〝クラビク二郎〟の〝叫び〟

熊本市にあるセレクトショップ≪CROWN VICTORIA≫の店主〝クラビク二郎〟のブログです。

超短編小説?〝北北西に進路をとれ!〟

2008-04-09 18:49:01 | Weblog
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徹夜明けの日曜の午後、
僕がソファーで昼寝をしていると
宅配便の配達員がしつこくチャイムを鳴らした。

寝起きの悪い僕は、それでも精一杯の笑顔を作って
(気の弱い僕はどんなに不機嫌な時でも
他人にきつくあたる事が出来ないのだ)
配達員を玄関口に招き入れた。

その配達員は〝若い〟という以外には
これといって特徴の無い何処にでもいそうな女性だった。

僕が〝あぁ ハンコですね?〟というと 配達員は
〝いえ ハンコは結構ですから
ココにサインをいただけますか〟
と言い僕に向かって色紙を差し出した。

僕は〝ハハァ~ン、ヤツの仕業だな〟と思いながら
色紙にペンを走らせ出来るだけ丁寧に
そして少し崩し気味の書体で自分の名前を書き記し
余白に今日の日付を記入した後、
あなたのお名前も入れましょうか?
と訊くと、彼女は恥ずかしそうに小さく頷き
うつくしくさく と書いて〝美咲〟といいます。
と言った。

僕が〝美咲さんへ〟
と書き加えた色紙を手渡すと
彼女は嬉しそうにそれを受け取り
〝思ってたとおりの優しい人ですね〟と
僕に言い帰って行った。

僕はカッターナイフを使って
大きなダンボール製のパッキングケースを開けてみた。

ケースの中身は気泡緩衝材(プチプチ)で
グルグル巻きにされたダッチワイフのようなモノだった。

A4サイズの紙にエプソンのインクでプリントされた
一通の手紙も同封されていた。

荷物は〝イメージ管理会社〟から送られたモノだった。

〝以下 手紙の内容〟

『 お客様からの平成20年1月~3月分料金の
ご入金が確認できておりません。
契約約款に従い3月31日をもちまして
お客様と当社とのご契約は失効いたしました・・・云々 』
といった内容だった。

プチプチで梱包されていたのはダッチワイフではなく
今まで金を払ってイメージ管理会社に
管理してもらっていた等身大の
僕自身のイメージだったのだ。

僕は新生児の体を隅々まで点検する
産婦人科医のように彼を観察してみた。

彼の容姿はまるで鏡に映った
自分の姿でも見ているように
足の指の爪の形からホクロの位置、
キツめにコテで巻いたパンチパーマの頭髪まで
寸分違わず僕に生き写しだった。

二人で同じ部屋にじっとしていると だんだん
僕が虚体で彼のほうが実体のような気がしてくる。

〝しかし 困った事になったなぁ
いずれにせよ この狭いアパートの部屋にずっと
お前を置いとく訳にはいかないんだよ〟
と僕が呟くと

彼は突然立ち上がり
〝本当にすみません
私はあなたにご迷惑を掛けぬよう
とにかく何処かへ行ってしまう事にします〟
と言った。

〝あぁ そうしてくれるとありがたいよ、とにかく
ひたすら北北西の方角へ進んでもらうと助かるな、
なにしろ 僕自身 目指す所は北北西だからね〟
僕はそう言い
机の引き出しから方位磁石を取り出し彼に手渡した。

僕のイメージは玄関の扉を開け何も言わずに
庭の芝生を横切り北北西へ30メートルばかり
進んだ所でセイタカアワダチソウの
生い茂る原っぱにぶち当たると
アワダチソウをかき分ける事なく
勝手にプイっと左に90度方向を変え
ひとり歩きして行った。

はぁ~ まったく。

僕のような素人が
望むままにヤツを操るのはとても難しい。

こんな事なら金を払ってでも
業者に管理してもらっとくべきだった。

結局 いつだって彼の動向に合わせなければ
いけないのは僕のほうなのだ。


おしまい。

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