GRASS FEELS(グラスフィールズ)

グラスフィールズ
長野県を中心に活動するオリジナルロックバンド。

夏の蛙(2)

2007-06-19 | Weblog
ちなみにあの白いカエルの正面写真。

あまりに可愛いので…。

ただ飼育してペットにしようとは思っていないですよ(笑)。

夏の蛙

2007-06-19 | Weblog
写真は二年ほど前、夜になるとウチに遊びに来ていたカエルくん。

非常に珍しい真っ白な蛙でした。


一瞬神様の使いかと思ってしまったくらいです。


この年の夏、1日おきくらいに僕の部屋の雨戸にへばりついていました。


中に入れてあげると僕の指先で恐れる事もなく遊んでいました。


多分顔つきからして男の子だと思っています。


なぜあの夏、足しげく僕の元に通ったのかは全くの謎です。


ただ光のある所を目指していただけかも知れません。


カエルの寿命は長くありません。去年は来なかったし…今年は来るるかな?。

彼女を作り、子供を宿し、もう死んでしまったのか?。鵙(モズ)など、鳥や蛇にでも食べられてしまったのか?。

あるいは、今も生きているけど僕の事など忘れ、ひょうひょうとカエル人生を送っているのか?。


今年の夏は彼女と二人して僕の部屋の網戸にへばりついて居て欲しいなぁ…?。

そしたら僕はどんなに嬉しい事か!。

「奴にまた逢いたいなぁ」と思う初夏なのです。

麹氏高昌国

2007-06-13 | Weblog
写真は三蔵法師の旅のスポンサーをしていた中国の古い領主「麹氏」(多分「こうし」と読むのだと思います)が統括していた高昌国(こうしょうこく)です。

今は遺跡になってしまったこの建物のいずこかで三蔵法師は幾日か寝泊まりしたそうです。

この小都市の後方には火焔山があります。

孫悟空が越える事も困難だった燃え盛る炎の山です。

もちろん今も炎は燃え盛ってはいません(笑)。

しかしこの写真を見ると古代の人々の想像力に感心します。

やはり実在した「何か」をヒントに西遊記は生まれたんだなぁ…と思いました。


ナーランダ後記

2007-06-04 | Weblog
もし仮にこの物語を最後まで読んで下さった人がいるとしたら、言葉にならない感謝を申し上げます。

誤字脱字、ストーリーのつじつまが合わない事、表現の未熟さ…。
その他、突っ込みどころ満載の「ナーランダ」でしょうが、私は子供の頃に戻った様に夢中で楽しく綴らせて頂きました。

こんな小説、一人で書いて、一人で楽しめば良いのでは?と思われるでしょうね。

私も、なんだか分からないのですが、やはり人にも読んで欲しいなぁ、と思うからでしょう…。

ナーランダを綴る事により、かなりのストレス解消になりました!。
読んで頂いた方がいらしたら、重ね重ねお礼を申し上げます。

そして、このストーリーのつじつまの合わない所を整理し、若干の言葉じりを変え、正式なファイルにするつもりです。

生まれて初めて書いた私の小説として残そうと思っています。

さぁ!これでストレス解消になりました!。

これからはまた音楽とギターに専念しよ!(笑)。

内陸の土地ナーランダ(21・最終章)

2007-06-03 | Weblog
その後、ガントとレイカには研究所の休養室が与えられ、レイカの体力の回復を数日待つ事になりました。

夜、セルゲイ、ニコライ、ナスターシャは休養室にてガント達と一緒に食事を摂っています。

ミカエルが居るとレイカが恐れるため、彼はその席から外されています。


ガントの左側に腰掛けたレイカは、すっかり安心して食欲も戻り、今日のメニュー「ボルシチ」を一心不乱に頬ばっています。

無理もありません、このところ彼女はほとんど食事らしい食事を食べていないのですから…。

ガントは微笑みながらレイカを見つめました。そして生まれて初めて食べるボルシチを口に入れて「これは濃い汁だなぁ…肉が入ってる?何の肉だろ…。油っこいなぁ、あれ、またあの白い酸っぱいのが乗っかってる」と思いました。

「酸っぱいの」とはサワークリームの事です。


食事を終えてセルゲイは言いました「ニコライ先生、もうあなたの中ではこの二人を帰す算段がなされているのでしょう?」と。

「まあ、そうですね…。はばかりながら、セルゲイ所長にお願いがあるのです。」

「何かね?」

ニコライは一枚の罫紙を上着の内ポケットから取り出して言いました。
「このメモに記載されているいくつかの植物の種を麻袋一杯に詰めて用意して欲しいのです。わたしが準備しても良いのですが、あまり時間をかけたくないのです。

副所長の動きも心配ですし…。」と。

セルゲイはメモを見て、「buckwheat(蕎麦)かね…。あとはヒエ、アワ、インディカ米の一種、それに高原野菜…?。こんな普通のもので良いのかね?。」

「ナーランダでは外界との接触がないため、植物の品種もかなり自然淘汰され、少ないようです。これらの植物をどのように栽培し、調理するかはファイルに図解で示し彼らに渡します。それに彼らはこれらの植物で我々の想像もしない食品を創り出すかも知れません。
特に蕎麦は寒冷地でも、日照量が少なくても育成します。これらを彼らに用意してあげてほしいのです。」

「それはたやすいが…。しかし、あとはナーランダの所在確認だが…?。」

「それはカラサイから上方の天山山脈の南東へ行ってみるしかありません…。

しかし彼らの話しを総合すると、高山にある深い窪地か、カルデラ、あるいは大きな穴の底に集落があると思われます。ガント達は「世界の壁」なる高い岩壁を時間をかけて登って来たそうです。」

セルゲイは「天山山脈にそのような地形は確認されておらんのに…それに、彼らにとったら帰る方が難しいのでは…?」と言いました。

「そうですね…彼らはカラサイに来る途中、高山病にもなったそうですし、「世界の壁」も降りなければなりません…滑落の危険も高いでしょう。

徒歩では無理でしょう…。

ですから私はヘリコプターをチャーターするつもりです。」とニコライは言いました。

ナスターシャは「…でも、幾らかかると思いますの?」と言いました。

セルゲイは「それならうちの研究所が頼めばすぐに用意できるが…。」と言いますが、ニコライは「いえ、ここで頼めばその支出は記録に残るでしょう?毎年ここへの補助金について国の監査が入りますよね?。セルゲイ所長にこれ以上ご迷惑をかける事は出来ませんし、その事でナーランダが公になる危険もあります…。私の蓄えでなんとかします。」と答えました。

ナスターシャは「…また全部自分一人で…私にも出資させて下さい!」と言いました。

セルゲイも「私も自費を出させて下さい。
口の固い信頼できるパイロットを知っております。どうですかな?
これでそれぞれ三当分と言う訳ですな。」と言い笑いました。

ニコライはしばらく顔を下にうつむかせて「…ありがとう御座います…。」と声を詰まらせました。




数日後、ガント達にはセルゲイが用意したパスポートが渡され、ガントはまたスーツに眼鏡、レイカは青いワンピースを身にまといました。

ナスターシャは出発前の休養室で彼女の姿を見て「レイカ!なんて似合うの?とても可愛いらしいわ!」と言いました。

確かにそのワンピースは彼女に良く似合いました。

そしてレイカは顔を少し赤らめました。

ガントは不思議そうにレイカを見つめています。

ニコライ、セルゲイも、まるで孫の顔を見るようにレイカの姿を見て、表情が緩んでしまうのでした。


一路モスクワ空港からキルギスに向かい、キルギス空港からヘリに乗り替えてカラサイを目指します。

雄大な草原や、大きなイシククル湖、整然と区画整備されたカラコルの街並み、そして天山山脈が近づきます。
レイカとガントはしっかりと手を握りあったまま、少しこわばり、無言でそれらの景色に見入っています。

カラサイの平原に着陸すると、セルゲイの知り合いのパイロットが言いました。「キルギス空港からここまでは随分燃料を喰いました。
ここでもう一度燃料を補給します、じきに燃料を積んだトラックが来ます。」と。

しばらくすると大きなタンクを積んだトラックがやって来て、パイロットとトラックの運転手は30分程かけて給油作業を終えました。

再びヘリは舞い上がり、天山山脈へと向かいます。

40分ほどしてナスターシャは「ガント、どう?自分達がやって来た道のりを思い出せる?」と聞きました。

ガントは「ここは確か僕が気を失っていた時、レイカが火を灯してくれた所だ…もっと上だよ上!。」と言いました。

セルゲイは「まだ上なのか?信じられん」と言いました。

更に上空を飛んで行くと雲はもう下になりました。

それからまたしばらくした時、突然レイカが叫びました「ここよ!ナスターシャ!ここよ!」と言って下の雲を指差しました。

ナスターシャは「ここって…雲しかないじゃない…?」と言いました。

セルゲイも「衛生写真と変わらない景色だが…」と言います。

ニコライは「…いや、待って下さい。もしかしたら…」と言い。

パイロットに「あの雲に近づいてください。」と言いました。

パイロットは高度を下げ、雲に近づきました。
ニコライは「もう少し近づけますか?。」とパイロットに聞きました。

パイロットは「これ以上は危険です。雲の直下には切り立った山が有るでしょう…。激突する可能性があります。」と言いました。


ニコライは「もう少しでいいんです。お願いします。」と言いました。

パイロットは「…分かりました。あと少しだけですよ…。」と言い、高度をまた下げました。


するとヘリのプロペラの風圧で少しだけ雲の切れ目が出来ました。するとそに一瞬、カルデラが見え、その底に中国風建築の建物が見えました。

セルゲイはそれを見つけ「ああっ!」と叫びました。

パイロットもそれを確認しました。

ニコライは「山はありません。着陸して下さい。」と言いました。
パイロットは「あ…はい。」と言って更に高度を下げました。

そして雲を過ぎると、百数十軒の集落が姿を現しました。

セルゲイは「おお!なんと言う事だ!。ここがナーランダだとは…。常にあの雲や霧によって衛生写真に写らなかったとは…。」と驚嘆しました。

ヘリはさらに下降し、カルデラに入りました。

バリバリバリ!と音をたてるヘリを見て、農作業中のナーランダの人々は叫びました「あれは何だー!」「リルサが使わせた悪魔の鳥だぁー!」と。

一斉に彼らは宮殿に逃れました。

ヘリは集落に近いルルべべの岡の裾野に着陸しました。

ニコライ、ナスターシャ、セルゲイ、そしてガントとレイカがヘリから降りました。

ニコライは言いました「ここがナーランダか…思った通り美しい土地だ…。」と。

切り立った「世界の壁」は鈍い灰色の岩肌で、その岩肌から白く細長い滝が幾筋か地上へ落ちています。その下の滝つぼには、しぶきで美しい虹がかかっていました。


緑も豊富で、少し肌寒いのですが、それがかえって心に「ぴん」とした感覚をもたらしました。


それらの景色を見つめると、レイカは久々の故郷に感極まり、泣き続けています。そんなレイカをガントは優しく抱き締めます。


しばらくすると、背が高く、羊皮のマントを身にまとい、ブルーの目をした女性が彼女の民を従えてルルべべの裾野に姿を現しました。

クーエンゾーは言いました「何者だ?」と。
ガントは眼鏡を外し。「私です、ガントです…」と言いました。

レイカも「クーエンゾー様、帰って参りました…」と言いました。
クーエンゾーは少し疑いの視線を二人に向け「そなた達のその装束はなんだ?」と聞きました。

ナスターシャが「私達の衣類です。」とナーランダ語で言いました。
クーエンゾーはナスターシャに「そなたは?」と聞き、ナスターシャがまた何か答えようとしました。

女王の言葉を理解したニコライがそれを制し、「待て、ナスターシャ、ナーランダ語でこう言ってくれ…。」とナスターシャにその内容を伝えました。

少ししてからナスターシャはナーランダ語を使い、よく通る声でクーエンゾーとその民に言いました。

「我らはリルサの子供である!。」と。

ナーランダの民からどよめきが起こります。
ナスターシャは更に続けます。「リルサの子供達もまた争い合っている。善なる子供達と悪しき子供達が世界の壁の外には居るのだ!。
我らはこのガントとレイカにパーチの替わりとなる植物を託す。」そうナスターシャが言うと、ニコライはヘリから幾つかの麻袋と図解が描かれたファイルを降ろしました。

ガントは女王に言いました。「彼らは善なるリルサの子供達です。とても親切にしてくれました…様々な苦難を乗り越えて…。レイカと帰って来られたのも彼らのお陰です。」と。
ルルべべの岡の裾野でナーランダの民はじっと女王の言葉を待ちます。


女王はゆっくりとニコライ達に語りかけました。「…感謝します。」と。



ナーランダの民はほっとしたようです。そして女王は続けます「何もお礼はできません…この子達を無事に帰してくれたのに…。さあ、宮殿にいらして旅の疲れを癒してください。」と。

またそのナーランダ語を理解したニコライは再びナスターシャに何か耳打ちしました。

そしてナスターシャは言いました「いや、我々もリルサの子供、我々とはあまり関わるな。そして二度と世界の壁にそなたの民を登らせてはならん。我々は壁の外で生き、ナーランダの民はここで生きるのだ。我々の住む世界は大いなる喜びと、大いになる悲しみに彩られている。」と。

すると女王はゆっくりとニコライに近づき、彼の手を握りました。そして「すべてそなたが…。」と言いました。
女王は今回の救出劇の中心人物が彼である事を悟ったようです…。

ニコライは何も言いませんでした…。

セルゲイは言いました。「さあ、目的は果たした…リルサの国に帰ろう。」と。

ガントとレイカはナスターシャに思わず抱きつき泣きました。次にニコライにも…。

ニコライは初めて涙を流し、二人に声にならないナーランダ語で言いました「生きる・のだ…」と

それからヘリを離れたガントとレイカを女王は優しく抱き締め言いました。「…よく戻った…」と。

ニコライ達を乗せたヘリは再びけたたましい音をたて、離陸しました。

ナーランダの民から「おおー。」と言う声が響きました。


ヘリが雲を跳ね退け、雲の穴を作り、再び雲の穴は優しく閉ざされ、ヘリは完全に姿を消しました。







それから百年ほどが経ちました。


もうこの世にニコライもナスターシャも、ガントもレイカも居ません…。
日本、ロシア、中国、アメリカ、パレスチナ、イスラエルなども、どうなったのかは作者の私にも分かりません…。




しかしナーランダは今でもひっそりと、昔と変わらぬ暮らしを続けています。



ガントやレイカの子孫達によって…。



(FIN)

内陸の土地ナーランダ(20)

2007-06-02 | Weblog
ニコライは続けます。「このガントをあの少女に逢わせて下さい。きっと彼女の心はほぐれ、精神も安定します、きっと言葉を発するはずです。」

ミカエルは「何故そんな事が分かる?」と聞きました。

「夫婦だからです。」

「夫婦だと?あの少女は見たところ15・6才ではないか。」

「17です。ナーランダでは全ての国民は17才で婚姻をします。その事もあなた達に証明したいのです。」

ミカエルは「二人を逢わせるのは危険です!。扉を開けた瞬間逃げるかもしれませんよ!。中国ではこの少年はかなり力任せに暴れたようです!。」とセルゲイに言いました。

セルゲイは「…ミカエルの言う事もしかりだが…。マジックミラー越しに見せても良いが、もちろん警備の者達と同伴だがね…。

しかし、ナーランダの場所をどうやって特定するのだね…?。
ニコライ博士は彼らを静かに故郷へ帰したいようだが、その場所もはっきり分からんとなると…。」

ニコライは「やはりこの年若い夫婦が一緒に知恵を絞り、もと来た道をたどらせ、二人の記憶を思い出させる他はありません。彼らは二人でこの土地にやって来て、二人の知恵で戻るのです。あの夫婦二人でなければナーランダに帰る道のりは分からないでしょう。

しかも彼らは二千五百年もの間、一度もナーランダから出たことがないようなのです。

とにかく我々は彼らの手助けをするのみです。」

ミカエルは「まあ、それならば良いだろう、そこが分れば我々の研究所の大発見ですな!。世界から注目を浴びますよ、所長!。」とセルゲイに言いました。
しかしニコライは毅然として言いました「それが目的ならば私はこのガントも、ナーランダの文化に関するデータも、言語データも全てお渡しすることは出来ません。あくまでナーランダの事はこの研究所でのみ極秘に研究され、各国のマスコミやテレビ、新聞には一切知らせてもらっては困るのです。

そしてもし仮に一度ナーランダに行ったならば、二度とそこへは行かないことを約束して下さい。これだけは絶対に譲れません。」

ミカエルは「なぜだ!勝手な条件を突き付けるな!」と言いました。
ニコライは言いました「我々は学者です…知りたい事はまだまだ山程あるでしょう…。無神論者の私も、ナーランダが何かしらの神々しいものに護られているように思えてなりません。だからこそあなた達も、更にナーランダの事を知りたくなるのでしょう…。

しかし今までの歴史の中で、アステカ文明、アメリカ先住民族、東南アジアやインドの庶民族。

彼らは大国に占領され、暴かれて来た経過があります。

その国々は今どうなったのでしょう?。現在彼らの抱える社会問題は、そこいらの近代国家と同じく山積みになってしまいました…。
私はもしかしたらこの地球上で最後かも知れない、平和と言う理想に最も近い世界を末永く存続させたいと強く思っているのです。

それこそが私の民族学者としての目的ではないかと…。彼らに出逢ってからそんな自分の職業の使命を強く感じたのです。

多くの民族に関する私の知識、調査、興味、それはこの時のためなのかも知れません…。」と。

ミカエルは「ばかな!あんたは狂っている!それが学者たる者の発言か!」と怒鳴りました。

「落ち着け!ミカエル!」とセルゲイは彼をたしなめ、ゆっくりニコライに言いました。「先ほどドア越しに聞いたあなたとミカエルの「夢」の話ですが、私も正直、何故民族学者になったかと聞かれれば、即答は難しいでしょうなぁ…。

ここの所長であるにも関わらず…お恥ずかしい話です。

私も少年の頃から歴史や地理、様々な国や地域の風習などに興味がありましたが、今こうしてロシア考古民族アカデミーの所長になってから、久しぶりに民族学にのめり込んでいた少年の頃を思い出しましたよ…。

今、私はそれなりの豊かさを得ました。妻も元気ですし、二人の息子も独立し、私に孫の顔も見せてくれました。順風満帆になったこの先、果たして私はここの所長としてこの先何をすべきか…?。
ニコライ先生、私にも「極秘のナーランダ研究。」そんな新しい目的が出来たのかも知れませんな…。」と言ってから悲しいのか、嬉しいのか分からない複雑な表情を浮かべました。
そしてまたニコライに尋ねました。「…それから、先ほどから気になっていたのですが、何故そんなに平和なナーランダからあの少年少女が出てきたのです?。」

「食糧難です。彼らが主食としている新種の麦があります。それも実物がありますのでこの研究所に提供しても構いません。その主食が地球温暖化により収穫量が減って来たのです。
やはり我々による近代工業化があの少年少女達をここへ導いた理由です。新種の麦に替わる主食となる植物を探しに国を出たそうです。ナーランダの統治者にその使命を託されて…。」とニコライは言いました。

「なるほど…やはり我々の責任と言う訳ですか…」

そしてセルゲイは続けました。
「分かりました。あの少女をこの少年に見せてあげましょう…。
それでもやはりあなた達の全てを信じた訳ではありませんから、警備員を連れて、マジックミラー越しに見せるのですが…。」と言いました。

ニコライは「それで構いません。」と言いました。

セルゲイは三人をマジックミラーのある部屋へ導きました。

その途中、廊下でガントはナスターシャに「さっきからニコライ達は長い事、何の話しをしていたんだい?」と聞きました。

ナスターシャは「あなたはあまり細かい事を知らない方がいいのよ…。とにかくこれからレイカの姿を見れるのよ。あまり興奮しないでね。」と言いました。

ガントの心には嬉しさと不安が湧いて来ました。

職員が鍵を使いドアが開かれ、ミカエルはニコライ達を部屋に導きました。

部屋は明るいのですが、ミラーは真っ黒で何も見えませんでした。
ニコライ達の後ろから数人の警備員が続いて部屋に入りました。

ガントはナスターシャに「何も見えないじゃないか!?」と言いました。

ナスターシャも「本当…鏡は真っ黒だわ…」とつぶやきました。

ニコライは「灯りを消してくれますね?」とセルゲイに言いました。
セルゲイの指示で研究所の職員はスイッチを押し、灯りを消しました。

すると鏡には椅子に腰掛け、うなだれているレイカの姿がぱっと映りました。

次の瞬間ガントは「あ!!」と言い、鏡に近づき、鏡を叩き「レイカー!レイカー!」と叫びました。

レイカは鏡の方から小さく聞こえるガントの声にすぐに反応し、鏡に近づき「ガント!そこにいるのね!?、ガント!」と叫びました。
ガントはいきなり鏡を蹴りました。

急いで警備員はガントを取り押さえました。
ニコライは叫びました「ガント!落ち着け!今はいかん!」と。

ナスターシャも「やめて!ガント!」と叫びます。

しかしガントは数人の警備員を信じられない力で跳ねのけ、もう一度鏡めがけて蹴りつけました。

次の瞬間鏡は「バリーン」と音をたてて割れました。

そのガントを再び警備員が取り押さえようとします。

しかしガントはまた渾身の力で警備員を跳ねのけ、レイカの部屋に入り、レイカを抱き締めました。

その姿をミカエル、ニコライ、ナスターシャ、セルゲイ、警備員達、研究所の職員達は呆気にとられたように見つめました…。

二人は抱き締め合いながら震えて涙を流しています。

レイカは「怖かった…来てくれたのね…信じてた…」と言いますが、上手く言葉になりません。

ガントはしっかりとレイカを抱き締め「ごめん、遅くなったよ…。」と言い、涙に濡れた自分の頬を、やはり涙で濡れたレイカの頬に強く押し当てました。

二人は溢れるように涙を流し、ただひたすら抱き締め合っています。

呆然とセルゲイは彼らを見つめながら言いました。「ミカエルよ…これでもまだ彼らをここに引き留めたいか…?。」と。

ミカエルは「あ、え、い、いや…その…。」と言いました。

ナスターシャも涙を流しています。

そして独りごちます「ガント…馬鹿ね、あれほど興奮するなって言ったのに…」と涙を拭くのも忘れ、その涙をただ床に落とすのみでした。

ニコライは涙も流さず、表情も変えず、じっと二人の姿を見つめています。

ここでニコライの役目のほとんどが終わった事を彼は自覚したからです。

ニコライはホッとした気持ちでも無く、慌てた気持ちでも無く。残り少なくなった自らのエナジーを感じ、(もう一仕事だけ残っているな…)と寂白とした気持ちを感じ、同時にまた喜びを噛みしめました。

セルゲイは「…分かりましたよ…ニコライ博士…。長い議論をして来ましたが、あなた達の言いたい事が……。

「ペンは剣よりも強し」と言う言葉がありますが、どうやらペンや議論よりもあの二人の姿の方が強いようですな…。」と言いました。
ニコライも「…そのようですね。これは全く私の想像していた事態ではありませんが、セルゲイ所長のおっしゃる通りのようです…。」とセルゲイに同感しました。


ミカエルは言いました「…あんた達は馬鹿だ…しかし、馬鹿には勝てん…。」と。



次回へ。

内陸の土地ナーランダ(19)

2007-06-01 | Weblog
明日レイカに逢いに行く前の晩、ノボシビルスクのホテルでの夜、ガントは、まんじりともしない夢うつつの中で、ナーランダの雲の切れ目から見える濃い青の空を感じています。

それは眠りに着けないただの思考なのか、幻なのか、あるいはただの夢なのか…?。

カラサイ、キルギス、中国、ロシアと言う恐ろしくもあり、興味深い世界に来てからもう一月半以上が経っていました。

今、ガントはホームシックを感じる時期です。

眠れないガントの脳裏には、幻の様にレイカの姿が浮かびました。
彼女は野原に居て、黄色い花が咲き乱れる中で、カリムチの原料になる杉科の植物「コグミ」(香汲)を探しています。

少し離れて、ガントはその姿を野原でうつ伏せになりながら眺めています。

ガントは思います「レイカは何やってんだろう…?コグミはすぐ左側にあるのに…。」

ガントは彼女に、うつ伏せになり右手で顎を支えながら叫びます「レイカー!左、ひだりー!」と。

レイカは左に体を向けてから「あっ、本当だー!あったー全然分からなかったー!」と叫びました。

レイカは「カグミのある場所が分かるなら一緒に探してくれればいいのに!。」とガントに言いました。

ガントは「だって見てると面白いんだもん…。」と。

レイカはガントに近づき、「もぉ~!」と言って、ガントの背中にのし掛かります。

ガントはすぐに仰向けになり、レイカを見つめ、笑いながら強く抱き締めました。

するとレイカの体は雪が溶ける様にすぅっと消えて行き、彼女の残り香だけが切なく残りました…。

ガントはすぐに野原に立ち上がり叫びました「レイカー!レイカー!!」と。

もうどこにもレイカの姿はありません…。

春の到来を示す風のように彼女の姿は消えました。

ひたすらレイカの名前を寝言で叫ぶガントをニコライが揺り動かし起こします。

「ガント、どうした、ガント?」と。

ガントは、はっとベッドから身を起こし、「夢か…」と、つぶやきました。

ニコライは「ずいぶん・レイカ!と・叫んでたぞ・大丈夫か?」と言いました。

その時ノックの音がして、ニコライがドアのホールを覗くと、ナスターシャの姿があり、ドアを開けました。
「いよいですね」彼女は言いました。

「ああ…」とニコライはナスターシャに言いい、ベッドに腰掛けました。
そして「昨夜ガントに色々と伝えようとしたが、私のナーランダ語では果たして思いが伝わったかどうか分からん…。
ガントにこれから私が言う事を伝えてくれ。」と言いました。

ナスターシャはニコライの言葉をナーランダ語で訳し、彼に聞かせました。

(今日失敗すればある程度高みに至ったお前達民族はその崇高さを失い、現代世界の潮流に呑み込まれる事だろう。

そうなればナーランダには、魔法の様に便利で楽しい道具が幾つも伝わるだろう。

そうなればガント達の女王は力を失い、ナーランダでは農耕をする事もなく私利私欲を求める人間もいくらか現れて来る事だろう…。
そしてその魔法の道具の製作や維持にやっきになる組織も現れることだろう。

その組織の事を我々の世界では「会社」(カンパニー)と呼ぶのだ。
より快適な世界を突き詰めようとして、結局家族との安らぎの時間を捨てて仕事に明け暮れる人もいる…そうしているうちに本当の自分の目的や幸せも見失ってしまうのだ…。なんのための快適な世界なのか分からん…。

だが安心しても良いのだ…。

今日私が失敗したとしてもナーランダが消える訳ではない…。

私は中国政府に身柄を囚われ、ナーランダには観光地として、便利な道具を操る幾ばくかの人々が訪れる事になるり、食糧の心配もない。

そうなったとしてもお前達はお前達の神を信じ続けれていればそれで良いのだ。)これがニコライの言った内容です。

そのニコライの言葉を聴いたガントは少し考えてからナスターシャに、「ジューチ」「リルサ」「壁の外の悪魔」「リルサの息子達・娘達」などのナーランダの信仰、伝説を時間をかけて語って聞かせました。

ニコライはそれ聞いて「…なんと言う事だ…リルサとは…それはキリスト教・ユダヤ教・イスラム教などの宗教伝説に共通して登場する神が創った最初の女であり、悪魔でもある「リリス」の事ではないか!?。

宗教によって彼女はリリスとかリリトとよばれている…。

ナーランダではリルサと言うのか…!。

ナーランダにも神が創り給うた最初の女と悪魔の伝説が残っているとは…!。

それに自分の外側にいる神を信仰するのではなく、自分の内側に居る神を信仰するとは…。
他力本願では無いのだな…。
なんと興味深いのか…。」と思いました。



午後になり、三人はアカデムゴロドクに向かいました。

ロシア考古民族アカデミーの受付に来ると昨日と同じ受付嬢が「こんにちは。ミカエル副所長ですね。お話は伺っています。そちらの方は…?」とガントを見て訪ねました。

ニコライは「あの謎の民族の女の子に逢わせる人物です。」と言いました。

受付嬢は少しいぶかしげな表情でまたミカエルを電話で呼び出し、会議室へと案内しました。

会議室でしばらく待つとまた身綺麗にしたミカエルが入ってきて、椅子に腰掛けました。
「そちらの青年が、あの少女に逢わせる人物ですか?。もしや博士のご子息ですかな?。」とさっそく言い、少し微笑みました。

「いえ、名前をガントと言い、ナーランダから来た少年です。」と言いました。

ミカエルは「ナーランダ?何ですか?それは?」

「あの少女の故郷です。」

「なんですと!?。これはまたご冗談を!」と言い笑いました。

「ガントよ・恐れるな・自己紹介を・するのだ」とニコライはガントに言いました。

ガントは言いました「…仝々‡〇Υ、ξ|ж++Ю∀仝⊥ヰ≡。ΞΞ§ξΨ〇ЮÅ仝々…。」と。

ミカエルは「な、なんですか?今のは…!?」

「彼らの言語です。我々もこの言語分析には少々手間どりましたが、こちらのナスターシャ先生が、かなり解析し、理解できる様になりました。」

「本当ですか…?なんと言う事だ…。
では中国山岳民族研究所から少年を連れ去ったのは…」

「私です。」

「ニコライ博士!あなたは自分が何をしたか分かっているのですか!?」

「充分わかっているつもりです。」

「あなたはこの歴史的に重要な出来事を独り占めにするおつもりか!?。」

「違います。」

「いますぐ中国政府に知らせもいいのですよ!」

「かまいません。しかし最後まで私と対話して頂いてからでも遅くはないでしょう。私は逃げも隠れもしません。」

落ち着き払った博士の瞳を見つめてからミカエルは言いました。

「…まぁ、よいでしょう…しかし話の向きでは、その少年を我々に引き渡してもらう事にもなりましょう。それでよいですな。」

ニコライは頷きました。
ミカエルは会議室の電話を手に取り、数人の職員と警備員を呼び出しました。

しばらくすると足音がして、職員と警備員が会議室の扉の外に待機したようです。


ニコライは言いました。「あなたも私も民族学者だ。何故この道をお選びになったのかな?。」

「いきなり何を…それとこれとどういう関係があるのです?。」

「私と最後まで対話して頂けるとおっしゃいましたね?」

「まぁ…。いいでしょう……。
私は幼い頃父に連れられてアフリカの原住民と数日を過ごした事があった。

彼らはとても気さくな人々だった。学校では少し、いじめられていた私を家族の様に迎えてくれたのだ。良い思い出だ…。
彼らは衛生状態が悪く、幼くして死んで行く子供達が多かった。
生まれてから成人するのは約五割程…。
子供が死ぬと彼らは嘆き悲しむ。こんなに温かな彼らが何故いつもいつも悲しみに晒されなければならないのだ!。私は何とか彼らを救いたかった。医者にもなろうとしたが、やはり学校の科目では地理や歴史の方が得意だったからだ。
彼らと触れあうために大学では原始民族学科を先攻した。

そんなところですよ。」

「なかなか立派な心がけではないですか。…実は私は今でも何故民族学者になったのか良く分からない…とても人間が好きでもあるし嫌いでもある。

ただ冒険小説が好きだった…そこには極端な表現の原住民が登場する。それが面白かったのかもしれん…。

しかし12才の頃、ボルネオの原住民の本を読んだ…。あの冒険小説に出てくる首刈り族が実在する事を知ったのだ。恐ろしくもあり、興味も尽きなかった…。

私が言いたいのは「夢」ですよ。このまま彼らを夢として故郷へ帰してやって欲しいのです。」

「夢ですと?そのお歳になって夢ですか?。ははは。
夢であのアフリカの原住民の子供達を救えると言うのですか!博士は学問をまだお分かりになってないようですな!。彼らの充分な調査も終わって居ないのに故郷へ帰すですと?そんな事が言いたかったとは。彼女はまだ帰せませんし、あなたも覚悟をしてください。」と言いドアを開けようとしました。

するとドアが開き、セルゲイ・コプチュークが姿を現しました。

ミカエルは「所長…」と言いました。

「警備員や職員が呼び出されたと聞き、ドアの外で君達のやり取りを聞かせてもらいました。
ミカエル、座るのだ。私にもニコライ先生に伺いたい事がある。」とセルゲイは言いました。

「はぁ…」とミカエルは言い、渋々着席しました。

セルゲイは「彼らを帰すのは、調査が終了してからでも遅くはないでしょう?」とニコライに言いました。

「ほとんどの調査は終了していると言っていいでしょう…私がやりました。あの少女に関しても…。
彼らとはずいぶん話し合いました。ナスターシャのお陰でしたが…。
データが欲しければいくらでも提供しましょう。」

セルゲイは「…やはり金と知名度ですか…?」と少しがっかりして言いました。

「違います。一銭も要りませんし、私の名前も出して欲しくはないのです。

彼らの事はまだ謎の部分はありますが、七割方は分かりました。

突然ですが中国四大奇書「西遊記」のモデルとなった大唐西域紀のなかで、三蔵が目指した場所はニューデリーや天竺であったとされますが、本当はどこだったかセルゲイ所長はご存知ですね?」

「…インドのナーランダ仏教大学だが。」

「くしくもそのナーランダと言う呼び名をもつ土地が彼らの故郷なのです。」

「…本当かね?しかし何故?」

「私にも詳しくは分かりませんし、まだ推測ですが、彼らはあの未だ謎の土地に二千五百年程遠前から住み着いたようです。

大唐西域紀が記載されたのは七世紀ですから、遥かその一千年以上前に、その「ナーランダ」と言う呼び名を持つ土地が有ったと言う事になります。

「ナーランダ」とは愛と友愛、協調、繁栄、慈悲。または土地の名前、桃源郷、そして仏教的な意味の込められた単語だと思われます。

遥か昔、いずこから伝わった桃源郷ナーランダの伝説が中国を経てインドに伝わり、慈悲の心を育成する大学「ナーランダ仏教大学」と名付けられたのはではないかと思います。」

ミカエルは「ではそのナーランダと言う土地も博士は特定したと言うのか!衛生写真にも写らず、調査隊もそんな所は天山山脈のどこにも無いと言う報告じゃないか!」と、いらついて言いました。

「…実は私にもナーランダがどこにあるのかはっきりとは分からないのです。天山山脈の南東ではあるようですが…。何しろ彼らはカンで帰るといいますし…。しかし実在する事は確かです。」とニコライは言いました。
セルゲイは「私もその実在は信じるよ、あの羊皮の装束は思い付きで作れる物ではない。」

ミカエルは「少女は一言も口を聞かない。これでは埒が開かん!所長!その少年の口を割りましょう!」と。
「あなたにナーランダの民が口を開くとは思えません…昨日見たあの少女は私が初めて会った時よりかなり痩せて憔悴しています。かなり怖い目に遭っていると思われます。」とニコライは言いました。



次回へ。