マリの朗読と作詞作曲

古典や小説などの朗読と自作曲を紹介するブログです。
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おまつり(エッセイ)

2021年09月15日 | 私の昔

「おまつり」は、昭和30年代初頭、

私が小学校低学年の頃の出来事。

当時の祭礼の開催日は、曜日に関係なく

「毎年〇月△日」と決まっていた。

 

 

  おまつり       マリ

「はちまんさまにいこう! 」の一声で、

5,6人の小学生は

バラバラッと駆け出した。

行く先は荻窪八幡宮。

昨日と一昨日が年に一度のお祭りで、

それは大した賑わいだった。

お神輿に綿アメ、射的、焼きイカ、

余興の腹話術、漫才、奇術、

どこを向いても人、人、人・・・。

 

息をはずませて八幡様に着いてみれば 

木立の下はしんと静まっており、

境内にはわたしたちしかいなかった 。

「・・・やってないね、おまつり」  

誰かが、こそっと言ったので 、

みんなちょっと恥ずかしそうに小さく笑った。

それでも、すぐに気を取りなおした。

鬼ごっこ、かくれんぼ、

大木の根っこの上から地面に落ちたら

人喰い鮫のエサになる!

きゃあきゃあと声を上げて

追いかけては捕まえ、

捕まっては追いかけて、

大木の周りを走り回っていた。

だから、

その子がいつやって来たのか知らない。

 

気がつくと見慣れない男の子がひとり、

やや離れたところに立っていた。

わたしたちと同じくらいの年頃で、

ぶかついた古着に黒いズックの運動靴。

チラチラとこちらを伺いながら、

手に持っていた小さな丸いものを

何回か投げ上げては受け止めると、

また居心地悪そうに立っていた。

が突然、意を決したように

こちらの方にずんずんと向かってくる。

わたしたちは緊張した。

男の子はもっと緊張していた、

と思う。

そばまで来ると、

手の中の大きな50円玉をにらんだまま、

早口でぶっきらぼうに、こう言った。

「おまつり、いつはじまるの? 」

このあたりの子ではないと、

すぐにわかった。

「 おまつりはきのうまでだよ」

それを聞いた男の子は

顔を少し歪ませたが、

何も言わずに向きを変えて

すたすたと境内を出て行った。

 

 わたしたちも誰も何も言わなかった。

そして遊びの続きに戻ったのだけれど、

なぜか面白さが今ひとつ・・・。

やがて1人抜け2人抜けして、

その日は全員が

早々と家に帰っていった。

 



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