うどん粉の日記

平成21年度新司法試験合格・新63期司法修習生(予定)のブログです。

行政法再現答案

2009年09月30日 08時51分47秒 | 再現答案
設問1
一、提起すべき訴訟
 Fらは本件建物の建築を阻止するための手段として、B県を被告とし、EがAに対して行った平成21年1月8日付けの建築確認の取消しを求める訴訟(行政事件訴訟法(以下、略す。)3条2項)を提起すべきである。建築主は建築物について建築主事の確認を受けなければ建築物の建設ができないため(建築基準法(以下「建基法」という。)6条1項)、建築確認処分が取り消されれば、Aは本件建物の建築を続行することができなくなるからである。

二、取消訴訟の訴訟要件について
 1.処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものに限り提起することができる(9条1項)。「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害される恐れのある者をいう。そして、当該処分の根拠法令が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどまらず、これを個々人の具体的利益としても保護する趣旨と解される場合には、かかる利益も法律上保護された利益にあたり、当該処分によって自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されるものは当該処分の取消訴訟の原告適格を有するもというべきである。

 2.F、Gの原告適格について
(1)建基法は、建築物について一定の規制を設けることによって危険な建築物の出現を防止し、もって近隣住民の生命・身体を保護しようとするものである。そうすると、建基法は危険な建築物の出現によって生命・身体の安全を害される住民の利益を個別的に保護しているものと解される。本件建物から10メートルの地点に居住するFは、本件建物により生命・身体を害される恐れがあるため、本件処分により法律上保護された利益を害される者として原告適格を有する。
(2)他方、建基法からは建築物の周辺住民の財産権までも個々人の個別的利益として保護すべきとする趣旨は読み取れない。したがって、本件建物から10メートルの地点にマンションを所有し、単に自己の財産権が侵害されることを主張するGには本件取消訴訟の原告適格は認められない。

3.H、Iについて
(1)建基法43条2項をうけて規定されたB県建築安全条例(以下「安全条例」という。)27条4号は、児童公園等一定の施設の出入口から20メートル以内の道路に面して自動車車庫等の用途に供する建築物の敷地に自動車の出入口をん設けてはならない旨規定している。この規定は、同号に掲げる施設の利用者、すなわち子供や身体障害者、老人等のいわゆる交通弱者を自動車による危険から保護する規定である。同号が一定の施設について特に規定を設けている点からすれば、建基法はこれらの施設の利用者の生命・身体の安全を個別的に保護する趣旨を含むと解される。
(2)本件児童室には児童の利用に適した施設が設けられ、児童による利用が想定されている。また専用の出入口も設けられ、図書館からある程度独立した児童用の施設であるといえる。したがって、本件児童室は建基法27条4号にいう「その他これらに類するもの」にあたる。
(3)Hは、本件児童室を日常的に利用している児童であるから、その生命・身体の安全は建基法により個別的に保護されているというべきであり、本件確認処分によってかかる利益を侵害されることを主張するHには原告適格が認められる。他方、IはHの父親であるが、I自身は本件児童室の利用者ではなく、子供であるHが安全に児童室を利用できる利益は単に事実上の利益に過ぎず、建基法上保護された利益であるとはいえない。したがってIには原告適格が認められない。

三、仮の救済手段
1.仮の救済手段として、Fらは本件確認処分の効力の停止(25条2項)を求める必要がある。取消訴訟の提起は処分の効力を妨げないため(25条1項)、取消訴訟の本案判決前に建物が完成することを阻止するためには、本件確認の効力を仮に停止させておく必要があるためである。
2.(1)処分の効力の停止が認められるためには、処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることが必要である(25条2項)。
(2)本案判決前に本件建物が完成してしまえば、本案訴訟は訴えの利益を欠くこととなり却下されることになる。なぜなら、建築確認はそれがないと適法に建築物を建築することができないという効果を有するに過ぎず、検査済証の交付はあくまで当該建築物及び敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかによって行われるものであり(建基法7条5項)、また、違反建築物に対する是正命令も建築確認の有無とは無関係にあくまで当該建築物の現状が法令に違反する場合になされるものだから(建基法9条1項)、建物完成後に建築確認を取り消す客観的な利益がなくなるからである。そうすると、一度建物が完成してしまえばFらが本件建築物から生ずる被害を避ける手段がなくなり、建物の完成による重大な損害を避けるため緊急に建築確認の効力を停止する必要がある。したがって執行停止は認められると解する。

設問2
一、考えられる違法事由
1.接道義務違反
(1)本件建物の面積は3000平方メートルを超え、かつ、高さが15メートルを超えるため、本件建物の敷地は長さ15メートル以上幅員6メートル以上の道路に接していなければならない(建基法43条、安全条例4条1項、同2項)。
(2)たしかに、本件敷地は幅員6メートルの本件道路に30メートルにわたって接しているのであるが、実質的に見るとこの要件を満たしていない。接道要件は、敷地が一定の幅員を有する道路と一定の長さにわたって接することを確保することにより、交通の円滑を確保し、周辺住民に対する危険を防止することにあると考えられる。ところが、本件敷地が接している本件道路から公道へ至る途中には遮断機が設置されており、遮断機を上げた状態でも実際に自動車が通行できる幅は3メートルしかないのである。このように公道に至る途中に実質的な幅員が3メートルしかない場所があるならば、前記の接道要件の趣旨である交通の円滑が確保されず、実質的に考えれば幅員6メートルという要件を満たしているとは言えない。したがって本件確認処分は違法である。

2.安全条例27条4号違反
 安全条例27条4号は、児童公園等の一定の施設の出入口から20メートル以内の道路に面して自動車の出入口を設けてはならないとしている。本件児童室が同号の「その他これらに類するもの」にあたるかが問題となるが、同号の趣旨は児童公園等その主な利用者が交通弱者であることが想定される施設の付近に自動車の出入口を設けることを禁止し、交通弱者の保護を図ることにある。かかる趣旨からすれば、利用者のほとんどが児童であることが想定される本件児童室は「その他これに類するもの」にあたる。そうすると、本件敷地の駐車場出入口は本件児童室から20メートル以上離れておらず、条例27条4号に違反し、違法である。

3.紛争予防条例違反
(1)本件建物は高さ10メートルを超えるため中高層建築物に該当し(紛争予防条例2条1号)、Aは本件建物の建築主にあたる(同条例2条3号)。したがって、Aは近隣住民に対して建築に係る計画の内容について近隣住民に対して説明をする義務がある(同条例6条1項)。ところが、Aの行った説明会は情報の開示が不十分で、住民に質問の機会を与えず、一方的に修了を宣言するなど形ばかりのものであり、説明義務を果たしたとは言えず、同条例に違反する。
(2)しかしながら、同条例違反の違法は本件建築確認の取消事由とはならないと解される。建築確認はもっぱら技術的な観点から、建築物に係る計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて確認を受けるものであるところ(建基法6条1項)、紛争予防条例は「良好な近隣関係を保持し、もって地域における健全な生活環境の維持及び攻城に資することを目的とする」(同条例1条)ものであるから、同条例は建基法6条の「建築基準関係規定」には含まれず、したがって同条例の規定に違反することをもって建築確認の取消事由とすることはできない。

二、Fが主張可能な違法事由
1.取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法事由は主張することができない(10条1項)。
2.上記違法事由のうち、安全条例27条4号違反についてはFは主張することができない。なぜなら、同号は同号に掲げる施設の利用者の安全を図るための規定であるところ、Fは本件児童室の利用者ではないから、安全条例27条4号違反はFにとって自己の法律上の利益に関係のない違法事由だからである。
3.他方、接道義務違反の主張は可能である。なぜなら、接道義務の規定は付近の道路の交通の円滑・安全を図るものであり、その違反は付近に居住するFに影響があるため、Fに関係のある違法事由といえるからである。
                             
                                                                      以上