〝クラビク二郎〟の〝叫び〟

熊本市にあるセレクトショップ≪CROWN VICTORIA≫の店主〝クラビク二郎〟のブログです。

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なんかモヤモヤする話・・・

2009-04-12 10:44:32 | Weblog
先日、A君という それほど付き合いは深くないが
まぁ 信頼を寄せている友人から連絡があった。

A君のかねてからの大親友であるB君の自宅にて
仲間内(とは言っても二十歳~四十五歳位と幅広い)
で集まり花瓶に飾ったソメイヨシノを肴にビールでも飲もう!

という趣旨のインドアな花見への参加要請の電話だった。

私にはいろんな年長者の話を聞いてみたい
という気持ちもあったし

聞けば〝私の話しをぜひ聞きたい〟という若者もいるらしい。
(後になってよく考えればそんなヤツがいたとは思えんが)

B君と私は顔見知り程度の仲だったが
私はB君に対して悪い印象を持っていなかった事もあり、

ついては私の友人も誘い合わせの上
参加してはくれまいか?との事だったので後輩を誘い
私を含む計4名でB君の自宅へお邪魔させてもらった。
(4名のうちの一人はA君が会ってみたいとの事で
福岡より高速を飛ばし来熊)

B君の自宅は熊本駅を望む花岡山の麓にある
瀟洒なマンションの11階の3LDKという
ナイスなロケーションに一人暮らしで
まるで往年の名ドラマ〝東京ラブストーリー〟で
鈴木保奈美が住んでた部屋のようにトレンディだった。

すでに先客が十数名いるリビングに上がり
4人で趣味の良い絵画を眺めているとそこへB君、

『 やあ いらっしゃい!
今日はチケット制でねぇ、
最初に五枚綴りのビール券(つまりビール5杯分)
を買ってもらいます!』

との事で あっという間に
ひとり五千円ずつ徴収された我々一行、
しめて二万円なり~、チーン。


う~ん、うまく言えんが
かつて経験した事の無い
なぁ~んか変な感じ。


妙な違和感になんとなく意気消沈し
三人掛けのソファーに四人で座る
我々うなだれカルテットの前に差し出されたのは
キンキンに冷えた麒麟淡麗生(発泡酒)。

私はバス回数券のように
まるで公的な効力を持つかのように
キチンと印刷されたビール券とやらをもぎって
発泡酒を数本確保するなり
それらを一気に胃袋へ流し込むと
酔いがまわってきたのか
急に良からぬ考えが頭を駆け巡り始めた。


〝も、もしかして
この飲み会は利潤を追求することを最優先した
A君とB君による経済活動ではないのか?〟

ま、まさか いい歳をした大人がいくらなんでも
そんなことをするだろうか?

しかし 現実に利潤は出ている。
だってさぁ、最低でも
参加人数延べ20人以上(目測)×五千円=十万円でしょ。
原価が150円×20人×五本=15000円つーことは
純利益が85000円+α、
つまみだって乾き物だけなのだ。
この後に特上寿司が届いた、
ということもなかった。

私の邪推なのかもしれん。
しかし その時のその場所には
私の邪推を呼び起こすに充分な
妙な異物感というか
さまざまな要素が間違いなく存在しており
我々4人は4人とも同時に
その異物感を認識していたのだ。

今 改めて文章にしながら思い出すと
たった五千円のことで
俺ってかなり料簡の狭い男だなぁ
と思わんでもないが、
いや、私は金額の問題を言っているのではない。
もし、利用されたのならば腹立たしい
と言ってるのである。

そのときの私は
付き合ってくれた友人に悪いなぁ(ひとりは福岡からだし)
という気持ちも強かったし

考え出すと腹が立ち 居ても立ってもおれず
ビールを飲むのもソコソコに仲間を促し
A君にもB君にも告げずその場を後にしたのだった。
それは無礼な帰り方だったのかもしれん。


事件はその数時間後に起こった。

激怒したA君が私に電話をかけてきて
それはもうすごい剣幕で先程の無礼を責め立てるではないか。
彼の言うことは間違いなく正論ではある。

A君は私の先輩でもあり
過去にお世話になったことが無いでもない。

確かに自分でも無礼な帰り方だと思った事だし
私は〝自分に非のあると思う部分〟の事だけを丁寧に詫びた。


我々とAB両氏は最初から
表面的にはお互いに敬意を払い合うような態度を示しつつも
実際は双方の心の根っ子の無意識の部分で、
私には〝参加してあげた〟という気持ちがあったのかもしれないし
A君には私を〝誘ってやった〟という気持ちがあったのかもしれない。


そんなことはどうでも良いのだが
問題はA君B君の両氏が確信犯的に
我々を利用しようとしたか否かで
それは本人以外 誰にも分からないのだ。

しかし私はその後入手し得た諸情報から鑑みて
両氏の今回の企画は確信犯だったと信じて疑わない。

信用の置けない人物とは深く付き合わない(ほうがよい)
というスローガン(そんな大袈裟なもんじゃないか)
のもとに生きている私は
今後 AB両氏とどう付き合ってよいか分からなくなったのである。


元長崎地検次席検事だった郷原氏の弁によると
西松建設による迂回献金事件で秘書が逮捕された
民主党党首である小沢一郎だが
小沢氏本人までの摘発は難しい、
というか無理だそうである。

小沢氏は金の出所が西松建設だったとは
〝知らなかった〟と言っているのだ。

他人の胸を切り裂きその人の本心を衆前に
晒すことは不可能である。

集めた金が何に必要でどう使ったのか?
という説明責任は果たされていないにしろ

推定無罪という法律のルールに則れば
西松事件の小沢一郎氏も、
今回の我々に起こった事件の容疑者である
AB両氏もセーフである。

しかし 一方
過日のWBCで大盛り上がりをみせた
ベースボールのルールに従えば強ちそうとも言えない。

というのは野球のルールの中にインフィールド・フライ(故意落球)
というのがあるのだが、

これは
無死か一死、そして走者一塁もしくは一二塁の場面で
打者が内野フライを打ち上げた場合には
内野手がフライを取るフリをしながら
わざと落球しダブルプレーにしてしまう
というアンフェアなプレーも可能である。

卑怯なプレーだが
誰も故意に落球したか否かなんて分かりっこない。

そこで そんなプレーを未然に防ぐため
そういう局面で内野フライが上がったら
その瞬間アンパイアが打者に対して
1アウトを宣告するという
推定有罪的ルールなのである。

つまりスポーツマンシップにのっとれば
AB両氏はアウトであり
今後 付き合い方を考えなければならない
対象になるというわけである。




という訳で
みなさんもうお気付きだとは思いますが
この話は他人から聞いた話を基に
失業中で暇を持て余して仕方のない
私が最初から最後まで創作した
120%の捏造でございます。

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失業中!ヒマヒマ短編小説もどき〝裁判員制度導入前夜〟

2009-02-21 13:41:20 | Weblog
本当に正しく生きてきたのだ。

中野は左に切ったプリウスのステアリングを巻き戻し
両手をふたたび10時10分の位置へ置いた。

偶然にも車内のデジタル時計はたった今
午後10時10分を示したところだ。

明日に予定されている最終弁論を有利に終える為
事務所にて資料の最終チェック行っていたのだった。

彼は県内でも数少ない人権派の弁護士である。

左胸のラペルに輝く、
金のメッキは完全にはがれ
地金の色である銀に変色した弁護士バッジが
彼の弁護士としてのキャリアを如実に物語る。
(実際に最近の若い弁護士の中には
キャリアの浅さをクライアントに悟られぬよう
バッジを歯磨き粉で磨き メッキを剥がす者もいる)

今回も国選でまわってきた仕事だった。
当然 報酬なんてたかが知れている。
しかし、
明日また 人をひとり救うことが出来るかもしれないのだ。
それだけで充分ではないか。

半年前に刑務所を出所したものの
何の仕事もなくホームレスに身を落としていた65歳の男が
飢えに耐えかねコンビニでたった一個の弁当を万引きしたという
初犯なら何の問題も無いような事件だったが
分の悪い事に彼は窃盗の常習犯だったのだ。

検察は懲役1年の実刑を求刑していた。


中野は片側3車線の国道を
制限速度を遵守しながら帰路を急いだ。
家に帰ればふたりの可愛い幼い子供と
彼のよき理解者であり最愛の妻がいつもどおり
暖房のきいたリビングへ優しく迎え入れてくれるだろう。

前方の信号が青から黄色へと変わり
ゆっくりと減速しようとしたそのときだった。

彼の視界の右側に突然、右折禁止を犯し
対向の3車線を横切った中途半端に年式の古い
大型のアメリカ製セダンが鼻先をねじ込んでくる。

中野は反射的に急ブレーキを踏みクラクションを強く鳴らす。

それに対し アメ車の男は運転席の窓をゆっくりと開けると
左端の唇をねじ曲げ好戦的な笑みを浮かべた顔を覗かせる。
その童顔を隠すようにサングラスをかけ髭をたくわえている。

言いようの無い恐怖感が中野を襲った。

大型セダンの助手席から 茶色の髪をカールし
大きな二重まぶたをさらに強調するようなメイクを施した女が
その後の展開に興味津々の表情で中野を一瞥したが
さほど劇的な展開も期待出来ないと思ったのか
すぐにネイルアートされた自分の指先に視線を落とした。

海洋を回遊するシャチのようにゆったりと優雅な動作で
巨体をもってプリウスの進路さえぎると
直後、アメ車は勝ち鬨をあげる猛獣のように
けたたましいホイルスピンの悲鳴とともに
あっという間に視界の中で小さな点となり消えていった。

中野はハザードを点滅させプリウスを路肩に乗り上げる。

そしてドリンクホルダーからペットボトルを取り上げると
お茶をひとくち口に含み ゴクリとそれを飲み下す。

緊張が解け安堵の空気がひととき彼を包むが
その空気も徐々に換気されていき
それに代わって怒りが彼の全体を支配していく。

中野は自分の一連の感情や行動に対して
慙愧と悔恨の念をおぼえたのだ。

自己嫌悪が新たな怒りを呼び寄せ
新たな怒りは増幅していった。

激しい暴力的感情が彼に降りる。
残酷で過激な暴力の感情だ。

暴力的感情は体の中でハウリングを起こし
さらに大きな唸り声をあげ続けた。




-----------------------------------------------




月光の青白い光線はフロントガラスを透き通り 万物の
深層部にある無意識の領域までをもくっきりと照射する。


十数分後、中野は得心した面持ちで
ふたたび強くステアリングを握り締めると
深く深くアクセルを踏んだ。

夜の闇は彼の思考を深く深く
彼の精神の根柱を形成する
正義の魂の深淵へと導いていく。


彼は確信したのだった。

すべての罪は一切の例外なく
司法による罰をもってのみ償浄されるべきなのだ。


すべての罪には罰をもって。



おしまい。





★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★





携帯電話もつながらず、
行方不明説(?)まで流布してるらしい私ですが、
何の事はない、
おかげさまでフツーに元気で暮らしてる私クラビク二郎ラモです。

酒宴や多種イベント等 お誘い頂ければ必ず
出席させて頂きたいと思います。

以下、私の連絡先です。

090-9582-7411
satakeijiro@docomo.ne.jp

どうかお誘いお待ちしております。

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超短編小説?〝北北西に進路をとれ!〟

2008-04-09 18:49:01 | Weblog
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徹夜明けの日曜の午後、
僕がソファーで昼寝をしていると
宅配便の配達員がしつこくチャイムを鳴らした。

寝起きの悪い僕は、それでも精一杯の笑顔を作って
(気の弱い僕はどんなに不機嫌な時でも
他人にきつくあたる事が出来ないのだ)
配達員を玄関口に招き入れた。

その配達員は〝若い〟という以外には
これといって特徴の無い何処にでもいそうな女性だった。

僕が〝あぁ ハンコですね?〟というと 配達員は
〝いえ ハンコは結構ですから
ココにサインをいただけますか〟
と言い僕に向かって色紙を差し出した。

僕は〝ハハァ~ン、ヤツの仕業だな〟と思いながら
色紙にペンを走らせ出来るだけ丁寧に
そして少し崩し気味の書体で自分の名前を書き記し
余白に今日の日付を記入した後、
あなたのお名前も入れましょうか?
と訊くと、彼女は恥ずかしそうに小さく頷き
うつくしくさく と書いて〝美咲〟といいます。
と言った。

僕が〝美咲さんへ〟
と書き加えた色紙を手渡すと
彼女は嬉しそうにそれを受け取り
〝思ってたとおりの優しい人ですね〟と
僕に言い帰って行った。

僕はカッターナイフを使って
大きなダンボール製のパッキングケースを開けてみた。

ケースの中身は気泡緩衝材(プチプチ)で
グルグル巻きにされたダッチワイフのようなモノだった。

A4サイズの紙にエプソンのインクでプリントされた
一通の手紙も同封されていた。

荷物は〝イメージ管理会社〟から送られたモノだった。

〝以下 手紙の内容〟

『 お客様からの平成20年1月~3月分料金の
ご入金が確認できておりません。
契約約款に従い3月31日をもちまして
お客様と当社とのご契約は失効いたしました・・・云々 』
といった内容だった。

プチプチで梱包されていたのはダッチワイフではなく
今まで金を払ってイメージ管理会社に
管理してもらっていた等身大の
僕自身のイメージだったのだ。

僕は新生児の体を隅々まで点検する
産婦人科医のように彼を観察してみた。

彼の容姿はまるで鏡に映った
自分の姿でも見ているように
足の指の爪の形からホクロの位置、
キツめにコテで巻いたパンチパーマの頭髪まで
寸分違わず僕に生き写しだった。

二人で同じ部屋にじっとしていると だんだん
僕が虚体で彼のほうが実体のような気がしてくる。

〝しかし 困った事になったなぁ
いずれにせよ この狭いアパートの部屋にずっと
お前を置いとく訳にはいかないんだよ〟
と僕が呟くと

彼は突然立ち上がり
〝本当にすみません
私はあなたにご迷惑を掛けぬよう
とにかく何処かへ行ってしまう事にします〟
と言った。

〝あぁ そうしてくれるとありがたいよ、とにかく
ひたすら北北西の方角へ進んでもらうと助かるな、
なにしろ 僕自身 目指す所は北北西だからね〟
僕はそう言い
机の引き出しから方位磁石を取り出し彼に手渡した。

僕のイメージは玄関の扉を開け何も言わずに
庭の芝生を横切り北北西へ30メートルばかり
進んだ所でセイタカアワダチソウの
生い茂る原っぱにぶち当たると
アワダチソウをかき分ける事なく
勝手にプイっと左に90度方向を変え
ひとり歩きして行った。

はぁ~ まったく。

僕のような素人が
望むままにヤツを操るのはとても難しい。

こんな事なら金を払ってでも
業者に管理してもらっとくべきだった。

結局 いつだって彼の動向に合わせなければ
いけないのは僕のほうなのだ。


おしまい。

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連続ネット小説〝人間形成とその要素〟第3話

2008-02-17 14:03:56 | Weblog
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〝前回までのあらすじ〟は前回を読んでいただきたい。




電話のベルが鳴るのと同時に
陽子はジャガイモの皮を剥き終えた。

布きんで手を拭きながら受話器を取ると
ミハルコフの声がした。

ええ、8時に着けばいいのね、分かったわ。
と言って受話器を元の位置に戻し
少し考えてから料理を再開した。

一等地にあるマンションから駅までは
車で15分ほどしか離れていない。
逆算してみても 料理を仕上げるには
充分な時間の余裕がある。

彼女は流し台の下の扉を開け圧力鍋を取り出すと
ガスコンロを中火にセットし、その上に鍋を置く。

鍋にひとかけのバターを落としてから
ゆっくりと焦がさぬよう溶かしたバターのなかに
タップリの牛すね肉と下ごしらえを終えた玉葱を
放り込み、肉の表面だけを軽く焼いた。

玉葱はじんわりと透明度を増し
滲み出た糖分は飴色にカラメル化する。

そこへ頃合を見計らって
ジャガイモと人参を投入した。

そして全体を軽く馴染ませたあと
スープストックを注ぎ 沸騰するのを待つ。

プツプツと気泡が表面に浮かび出たのを確認すると
丁寧に何度も何度も神経質に
まるで汚いものでも取り除くかのように
アクをすくっては捨てた。

ひととおりを終え 陽子は
数種類の調味料を料理本に印刷してある
レシピの分量だけ鍋に加える。

そして もっと薄切りの牛肉を使うんだった、と後悔した。

彼女はダイニングルームから一脚の椅子を持ってきて
コンロの前に腰をおろすと、火加減に細心の注意を払いつつ
日本語で書かれたファッション雑誌のページをめくり
約束までの余剰な時間を塗りつぶすように
クツクツ クツクツ クツクツ と 鍋を煮る。


どれだけの時間が過ぎたのだろうと
鳩時計に目をやると 針は7時40分を指していた。

彼女は時間の余白を
ほぼ真っ黒に塗りつぶし終えたが
その全体にはムラがあった。

急いでムラ部分を仕上げるように
鏡を見て髪を直し 薄く口紅をひいて
霜降りグレーのスウェットスーツを脱ぎ
トゥルーレリジョンのブルージーンズに
リブ編みのタイトな黒のVネックセーターを着た。

セーターの上の おっぱいが目立ち過ぎる気がしたので
ほかの服に着替えようと思ったが、
その上にベージュ色したコットンギャバジンの
ハーフコートを羽織ることにした。

そして もう一度 鏡を見て髪を直し、
キッチンに戻ってコンロの火を消した。

火を消したあとも 鍋蓋の分銅から勢いよく蒸気が噴出し、
水分をタップリ含んだ〝シットリ〟と
乾燥しきった〝カラカラ〟が
うまく馴染みきれずにマーブル模様に絡み合う。

玄関のドアを開けながら ふと部屋の時計に目をやると
鳩は小さな扉の奥で10分後に予定されている
次の出番の準備をしていた。





★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★





陽は すでにとっぷりと暮れている。

陽子は約束の時間より5分遅れで
俺のランドクルーザーを運転して
待ち合わせ場所へやってきた。
(もっとも 俺の車といっても
金を出したのはほかならぬ彼女だ)

『 ごめんね ミハルコフ 待った?』

『 いや、今着いたところさ 』

そう言いながら俺が車に乗り込むと
彼女はユジノサハリンスク駅前のロータリーを
ゆっくりと一周廻ってから大通りへと車を進めた。

俺は 車窓から通りを見るともなくぼんやりと眺めながら
改めて このあたりも随分変わってしまったんだなぁ
と思った。

10年前は こんな時間に灯りのついてる商店など
一軒も無かったはずだ。それに車の量が違うし、
何よりも当時と走ってる車の種類が違う。
メルセデスだかトヨタだか知らないが、この世の中に
そんなにいろんな種類の駕籠が必要なのだろうか。

昔と変わらないのは街路樹として植えられている
ナナカマドとポプリの木くらいのものだ。

ポプリは古いものになるとアパートの5階の高さまで
枝を伸ばし、強い西日からアパートの住人を守ってくれる。

ナナカマドは 夏には葉緑素をタップリと含んだ新緑の葉で、
そして冬には鮮やかに完熟した真っ赤な木の実で
道行く人々の網膜を心地よくほぐしてくれる。


― しかし変わったなぁ。
まぁ そりゃ当然かもしれん、資本主義だもんな。
とにかく利益が第一、どんな手段でもいい
金をたくさん集めたヤツが評価されるんだ。
〝金のまったく無い人格者〟なんてヤツが
一番鬱陶しく思える世の中だ。
いっぱしの扱いを受けたければ
それなりに金が要る。

人権。
民主主義。
自由競争社会。

人が休んでる時こそ労働するべし。
人が弱体化する時こそ強化するべし。
その較差の裂け目よりわずかに滴り出る
明礬水で描かれた青写真は まるで
炙り出しのように絶妙なタイムラグを伴い
人生の陰陽の境界をクッキリと分け隔つ。

椅子取りゲーム。

この調子だと ここいらでも数年後には間違いなく
深夜まで営業する店が出てくるだろう。
しかし 草木も眠る丑三つ時に料理を出したり、
トイレットペーパーやら雑誌やらを
売らなきゃやっていけない世の中なんて
いったいどんな社会なんだ ―

俺はそう思いながら呟いた。

『 まったくどこが豊かだっていうんだ ・ ・ ・ 』

『 えっ?』

彼女は訊いた。

『 いや、ただのひとりごとさ 』

『 あなた 酔ってるの?』

『 いいや、酔ってはいない。
酔ってはいないが 飲んでる事にはかわりない 』

『 アイツの埋葬が終わったあと
弔問客にウォッカとブリヌィがふるまわれたんだ 』

『 昔からここらじゃ葬式のあと
故人を偲びながらブリヌィで
ウォッカを飲るのが慣わしなんだ 』

『 ブリヌィって?』
彼女は訊いた。

当たり前のことをいちいち丁寧に説明しなけりゃ
意思の疎通が図れない二人の関係に
俺は近頃 少々ウンザリしていた。
ウンザリしながらもキチンと答えた。

『 クレープみたいなロシアの食い物さ。
クレープは知ってるだろ?』

『 クレープはもちろん知ってるわ。
だって日本にもたくさんあるもの 』

『 そうか。
ブリヌィはね、メリケン粉に卵やミルク、ヨーグルトを
加え 溶き混ぜた生地をイースト菌で醗酵させて、それから
ひまわりオイルを塗ったブリヌィ専用のフライパンで
両面がキツネ色になるまでコンガリと
香ばしく薄焼きにするんだ。

焼きあがったら バターをタップリと塗って
サワークリームやキャビア、
ピクルスやザワークラウトを載せ
巻いて食べる 』

『 そうなの、おいしそうねぇ 』
陽子は言った。

『 うまいか うまくないかは 自分で食べたあと
自分のものさしで判断すればいい 』
俺はつっけんどんに言った。

『 ねぇ どうしたの?
少しイライラしてるように見えるけど 』

確かに少しイラついていた俺は
陽子の質問には答えずに
カーラジオのスイッチをONにした。
そしてチューニングを合わせヴォリュームを上げたあと
タバコを2本続けて吸った。
燻し過ぎたスモークサーモンのような味がした。

スピーカーのなかでは〝タトゥ〟の二人がカタコトの英語で
〝 Loves Me Not〟を見事にハモっている。

『 あ、そうそう、
ところで、どうだったの、
アレクサンドロヴィッチっていったかしら、
お友達のお葬式?』

彼女のいつもどおり無邪気な明るい声のトーンは
俺をさらに苛立たせたが、彼女に悪意がない事は
俺にも重々解かっている。

ゆっくりと深呼吸をしたあと

『 どうもこうも、普通だったよ 』 と だけ答え
3本目のタバコに火を付けた。

今度は桜チップの味がした。

大量の唾液が一瞬にして俺の口腔内を満たし、
たまらず車の窓を開け桜チップの塊を吐き出した。

その塊はきれいな放物線を描き、
未舗装の路面にモモンガのような形で
ベチャっと張り付いた。

― すべては俺の問題なんだ。
親友を失ったのは俺であって、彼女ではない ―

― そして アイツが自殺したのも
アイツの問題が原因であって俺の問題ではない。
しかし 間違いなくアイツは俺に助けを求めていた。
そして 俺は何とかして助けてあげたかった。
しかし 結局のところ何の手助けどころか
助言すら出来なかった。
そりゃそうだろう。
俺とアイツはまったく別の独立した肉体を持ち
独立した人格を持つ固体なんだ。
どうしたってアイツの感じる本当の痛みは解からない。
仮に俺がアイツと似た境遇に立ち、
似た心の痛みに襲われたとしても
それはヤツの痛みとは根本的に出自の違う
俺の痛みであってヤツの痛みではない。
お互いに推測し同情することは出来ても
それは本義においての理解とは程遠い。
それでもなお人と人は完全に解かり合えるのだ
というならば それは解かりたいという
願望に誘引された謬見であって
解かってないということが
解かってないんだ ―

俺はそう思った。


そして陽子は言う。
『 でもね 私 思うんだけど
なにも自殺まですることは無かったんじゃないかって 』

『 イッパイイッパイだったんだよ 』
俺は言った。

『 でも 生徒との人間関係が原因でしょ?
表面上だけでもうまく合わせられなかったのかしら。
それに どうしようもなくなったら
仕事なんて辞めてしまえば済むことでしょ 』

『 ヤツの悩みは深刻だった。
悩みを形作る問題の大小は関係ない。
ウラジーミル・プーチンがチェチェン紛争で抱える悩みと
ヤツが生徒との人間関係とで抱える悩みとは同質なんだ。
ある問題に苦悩し始めた時点で
それは〝懊悩〟という共通根を持つ病巣になる。
そして ヤツは死に、プーチンは死なない。
ヤツの病気の方が深刻だった 』

『 そうなの?なんだかよく分からないわ。
でも私だったら自殺するより転職するけどなぁ 』
彼女は言った。

『 もういい、ヤツの話はおしまいにしよう。
それより どこかで何か食って帰らないか?
ブリヌィを食ったきり何も食ってないんだ 』
俺は言った。

『 あのね、私 家を出る前に肉じゃがを作ったの 』

『 肉じゃが?』
俺は訊いた。

『 牛肉とジャガイモや玉葱、人参、鞘インゲンなんかを
煮込んだ料理よ。
あなた 牛肉もお野菜も大好きでしょ 』
陽子はそう言って肉じゃがのレシピを詳しく丁寧に説明した。

俺はうまそうだな、と思ったが言葉にはしなかった。

二人は 日本の資本が入り改築を終えた
ホテルサハリンサッポロの前を通り過ぎ 比較的治安の良い
陽子のマンションがある地区へと進む。

そして 車をガレージに頭から突っ込んで停車し、
サイドブレーキを引いた後、そのままエンジンを切ってから
リモコンで電動シャッターを下ろした。

俺は車を降りずに もう一本タバコを吸った。
彼女も車を降りずに 俺がタバコを吸い終えるのを
黙って待った。

ボンネットの中で金属部品が冷めて
カチッ カチッ カチッ と収縮する音が響いた。





★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★





部屋へ入ると
温水によるセントラルヒーティングの暖房管が
室内の空気を快適な温度に保っていた。

ミハルコフはリビングへ行き
ビールを飲みながら料理を楽しみに待つ。

彼女はふたたびキッチンに入り
圧力鍋の分銅を傾け内部の蒸気が完全に
抜けてしまっているのを確認してから蓋を開けた。
そこに鞘インゲンとグリンピースを加える。
それから
ふたたびコンロに火を入れ 肉じゃがを仕上げた。

完璧な肉じゃがだった。



第4話へとつづく ・ ・ ・




≪CAUTION≫
この物語はすべてフィクションであり、
物語中に登場する人物名、企業名、
団体名等は 実在する個人や組織とは
一切無関係です。

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同窓会に出席しようとする者の〝正しいモチベーション〟のありかた(男性版)

2008-01-22 16:25:33 | Weblog
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新年の初めに小学校の同窓会というものに出席した。

卒業生 約160名に対し 出席者が50名とは、
あれから四半世紀以上経過しているにしては
まずまずの出席率である。

出席しなかった(したくても出来なかった)者たちには
さまざまな諸事情やオノレの信念があったのだろうが、
それはさておき、

ここでは 卒業後 ウン十年が経ち ほとんど
見ず知らずの赤の他人と化した者たちとの集会へ
正月の貴重な一家団欒の時間を犠牲にしてまでも
ノコノコと出席してしまった迷えるブラザーたちの
腹のうちを探ってみたいと思う。

まず 私の観察によると、
出席した者の〝出席理由〟に 大別して
以下の三種類の思惑があったことが確認できた。

1.美しかった あの日々の思い出話に花を咲かせ
  殺伐とした現在を生きる自分への一服の
  清涼剤にしたかった。(全体の70%)

2.華々しい成功をおさめ 五色の光明が赫奕と
  まるで後光が差すがごとく背後に輝く
  現在の自分の姿を 同じ出発点から
  スタートした者たちに見て欲しかった。
  (全体の10%)

3.男性に比べ 商品価値の落下速度が速い女性のこと
  今なら あの〝憧れのマドンナ〟にだって
  手が届くかもしれない。
  いやいや 何を弱気な、
  現在の俺のべしゃり(しゃべり)をもってすれば
  即日 お持ち帰りも可能ではないのか?(全体の7%)

という三種類の動機によって出席を決断した
男子がほとんどであった。

もちろん言うまでもなく 少数派好きの天邪鬼で
共産党支持者の私の場合は3番である。

『 なにも今さら
価値の下落した商品を欲しがる事はないのでは?』
という考え方も確かにあろう。

しかし 九州男児として、
いや 龍田小学校健児として
今から同窓会へ出席しようという
血気盛んなオンドリが1番や2番のような
眠たいことを言っているようではいけない。



私は以前、
フォード・サンダーバード という新車当時の
価格で600万円強のアメ車を 10年落ちで
新車価格の12分の1程度の金額で手に入れ
夜な夜な転がしていたことがあるが、
世間ではその程度の価値しか与えてもらえぬ
この車も 由緒正しきサンダーバードという銘柄に
強烈な憧れを抱く私にとっては 実にワンダフル
かつトルクフルな5リッターV型8気筒のハートを
搭載したアメージングな車、まさにアメ車であった。

当たり前のことだが
この世の中のすべてのモノゴトの〝価値〟とは
各自が自分の価値観で決めるべきことである。

私にとっては
〝腐っても鯛〟
〝腐ってもマドンナはマドンナ〟なのである。


1970年代、
はち切れんばかりの贅肉を、
宝飾で飾ったジャンプスーツに包み
ラスヴェガスで熱唱するエルヴィス・プレスリーに
違和感を抱きつつも、皆 エルヴィスのそれまでの
軌跡を基にしたイメージから 彼のことを
〝キング・オブ・ロックンロール〟と称えたように、
その人物の〝表象〟こそが
その人をその人たらしめる最大の要素だといえる。

我々人間の絶えず流動的に変化する性格や
思考スタイルのことを考えてみれば解かると思うが
人間の精神や内面ほどあやふやなものは無い。

チョットした外部からの刺激によっても
一瞬にしてドラスティックに変化してしまう精神や
性格なんかよりも 固定的な表象や外殻のほうが、

いいや、
〝表象〟や〝外殻〟こそが その人物そのものなのだ。


と まぁ、私は自分の書いた短い文章のなかでさえ
オノレの伝えたいメッセージや視点が流動的に
コロコロと変化してしまう。

オッケー!
話を元に戻そう。

要するに 歳をとり 肉体の衰えの目立ちはじめた
ボクシングのチャンピオンでも
チャンピオンはチャンピオン、
充分リスペクトに値する存在なのだ。

そんな 敬意を払うべき存在のチャンピオンではあるが
挑戦者としては 衰えを見せはじめた今、
確実に勝てそうな今こそ
試合をして勝っておくべきだ!
ということである。

という訳で そろそろまとめに入りたい。

つまり、
同窓会とは同窓会という名の合コンなのである。

分かりやすくいえば 愛という名の欲望でもあり、
羊の皮をかぶった陰茎のようなものである。

欲望は満たされなければならない。

著名な作家の言葉を借りれば

〝物語の中に拳銃が登場したならば
その銃は発砲されなければならない〟
ということだ。

以上の理由から結論を導くと、3番こそが
〝よし!同窓会に出席するぞ!〟と
決断する男子にとっての
〝正しいモチベーション〟のありかたと言えよう。


今回 A先生(♂)(←当時30歳台後半位?)と
B先生(♀)(←当時20歳台?)という
恩師のおふたりにも出席していただいたのだが、

A先生(♂)も その態度から
3番が出席理由だということがありありと見てとれた。

まったく
この歳になっても恩師に教わることは まだまだ多い。

〝師は無言の背中でかく語りき〟である。




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連続ネット小説〝 人間形成とその要素 〟第2話

2007-11-03 20:35:48 | Weblog
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〝前回までのあらすじ〟は前回を読んでいただきたい。




僕は
次の言葉を聞き逃さぬよう
声をひそめじっと耳を澄ます。

店内に流れる軽快な音楽の、
そのなかでも とりわけ
木管楽器の音が僕の耳を突く。

閉店2時間前を指している壁時計の
〝コツコツ〟という秒針の音が
まるでBGMと示し合わせたかのように
パーカッション的な役割を果たす。

アイヌ民芸品の
安物の木彫りの灰皿のなかには
点火する前の きれいに組み上げた
キャンプファイヤーの薪のように、
10本ばかりのタバコの吸殻が
キチンと折り重っている。

店長はそのなかから
1番吸い残しの多いタバコを選りすぐり、
押しつぶされ蛇腹状になった先端部分の
形を丁寧に整えたあと、あらためて
そこに ロウマッチで火を付ける。

ココでは僕ら庶民にとって
〝タバコ〟や〝ティーバッグ〟は
1回コッキリの使い捨てではない。

使えなくなったときにはじめて
その役目を終える。

この世に生を受けたものとして
たとえ 苦しかろうが 楽しかろうが
人々から支持を受けようが 受けまいが、
最期の瞬間がくるその時まで
〝彼ら〟には〝存在〟する権利がある。

何者かの利益の為につくり出された
大きなうねりには〝彼ら〟を
呑み込んだりする権利はない。



口からゆっくり吐き出すタバコの紫煙で
店長は僕との間に風船のような形で
横たわるポッカリと空洞化した
〝沈黙〟を埋めていく。

そして 空洞を満たし終えたことを
確認するように 少し間を置いた後、
自らその風船の膜を破る。



『 ところで おまえ、兄弟はいるのか?』

『 ええ いますよ、3人兄弟です。

男3人兄弟で 僕が真ん中です 』
僕は言う。

『 そうか、だったら 俺の話すことも
少しは解かってくれるかもしれん 』
そう言うと

〝僕の抱えるすべての疑問〟を
封じ込めるように ふたたび店長は
一方的に話しの続きを始める。



『 さっきから
俺ひとりでしゃべってるようですまんが
とにかく俺の話を聞いてくれ。

昔 俺の友人で小学校の教師をやっている
アレクサンドロヴィッチという男がいたんだよ。

ノグリキ(サハリンの北部)のほうで
小学校の高学年を受け持っていた。

そいつは俺と一緒にウォッカを飲むと
いつも仕事の愚痴をこぼしてたんだ。


ヤツ曰く、
小学生といっても高学年位になると
自我もかなり強くなって来るらしい。

みんながみんな
素直な子供ばかりじゃない。
そりゃ 教師といっても人の子だ。

ウマの合う子供もいれば
ウマの合わない子供もいる。

何をした訳でもないのに
顔を見るだけで腹の立つ
ムシの好かん子供もいるそうだ。

また 当然のことながら
容姿の良い子もいれば 悪い子もいる。

なかには
異性として魅力的な子供もいるそうだ。

まぁ 容姿なんてものは 俺に言わせりゃ
ただの入れ物だ。
本人の人格とは まったく無関係な代物さ 』


『 まるで鬢盥のように? 』
僕は口を挟んでみる。


『 そう!まるで鬢盥のように 』
店長は笑みを浮かべながら僕に答える。

『 鬢盥に鬢付け油を入れなけりゃ
それはもう その時点で鬢盥じゃなくなる。

鬢盥にお歯黒を入れりゃ、それは
その瞬間に お歯黒つぼになる訳だ 』

『 オ・ハ・グ・ロ・ツ・ボ?』
僕は訊く。

『 お歯黒つぼも陶器でできた
日本の伝統的な工芸品だ。

それはそれは本当に素晴らしく美しい
お歯黒つぼもココにはたくさん残っている 』
店長は言う。

『 すみません、
そもそもオハグロとは
どんな物なんですか?』
僕はたずねる。

『 まぁ おまえが
お歯黒を知らんのも無理はない。

昔の日本では
身分の高いミセスは自分の歯を
その〝お歯黒〟ってヤツを使って
真っ黒に染めていたんだ 』

『 歯を真っ黒に?』
僕は言う。

『 そうだ、まぁ 俺たちにとってみりゃ
まったく奇妙な風習だよなぁ。

しかし、文化というものは
原則的にそういうもんなんだ 』

『 原則的に? 』
僕は言う。

『 そう、原則的に。

とあるアフリカの国では
象の糞のお茶を飲む国があるらしい。

まさしく
ウコン茶ならぬウンコ茶って訳だ 』

それを聞いて 僕は笑う。
その僕を見て
店長もイタズラっぽく少し笑う。

お店の空間には
まったりとした幸福な時間が流れる。


『 なぁ、俺も お前も
自分の在りかたとして、

異質なものや考え方、また
自分の理解をはるかに越えたものを
周辺から完全に排除し
自分と似通った価値観や常識を
共有できる文化圏のなかで
最期まで生きていく、
というのもひとつのスタイルだと思わんか。
それはそれで悪くない人生だ 』

『 文化圏?』
僕は訊く。

『〝文化圏〟と言えば少し大げさ過ぎて
ピンとこないかもしれないが、
それを地域や社会やファミリー、
さらには自分自身という
言葉に置き換えてみてもいい。

たとえば いま俺の着ている、
おそらく お前の目には〝真っ赤〟に
映っているであろう この〝ドリズラー〟でも
俺の家族が全員色盲ならば
俺たちにはグレーに見えるかもしれない。

そして そんなお前が我が家へ入り込めば
当然 異質なものとして認識される。

しかし 本当に色盲なのは
お前のほうかもしれない。
あるいは 色なんてものは最初から
個々の観念であって
実体のないものかもしれない 』

『〝しれない〟とは?』 
僕は訊く。

『 俺の言うことはすべて
何ひとつ根拠のない
ただの仮説にすぎん。

検証を積み重ね いつの日か
この仮説が定説に変わる時が
来るかもしれないし
永遠に来ないかもしれない。

その日が永遠に来なければ この仮説は
永遠に瘋癲の戯言の領域を出ない。

ウンコ茶を飲まなければ
ウンコ茶の本当のことは解からないし
飲んでも解からんかもしれん。

そして
俺はまだウンコ茶を飲んだことがない、
ただ それだけのことさ 』

『 なるほど 』
僕は言う。


『 まぁ それはともかく 俺の言いたいのは、
この世の中には美術的見解からみて
素晴らしい鬢盥もあるし 醜い鬢盥もある、
ということだ。

そして 美しい鬢盥のなかにはかならず
最高品質の鬢付け油が入っているとは限らない。

中に入っているものがお歯黒だったらまだいいさ、
ひょっとすると 中身は象の糞かもしれない。

しかし これは陶器製の容器の中身の話だ。

透視能力でもないかぎり
どこの誰にも一見して それが
〝素晴らしく美しいフンダライ〟なのか
最高品質の鬢付け油が詰まった
〝醜いビンダライ〟なのかは分からない。

俺の言うことが解かるか?』

『 ええ、なんとなく!? 』
僕は言う。


そして 普段無口な店長は
(あるいは そう思っていたのは僕だけかもしれない)
まるで〝お歯黒を詰め込まれて
本来の自分のあるべき姿を
見失った鬢盥〟がごとく
マシンガントークを続ける。


『 アレクサンドロヴィッチは言うのさ。
子供たちと1年も顔を合わせてりゃ
教師の側からみて
好きな子供と
人間として嫌いな子供
というのがハッキリするんだと。

好きなもの・・・
それに関してはノープロブレムだ。

問題なのは 嫌いなものや
まったく何の関心も持てない
普通のものに対して

〝清廉高潔であるべき教職〟に身を置く
自分の〝心〟がピッタリとフィットする
くぼみのような収まり所というか、
落とし所をどこに見い出せばよいのか?

ヤツは自分のとるべき態度に悩んでいたんだ。

俺は気の利いたアドバイスの
ひとつもしたかったんだが
そのときは 何ひとつ
良いアイデアなんて浮かばなかった。

まぁ とにかく その手の悩みは
俺のような仕事をやってるやつには
想像もつかんことさ。

いいや、
この世の中にそういった問題を
抱えている人間がいる、ということ自体
想像がつかなかった訳じゃない。

想像はつくが
まったく考えようとも
思わない種類の話だったんだよ。

陽子に会うまではな ・ ・ ・ 』


第3話へとつづく ・ ・ ・




≪CAUTION≫
この物語はすべてフィクションであり、
物語中に登場する人物名、企業名、
団体名等は 実在する個人や組織とは
一切無関係です。

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ポエムの広場

2007-10-05 21:23:28 | Weblog
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≪ 自転 ≫



しらじらと


しらじらと夜が明けていく


もし 一回転が


そう もし 地球の一回転が96時間だったなら


僕は もっと もっと 酔い続けることができるのに


僕は もっと もっと マッチ売りの少女のように


ドリームマッチを灯し続けることができるのに





しらじらと


しらじらと夜が明けていく


やがて 煌煌と輝いていた


〝正義〟〝愛〟〝正直〟 などという名の美しい星は


陽の光のなかに吸い込まれて消えてしまう


そう すべては しらじらしく しらじらしく





注:ドリームマッチとは

ドリームマッチは、『マッチ売りのドラえもん』
(てんとう虫コミックス8巻に収録)に登場する。

外見はその名の通り普通のマッチだが、これで火を灯すと、
そのとき頭で考えていることが映像となって浮かび上がる。
自分の考えだけでなく、他人の考えも映像化することができる。

原案は「マッチ売りの少女」であり、
ドラえもんが作中で言うには、
この童話は時間旅行者が過去で落としてきてしまった
ドリームマッチによって起こった実話だとされている。

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バス通勤についてのお話

2007-08-26 21:06:15 | Weblog
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私はバスで通勤をしている。

以前は車で通勤していたのだが
今年の初めに 交通違反を犯し免停処分を受け
結果的にバスで通勤せねば 通勤手段が
なくなってしまったのがキッカケなのだが

思いのほか、バス車内における人間観察が面白く 、
また勉強にもなり、今後の自分の人生において
役に立つはずだと思い 処分の解けた後も
バスを利用することにした。

人が3人集まれば そこに小社会が生まれるというが
面白いもので わずか5~6坪のバスの車内にも
たしかに その小社会が展開されている。

座席に座る権利ひとつをとってみても
そこには見ず知らずの乗客同士による微妙な
心理的駆け引きや 少しづつ変化していく立場の
優劣の様子を観察することが出来る。

私は つい最近
そんなバスの車内での出来事がきっかけで
〝善意〟について深く考えさせられてしまった。

その出来事はパラパラと立ち乗り客が目立ちはじめた
乗車率60%ほどの 電鉄バスの車内に
ひとりのご婦人が乗り込んできた時に起こった。

そのご婦人の年齢は
見る者によっては50歳台後半に見えなくもない。
しかし 私の推測では、そのシャキっとした身のこなしや
プライドの高そうな覇気のある表情からみて
実年齢50~53歳位というのが妥当なところに見えた。

昔の小学校の女性教師が着ていたような地味めの
チャコールグレーのワンピースを着て 右手には洋服と
同系色の西陣織のような素材のハンドバッグ、
そして たたんだ日傘を持っていた。

まとめられた清潔そうな栗毛色の毛髪は
ヘアスプレーでキレイに固められている。

〝平日なのに仕事はどーした?〟

というか、
私には 今までに このご婦人が実社会で働いた
経験など1度も無いように思えた。

根拠などはドコにもないが
彼女がそういう種類の人間だということが
私には手に取るように分かるのだ。

まぁ そんな事はどーでもいいのだが
とにかく 私の目に映る彼女は
上品な良識人以外の何者でもなかった。

そして〝彼〟の目には その上品過ぎる
キッチリとしたヘアースタイルや西陣織の質感が
彼女を実年齢よりも老けて見せてしまったのだ(と思う)。

事件は 彼女の乗車直後に起こった。

私の前に座っていた実直そうで
おそらく童貞だろうと思われる
済々黌高校の生徒(その童顔から見て
4月に入学したばかりの1年生だろう、
標準服に身を包み 非常に好感の持てる、
大げさに言えば 感情移入できるタイプの少年だった)が
何の前触れも無く
イキナリ彼女に席を譲ってしまったのである。

〝あぁ~バカっ!彼女はまだ老人じゃないんだぞ!〟
私は心のなかで叫んだが 時すでに遅し、

少年の申し出に対し ご婦人は目を吊り上げ
鬼のような形相で少年を2~3秒間 睨みつけると
滑舌の良いハッキリとした よく通る声で

『 私は結構ですからっ!』 と 一蹴したのだった。

少年は当初 彼女の反応に戸惑いを隠せず
ハトが豆鉄砲をくらったような表情を浮かべていたが

直後、彼は自分の頭に描いていた顛末と
あまりにかけ離れた現実とのギャップに
激しく動揺した様子を見せると いたたまれず
済々黌高校前のバス停を待たずして降車してしまった。

結果的に少年はご婦人に恥をかかせてしまい、
ご婦人は少年に恥をかかせてしまった訳だが

問題なのは
少年が善意の塊を丸めてボールにし
ご婦人に投げ込んだにもかかわらず
いつの間にか途中でご婦人の手元に届く前に
悪意に変化してしまった、というような事ではない。

この文脈からいくと いい歳をしたにもかかわらず
少年の善意からなる行動を理解出来なかった
世間知らずのヒステリックな女性を悪者にして
みなさんのカタルシスを促そう、というのが
私の目的のように思われるかもしれないが
そういうつもりでもない。

私が本当に言いたい事、それは

〝少年が少年の目で捉え脳で認識している世界〟と
現実に少年の目前に広がる
〝客観的に世界として実在する世界〟とでは
その成り立ち方が違う という事である。

そして それは ご婦人や私を含む
すべての人に共通して言えることで、

私の主観として認識している世界と、
客観として実在する現実の世界とでも
やはり その成り立ち方が〝まったく〟違う。

成り立ち方が違うのだから
完全に同化させることが不可能だということは
理屈で解かっていても
同じ共同体で生活している以上
やはり あまりに違い過ぎれば
それはそれで何だか気持ちが悪い。

そこで私は 出来るだけ多くの他人と深くかかわり
他者の持つ主観とおのれの主観をすり合わせる事によって
自分の主観を〝客観化〟しようと試みてきたが
どうやら場合によっては正しくないやり方だったという事に
遅ればせながら 最近 気がついてしまった。

善人ぶる訳ではないが、
わずかな例外を除いて 私の起こす他人への行いは
善意に依るものがほとんどである にもかかわらず、
(死ねばいいのに、と思う事は多々あるが
実際に行動には移さない)
時には 私の意に反して〝バスの少年〟のように
他者からの怒りをかってしまう事もあり
最悪の場合〝キチガイ〟だと思われてしまうことさえある。
まぁ それはあながち間違いでもない、というか
まさしく その通りなのだが。

しかし〝他者とのすり合わせ作業〟を
ほとんど行なわないために 本人の自覚症状無く
水面下に潜伏している〝キチガイ〟も
案外 私のまわりに多い。

余談だが 巷は もう〝秋〟なのに
いまだ〝真夏〟の格好をしている
〝キチガイ(季違い)〟も多い。
服が売れん訳である。

コメント (2)
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不良に目覚める頃には ・ ・ ・

2007-07-19 20:42:28 | Weblog
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ネコの平均寿命っていくつ位なんでしょうね?

我が家では
シャムネコの血が55%?程入った(私の推定)
雑種のネコを1匹飼っておりますが

生後2~3ヶ月(たぶん)の状態で
我が家に紛れ込んで来たのが
平成5年の6月でしたから
ちょうど満14歳になる訳です。

生誕14年といえば
人間でしたら中学2年生です。
そろそろ不良に目覚める齢です。

20年以上生き続けているネコというのは
あまり聞いた事がありませんから
遅かれ早かれ あと4~5年以内には
お迎えが来ることだろうと思います。

20年にも満たない天寿しか授かることの出来ない
彼らの運命を 幸か不幸かの 二元論で割り切るのは
難しいことだとは思いますが(もちろん
20年間ずっと幸せだったネコもおるし、
逆に20年間 楽しいことなど1度も無かった
というネコもおるはずだが)

そんなに悪い事でもないのでは?
という気がしないでもないのです 最近の私。

我々現代人も縄文人のように35年位
(色々な説があるらしいが)
の寿命でも良いのでは?と思います。

というよりも元来
人類の神から授かった天寿とは
35年~40年位のものだったのに
医療の発達などにより
いつの間にか80年などという
気の遠くなりそうな時間を
それこそ幸か不幸か与えられてしまった訳です。

どんなに最悪最低の人生でも そこ35年位だったら
何とか我慢出来そうな気もしますけど、
80年だと考えたら頭がおかしくなりそうですもんね。

逆に『 私の人生は幸せな最高の人生です!』
という場合も

最高の人生を80年間も堪能しちゃイカンです。
バチが当たります。
ほどほどに35年間位で止めとかなきゃ。

最近 我が家の愛猫と戯れつつ
めっきり体力の衰えの目立つ彼に同情心を抱くも

自分自身の体力や繁殖能力の方も
めっきり衰えてきているのに気付かぬ訳もなく

ふいに鏡に映る ごまだら色の頭髪をした
やや額が広めの男が自分だと気付かぬ訳もなく

なんとなく こんな事を考えてしまった
42歳厄年 クラビク二郎 今週の随想でした。


追陳
私は 犬や猫ってお金を出して
買うものではないと思っとります。
(あくまで独断ですが)

知人から頂いたり、拾って来たり、
犬猫の方が突然どっかから
やって来て勝手に居ついたり、

それこそ 人と人との繋がりと同じく
そこに 何がしかの縁があって
結ばれるべきだと考える訳です。

しかし 私のその想いに反して
ペットビジネスは隆盛を極める一方です。

美しい犬猫や また血筋の良い犬猫は
高値で売買され、逆に それらの条件を
満たさぬペットの値は低い。

そんなペットビジネス業界のシステム、というか
そんな考え方をする種類の人間というのは

なんとなく人身売買容認派
(そんな派閥があるのかどうかは知らんが)
のような気がするのですよ 私。

17歳~22歳♀の ブロンドで碧眼の
スラビアンが一番高い、みたいな。

で、悲しいかな
自分自身の中にわずかながらも
そんな考え方をしてしまう部分が
あるのも事実なのです。

だって デリヘル呼ぶなら
少々値段が高くてもカワイイ子がいいじゃん!

おしまい。

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連続ネット小説〝 人間形成とその要素 〟第1話

2007-06-30 00:00:00 | Weblog
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≪CAUTION≫
この物語はすべてフィクションであり、
物語中に登場する人物名、企業名、
団体名等は 実在する個人や組織とは
一切無関係です。




3年前に
店長のお店でベンシャーマンの
ボタンダウンシャツを買ったのを
キッカケに僕と店長は
親しく話すようになった。

僕はベンシャーマンのシャツが
欲しかった訳では無い。

ただ単に〝キッカケ〟が
欲しかった。

店長はけっして高学歴ではなかったが
僕の知らない色々なことを知っていたし、
それをいつも面白おかしく僕に話してくれた。

僕は店長と話すのが好きだった。
というよりも 正確には店長自身のことが
好きで 何か憧れのような感情を持っていた。

整髪料をベットリと髪に塗り
コームでビシっとバックに撫で付けた
ヘアースタイルにも憧れていた。

気さくに僕と話してくれる店長だったが
個人的なことに関しては なにか突っ込んではいけない
雰囲気というかオーラのようなものを常に発していた。

ひょっとすると それは単なる
僕の思い込みだったのかもしれない。

ある日 僕はついに
思い切って店長に訊いた。

『 どうしてリーゼントっていうか
オールバックっていうか いつも髪の毛に
整髪料をベッタリ塗ってるんですか? 』

店長は少し驚いたような表情を浮かべ
鋭い眼光で僕を見た。

僕はなにか触れてはいけないものに
触れてしまったのではないのか、
という後悔と同時に 心臓の鼓動が
速くなるのを感じた。

しかし
すぐに僕にニッコリと微笑みかけながら
少し間を置いて こう答えた。

『 どうしてかって?』

『 そりゃ理由はちゃんとあるさ 』

『 簡単な理由だ 』

『 簡単な理由だが話せば長くなる 』

そう答えたきり下を向いた。

僕はどうしても理由が知りたかった。

『 その理由、聞かせていただけませんか?』
僕は言った。

すると 面倒くさそうに

『 ・ ・ ・ う~ん、別に構わんが ・ ・ ・ 』

と言うと 長い沈黙の後に
古い記憶をひとつひとつ引っ張り出して
自分自身で再確認するように言葉を選びながら
ポツリポツリと口を開き始めた。


『 なぁ、おまえ ・ ・ ・ 』
『 女に金を無心したことはあるか?』
店長はボソッと僕に訊いた。

『 いえ、ありません 』
僕は答えた。

『 一度もか?』
店長は言った。

『 はい、一度も 』
僕は答えた。

『 そうかぁ ・ ・ ・ ・ 』  

『 俺はある ・ ・ ・ 』

『 しかも 一度や二度じゃない 』

『 ・ ・ ・ 必要だったんだよ 』

店長は自分自身に言い聞かせるように言った。



俺は実際 金が必要だった。
体の弱いオフクロに楽をさせたかったんだ。

一度や二度じゃない。

そう、俺が陽子に金を無心したのは1度や2度ではなかった。

おそらく、どちらかといえば善良な人間の部類に
入るであろう俺だ、罪悪感がまったく無かった訳ではない。
しかし 回数を重ねるごとに罪の意識はだんだんと薄れ
少しずつ 自分が汚れていってるような気がした。

〝悪いのは俺の要求をすべて
なんなく受け入れるこの女なのだ〟

そう思うと 少しはマシな気分になった。

陽子は俺がかなりの親日家だと思っているが、
それは俺の偽りの姿だった。
俺が親日家を装っているのは陽子の気を惹き
金を引っ張り出す為にほかならない。
日本の古い文化や歴史に興味が
あるふりをしているのはその為だった。


『 ねぇ 陽子、見てくれよ 綺麗な〝ビンダライ〟だろ!』

『 なに?〝ミハルコフ〟、ビンダライって?』

陽子はガガーリン公園のベンチに腰をおろしながら
〝俺〟に訊いてきた。

『 ほら、日本人って〝チョンマゲ〟や〝日本髪〟を結うだろ、
そのときに使うビンヅケアブラを入れる容器のことさ!
この前 日本刀を買った街はずれのアンティークショップで
見つけたんだ 』
と 俺は答えた。

実際に ここサハリンは旧日本領だったこともあり、
日本の昔の建築物や骨董品もゴロゴロと残ってはいるが
俺は本当に何の興味も無かった。

〝鬢盥(ビンダライ)〟のことは
昨日 アンティークショップのオヤジに
教えてもらった付け焼刃の知識だった。
オヤジは俺を日本びいきだと思っているようだった。

陽子は
俺が日本の歴史や伝統的な工芸品に
興味を示すことがうれしそうだったし、
何よりも俺を日本人化したがっていた。

『 ねぇ ミハルコフ、
もう日本には日本髪を結ってる女性はいないのよ、
よほど特別な日じゃなきゃね。
私なんかビンダライって物があること自体知らないし 』

そう言うと

『 でも もし私たちが結婚することになったら
そのときは日本髪を結ってもいいかなぁ 』
と あまえた声を出した。

コイツは俺と結婚する気でいるのだ。

ここサハリンに滞在している陽子は
当初の滞在予定2年のうちの半分が過ぎていた。

陽子の仕事は この島の北東部に大量に眠る天然ガスを
発掘、開発するべく、世界第2位の石油会社 オランダの
ロイヤル・ダッチ・シェルが日本の三井物産、三菱商事と
手を組んではじめた一大プロジェクト〝サハリン2〟の
スタッフである。

地元 京都の国立大学を優秀な成績で卒業し、
三井物産に入社したエリートだ。
入社して もう13年が経過していた。

1度 俺は陽子の給料の金額をきいて
腰を抜かすほど驚いたことがある。

平均的なロシア人の男が 1ヶ月間必死に働いて
やっと得ることの出来る稼ぎの じつに50倍だったからだ。

陽子のルックスが日本人的にイケているのか
イケていないのかは分からないが、
ロシア人の俺にとっては どんなにひいき目に見ても
残念ながら ただの猿にしか見えなかった。
一重まぶたの構造のしくみも
まったく理解できなかった ・ ・ ・ ・


一方、俺は ユジノサハリンスク市立の高校を
3年前に卒業し、両親と3人で暮らしている。
三人とも生まれてこのかた
この島から一歩も出た事がない。

いつも俺に優しい病弱なオフクロと、
以前は真面目な労働者だったのだが
180度の価値観の転回を余儀なくされた
ソビエト連邦解体後、そのショックから
まったく働かなくなり毎日酒をあおる
だけになってしまったオヤジの生活を
俺が一人で肉体労働のバイトによって支えていた。

俺は サハリン2 の土木作業員をやっていて
陽子と知り合ったのだった。

初対面の陽子は、3年間の過酷な肉体労働
によって今や筋肉隆々となった俺の上半身や
生まれついてのブロンドの髪の毛、
そしてブルーの瞳をみて
『 あなたブラッド・ピットに似ているわ 』
と言ったが 俺はブラッド・ピットを知らなかった。


本当につづく・ ・ ・

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