体育座りして膝に話せよ02

会議ってあるじゃないですか。
人が集まってするアレです。
それどうやって決まったの？みたいな物が世の中に溢れてるわけですが、
世の中会議でできているって叫んでも間違いでは無いでしょ。

この間、惰眠を貪るのにも飽きて、自動車学校の合宿をまとめたパンフレットを舐めるように読んでいまして。かくいう僕は8ヶ月かけて免許取ってる訳ですけどね。

北は北海道から南は沖縄まで、様々な合宿所がシノギを削り合う様にページをめくる手は自然と汗ばみます。
だいたいはギャルと、いかつい男子グループが教習車の周りで両手を広げ、満面の笑みで最高ーと言っている瞬間の写真が乗っています。
その中から可愛い子を探すのも中々楽しく、これとこれは仲良さそうみたいなカップリングを作ったり黙々と読み耽る。
で、教習所の名前。
だいたいは、地方名を冠につけて、その後に自動車学校と続くわけですが、
一個目を引いたのがMランド。
己が自動車学校である事すら捨てたその潔い名に驚いて、冒頭に挙げたような企画会議を想像した訳ですよ。

、、、

開校から30年。
数々の優良ドライバーを日本全国血脈の様に走るバイパスに送り出して来た、北陸自動車学校(仮)は受講者数の低迷により、開講以来未曾有の危機に瀕していた。

元は戦車の訓練場だった広大な土地を買い上げ1代で立派な自動車学校を気づきあげた豪快な人物を祖父に持つ所長。
本人自体は至って普通の学校に通い、至って普通に、父親の後を継ぎ現在の生活に腰を降ろしている。
しかし最近。妙に受講者の人数が急激に落ち込んでいるのだ。
教官への給料支払いにため、代々続く実家を担保に借金をするくらいに眠れぬ夜を過ごしていた。
さらに追い打ちをかけたのが若者の車離れ、
車を運転してやっと一人前の大人、と言われていた世代の所長にとって正にまさかの事態。

この間ベテランの伊藤さんの首を切ったのも自分だ。
頑固ながら熱心に教える伊藤さんの講習は生徒にも評判で、机の上には卒業生達が勝手に貼って行ったと見られるプリクラが所狭しと並んでいた。
そのただなにもなく、プリクラだけがキラキラした机上を眺め溜息を周りに気がつかれないよう吐き出した。

今日は会議か、特に議題に上がる事も無いが、今日から産休の溝口君に代わって臨時の講師を招いているんだったな。
名前は何と言ったっけ。

などと新人の資料にさっと目を通して苗字を見た、所長は椅子を引き、これはもしかしたらもしかするかもしれんぞ。

藁にもすがる思いで会議室への足を早めた。

、、、

みたいな導入部分のドラマ。

あったんだろうな。
と夢想に耽るとパンフレット綺麗に重なったジャンプのバックナンバーと一緒に紐で括った。


きん