「おまつり」は、昭和30年代初頭、
私が小学校低学年の頃の出来事。
当時の祭礼の開催日は、曜日に関係なく
「毎年〇月△日」と決まっていた。
おまつり マリ
「はちまんさまにいこう! 」の一声で、
5,6人の小学生は
バラバラッと駆け出した。
行く先は荻窪八幡宮。
昨日と一昨日が年に一度のお祭りで、
それは大した賑わいだった。
お神輿に綿アメ、射的、焼きイカ、
余興の腹話術、漫才、奇術、
どこを向いても人、人、人・・・。
息をはずませて八幡様に着いてみれば
木立の下はしんと静まっており、
境内にはわたしたちしかいなかった 。
「・・・やってないね、おまつり」
誰かが、こそっと言ったので 、
みんなちょっと恥ずかしそうに小さく笑った。
それでも、すぐに気を取りなおした。
鬼ごっこ、かくれんぼ、
大木の根っこの上から地面に落ちたら
人喰い鮫のエサになる!
きゃあきゃあと声を上げて
追いかけては捕まえ、
捕まっては追いかけて、
大木の周りを走り回っていた。
だから、
その子がいつやって来たのか知らない。
気がつくと見慣れない男の子がひとり、
やや離れたところに立っていた。
わたしたちと同じくらいの年頃で、
ぶかついた古着に黒いズックの運動靴。
チラチラとこちらを伺いながら、
手に持っていた小さな丸いものを
何回か投げ上げては受け止めると、
また居心地悪そうに立っていた。
が突然、意を決したように
こちらの方にずんずんと向かってくる。
わたしたちは緊張した。
男の子はもっと緊張していた、
と思う。
そばまで来ると、
手の中の大きな50円玉をにらんだまま、
早口でぶっきらぼうに、こう言った。
「おまつり、いつはじまるの? 」
このあたりの子ではないと、
すぐにわかった。
「 おまつりはきのうまでだよ」
それを聞いた男の子は
顔を少し歪ませたが、
何も言わずに向きを変えて
すたすたと境内を出て行った。
わたしたちも誰も何も言わなかった。
そして遊びの続きに戻ったのだけれど、
なぜか面白さが今ひとつ・・・。
やがて1人抜け2人抜けして、
その日は全員が
早々と家に帰っていった。