GRASS FEELS(グラスフィールズ)

グラスフィールズ
長野県を中心に活動するオリジナルロックバンド。

内陸の土地ナーランダ(8)

2007-04-30 | Weblog
ニコライはカリディンに「やはり何が言いたいのか分からないな…。何か特別な事情があるみたいだが…」
と言いました。


カリディンは言いました「博士、彼らの言葉をボイスレコーダーに収めましょう」と。


「うむ…録音を開始してくれ。」


それから一時間程、ニコライは、何かを訴えようとしているガントとレイカに、またスケッチブックとマジックを使いながらコミュニケーションを取りました。


ガントはレイカに「…どうやらこのおじさんは悪い人じゃなさそうだよ…」と言い。

「私もそう思う…」レイカもささやきました。



彼らの見立ては間違ってはいませんが、博士以外の人々はそうでもない事は現代人の皆さんはすでにご承知の事と思います。


ナーランダの国民性は、おしなべて温厚で、人を疑うことをあまり知りません。なにしろ二千年以上、世界の潮流を知らず、「井の中の蛙」なのですから。


ナーランダの最初の民族は古代ロシア人と同じく古代中国人合わせておよそ8千人ほどおりましたが、高山のカルデラに着く前に、その七割の人々が寒さと高山病のため、命を落としました。



ロシア民族と中国民族がほぼ時を同じくしてあのカルデラに逃げ来んだため、両部族はそこでまた争いを初めました。


混乱は数年にわたり続きました。戦を逃れ、新天地を求めたてやって来たこのカルデラでもまた戦となる…。


この状態に収拾をつけたのは、ごく自然に発生した「協調」でした。

疲れ切った両部族は夫を失い、子を失ってゆきます。


体も弱り、「飢え」が蔓延し、ただひたすら己の主張を通すため、力により相手を滅し、そしてまた味方の数も減ってゆく…。


彼らは生き残るために、ごく自然に「和平」と「協調」を持つようになりました。


この謎のカルデラ「ナーランダ」で生き残る為の自然な成り行き…それはやはり相手を認め、相手の優れた所を学び、また相手が知らない事を優しさを持って教えると言う事しかありませんでした。


結局、生き残るために、そして人間のせつない願いでもある「和平と安らぎ」の道を選ばざるを得なかったのです…。


そうしなければ力と知能に優れた若者たちは、ただその「才」を有益に使う事なく、無駄死にするだけでしたから…。



古代ロシア民族も古代中国民族も、時間はかかりましたが、とても自然に「協調」の道を選んだのです…。



その後、男性の王がしばらくナーランダを統治しましたが、国内が平和を取り戻す程、繊細で慈悲の心の強い「女性の能力」が必要になってきました。


平和なナーランダが始まってから何百年の後には「クーエンゾー」と呼ばれる女性統治者が国民から自然に求められてゆきました。


「平和で豊かな世界は女性が統括する」と言う常識がナーランダに生まれたのでした。


その独自の思想を持ち、二千年余りの歴史があるナーランダの中で育ったガントとレイカはすっかりニコライ博士を信じてしまいました。


ニコライはここで待つようにと、二人の姿をスケッチブックに描き、テントの地面を指差し、両手をゆっくり伸ばし、「長く、長く。」とジェスチャーしました。


そして博士は自分の左手にあるパーチをひたすら右手で指差し笑顔で頷きました。


レイカは「あの人、ここでしばらく待っていろって言ってるのよ。
パーチの事も考えてくれるかも知れない。」
と言いました。


ガントも「ああ…そうだね、少しここに居させてもらおう。ここの人達も良くしてくれるよ。羊の肉をあんなに食べさせてもらった事は始めてだったしね、羊のチーズも、うちのチーズとそっくりな味がするし、ナーランダの外の人達も、ナーランダのようにみんないい人なんだよ!」と。


少し微笑んでからレイカはまた不安な表情を浮かべましたが、持ち前の前向きな性格から「きっとそうね、みんないい人達なのよ。」と答えました。



テントを後にしたニコライ博士の心は踊るばかりでした。


博士は思いました「…あれは未知の民族に違いない。愉快にあんな言語は使えまい…。あの言語から察するに、おそらく彼等の起源は古代ロシア系民族と、古代中国系民族が融合した部族に違いない…。
しかし彼等のは何故衛星写真にも写っていないのだ…?。もはやこの地球上で見られない地域は無いはずなのだが…。」と。


それはナーランダの上空は北方からの冷たい風と、南方からの少し暖かい風が合流する地帯で、常に霧や雲が発生し、晴れる日も少ないため、衛星写真に写る事はまず無いからでした。


ニコライ博士は帰路に着く時、カリディンに「あのガイドに頼んで彼らをもう少しここに留めてはくれないか…?。礼ははずませておこう…。

私はモスクワの大学にもどり、このレコーダーの音声を同じ大学の民族言語に詳しい先生に聞かせるつもりだ。
それからくれぐれも報道機関には知られないようにするのだ…もし知られたらあの少年達はただ面白おかしく書き立てられ、彼らの住む集落もあばかれ、彼らの最後の「楽園」も報道陣によってさらされてしまう…。そして私以外のロシアの研究者やアメリカの科学者によって世界に知らされ、近代文明を教えられ、この世から消えてなくなってしまうだろう…。

現代の快楽と欲望にまみれた暮らしを彼らは決して知ってはならないのだ…。そんなものは我々だけで充分だ。」と言いました。


カリディンは「…分かりました…最後の楽園ですか…」と呟きました。


カラサイの村人には博士のポケットマネーが与えられ、ガントとレイカの為の小さなドーム形のテントが用意され、三度の食事が村人から供給されるようになりました。



ガントはレイカに「なんだかとっても楽しい気分だよ!、全てが上手く行ってるよ。

あのおじさんはきっとパーチにかわる植物を持って来てくれるに違いないよ。」


と言いましたが、レイカの表情には不安の色が伺えます。

レイカはポツンと「だといいんだけど…。」と呟きました。



モスクワに帰ったニコライはさっそく同じ大学の民族言語学の講師、ナスターシャ・ラベンスキーにボイスレコーダーの音声を聞かせました。


ナスターシャは「博士にもこの言語はロシア語と中国語が融合したものだって事は分かったでしょ?。」と言いました。

ナスターシャは38才、二年前にこの大学に赴任して来たシングルマザーでした。


「ああ。名詞は少し分かるが、接続詞や動詞はサッパリなんだよ、聞いた事もない発音なんだ。」


ナスターシャは「確かに興味深い言語だわ…。少し時間をちょうだい、一週間ぐらいでなんとか大筋は訳してみるわ。」と言いました。


ニコライはナスターシャにカリディンがフラッシュをたいて写したガントとレイカの写真を見せました。
写真のガントとレイカの表情はこわばっています「彼らなんだよ…」とニコライは言いました。


ナスターシャは「あら!かわいい男の子と女の子だこと…ちょっと緊張してる見たい。でもこの羊の皮の上着、これはどうやって加工したのかしら…?縫い合わせた後が全然見当たらないわ。そしてこの藁で出来てるような帽子…こんな雑な作りのものは天山山脈の部族には見られない…、博士が興味を持つのも当然ね。
私だって今少しドキドキし初めたわ。」


「ナスターシャ、この事は大学やその他の人達には内緒にしてくれ。私はただ彼らが何を求めて山脈を下ったのかそれが知りたいだけなのだ…何やら困っている様子で…、そのレコーダーには私に必死で何かを頼み込んでいる声が入っているとしか思えないのだ…、彼等の透き通った瞳を見ていると、学者としての自分よりも、人間ニコライ・プルジェリスキーとして何かしてやりたくなるのさ…。」


「…また臭い事をおっしゃりますこと。博士は大物の民族学者なのにこんな小さな大学で教鞭をとられている…まぁ、あなたの欲のない思想は多くの学生から慕われてはいるでしょうけど…、奥さんと娘さんのために、嫌な仕事でも生活の為には少しでもこなさないと…!。
来年お嬢さんは大学院に進学されるんでしょ?。」


「…いや、それが私の悪いくせだとは分かっているが、やはり今回出逢ったあの若者二人を見たら、どうにも気になってね…」


「だからってずっと家にも帰らず、学内で寝起きですか?。」

「いや…、」博士はバツが悪そうに微笑みました。


それから10日間、博士は朝から教鞭をとり、昼食の後はお気に入りのコーヒーを楽しみ、世界の不幸なニュースに心を痛め、講義が終わると所蔵の民族学の本や、言語学の本に没頭していました。



「ナスターシャの翻訳が遅いな。」と思っていた矢先、何枚かの原稿を持ったナスターシャが博士の研究室のドアを叩きました。



次回へ。

内陸の土地ナーランダ(7)

2007-04-29 | Weblog
写真はカラサイ集落の人々のイメージ。



ニコライがテントに入ると、そこには色黒で少し痩せて、顔の作りは少しロシア系、しかもその瞳は深く黒光り、澄みわたっている少年が羊の肉を頬張っていました。


そしてその左側には、丸顔で、背は低く、しかしながら端正な顔立ちで、その瞳はブルー…まだ少女と覚しき女の子ですが、ニコライの目から見てもとても可愛いらしい娘が羊のチーズを食べています。


彼らは食事の手を止めてニコライを見つめて少し身構えました。

ニコライはカラサイの人々とは違う、ジーンズをはいて、その上にポロシャツ、その上に厚手の化学繊維で出来た茶色のコートを着ていたからでした。


ガントとレイカはカラサイの人々の装束にようやく慣れた所へ、また見た事もないいで立ちのニコライ達を呆気に取られように見つめています。



ニコライはゆっくりと微笑み、ペットボトルに入れてきた牛の乳を彼らに見せて、キャップをひねり、ゆっくりとカラサイ族の2つのカップに注ぎ、それを少年と少女にゆっくりと差し出して深々と頭を下げました…。


ガントはレイカに「…また珍しい人が来たよ、でもこの乳を飲めって言ってる見たいだね…これは羊の乳とは少し違うようだね。」(ごくっ)と恐る恐るガントは一口飲みました。

「レイカ!これは美味しいよ!なんてすっきりしてコクのある乳なんだ!」。


レイカも恐る恐る一口飲みました。


「甘~い!。これ美味しい!。でもこれって羊の乳じゃないよね?。だって羊の乳はもっと濃くて、匂いがあるわ…こんなの初めて…でも少し水っぽいかな?」。



二人のやり取りを見ていたニコライは思いました…。 言葉の端々に断片的にロシアと中国のそれぞれの名詞に似た単語が出てくる…
それ以外の動詞や接続詞は全く分からないが…と。


ニコライは用意してきたスケッチブックとマジックを取りだし、
天山山脈を描き、その絵を指差してから、本物の天山山脈の方角を指差し、そしてガントとレイカを指さし、このテントを指差しました。


レイカは「あの絵は何かしら?きっと私達が降りてきた大きな岡じゃないかしら?ナーランダを下り、ここへ来たたのか?って聞いてるんじゃないかしら?。」


ガントとレイカは山と言うものの認識がありませんでした。ナーランダには低いなだらかな岡しかないのですから…。


ガントは「そう見たいだね。」と言い、ニコライに何度も頷きました。

次の瞬間、カリディン・アマクタリーがデジタルカメラのシャッターを切り、強烈なフラッシュがガントとレイカに浴びせられました。


ガントとレイカは両手で眼を覆い、悲鳴をあげました。


ニコライは「カリディン!今は止めるんだ!。彼らが怯えている!」。


直ぐ様ニコライはカリディンの手からデジタルカメラを取り上げて、ガントとレイカに頭をさげました。


ガントとレイカはそんなニコライの様子を見て、少し落ち着きをとり戻しました。


そしてニコライはまたスケッチブックに描かれた天山山脈を指さし、そして、そのいくつかの場所を指差し、またガントとレイカを指差しました。

ガントは、「この絵の何処から僕らがきたのか聞いてる見たいだね。この返かな?」とレイカに言いました。


ガントは描かれた天山山脈の南東を指差し、さらに指を空の方へ差しました。


ニコライはカリディンに「天山山脈のかなり上方から来たと言っているようだ…まさか…。あの辺りは酸素濃度が薄く、平均気温はマイナス15℃以下だぞ…そんな地点に人が集落を造れるはずが無い…し食べ物も無いはずだ。」

カリディンは「確かに…。」と答ました。


しかしナーランダの平均気温は年間通して5℃前後。カルデラによる内陸性気候と。ナーランダの地下は死火山ではありますが、近隣の活火山の地熱の恩恵に預かっているのでした。

ガントはレイカに「この人達はなんだろう?。でもどうやら僕達がどこから来たのか絵を描いてくれて、僕たちの言っている事を絵で聞いて分かってくれているみたいだ…きっと賢いなん人だよ!。」


レイカも「そう見たい…あの乳も美味しいし…」。


ガントは笑いました「レイカは相変わらずだね。
パーチの事を聞いてみよう。あの人なら何か知っているかもしれない…とにかくあの絵を描く道具を借りてみよう…」と言いました。

そしてガントはニコライにマジックを貸してくれと言う仕草をしました。


カリディンは「彼らが何か描こうとしています!」と少し強い調子で言いました。


ニコライはゆっくりマジックをガントに渡しました。


ガントはこれは墨炭(スータン)かな?。と思いました。


ナーランダは絵を描く時にはスータンと言う針葉樹の炭で出来たクレヨンのようなものを使います。


そしてガントは(なんて不思議な描き心地なんだ…でも変な匂いがする…臭い…。)と思いながらパーチの絵をゆっくり時間をかけて細かく描き、その絵をしきりに指差しました。

博士はその絵を見て思いました。植物のようだが…麦か…それともその他の穀類か?と。

茎の部分は見た事があるが、先端の実の部分は見た事がない…。


博士が首をかしげて顔をしかめていると。


ガントはレイカに「全体像を分かってもらうために茎と実の全体を描いてみたけど、どうも伝わらないみたいだね、レイカ、羊の皮袋からパーチの実を出して、このおじさんに見せて見よう!。」


レイカは袋から精製したパーチの実を博士に渡しました。


博士はパーチの実を手に取り思いました。やはり麦の仲間の穀類のようだ…、穀類についても全ての部族の調査は終えている…この穀物は新種かも知れないと。


そしてガントはこのパーチの実を右手で何粒か手に取り、左手の親指と人差し指を近づけて「少ない」と言う動作をしてから頭を抱えて「困っている」と言う動作をしました。


…しかし、いまだ博士はガントが何を言わんとしているのか分かりません…。



次回へ。

内陸の土地ナーランダ(6)

2007-04-28 | Weblog
ロシアの民族学者。ニコライ・プルジェリスキー博士は大学の研究室で昼食後のコーヒーをゆっくりと飲んでいました。


テレビは北朝鮮の6カ国協議の話題や、テロによりイラクでまた米軍兵とイラク市民の多くの命が落とされたと言うニュースを放映しています。


ニコライは「…またか…」。と呟き、白くなった短い顎ヒゲをなでました。


そして「こんな報道が毎日のようにされると、いい加減、僕の常識も揺らぎかねないな…」と思いました。


すこし嫌な気分になり、テレビを消そうとしたその時、電話が鳴りました、ニコライは机の上の電話をとりました。

相手はカラサイに近い小都市カラコルからのものです。


「もしもし。先生お久しぶりです。カリディンです、カリディン・アマクタリーですよ」

「お~!。久しぶりだねぇ、どうしたんだね急に」


「実はカラサイの知人のガイドから連絡がありまして、見た事もない装束で、我々の知らない言葉を話す男女二人が突然カラサイの村に現れたらしいんです。」


「…本当かね?。崑崙山脈、天山山脈の部族については全て調査が終了しているだろ?。
衛生写真にも我々の知らない集落は全く写っていなかったじゃないか?。」


「私も新たな民族の話を聞くのは初めてですが、カラサイのガイドは確かにどこの言葉か分からないし、その装束も見た事が無いと言うんです。

実は私もこれからカラサイに向かおうとしているんです。

何しろ彼らは必死で分からない言葉をしゃべるのですが、かなり怯えていて、もと来た天山山脈に今にも引き返してしまうかも知れないそうなんですよ…」


「カラサイの更に上方へ…?。

分かった…。ガイドになんとかその二人を引き止めるよう伝えてくれ、私も明日カラサイに向かうよ。」


そしてニコライは思いました。「まさかな…最近じゃ変な輩が増えている、何が目的かは分からないが、愉快犯かも知れない。

しかし…天山山脈に新たな民族が本当に居たとすると…。」


博士の胸は踊りました。


次の日、博士は飛行機にてキルギスのビシュケク空港へ向かいます。

首都ビシュケクからカラコルまではジープの旅になります。


壮大な天山山脈が近づき、辺りには遊牧民族のテントが散らばっています。


カラコルは高山に位地していますが、整然と区間された都市で、ホテル、食堂も充実していました。


博士がカラコルに到着すると、早速カリディン・アマクタリーが笑顔で迎えてくれました。「博士!お久しぶりです。」


カリディンは地元の民族研究家で、博士の大学の教え子なのでした。

「長旅お疲れ様でした、今日の所はホテルでゆっくり休んで下さい。明日カラサイに向かいましょう。」


「ありがとう。所で例の二人はまだ消えてはおらんだろうな?。


「はい、ガイドがカラサイ部族のテントに招き入れて、炊いた米や羊の肉、フルーツなどを振る舞った所、彼らはとても良く食べ、言葉こそ通じませんが、上機嫌でいるそうですよ。」と笑いました。

そしてカリディンは「彼らはまだ少年と少女のようです。」
と言いました。


博士は「少年と少女かね…?。」と言い、不思議そうに顔をしかめました。



その夜カラコルの食堂で、博士とカリディンは語り合いました。

カリディンは「私は兼ねてから考えていたのです。2500年程前に戦に破れ、何処かに消えた千人程の古いロシア民族の事を…。

彼らの消息を示す文献が無いのです…。もはや民間伝承のみが残っています。」



「…そうか、古代ロシア民族か…。私が考えていたのは、2500年程前の春秋戦国時代に北方に消えた中国北西部の民の事なのだが…それも同じように民間伝承は残っているが、詳しい文献を私も知らないのだ…。」


カリディンは「もしかすると…。
いや私もその少年達をこの目で見るまでは何とも…しかしカラサイよりも高山から降りて来た事は事実のようです…。

カラサイの若者が遥か上方から手をつなぎ、カラサイへ降りて来る少年達の姿を目撃していますよ。」

そんないつ終わるともない話をしながら。食事を終えて、彼らはホテルに戻りました。


夜が更け、博士は酔いざましにホテルの窓辺にたたずみ、カラコルの乾いた風を浴びました…。


月明かりに天山山脈の稜線が幻の様に浮き上がっていました。



次の日博士達はやはりジープでカラサイを目指します。

もう点在する遊牧民のテントもまばらになってゆきます。


西側には大変大きな湖、イシククル湖が見えています。


何時間かした後、ジープはカラサイにたどり着きました。


カリディンの知り合いのガイドが迎えてくれました。


乾いたカラサイの地には所々雪が残っています。

二人は村で一番大きなテントの前に案内されました。

テントの周りには数十人の人だかりが出来ています。


ガイドが何やら叫ぶと、人だかりは博士とカリディンを通すため、道を開けました。


身をかがめ、ゆっくりと博士はテントに入りました。



次回へ。

ナーランダ解説。

2007-04-27 | Weblog
ナーランダの世界をイメージした写真をもう一枚。

これは「三蔵法師のシルクロード」(朝日新聞120周年記念出版。写真:後藤正さん)からお借りしています。


いや~あとナーランダの矛盾を自分で見つけちゃった!。


それはナーランダに文字が無いのに、どうして女王の旦那を選ぶキーサン(木選)ができるのでしょう?。


木の板に文字を書くんですよ!?。
文字って、あなた…。

こうしてください、ナーランダは文字として名詞だけは残っているんです。


連続した文章を捨てたと言う事です(汗)。


あと、「ミディア」を(見出逢)と書くような当て字が出てきますが、これは適当な僕の言葉遊びです。

深く考えなくて良いです(笑)。

携帯から打ち込んでますので誤字脱字も、ご勘弁ください(笑)。

ではこれからも頑張って綴ってゆきます!。

内陸の土地ナーランダ(5)

2007-04-26 | Weblog
レイカは吹きすさぶ白い風の中、目の上に手でひさしを作り

「…真っ白…やっぱり…ナーランダしかこの世界はなかったのね…」
と力無く呟きました。

ガントは目をこらしていました。

すると、もう一度強い風が吹き、辺りの「白」を吹き飛ばしました…「白」は「霧」なのでした。

するとガント達の前に、スーッと青い色が広がりました。…そこには青い空、そして雲、そして広大な斜面を覆う雪原が広がりました。
二人はしばし呆然としていました…。

レイカは「なんて広い空なの…!?。私達が見ていた空は丸い空だったのに、この空はどこからが始まりでどこまでが終わりか分からない…。」

ガントは、「…ナーランダの外にも、雪があったんだ…、空も、雲も…。」


そして二人は肩を落としました…。

それはナーランダの外には宇宙がある事を認識してしまったからでした…。


これから始まる「パーチに替わる穀物を探す」と言うナーランダの国民の誰もが想像もつかない使命を為さなければならないのでしたから…。


ナーランダの外に宇宙がなければ、彼らは途中で引き帰す事が出来たのでしたから…。

しかし新しい穀物を見つけなければナーランダは滅びるしかありません…。


前に進むしか無いのです。


愕然とした気持ちでガントは言います。

「行こう…レイカ…」。レイカは「うん…」と言い、ガントの後に続き、初めての「世界」の雪に第一歩を踏みだしました。


ざくっ、ざくっ。と音をたてて、厚い毛皮を身にまとい、杉の繊維で編んだ帽子を被った二人は、しっかりと手をつなぎ、雪の斜面を降りて行きます。

ざくっ、ざくっ…。

二人に言葉はありません…。

しばらく二人は無言で歩きます。

ガントは切り立った崖に近づいた時「ここは危険だね。そろそろここで座って休もうか?」。


…レイカの返事がありません。

レイカはふらふらしながらようやくそこ立っています。

「レイカ…?レイカどうした!」

ふらついたレイカはバランスを崩し、倒れ込みました。その瞬間レイカの手がガントから離れました。

レイカの体は断崖を転げ落ちて行きます…。
ガントは「レイカー!レイカー!」と叫びました。

次の瞬間、ガントも意識が遠のくのを感じました。

二人は高山病でした。

ナーランダのカルデラには、パーチ、杉科の植物、高山植物、針葉樹、その他の雑草が生い茂り、光合成を行い酸素は豊富でした。

しかしガント達が歩いていた高山の酸素は極端に少ないのです。

…この山は天山山脈。
中国とキルギスを分かつ大山脈でした。この山脈の遥か上方にナーランダは位地していたのでした。

二人の体は雪原を転げ落ちて行きました。


その夜、倒れ込んでいたガントは余りの寒さに身を起こしました。
ここはどこだ…?。

はっと気が付きます。
「…レイカ?レイカはどこだ?」

ガントは暗くなった辺りを見渡し叫びました「レイカー!レイカー!」。

ガントの声は木霊(こだま)となり虚しく山々に吸い込まれて行きました。

ガントは必死で辺りを駆け巡りレイカを探します。

…しかしレイカの姿は全く見当たりません…。
さすがにガントの体は疲れきっていました。

世界の壁を10時間以上かけて登った事、ナーランダだけが世界では無いことに気が付いてしまった事、高山病になった事。

ガントは限界でした…。眠けに襲われたガントはそのままへなへなとその場に倒れました。

そして、まどろんで行きます…。



どのぐらい経った時でしょう。ガントは微かな温もりを感じてうっすらと目を開けました。

「パチパチッ、パチパチッ」と火の燃える音がします。

温かい…ガントは感じました。そして声がします…「ガント、ガント!」。

彼の目に顔に擦り傷を作ったレイカの姿が見えました。

レイカは「やっと気が付いた…。あのまま寝てたら寒さで凍え死んでたよ。」

レイカ達はずいぶん下に転がり落ちました。
そこは頂上より雪も少なく、閑散とした所でした。

「レイカ、お前こそなんで…。」

「えへッ、食料や火を付ける道具は私が背負っていたから。
さっき羊のチーズも結構食べちゃった!。周りを見たら枯れ枝なんかが結構沢山あって火を着たったてわけ!。
ガントを探すのに大変だったんだから」

「それはこっちのセリフだよ…、チーズ食べちゃったの?あれが一番美味しいから大事に食べようって言ってたのに~」とガント。
「だって美味しいんだもん」とレイカ。

二人は笑いました。

若者って強いものですね。

こんな時に笑ってるんですから。


そしてガント「僕のぶんもあるだろ?」
「あるよ。ほら…」
「もうこんなに無くなっちゃてるの?(もぐもぐ)旨いなぁ~」
「あっ、だめ!無くなっちゃう!」
「レイカが沢山食べるからだろ」

こんな会話をしながら、焚き火のなか、夜は更けて行きました。


次の朝ガント達はさらに天山山脈を降りて行きました。

さらに傾斜は緩やかになって行きます。

そして…しばらくするとガント達の目の前にドーム形の建物が見えます。「なんだろ?あれ」とガントはレイカに囁きます。

レイカは「しっ!……人だわ、人よ。見た事も無い服着てる!」

ガントが目にしたのは「カラサイ」の部族達でした。天山山脈に最も近い集落です。

彼らの顔は少し黒いのですが、ロシア人のような顔の女性、白く長いヒゲを伸ばした東洋人のような老人。様々な人々がいます。

ガントは「話をして見よう…」と言いました。レイカは「…でも、見た目は人間でも何をされるか分からないわ…」ガントは「でも、パーチの替わりの食料を知っているかもしれないよ」と言いました。

二人は恐る恐る、カラサイのに近づいて行きました。


洗濯物を干している女性にゆっくりとガントは近づきます。

はっと、その他女性はガント達を見ました。
女性は驚きました。

羊の皮を体にまとい、藁のような帽子を被ったガント達を見るのは初めてだったからです。
ガントは話かけました。
「ここは何処ですか?。パーチの替わりになる食べ物を探しているんです。」と。

返って来た言葉は「жЭÅЮωБΩ…!?。ξДΨ‡∽Υ!。」
でした…。


次回へ。

内陸の土地ナーランダ(4)

2007-04-24 | Weblog
ガントはレイカに「行くよ…!」とつぶやきました。



朝焼けのなか、レイカは「うん!……」と不安なのか、力強いのか分からない声で答えました。



ガントは先ず、自分の身長よりも40センチほど上方の「世界の壁」に最初のクサビを打ち込みました。


カーン、カーンと心地の良い音がして、クサビは打ち込まれました。



そして初めての一歩を踏み出しました。


クサビの足場だけではなく、壁のくぼみなどを使い、数分で5メートル程登る事ができました。レイカもガントに続きます。



ガントは「これなら結構早く上までいけるかも知れないね。」


下方のレイカは「油断しちゃだめだよ。誰もこの壁の事を知らないんだから。」


ガントは「僕はこう見えても力は結構あるんだぜ、知ってるだろ?この調子でさっさと済ませよう…」とガントが言った瞬間、クサビはぐらつき、ボソッと音をたて抜け落ちました!。



縄で繋がれた二人はそのまま地面に叩きつけられてまいしました。


レイカは「いった~、もう傷だらけよ!、ガントのせいよ!」と言いました。



そしてガント、ガント!と叫びましたが彼の返事がありません。しかし横を向くと、ガントは右足を両手で抑え、「痛いよ~、痛いよ~!」と半べそをかいていました。


…捻挫です…。レイカは擦り傷だけでしたが、ガントはビッコを引くようにしか歩けません…。


ガントはレイカに支えられ、3キロ先の宮殿に戻るしかありませんでした…。

その道中、

ガントは「一人で歩けるからほっといてくれ!」と言いますが、二三歩あるくとバランスを崩して転倒してしまいます。

レイカは「も~、ちっとも大丈夫じゃないんだから…」と言ってガントの肩を支えました。



数時間かけてやっと宮殿にたどり着いた二人を、また女王が迎えました。

女王は笑っていました。

「そんなに簡単なものでは無いことは私達にも分かっいました…。なにしろ私達にも登り方については一切分からないのですから。」

ガントは「も~、笑わないで下さいよ!クーエンゾー様!」と言いました。


そして女王は召使いを二人呼び寄せ、二人の傷を調べました。そして女王は二人に言いました。

「レイカよ、そなたの傷は数日で完治します。しかしガントよ、そなたの傷が治るのは20日程かかるようですね。
確かにナーランダの危機は迫っているが、養生している間、もう一度大臣達と話し合いなさい。そして何度でもあの壁に立ち向って行くのです。」

ガント達の最初の登頂が失敗した事は国民には内緒にされました。
ガントの捻挫が治るまでの間、彼は二人の大臣とまた議論を重ねました、そこでガムランエ(我村営)と言う大臣が言いました。「クサビが抜けたのは先端が尖っていただけで、(返し)がなかったからではないのかな?。小さな時にポトス(歩十水)の池で釣りをしたのを覚えておるか?、その魚の骨で出来た釣り針の先端は尖っており、そして鍵形の返しがあったではないか。このクサビにも返しを施すのがよかろう。」と。

召使いと、大臣、そして両手には何不自由のないガントがひと月をかけ、持って行くクサビに返しを堀込む作業が続きました。

……二回目のガントとレイカの登頂が再会されました。


ガントの足もすっかり良くなりました。



先月のガントとは違い、何も言わず彼はひたすら返しのついたクサビを打ち込み、黙々と登ります…。


レイカも黙ってガントが打ち込んだクサビを踏みしめ、彼の後につづきます。

そして休みを入れながら10時間ほど経った時、ガントの羊の皮袋に一本のクサビが無いことに彼は気付きました。

彼の額には大粒の冷や汗がにじんでいました。
ガントはレイカにそおっとした声で語りかけました。

「えっと…ここら辺で打ち込んだクサビを辿って宮殿に帰らないかい…?。」と。

レイカは「何言ってるの!!。頂上までもう少しじゃない!、今度はクーエンゾー様だって笑って許してはくれないのよ!なに甘ったれた事言ってるのよ!。」と言いました。

ガントは消え入るような声で「クサビがもう無いんだ…。」と囁きました。

レイカは「え?。何て言ったの?クサビがどうしたの?。」と聞きました。

しばらく無言のガントに再びレイカは大声で言います。「クサビがなに~?!!。」と。

ガントも今度は大声で言いました。「クサビが無くなったんだよー!!。降りるしかないんだよ!!!。」と。
レイカも無言になり、数十秒の沈黙が彼らを襲いました。

…しばらくほおけて、放心状態のレイカの目に、ガントの1メートル程上方に鈍い光を放つ、錆びた金属の縄のような物が見えました。
それは古代の中国人が国を追われ、このナーランダのカルデラに降りるために使った太くて錆びた鎖でした!。


レイカは「ガント!あ…、あれ!」。

とガントの上方を指差しました。

ガントが素早く上方を見ると、ガントの目にもその錆びた太い鎖が飛び込んできました。
レイカは「あそこまで何とか近づくのよー!!あの太い縄を伝えばきっと頂上よ~!。
クーエンゾー様の父上がおっしゃっていた太い縄に違いないわ!!」。

ガントは身動ぎ一つしません。

そしてガントは言いました「そうかも知れないけど、クサビもないのにどうやってあの縄に掴まるんだよ~。そりゃ少し上に見えるけど、クサビが無きゃ近づけないよぉ~。」と。

レイカもしばらく黙りこみましたが「壁の窪みに手を掛けるの。そしたらすぐでしょ!」と言いました。

ガントは「壁の窪みに?。片腕で僕とレイカの体重を支えるのか?、クサビはもうないから、落ちたら死んじゃうよ」と言いました。
レイカは少し間を置き、「あんた!それでも男なの!。ナーランダの人々や女王に信頼されたんじゃないの!」とこわばった表情で叫びました。

ガントはレイカのそんな表情を見たのは初めてでした。

ガントは「どーにでもなれぇ~!。レイカは可愛い娘だと思っていたのに…、生き甲斐なんてあるものか~!。」と思い、馬鹿力で壁の窪みに片手をかけて、「固く太い縄」をしっかり掴みました。

固く太い縄はとても掴みやすく、足掛けもついており、数分で頂上にたどり着きました。
そこで立ち上がった彼らに雪の混じった一迅の風が吹き、目をふさぎます。ガントはゆっくりと目をあけると……そこは真っ白な空間でした。



次回へ。

内陸の土地ナーランダ(3)

2007-04-23 | Weblog
ども、ヒラヤンです。なんしろ携帯で打ってるもんですから、多少誤字脱字がありますよねぇ…ま、気にせず読んでみて下さい(笑)。




さて、この国の女王、代々名前をクーエンゾー(久遠続)と名乗ります。


62代目のこのクーエンゾーはすらっとした体型に羊の皮で出来たマントを身にまとい、その目は少し細くつり上がり、顔の造りは全くの東洋人ですが、その瞳は真っ青なブルーなのでした。

現62代目クーエンゾーの年齢は33歳、世襲制で、父親は大臣となり、母親は五十歳になると王位を娘に譲ります。

女系制で、女王の夫になるのは国内で腕力・知能に最も優れた男を選出するキーサン(木選)と言う選挙のような行事で選ばれます。
木の札に推挙する男を示す記号を書き投票するのです。

しかしいまだこの62代目のクーエンゾーには夫がおりません…。

代々キーサンは女王が二十歳の時に行われます。
この62代目クーエンゾーにも相手は決まっていました。すでに10年以上も前に…。
彼は力は強く、知性にも溢れ、背も高く、顔もりりしい若者でした。

勿論この若者にもミディアによって決められた許嫁がいましたが、国民の推挙によってクーエンゾーの夫として選ばれたからには、結婚していたとしてもミディアによる許嫁制度は反故(ほご)にされます。ちょっとひどいですね…。

しかし…この62代目クーエンゾーは、どうしてもこの若者を受け入れませんでした…、

それは彼女の心は自分が二十歳のころから常に収穫量の減り続けるパーチの事や、先々代のクーエンゾーから受け継いだ金属片の事、また先代の女王の母から聞かされた言葉、それは。



「ナーランダの民は神がこの土地の赤土で作ったと言われている。しかし私の母からあのキラキラした板を受け継いだ時、それを見てお前の父はこう言ったのだ…(ナーランダの民はこの世界の壁を越えてこの地にやって来たのではないか?。

と言うのも、遥か千年前に文字と言う記号があったが、その存在は勝者と敗者を決定的なものとし、争いを招くものとして忌み嫌われた…それで我々ナーランダの民は文字を捨てたらしい…。

だから過去を知る術もないのだが…しかし私の父から聞いた伝承がある、それによるとあの世界の壁の上方には太い縄があると聴いた…私はお前が受け継いだそのキラキラした板を見て、考えたあげくに、やはりこの世界の外からナーランダの民は来たのではないか?。)

そのような事をそなたの父君は言っていたのだ…。」

この母の言葉は62代目クーエンゾーの胸からいつも離れず、その事ばかりが気になり、自分の婚礼にも全く興味が持てず、ひたすらナーランダの外の空間に思いを馳せるのでした。

現女王は思いました「私があの壁を越えてみたい…、だが昨今パーチの収穫量が減り、痩せ細った子供がとうとう先日その命を落としたと聞いた…。病気や事故以外でそのように栄養不足で亡くなった子供は長い時を経ても見られなかったのに…。

この国を統括する私はやはり行けない。国を治め続けなければならない…私以外の若者達に委ねる他はない…。
ガントとレイカ…その仲のむつまじさはこの国中の噂になっている。また…男と女の力があり、初めてパーチは実を付けると古来から言われている…。」


そんな思いが現女王から離れず、自分の婚礼の事は全く棚上げなのでした。

現女王の母(61代目クーエンゾー)は引退した後は広いパーチ畑を受け継ぎ、日々農地を耕し、夫の大臣も執務の合間を縫い、もはや「クーエンゾー」では無くなってしまった妻と、黙々と畑を耕します…。

母は適齢期をとうに過ぎた我が娘の事に日々心を痛め、また同時に最大の信頼も娘に感じながら畑を耕し続けています…。ただ親とすれば複雑でした。




さて、婚礼の翌日に女王はガントとレイカの両親のもとを訪れ、彼らの艱難辛苦(かんなんしんく)となる任務を伝えに行きました。

その引き換え条件は彼らがナーランダの外に行き、そこに空間・土地があったにせよ、なかったにせよ、彼らが外界を確認して帰ってくれば、農地を与えると言うものでした。

ガントとレイカの両親にはたいした広さの農地はありませんでした。そして女王の申し入れに深く悩みました。それぞれの両親は数日話し合い。結果ガントとレイカを旅立たせる事を了承しました。

それから半月、ガントとレイカは宮殿に通いました。

誰も登った事のないあの壁をどのように越えるか…?。大臣二人、そのうちの一人は女王の父、そして女王、ガントとレイカの五人でさまざまな方法が議論されます。

その結果、このナーランダに豊富にある石を削り、クサビにします。またカリムチ(煎餅のようなお菓子)の原料になる杉科の植物の枯れた茎を編んだ縄を作ることになりました。


女王の父である大臣が言いました「ガントよ良く聞け。あの壁のもとに着いたならば、そなたとレイカをこの縄で腰と腰とをしっかりと結び付けるのです。
そしてガントはこの石のクサビを袋に入れて行くのです、このクサビは百本以上はあるだろうか…多いのか少ないのかはわからぬ…。何しろ誰も行った事がないのだからな。
これ以上の本数は重くなり過ぎて持ち運べまい…ただでさえ多くの食料(パーチ)と水を背負ってゆかねばならぬのだからな…。クサビとこの石槌を使い、あの壁にクサビを打ち付け、足場をつくり、少しづつ登るのだ。決してレイカとの縄がほどける事なく登るのだぞ。」と。



そのまた半月後、女王は国民を宮殿前の広場に集めました。

ナーランダには非常に珍しい、晴れた日でした。

女王は良く通り、高らかな声で国民に叫びます。
「この者たち、ガントとレイカはこれから世界の壁を越えに行く!。」

国民からはどよめきが起こります。

女王は続けます「前の年に比べ、パーチの収穫量は半分にも満たなくなった!。その原因は、わが世界が少しずつ暖かくなりつつあるからだ。
それはもう全て国民の誰もが知るところである。

カリムチは栄養も少なく主食にはならん。

羊もとても貴重だ。肉を食すのは年に一度の婚礼の時のみである。
それ以上羊を食せば、数ヵ月で羊はその姿を消すであろう…。

ガントとレイカに壁を登らせ、新しい世界があるか確認をさせ、さらにはパーチに替わる植物を探しに行かせることを決めた。若く、そして絆深く強靭な夫婦に私は全てを託することとした!」。



誰一人女王の言葉に反論する者はいませんでした。


直径約6キロのナーランダの端、世界の壁を目の前にして、パーチや水の入った羊の皮袋はレイカが背負い、ガントは石のクサビの入った羊皮の袋を背負いっています。

夕焼けのような茜色をした朝焼けのもとに二人の姿がありました。


次回へ。

内陸の土地ナーランダ(2)

2007-04-21 | Weblog
ども、ヒラヤンです。
こないだはずいぶん酔っ払っている時に調子づいて、酔狂で「内陸の土地ナーランダ」を書き初めました…。

第一話を書き始めた以上、このお話をエンディングまで書かなければならないと思い、賛否両論あるとは思いますが、書き綴って行きます。

まぁ誰も読まないかも知れませんが、お構い無く綴って行きます。
これは言葉、文字についての自己鍛練のためでもありますから…。


さてガントとレイカの前に進みいでた女王は、こう告げました。

「お前達には、このナーランダの為にするべきことがあります。

それは男一人だけ、あるいは女一人では成せない事なのです。

最も絆の強い夫婦でなければ成し得ない事なのです…。

それはこの世界ナーランダの外を見に行く任務です。

この世界の外を確認する必要があるのです。
ナーランダのパーチの収穫量が、年々減っています…。お前達も知っての通りだと思うが…。
私達の主食はパーチです。食べ物が無くなる事、それはこのナーランダに人が生きて行けなくなる事を意味します。
パーチの変わりとなる植物を新たに見つけなければならないのです。

ガント、レイカ、そなた達は誰も超えなかった世界の壁を登り、本当はナーランダの外に空間があるのか無いのか確認に行くのです」と。

実はナーランダは数千年前、死火山のカルデラの窪みに戦争に負けて終われてきたゲルマン民族と、同じく国を終われた中国系の民族が混ざり合い、東洋と西洋が交りあった人達が暮らす世界だったのでした。

カルデラの深さはおよそ800メートル。尋常ではない深さのカルデラなのでした。

そしてカルデラの上空は霧が常に立ち込め、日光も少ししか当たらないのでした。

この国の主食、パーチは麦の一種ですが、温暖な気候では実を付けません。
暖かくても枯れはしませんが、十分な寒さがあり、初めて実を付ける植物です。

女王は「そなた達は、まずはあの世界の境界である壁を登らなければなりません。

そしてガントとレイカにしか聞こえない声で囁きました「今夜私の宮殿に来なさい。ある物を見せましょう…。」と。

その後、宴が行われ、パーチを発酵して作った「ラモル」(裸繁龍)と言う強いお酒が振る舞われ、焼いた羊の肉がテーブルに並べられ、盛大な宴会となりました。

しかしガントとレイカの表情は沈んでいます。ガントは「何故だ…どうして僕達だけがそんな怖い思いをしなければならないんだ…せっかくレイカと一緒になれたのに…せっかく待ちわびた結婚式の日なのに…。ザット(雑問)達はあんなに微笑み、楽しんでいるのに…」

レイカしばらく肩を落としていましたが「ガント…でも、私達にしか成せ無い事だと女王は言ったわ…、私はガントに付いて行く…そして女王の言葉を信じる…。」

ガントはレイカの瞳をしばらく見つめました。

そしてガントは「…やっぱり僕達では無理だよ…、今夜女王は僕達に宮殿に来いって言ったね…そこで断ってみるよ」

レイカはい言いました「…それでも私は女王を信じてガントに付いて行きたい…。」と。


そしてその夜、意を決してガントとレイカは女王の宮殿にやって来ました…。

女王の宮殿と言っても、少し大きめの平屋建で、漆喰で壁が塗られた建物で、一見すると中国の寺院のような建物です。

召使いは6人。大臣は二人しかいませんでした…。

扉を開けると、召使の一人が悲壮な顔つきで女王の間に案内しました。

女王は窓を開け、夜空をじっと見つめていました。

ガント達が召使いに導びかれて女王の間の扉を開けてもらうと、女王はゆっくり振り向いき「よく来た…。」と言い、召使いに退室するよう命じました。

ガントは直ぐに「女王、今夜は先ほどの婚礼のお言葉を断わりに参りました。」と言いました。

レイカは「ちょっと待って!。女王が見せたい物を見せてもらいましょう」と言いました。
ガントは仕方無く軽く頷きました。

女王はゆっくりとテーブルの上の木箱を手に取り、そっとそれを開けました。

大きな葉に包まれたそれをゆっくり葉から取りだし、ガント達に見せました。

それは薄い金属で、そこには(US ARM・・・)と言う彼らからすれば記号にしか見えないものが記載されていました。

もう千年以上前にナーランダの人々は文字を捨てていました。

女王は「これは先々代の女王が伝えてきた物です…。いまから70年ほど前に空から落ちてきました。こんなキラキラした物を私達は見た事がありませんでした。

神が私達に送ったものなのか、あるいはこの世界の外にも私達と似た何かがいるのかも知れません…。」

その金属片は第二次世界大戦直前の米軍機の破片でした。

女王は続けます「パーチの勢いが落ちている事、そして空から落ちてきたこのキラキラした固いもの。この世界の外で何かが起こっているとしか思えません…。お前達の絆は国一番です…。そして若いのです。絆深きものの男、そして女。お前達の絆がこの食料難を救うのです。どうかガントよ、レイカを導き、この国に希望をもたらしておくれ…。」

ガントはうなだれ、しばらくした後、ゆっくりと口を開きました「レイカとこの国の人々を愛しています。私は弱い男かも知れません、しかしレイカと一緒ならば…。」

そしてガントとレイカは顔を見合わせて頷きました。

次回へ。

内陸の土地ナーランダ(1)

2007-04-17 | Weblog
ここより遥か離れた土地に、近代文明も知らず、他の国々にも知られず、地図にも載っていない国がありました。

深い山あいで、切り立った山谷が道をふさぎ、酸素濃度も低く、高地のため集落は有り得ないとされています。しかし…、

遥か何千メートル上方の山麓にその国はあった…。そこは高山植物が繁り、気候こそ寒いが、空気は澄み渡り、まさに人類最後の秘境。

その国の人々は山に囲まれた外には「無」しかないと信じています。

その国の人達は外国人の存在も全く知りません…。

この国が全ての世界で、ここで生まれ、ここで死んで行く事を信じて止みません。
人口は500人足らず

朝がくれば痩せた農地を耕し、夜になれば満天の星のもと、家族と身を寄せて眠る。


この国の名前、あるいはこの世界を彼らは「ナーランダ」と呼びました。

そしてこの土地でも、あまり多くの農地を持たない家族の息子、ガント(願人)が17回目の誕生日を迎える時です。

ガントは色黒で痩せてはいましたが、人一倍力も強く、その瞳は黒曜石のように深く澄み渡り、美しく輝いています。

また彼は花や山羊、小鳥達を愛しました。
やはり毎日畑に行き、麦の仲間の「パーチ」(葉地)をひたすら栽培し、耕しています。

この国では17歳は成人を迎えると同時に花嫁を迎えなければならない年齢です。

ガントももうすぐその年齢になります…。

ガントの相手の娘とはどのように決められたのでしょうか?。

それは古来からのしきたりで、親達は子供達が僅か3歳になったとき「ミディア」(見出逢)と言う行事を行います。

3歳になった男の子、女の子を一同に8メートル四方の枯草の上に放します。(毎年約10人足らず)。

泣き止まない子、笑ってばかりいる子、すぐに友達になってじゃれ合う子達…そこで親達は仲良くなったと覚しき子供達を見極め、許嫁(いいなずけ)とします。

そこでガントの許嫁に決められた娘、その名をレイカ(玲花)と言います。
背は小さく、丸顔でとても快活で明るい娘です。

良く畑を耕し、料理が上手く、この痩せ細った土地に群生する杉科の植物で作るお煎餅の様なお菓子「カリムチ」(火利麦知)作りが得意です。

この二人、両親がミディアで見極めた最も相性の良い二人でした。
それはこの国の多くの人々が認めた程です。
もちろんガントとレイカは成長するごとにより仲良しになって行き、思春期にはお互いが結ばれる事を固く信じて合っていました。

そしていよいよ17歳になったガントとレイカの婚礼の日がやって来ました。

この国は女王が統括しており、毎年5組程の婚礼が秋の収穫祭の後に行われます。

女王は婚礼を迎えた花嫁・花婿に祝いの言葉をかけます。

さて、ガント・レイカの前に進んだ女王は彼等だけには余りにも過酷で、厳しい言葉を告げるのでした……。

次回へ。

長野県一の町を目指して。

2007-04-03 | Weblog
写真は雨あがりの伊那市の情景。

昨日僕は39度の熱を出してしまい。中央病院の緊急診療を受けて今日仕事を休んでしまいました。

思いもよらぬ部署に自分が異動になった事や、その他訳も分からない疲れが溜まっていたのかもしれませんが…。

そんな熱にうなされて、もんもんとしてる中で、確か伊那市の関係者が言っていた「伊那市は長野県で一番の町を目指しましょう。」と言う言葉を思い出しました。

まぁ、人間は一番を目指そうとする生き物だし、多分、その人は観光・福祉・知名度・魅力についての事や、。人が沢山集い、エネルギーに溢れる町を表現しようとして言った言葉だと思うけど、僕が感じるのは、一番になる事は二の次でいいんじゃないかな?、伊那市に住む人達が「伊那市は住みやすい。」と感じてくれる事が一番だと思う。
まぁSMAPもそんな歌を歌っていたけど、あの歌詞は人に「そ~だよなぁ、誰でもみんなそれぞれ美しい個性があるんだよなぁ。」と感じさせたり、また「綺麗事言ったってやっぱ勝たなきゃ意味ないじゃん…」と言う両面の真実を感じさせてくれますよね。

地方都市、大都市の別を問わず、その町から世界を席巻する偉大な人物が現れる可能性もあり、またその町に大恥をもたらす犯罪者が現れる可能性もある…。
言葉のあやをつついているのではなく、伊那市には一番になるとかじゃなくて、多くの市民が「住みやすさ」をより感じてくれる町になって欲しいと思います。そして伊那市民が伊那市をより愛してくれますように…。
親が子を愛するようにに、子が親を愛するように…。

熱にうなされて変なブログになっちゃった…。

台風クラブ

2007-04-01 | Weblog
懐かしい映画を思い出し、購入してしまいました。「台風クラブ」出演、工藤由貴、三上祐一、大西結花、三浦友和他。
かなり倒錯した作品ですね。
台風の到来とともに、中学生達がそのエネルギーを狂気の中で発散させて行く…。
同級生をレイプしようとする少年。
学校の先生は女性にだらしなく、ヤクザの伯父と親密な関係にある。
家出をして東京に行った少女が大学生にナンパされ、からくも肉体関係になりそうなところを逃げて来て、台風の大雨をあび、電車も動かず帰れなくなり、不安な涙に暮れる。

台風の夜学校に取り残された男女の生徒六人は裸になり、台風の雨の中で踊りはじめる。
まぁ、そこまで倒錯していなくても台風の到来を待ち、少しドキドキする事ってありますよね?。アメリカじゃ台風の到来を喜び「ハリケーンパーティー」なんてのもありますよね。
ラストシーンは結構衝撃的ですが、台風が去って全てが水に輝きキラキラしているシーンはとっても好きですね。
それ以上に僕がこの作品に惹かれるのはこの映画の風景です。
ロケが行われたのは長野県佐久市。当時この町の人口も風景も僕の住んでいる伊那市にソックリ。同じ長野県の小都市だし、木造の古い校舎、あか抜けない商店街、広すぎる田園風景、近い山々や、木々や草の緑。
その必要性も良く分からない見慣れた電柱たちと、その上の青い空。

この映画を見ていると、まさに15歳にもどった気分になります。とにかく風景の全てがが20数年前の伊那市にソックリです。
出演の工藤由貴が台風の過ぎ去った佐久中信駅を晴ればれとした表情で後にするシーンは心から離ません。