バイロンはお好き?

バイロンを超現代的に解釈・注釈・日本語訳するブログ

一本の葦のよう

2010年04月30日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第3編

2.
またもや海の上とは! またしても!
波は、騎手を知ってる馬みたいに、
僕を跳ね上げる。唸り声も大歓迎だ!
何処へ向かうにしろ、速く導け!
張りつめた帆柱が葦のように震えても、
裂けて翻弄している帆布が強い風をまき散らしても、
僕はそれでも進まなきゃならない。だって、僕は、一本の葦のよう、
岩場から投げ出され、<海>の泡のうえ、大波が打ち寄せ、
嵐の息吹がる吹き寄せるところへは何処へでも、航行しなくちゃならない。


II.

Once more upon the waters! yet once more!
And the waves bound beneath me as a steed
That knows his rider. Welcome to their roar!
Swift be their guidance, wheresoe’er it lead!
Though the strained mast should quiver as a reed,
And the rent canvas fluttering strew the gale,
Still must I on; for I am as a weed,
Flung from the rock, on Ocean’s foam, to sail
Where’er the surge may sweep, the tempest’s breath prevail.


roar:(雷・波・風などの)とどろき, うなり;騒音, 爆音.
guidance:(…についての)指導, 案内, 手引き, さしず((on, about ...));手本
strained:ぴんと張った;緊迫した;緊張した
rent:(衣服などの)ほころび, かぎ裂き, (地面などの)割れ目, 裂け目
strew:((主に受身))〈…を〉(…に)まき散らす((about, around/on, over, around ...));〈場所に〉(…を)まき散らす((with ...))
gale:強い風;《気象》強風
prevail:広く一般に存在する, 広がっている

可愛い我が子よ!

2010年04月29日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第3編

1.
可愛い我が子、我が家と心のただひとりの娘よ!
エイダ! おまえの顔は母親似か?
このまえ僕はその笑っている青い瞳を見た、
それから僕たちは別れたんだ。今とは違って、
あのときは、また会える希望があったけれど。――
        ハッとして目覚めれば、海の上だ。
空には風がうなり声をあげている。出発だ、
何処へなんて、知ったことか。だが、遠ざかる祖国の岸辺に
悲しんだり喜んだりできるときは、もうおしまいだ。


I.
Is thy face like thy mother’s, my fair child!
Ada! sole daughter of my house and heart?
When last I saw thy young blue eyes they smiled,
And then we parted, - not as now we part,
But with a hope. -
Awaking with a start,
The waters heave around me; and on high
The winds lift up their voices: I depart,
Whither I know not; but the hour’s gone by,
When Albion’s lessening shores could grieve or glad mine eye.


start:((通例a ~))(ある位置から)突然動き出すこと;はっとする[驚く]ことe.g. give a person a sudden start人をびくっとさせる、awake with a startはっと目をさます
Whither:どこへ, どちらへ(to what place)

*エイダ:バイロンの嫡子。1815年12月10日生まれ。この詩が書かれた当時は4ヶ月の赤ん坊だった。

私は謙虚に頭を垂れよう

2010年04月25日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
98

年月を経るうちに待ち構えている、最悪の災いは何だ。
額により深いしわを刻みつけるものは何だ。
それは私が今そうであるように、愛するものが一人一人、
人生の記録から消されていくのを見ること、そして地上で独りになることだ。
「人を懲罰する者」の前で、私は謙虚に頭を垂れよう。
引き裂かれた心と、壊された希望のうえに、
過ぎゆけ、空虚な日々よ!お前はまったく向う見ずに流れてゆけばよい、
なぜなら「時」が私の魂が歓ぶものを何であれ奪ってしまい、
私の若き日々は、「老年」の不幸によって損なわれてしまったから。

原文

What is the worst of woes that wait on age?
What stamps the wrinkle deeper on the brow?
To view each lov’d one blotted from life’s page,
And be alone on earth, as I am now.
Before the Chastener humbly let me bow:
O’er hearts divided and o’er hopes destroy’d,
Roll on, vain days! full reckless may ye flow,
Since Time hath reft whate’er my soul enjoy’d,
And with the ills of Eld mine earlier years alloy’d.



blot: 塗りつぶす、消滅する
reckless: 無謀な、向う見ずな、無責任な
reft: ⇒reaveの過去・過去分詞: 略奪する、盗む、引き裂く
eld: 《古・詩》老齢、古代、昔
alloy: 結合する、そこなう、そぐ、減ずる、和らげる


未来の涙の溝を

2010年04月24日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
97

では、私はまた群衆の間に身を投じなければならないのか、
そして「平安」が求めることを軽蔑するものすべてに、従わなければならないのか。
そこは「歓楽」が呼び、「笑い」がいたずらに大声で、
心を欺きながら、くぼんだ頬をゆがめて、
萎れゆく魂を、二重に弱くさせておくところ。
それでも、いやおうなしに陽気そうな表情は、
喜びを装うか、あるいは不機嫌を隠すために、
頬笑みが、未来の涙の溝を形づくる、
あるいは、上手く隠せない嘲りで、唇を捻じ曲げるのだ。

原文

Then must I plunge again into the crowd,
And follow all that Peace disdains to seek?
Where Revel calls, and Laughter, vainly loud,
False to the heart, distorts the hollow cheek,
To leave the flagging spirit doubly weak;
Still o’er the features, which perforce they cheer,
To feign the pleasure or conceal the pique,
Smiles form the channel of a future tear,
Or raise the writhing lip with ill-dissembled sneer.



plunge: 飛び込む、突進する、突っ込む
disdain: 軽蔑する、さげすむ、歯牙にもかけない、潔しとしない、恥ずかしく感じる
revel: 歓楽、お祭り騒ぎ
distort: ゆがめる、ねじる
flagging: 垂れ下がる、弱化をたどる、萎れた、衰える
perforce: 必要に迫られて、否応なしに、必然的に
pique: 立腹、不平、不機嫌、反目、憤り、いらだち
dissemble: 隠す、偽る、装う


仮借ない「死」よ!

2010年04月23日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
96

ああ!常に愛情にあふれ、美しく、愛された人よ!
なんと利己的な「悲しみ」は、過去のことをひたすら思うことだろう、
そして今では取り去ってしまったほうがよい思いに、しがみつくのだろう!
しかしついには「時」が私からあなたの面影を引きはがすだろう。
お前は、私から奪うことができるものはすべて奪ったのだ、仮借ない「死」よ!
親、友、そして今や友以上の人も。
今までお前の矢が一人のために、こんなに速やかに飛んだことはない、
そして悲しみが悲しみと混じり合わさり続けて、
人生が与えてくれるはずの、ささやかな喜びさえ奪ってしまった。

原文

Oh! ever loving, lovely, and belov’d!
How selfish Sorrow ponders on the past,
And clings to thoughts now better far remov’d!
But Time shall tear thy shadow from me last.
All thou could’st have of mine, stern Death! thou hast;
The parent, friend, and now the more than friend:
Ne’er yet for one thine arrows flew so fast,
And grief with grief continuing still to blend,
Hath snatch’d the little joy that life had yet to lend.



ponder: 思案する、じっくり考える、熟考する
stern: 厳しい、いかめしい、仮借のない、つらい
snatch: かっさらう、ひったくる
lend: 与える、添える、加える

愛しく美しい人よ!

2010年04月22日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
95

汝もまたいってしまった、愛しく美しい人よ!
その青春と若き日の愛情は私と結ばれていたのだ。
他の誰もしなかったことを、私にしてくれた人、
汝には相応しくない私を、避けることをしなかった。
私の存在とは何だ、汝がいなくなってしまったというのに!
汝の放浪者を、ここに留まって迎えてくれなかったというのに。
私たちがもう出会うことがないであろう時間を嘆く―
起こってしまったことでなければよかった、またはこれからのことであれば!
戻ってきて、放浪の新たな理由を見つけることなど、決してなければよかったのに!

原文

Thou too art gone, thou lov’d and lovely one!
Whom youth and youth’s affection bound to me;
Who did for me what none beside have done,
Nor shrank from one albeit unworthy thee.
What is my being? thou hast ceas’d to be!
Nor staid to welcome here thy wanderer home,
Who mourns o’er hours which we no more shall see―
Would they had never been, or were to come!
Would he had ne’er return’d to find fresh cause to roam!



shrank: ⇒shrinkの過去・過去分詞: 避ける、恐れる、ひるむ
albeit: たとえ~でも、~にもかかわらず
unworthy: 値しない、相応しくない、不似合いな、賞賛に値しない
staid: ⇒stayの過去・過去分詞
roam: 漂浪する、放浪する、漂泊する、歩き回る

このように長々と続く歌に

2010年04月21日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
94

このように長々と続く歌に
不名誉な詩で無聊を慰めている汝よ、
まもなく汝の声は、これら後の世の声高い吟遊詩人たちの
群れのなかで、失われてしまうだろう。
萎れゆく月桂冠のための闘いは、そのようなものたちに譲るのだ―
そのような争いは、辛らつな批判も偏った賞賛も気にとめない魂を
悪いほうへ動かしてしまうだろう。
というのは、認めてくれたかもしれない優しい心は、みな冷たく、
誰も愛するものがいないときは、喜ばせるものもいないのだから。

原文

For thee, who thus in too protracted song
Hast sooth’d thine idlesse with inglorious lays,
Soon shall thy voice be lost amid the throng
Of louder minstrels in these later days:
To such resign the strife for fading bays―
Ill may such contest now the spirit move
Which heeds for keen reproach nor partial praise;
Since cold each kinder heart that might approve,
And none are left to please when none are left to love.



protract: 長引かせる、引き延ばす、伸ばす
idlesse: 《詩》安逸、逸楽
lay: 物語詩、歌、鳥のさえずり
bay: 【複数形で】月桂冠、栄誉、名誉
heed: 気をつける、心にとどめる、注意を払う
partial: 不公平な、えこひいきする、部分的な


魅惑的な荒れ野を心安らかに

2010年04月20日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
93

そういう者たちを、この聖なる土地に近づかせ、
その魅惑的な荒れ野を心安らかに通らせるのだ。
だが遺物は放っておけ―おせっかいなやつに
その場所を破壊させてはいけない、すでにどれほど破壊されたことか!
またそのような目的のために、これらの祭壇が置かれたのではないのだ、
国々がかつて崇敬した名残りを尊ぶのだ。
そうすれば我々の国の名が汚されることはないであろうし、
汝の青春がはぐくまれた場所で、汝は栄えるであろう、
すべての愛と生活のまことの喜びに恵まれて。

原文

Let such approach this consecrated land,
And pass in peace along the magic waste:
But spare its relics―let no busy hand
Deface the scenes, already how defac’d!
Nor for such purpose were these altars plac’d:
Revere the remnants nations once rever’d:
So may our country’s name be undisgrac’d,
So may’st thou prosper where thy youth was rear’d,
By every honest joy of love and life endear’d!



consecrate: 神聖にする、聖化する、奉納する、捧げる
waste: 荒地、不毛の土地、砂漠、荒廃地
spare: 容赦する、惜しむ、控える、避ける、近づかないでいる
relic: 遺物、かたみ、なごり、遺跡
deface: 外観を損なう、表面を汚す、破壊する
revere: 崇敬する、尊ぶ
remnant: 残り、残余、名残り、遺物、面影、残滓

《悲しみ》によって慰められる者

2010年04月19日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
92

別れゆく者は、懐かしい故郷にしがみつく、
もし喜ばしい炉辺で迎えてくれるような心通う者がいるなら。
寂しい者を、ここへと放浪させ
心を共にする土地を満足そうに見つめさせよ。
ギリシャは社交的な歓楽の陽気な土地ではない。
しかし、《悲しみ》によって慰められる者がここにとどまれば、
生まれ故郷を惜しむことのないだろう。
デルフォイの神聖な山腹を、ゆっくりと彷徨うとき、
あるいはギリシャ人とペルシャ人が死んだ平原を臨むときに。

原文

The parted bosom clings to wonted home,
If aught that’s kindred cheer the welcome hearth;
He that is lonely hither let him roam,
And gaze complacent on congenial earth.
Greece is no lightsome land of social mirth;
But he whom Sadness sootheth may abide,
And scarce regret the region of his birth,
When wandering slow by Delphi’s sacred side,
Or gazing o’er the plains where Greek and Persian died.



bosom: 情、胸、胸中、愛情
wonted: 慣れた、常の、いつもの
hither: ここへ、こちらへ
complacent: 満足そうな、悦に入って、自己満足の、のん気な
lightsome: 快活な、陽気な、楽しい、軽薄な、のん気な
mirth: 浮かれ騒ぐこと、歓楽、歓喜、陽気
Delphi: デルフォイ、デルポイ《古代ギリシャのパルナソス山麓の町で、アポロン神殿があったところ》

輝かしい過去の名残りへと

2010年04月19日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第2編
91

それでもお前の輝かしい過去の名残りへと
憂いに沈む巡礼たちは、疲れを知らずに群れをなして向かうだろう。
航海者は、イオニアの風とともに、
闘いと歌の光輝く土地を、永く歓呼することだろう。
お前の年代記と不滅の言葉は永く、その名誉で
多くの国々の若者の心を満たすだろう。
年取った者の誇り!若者の教訓!
パラスとムーサがその崇高な教えを明かす時、
賢者は尊び、詩人は崇拝する。

原文

Yet to the remnants of thy splendour past
Shall pilgrims, pensive, but unwearied, throng;
Long shall the voyager, with th’ Ionian blast,
Hail the bright clime of battle and of songs;
Long shall thine annals and immortal tongue
Fill with thy fame the youth o many a shore;
Boast of the aged! lesson of the young!
Which sages venerate and bards adore,
As Pallas and the Muse unveil their awful lore.



remnant: 残り、遺物、面影
throng: 群がる、群れをなして移動する、殺到する
voyager: 航海者、旅行者、《昔の》航海冒険者
annals: 年代記、編年資料、記録
shore: 国、土地、地方
Pallas: 《ギリシャ神話》Athena女神アテナの呼称のひとつ
Muse: 《ギリシャ神話》ムーサ、ミューズ《芸術・学問をつかさどる9女神》