マリの朗読と作詞作曲

古典や小説などの朗読と自作曲を紹介するブログです。
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アツモリのこと(エッセイ)

2022年01月04日 | 私の昔

  

 

若い人に

「アツモリってなあに」と尋ねれば、

「《あつまれどうぶつの森》でしょ」と

ゲームの名前を答えるに違いない。

が、実は別の意味もある。

一つは平敦盛( たいらのあつもり)であり、

 (「平家物語・敦盛最期」は → こちら 

もう一つは、これから書くアツモリである。

 

 

私が子供のころ、

こんな会話が両親の間で交わされた。

まず、会社から帰った父が言った。

「そういえばこのあいだ

蕎麦屋でシゲモリをくれと言ったら、

わけわからん顔をされた。

こいつ蕎麦屋のくせに

シゲモリを知らんのかと思ったら、

もしかしてアツモリですか、と言われて

自分の間違いに気がついた。

いやぁ参った参った。」

それを聞いた母は

「平家でモリが付けば

どれも大して変わりないと

思ってるんでしょ、まったく。

重盛(シゲモリ)と敦盛(アツモリ)、

漢字で覚えてないから

おかしなことになるのよ」

と一刀両断。

父の人名の記憶は割と大ざっぱなので

平家の盛のつく名前を

ごっちゃにしても不思議はない。

父が蕎麦屋で言いたかったのは、

重盛でも敦盛でもなく熱盛(アツモリ)

つまり温かいツユにつけて食べる

盛そばのことだった。

 

 

 

平家ゆかりの地である神戸育ちの父は、

平家物語には馴染みがあったのだろう。

後にわたしは学校の授業で

平家一門のことを初めて知り、

ああこれのことかと合点がいった。

 

ついでにアツモリをもう一歩進めて、

「厚盛アツモリと書けば大盛のこと?

(だって厚く盛れば量も多いわけだし)

それなら重盛だって大盛の意味になるよね」

などと盛そばについての深い考察を

授業中、一人静かに行っていた。

だから今でもアツモリと聞けば

亡き父を思いだすのである。