WITH白蛇

憂生’s/白蛇 セカンドハウス

鍋(の中)

2015年09月28日 | 物語に埋ずむ「食」

憂生が友人宅に泊まりいくと、なると、おふくろは『迷惑をかける』と、よくぶつくさ言った。
じゃあ、憂生の友人が泊まりに来たのも、「迷惑なんじゃな!!」
と、言い返した。
これで、ぐうの音もでまいと思ったのに、逆になってしまった。
「うちん家はな、商売やっとるから、3人来ようが10人来ようがなんと言うことはない。だが、普通の家にいったら、一人にひとつしかないおかずだったら、おまえのせいで、おかあさんがおかずへつらなきゃいけなくなる。家族の数しか作らないんだから、迷惑をかけることになる」
お袋の意味合いもわかるが、でも、やっぱ、そうはいかないのが、友人つきあい。
で、泊まりに行った時、友人のおふくろさんは、やっぱり食べなさいといってくれる。
で、言いながら鍋から、よそう準備をしてた。
土鍋とかじゃなくて、普通の鍋・・。
あっ・・て、思った。
鯵かなんかの煮付けだったら・・。
数が無いに決まってる。

・・・。

鍋の中というと、この思い出が浮かんでくる。
さいわい、煮付けはいわしで、数こそ勝負とばかり鍋の中にいっぱい並んでいた。

こんな思い出が下の話につながっているんだと思う。
迷惑をかけたかもしれないが、やっぱり、食えとさしだしてもらえることは、心温まる。

蕭然とする波陀羅の様子に伽羅も折れるしかなかった。
「判った。約束するに・・・理由を話せ」
「止めぬな?」
「止めたらやめるのか!?やめる気のような事で我を代わりにする気か?」
伽羅の激になりかねない興奮は
何処かでそんな安易な波陀羅の訳であって欲しいという思いが
伽羅の中から前のめりになって出て来ていたせいである。
「伽羅、すまぬ。我は双神が所に行って一樹と比佐乃の身の保証を立てたいに。
あれらを元に戻せるのも、あれらをああした双神ならばできるだろう・・・」
「出きるのか!?確かにできるのか?」
伽羅の声が涙に詰まってきていた。
その声は伽羅が何に不安に感じているのか、
波陀羅が何を覚悟しているのかを知っていた。
「伽羅。御前のいう澄明でもそれはできまい?
判らぬ事じゃが、双神にそれができるかも知れぬならそれにかけてみるしかないに。
それをどうにもしてやれず、いくら傍におってやっても我には辛いだけじゃに」
「波陀羅・・・・」
「伽羅。なんの礼もできん。澄明にも・・・同じじゃ」
「波陀羅。そんなものいらん。
我は御前が幸せであってくれれば、
にこやかに笑ろうてくれておりさえすれば良かったに。
邪鬼のした事が御前をここまで不幸にしたかと思うと
我はどう・・・詫びたらよい・・・」
「伽羅。忘れてくれ。の!?忘れてくれ。
我とて同じじゃ。御前にどう詫ぶればよいに・・・」
顔を伏せていた伽羅であったが気を取り直すかのように
「波陀羅。なんにせよ、今は腹が減った。
食う物を食わぬとが尚気が暗うなる。そこの鍋を暖めようぞ」
伽羅に言われて波陀羅も傍らの敷き藁の上に置いてある鍋を掴むと
五徳の上に置いた。
「伽羅・・・。御前が邪鬼丸に愛されておったのはそのような所じゃの」
「なんじゃあ?」
「いや、いつかの。伽羅は陽気な性の所が良いというておったに、ほんに・・・」
「阿呆、陽気でおらねば、不遇の方から寄って来るんじゃに。
の?波陀羅・・・そうは思わぬか?」
「ならば、我は元々は不幸な女子でなかったやもしれぬの。
比ぶて御前のほうがそんなに陽気な女子じゃに・・・。
この程度の幸ぶりではおかしいの?」
「あははは。お前の言う様に、元々我の方が余程不幸な女子じゃったかもしれん」
二人が肩を軽く揺すりながら笑う頃には
早くも火の勢いに鍋の中から美味そうな匂いと伴に湯気が湧き上がって来ていた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿