、傷ついた人々を癒すことである。
この教訓を心の糧にして、これからもしっかり人の心に寄り添いなさい。
心の痛みに、そっと、優しく寄り添い、その痛みをなんとか癒すお手伝いと、命の大切さ、育てた両親の思いなどをしっかり思い起こさせるようにしなさい。
これまでどんなに愛を与えられてきたか、に心を向けさせるようにしなさい。
悲しい方向だけを見つめず、明るい別の方向に少しでも目を向けるよう、お話ししなさい。
他人の愛の方向を変えることは出来ないが、あなたが、彼がどんなに愛されて来ているかに目を向けるようお手伝いすることで、失った女の子だけに目をくぎ付けにされぬようお手伝いは出来たかもしれないが、このことからあなたの学びをしっかりやり、失った命の大切さをしっかり見つめることで将来への糧・・・大切な学びとして感謝しなさい」
というような内容であった。
命の大切さ・・・自分だけのものではない命・・・与えられている大きな愛や愛を与えてくれた人々の方向に心を向けるようお話しすることで、私はもう少し彼にしてあげられることがあったのではないか、とこのことで大きな教訓を得たのである。
これは、まだ私がごく若かりし頃の悲しい思い出である。
私も様々な人々からの相談や語りかけの中で、哀しみや後悔、反省を得られ、成長させていただいたと言えよう。哀しみから得た大切なものである。
今日は、あなたにこんな私の若かりし頃のエピソードをお伝えし、私もこんな思いをしたことを、懐かしく、後悔と反省の思いと共にお伝えさせていただいた。
すべては学び・・・すべては愛への道の一歩一歩であると言えよう。
全てを愛への道という観点から考えるのも良いだろう。
苦しみを乗り越えるためには、自分がどんなに愛を与えられているかを知り、失ったところだけを見つめず、明るい方向に少しでも目を向けることで、悲しみ、喪失感を乗り越えられることを知っていただきたい・・・と、自分の体験をお話しさせていただいた。
ありがとう、ありがとう。
あなたのそのご努力とご協力に、心からの感謝、そして私からの深い深い愛をお届けしよう。
ありがとう。