every word is just a cliche

聴いた音とか観た映画についての雑文です。
全部決まりきった常套句。

KOITAMA 『Love Ya Like』

2013-02-19 | HIP HOP
色々騒いでいたらご本人からCD-R(「My Song」のビートを共に手がけたshot-arrow氏によるマスタリング済)頂きました。なので改めて書きます、よ。





熊谷在住のKOITAMAは自らの肩書きをこう記している。
DJ / RAPPER / TRACK MAKER /OFFICE WALKER
ここに端的に表れているようにはじめてのMixtapeでスピットされるラップは東京で働くサラリーマン(ヒカリエ云々という「2 DAY」の件から推測するにIT系)の視座で綴られている。

50年前には青島幸男がサラリーマン生活を描いた歌詞がヒットしたけれど、基本的に日本で歌われる歌は恋愛に関するモノが殆どで、普通の給与生活者の日常を歌ったものは殆どない。

J-POPには明るくない人間なんで、例示が古くて恐縮けれどユニコーン「大迷惑」くらいかな。でも、あれだって20年以上も前だし、作詞者の奥田民生はサラリーマン経験はないから、身近で聞いた話(当時のレコ社担当者)を歌にしただけだ。スガシカオはサラリーマンを辞めて歌手に転進したけれど、兼業だったわけではない。小椋佳と言う人もいるけど、彼の作品は会社員としての視点を歌詞にしてるとは言えないよなぁ。

ラップに関してもマイクモノ、ハスラーモノ、社会派、ゲットーな暮らしについて歌うものはあってもサラリーマン生活に歌っているのはちょっと思いつかない。

閑話休題。

何はともあれ「My Song」だ。
僕が『Love Ya Like』をサラリーマン的視点と言う風に聴いてしまうのも、この曲のイメージが鮮烈だからそれに引っ張られているのだろう。

この曲は岡崎友紀「ジャマイカン・アフェアー」のサビをチョップしてフィルターをかけたループを中心に組み立てられている。サビでネタばらしをしていく展開も素晴らしい。



この曲は曲中で「あのビーツかっこいいねぇ」と語りが入っているところからも察するようにトラック先行で書かれていると思う。
想像するにループされている「give me one more chance 暗くなるまで I can't wait.」という恋心を描いた歌詞を踏まえて、いま働く給与所得者が"もう待てない"と感じている空気を"OFFICE WALKER"の視点でラップしている。




上に上に 上昇志向
空回り また空売り

貸し借りの 話はナシ
群がる 情報弱者

明日の約束 今は出来ない
笑顔が 少しこわい
(KOITAMA & shot-arrow / My song)



続く2曲目「Have A Good Time」ではちょっとした日常のホッとする贅沢を描き、「Man In The Music」では(コルトレーンやテリー・ライリーと言ったステレオタイプなB BOY像から離れた)音楽への愛を歌う。
9曲目「2 Day」では自作のブルース的なループのトラックの上でまた都会で働くサラリーマンの悲痛を描く。

土日に働くヤツ、アホか(KOITAMA / 2 Day)

『個人的でミクロな情景をマクロに一般論まで膾炙させる』というのはRhymester宇多丸が喝破したラップのアドヴァンテージだが、そういった特性をもつラップでしか(いまのところは)出来ない表現がここにはある。
映画『サウダーヂ』で田我流が演じた冒頭の名シーンのように、日常についもらしてしまう言葉の延長線上にラップという表現があるからだ。

先に脱線気味にあげた奥田民生やスガシカオはロック・シンガーあるいはポップ・シンガーであって、サラリーマンという言葉に呼応していえばフリーランスのノマドであり、起業家である。もちろん(ある程度安定した)給与ではなく自ら稼ぐ立場にも悲哀というものは当然あって、比較するとこちらの方が痛いのかもしれない。


けれど、そのふたつとも経験している自分が思うにその悲哀というのはまったく相反するものではなくて、それぞれあるものだ。どっちがマシとかそういうことはいえなくて、せいぜいむいているか、むいていないとかしか言えない。

僕がKOITAMAのRAPに惹かれるのは彼が見ている風景、描写する光景が他のどんな表現者よりも自分が見ている風景に近いからだろう。
渋谷の雑踏、ユニオンでDIGるレコード、寂しさに心が粉々になりそうな夜……。

だから、例えば北海道に住んでいる友人に薦めたとしても分かってもらえないかもしれないだろなとも思う。心象風景は同じだとしても、見ている光景が違うから。

映画『サウダーヂ』や『サイタマノラッパー』で描かれたように周囲5メートルで起きている出来事を描いても、500キロメートル離れた人、5000キロメートル」離れた人にも届きうるソウルがある。
それがヒップホップ……ということではないとは思うけれど、ヒップホップというN.Y.の一地域ブロンクスで生まれた文化がそういう要素を持っていて、歴史の中でそこが強化されたという側面はあるなぁと思う。



まぁ、とりあえず下記リンクでDLできるので(320kbpsという太っ腹!)聴いてみて欲しいです。


KOITAMA『Love Ya Like』 DLリンク




「日本全体がブラック企業家」していると前にも書いたけれど、過労死とか労災レベルになるほどではない(=報道されない)レベルのごく一般的な企業(黒とは言い切れないが灰色に近い)で働く人のキモチを後に伝える歌として、とても秀逸であると思う。













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