バイロンはお好き?

バイロンを超現代的に解釈・注釈・日本語訳するブログ

ここにおまえは棲んでいたのだ

2008年12月22日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編


23
ここにおまえは棲んでいたのだ、そして快楽のたくらみを練っていたのだ、
むこうの山の永遠に美しい崖の下に。
しかし今ではだれかに祝福してさえもらえぬもののように、
おまえの夢のような棲家は、おまえとおなじほどに寂しい!
ここには大きな雑草が、寂れたホールへの道をふさぎ、
大きく放たれたままの入り口へさえ行けない。
この世ではなんと虚しく快楽が降り注ぐことか、という
新たな思いが胸に湧き立つ。
この世の喜びは「時」の激しい渦のなかでやがて微塵に消えてしまう。

********

原典+注です~

XXIII.

Here didst thou dwell, here schemes of pleasure plan.
Beneath yon mountain’s ever beauteous brow;
But now, as if a thing unblest by man,
Thy fairy dwelling is as lone as thou!
Here giant weeds a passage scarce allow
To halls deserted, portals gaping wide;
Fresh lessons to the thinking bosom, how
Vain are the pleasaunces on earth supplied;
Swept into wrecks anon by Time’s ungentle tide.


brow:がけっぷち.
ever:いつまでも, いつも変わらず;永久に
scheme:((しばしば~s))(…しようという)陰謀, たくらみ((to do))
unblest:神の恵みを受けない, 祝福されない./のろわれた;不幸な, みじめな
passage:道路;水路;通路
portal:((通例~s))((文))(宮殿などの堂々とした)表玄関, 入り口, 正門.
pleasaunces:[U][C](世俗的な)快楽, 道楽, 娯楽, (肉体的)快楽, 放縦
anon:((古))やがて, ほどなく;((文))そのうちまた.

勾配になっている丘のうえに

2008年12月22日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

22
勾配になっている丘のうえに、下方の谷間に、
かつて王たちが住んだ館がある。
しかし今では野の花だけがそこに息づいているのだ。
しかし朽ちた「壮麗」がまだそこを立ち去れずにいる。
向こうには王の麗しい宮殿が聳え立つ。
ヴェセックよ! おまえはイングランドのもっとも裕福な息子だった。
かつておまえはおのれの「楽園」を築いたのだ。
きまぐれな「富」が偉業を成し遂げたとき、
温厚な「平穏」はいつもみだらな魅惑を避けていたと気づかないでいた。

*******************
原典+注です~

XXII.

On sloping mounds, or in the vale beneath,
Are domes where whilom kings did make repair;
But now the wild flowers round them only breathe:
Yet ruined Splendour still is lingering there.
And yonder towers the prince’s palace fair:
There thou, too, Vathek! England’s wealthiest son,
Once formed thy Paradise, as not aware
When wanton Wealth her mightiest deeds hath done,
Meek Peace voluptuous lures was ever wont to shun.


mounds:小山, 小丘;土手, 堤, 土塁
whilom:=once upon a time
repair:resort in a place or among others
Splendour:豪華, 華麗, 壮麗;((~s))壮観
yonder:あそこに;向こうに
tower:(…の上に)高くそびえる((up, above/above, over ...))
wanton:〈風などが〉気ままな、〈女性が〉ふしだらな, 不貞な
Meek:おとなしい;柔和な, 温和な
voluptuous:官能的[肉感的]な;好色な;みだらな
lure:魅力, 魅惑(attraction)
wont:((叙述))((形式))〈人が〉(…し)慣れて, (…するのを)常として((to do


そしてきみが岩へと飛び渡るとき

2008年12月14日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

21
そしてきみが岩へと飛び渡るとき、ここそこに
たくさんの荒削りの十字架が小径の脇に突き刺さっているのを見なさい。
しかしこれは「献身」の供物だとは思うことのないように。
これらは殺人の怒りに手向けた儚い記念碑なのだ。
叫び声をあげた犠牲者が暗殺者の刃に血を流したところにはどこでも
誰かが朽ちゆく木片の十字架を立てる。
そして森や谷は、この血塗られた大地には、こんな幾千の十字架で満ちている。
そこでは法も命を護りはしないのだ。

**********
以下、原典&注。

XXI.

And here and there, as up the crags you spring,
Mark many rude-carved crosses near the path;
Yet deem not these Devotion’s offering -
These are memorials frail of murderous wrath;
For wheresoe’er the shrieking victim hath
Poured forth his blood beneath the assassin’s knife,
Some hand erects a cross of mouldering lath;
And grove and glen with thousand such are rife
Throughout this purple land, where law secures not life!


frail:〈陶器などが〉もろい;〈幸福などが〉はかない, 一時の
erect:障壁などを〉築く
moulder:(徐々に)朽ちる, くずれる, 崩壊する((away, down))
lath:木摺(きずり), 木舞(こまい):塗り壁や屋根の下地にする薄く細長い小幅板
grove:((文))木立ち, 林, 小さな森
glen:(アイルランド・スコットランドの)峡谷, 谷間
rife:[形]((叙述))((形式))〈好ましくない物・事が〉はびこって, 広まって
with thousand such are rife:=are rife with thousand such (crosses).

それからゆっくりと曲がり曲がった道を登り

2008年12月14日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

20
それからゆっくりと曲がり曲がった道を登り、
道すがら、ときおりためらいがちに振り返り、
さらに高い巌から新たな美を眺めて、
「聖母の悲しみの家」で休憩しなさい。
そこではつましい修道士たちが異国の者に小さな聖遺物を見せ、
様々な伝説を語ってくれる。
ここで不敬な者は罰せられてきたのだ。見ろ、
あそこの穴窪の深く、ホノリウスが長きに渡って住んでいたのだ、
地上を地獄と化すことによって天に値するため。

**************
以下、原典+注です~

XX.

Then slowly climb the many-winding way,
And frequent turn to linger as you go,
From loftier rocks new loveliness survey,
And rest ye at ‘Our Lady’s House of Woe;’
Where frugal monks their little relics show,
And sundry legends to the stranger tell:
Here impious men have punished been; and lo,
Deep in yon cave Honorius long did dwell,
In hope to merit Heaven by making earth a Hell.


linger:(去りかねて)ぐずぐずする, 居残る
frugal:つましい
relic:《キリスト教》聖遺物.
sundry:((形式))いろいろな, 種々の;数個の
impious:不信心な, 不敬な, 不遜(ふそん)な, 無礼な.
yon:あそこの物[人]
Honorius:ホノリウス。1596年、95歳で死んだ修道会士にして隠者。30年以上小さな穴に住んだ。

崩れそうな修道院を冠する畏ろしい岩山

2008年12月14日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

19
崩れそうな修道院を冠する畏ろしい岩山、
草木の繁った斜面を包む真っ白なコルク樫、
焼けつく御空に焦がされた山苔、
窪んだ峡谷(そこでは陽のあたらない潅木が涙を流しているだろう)、
凪いだ海の優しい青藍、
燃え立つ緑の大枝を飾るオレンジ色、
崖から谷へと飛びこむ奔流、
高みに葡萄樹、低きに柳枝、
ひとつの広大な景色に混じり合い、すべてが多彩な美で輝いている。

***************
以下、原典ならびに注。

XIX.

The horrid crags, by toppling convent crowned,
The cork-trees hoar that clothe the shaggy steep,
The mountain moss by scorching skies imbrowned,
The sunken glen, whose sunless shrubs must weep,
The tender azure of the unruffled deep,
The orange tints that gild the greenest bough,
The torrents that from cliff to valley leap,
The vine on high, the willow branch below,
Mixed in one mighty scene, with varied beauty glow.


horrid:恐ろしい, こわい, 忌まわしい.
crag:そそり立つごつごつした岩, ごつごつした岩角
topple:(倒れそうに)前にかしぐ
cork-trees:ブナ科の常緑高木。葉は硬く、長楕円形。5月ごろ花をつけ、秋に実を結ぶ。地中海沿岸地方に多く、樹皮の厚いコルク層から良質のコルクがとれる。
hoar:灰白色の, 白い
clothe:…を(…で)すっかりおおう
shaggy:〈草木が〉はびこった
scorching:焼けつくような, 非常に暑い
imbrown :(他)…を茶色にする;〈人を〉(陽やけで)黒くする;…を薄暗くする.
sunken:〈壁・道路などが〉沈下した, 下がった
glen:(アイルランド・スコットランドの)峡谷, 谷間
shrub:低木, 灌木
unruffled:冷静[沈着]な;〈水面などが〉波立ってない
deep:《詩》海, 大海原, わだつみ
gild:…のうわべを飾る, 見ばえをよくする
mighty:((文))〈物が〉非常に大きな, 巨大な;〈海などが〉広大な

哀れな、けちな奴隷!

2008年12月08日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

18
哀れな、けちな奴隷!それなのに、もっとも高貴な景色の中に生まれるー
自然よ、どうしてその驚異をこのようなものたちの上に無駄にするのだ。
見よ!シントラの輝けるエデンの園は、
山と峡谷の色とりどりの迷路のはざまにあるのだ。
ああ、畏敬の念に打たれた世界に、楽園の門を開かせた
詩人たちが物語る言葉よりも、
人間の目を眩ませるような景色、
その、目を見張らせる景色の半分でも描きだすような
絵筆や羽ペンを使える手などどこにあるだろう。


原点とその註は以下のとおり
Poor, paltry slaves! yet born ’midst noblest scenes –
Why, Nature, waste thy wonders on such men?
Lo! Cintra’s glorious Eden intervenes
In variegated maze of mount and glen.
Ah, me! what hand can pencil guide, or pen,
To follow half on which the eye dilates
Through views more dazzling unto mortal ken
Than those whereof such things the bard relates,
Who to the awe-struck world unlocked Elysium’s gates?

(註)
paltry: 「くだらない、つまらない、卑劣な」
intervene: 「介在する、現れる、間に起こる、はさまる」
variegated: 「色とりどりの、変化に富んだ」
maze: 「迷路、迷宮」
dilate: 「〈目、瞳など〉大きく広げる」
ken: 「知識の範囲、認知、理解、視界」
bard: 「吟遊詩人、詩人」
awe-struck: 「畏敬の念に打たれた、畏怖した」
Elysium: 「[ギリシャ神話]極楽浄土、エーリュシオン〔英雄、善人が死後に住む極楽〕
     《文》理想郷、至上の幸福」

だが、はるかに光り輝いて

2008年12月08日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

17
だが、はるかに光り輝いて、天界のように見えるこの町に
入ってくるものは誰でも、
気を滅入らせながら、ここかしこを彷徨う、
異国からきた目には、見苦しいものに囲まれて。
というのは、あばら家も宮殿も同じく汚らしく、
みすぼらしい住民は、汚物にまみれて育てられるから。
貴賎を問わず、外套やシャツの清潔さを
構うものはいない。エジプトの病に侵されても、
髪も梳かさず、不潔で、しかし害を受けないのだ。


原点とその註は以下のとおり
But whoso entereth within this town,
That, sheening far, celestial seems to be,
Disconsolate will wander up and down,
’Mid many things unsightly to strange ee;
For hut and palace show like filthily:
The dingy denizens are reared in dirt;
Ne personage of high or mean degree
Doth care for cleanness of surtout or shirt;
Though shent with Egypt’s plague, unkempt, unwashed, unhurt.

(註)
sheen: 「輝く、光る」
celestial: 「天国、天界のような、神々しい、天の、天体の」
disconsolate: 「憂鬱な、わびしい、気の滅入るような」
up and down: 「行ったりきたり、あちこちへ、くまなく」
unsightly: 「見苦しい、目障りな、醜い」
dingy: 「薄汚れた、みすぼらしい、黒ずんだ」
denizen: 「住民、生息者、居住者」
surtout: 「男性の外套、女性のフード付きマント」
unkempt: 「〈髪が〉くしを入れていない、〈人が〉だらしない身なりの」

なんと美しい姿をリスボンは

2008年12月08日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

16
なんと美しい姿をリスボンは、ひらいて見せてくれることか。
その姿はあの高貴な海に浮かび、
詩人たちはしたり顔をしで、金の砂を敷いているのだ。
だが今や、その上を強大な力を持った千の船が
浮かんでいるのだ。アルビオンが味方となり、
ルシタニア人に、救いの手を差し伸べてからは。
無知と高慢で膨れ上がった国民が、
ガリア人の情け知らずの支配者の怒りから、逃れるために、
剣を振るう手を舐めながらも、憎んでいるのだ。


原点とその註は以下のとおり
What beauties doth Lisboa first unfold!
Her image floating on that noble tide,
Which poets vainly pave with sands of gold,
But now whereon a thousand keels did ride
Of mighty strength, since Albion was allied,
And to the Lusians did her aid afford:
A nation swoln with ignorance and pride,
Who lick yet loath the hand that waves the sword
To save them from the wrath of Gaul’s unsparing lord.

(註)
keel: 「竜骨、《詩》船」
Albion: 「アルビオン〔イングランドの古名〕」
loathe: 「ひどく嫌う、憎む」
unsparing: 「容赦しない、厳しい」

ああ、キリストよ。

2008年12月02日 | チャイルド・ハロルドの巡礼第1編

15
ああ、キリストよ。なんと素晴らしい眺めだろう。
天が、このかぐわしい土地のためになしたことを見るのは!
あらゆる木々に良い香りの果物が色づいている!
丘の上からはすばらしい眺望が広がっている!
しかし人間は、不敬な手でこれらを台無しにするのだ。
そして全能の神が、その戒めにもっとも背いたものに対して、
恐ろしい鞭を振り上げるとき、
その熱い火の矢は、ガリアのイナゴの大群に、三倍の報復を与え、
もっとも獰猛な敵を、地上から一掃するだろう。


原点とその註は以下のとおり
Oh, Christ! it is a goodly sight to see
What Heaven hath done for this delicious land!
What fruits of fragrance blush on every tree!
What goodly prospects o’er the hills expand!
But man would mar them with an impious hand:
And when the Almighty lifts his fiercest scourge
’Gainst those who most transgress his high command,
With treble vengeance will his hot shafts urge
Gaul’s locust host, and earth from fellest foemen purge.

(註)
goodly: 「感じの良い、上等の」
blush: 「赤らむ」
mar: 「損なう、台無しにする、傷つける」
impious: 「不敬な、神や宗教に対して敬う気持ちを持たない」
scourge: 「鞭、天罰」
transgress: 「〈限界など〉超える、逸脱する〈法律、戒律などを〉犯す、違反する」
Gaul: 「ガリア人、フランス人」
Gaul’s locust host: 「ガリアのイナゴの大群とは、フランスのこと。ナポレオンの軍勢は1807年にポルトガルに侵入した。」
purge: 「一掃する、粛清する、取り除く」