宇宙人は柴犬と

SFコメディー小説です。

第34話:根が真面目だからコメディしか書けない 2/2

2010-11-21 20:52:10 | 日記
【力と技】
吠える狼。
テー家の言葉で意を発する。
狼頭王『この場にいる非戦闘員を全て避難させよ。この場にいる敵は、全て私が相手をする。騎士の戦いは己と家のすべて。表現せよ。』
ヂェット「正気か?」
彼はテー家の言葉がわかる。
ぴろウき「あ?なんだって??」
ヂェット「私たち全員を、狼の王一人で相手なさるそうだよ・・」
正気で無かろうが、狼が吠えたこと。
テー家の騎士なら、ましてやその精鋭たちなら、彼の言葉を半語とて疑うことはない。
それは宗教に似て理由が無い。
強いて根拠をあげるなら”狼頭王であるから”。
その場にいた9人の騎士、指令を受け付けたロボットのように、一斉に敵に背を向ける。
無防備な背を刺されるなどとは考えていないか?
いや、狼の言葉を形にするのが大事。
迷い無き我々ならその形を芸術にできる。
我々は素晴らしい。
天に授かった才能。
鍛え上げられた肉体。
高く、高く積み上げた知識。
知の頂に立つ気高い魂。
そして、目の前に広がる風景は狼頭王その人。
美しい宗教画である。
なな「くっ・・」
19体の怪人をノートパソコンで操作する少女。
千載一遇のチャンスだが、無防備な敵を攻撃できない。
判断しかねて、ぴろウきの方を見る。
ぴろウき「まぁ・・(攻撃)できないわなぁ。」
文月ななの眼はさらに言う。
”私たちも、一般人の避難に強力すべきでは?”
顔を見合わせ、お互いの気持ちを確認するヂェットとぴろウきCEO。
ヂェットが狼に話しかける。
ヂェット「足長き商人の狼よ。」
足長き商人とはテー家を意味する、宇宙人同士ならではの呼び方だ。
テー家は国として認められていない。
だが散歩する惑星の圧倒的な輸送能力で、遠隔地・辺境の惑星との商いを成立させてきた。
例えば地球。
ヂェット「テー家の騎士はいかなる場合でも結果を出さねば評価されない。これは間違いないか?」
狼頭王「違いないぞ。」
ヂェット「貴様はテー家の騎士か?」
狼頭王「我はテー家の騎士である。」
ヂェット「では私の行動がいかなるものであっても恨むまいな?」
狼頭王「くどい!」
濁り無き一括は、ビリビリと空気を震わし天へかけ登る。
聞いていた騎士たちの口元がわずかに緩む。
”見ろこれがテー家だ”
ヂェットはちらりとCEOに目で合図。
すべきことは決まった。
ぴろウき「なな!エールラー!狼を総攻撃だ!!」
そう叫んで、いの一番に狼に飛びかかるCEO。
激しく地を蹴ったため、足首から下の骨が砕けた。
しかし、空中を飛び進むうちにみるみる治ってゆく。
それをななが目ざとく見つけた。
なな「ほうほう、これはびっくり。」(棒読み)
CEOの正体に気付いた。
忌まわしい血が流れていることを知った。
ヂェット「無茶しやがって。」
ぴろウき「ぬおおおおおおおぉっっ!!」
狼の顔面を殴りつけた・・
・・拳が砕ける。
まぁ、あっというまに治っては行くのだが。
ぴろウき「かっ・・てぇええ・・」
ちょっと変な形に拳が治ってしまったので、左手の指でペキペキと押し砕いて形を整えた。
いったん下がるCEOと入れ替わり前に出る大柄な影。
次に拳を打ち込んだのは、”じぃ”ことギュンター・エールラー。
その衝撃波は30m先の子供たちを吹き飛ばした。
子供たちを抱きとめる騎士と怪人たち。
怪人を一般人の保護にあてることは、CEOの指示に逆らう行為だがそれでよい。
ぴろウきは、ななが万が一のときはそういった判断をできる人間だと信じたからこそ、”狼を総攻撃”と言い切ったのだ。
しかし狼はじぃの全力に微動だにしない。
√4陣営で最大のパワーを誇るじぃの拳が通用しない。
逆に厳しいのはじぃだ。
じぃ「ぬおおおおおっっ!!」
反動に後ずさりしそうになるのをこらえる。
肉が引き裂かれそうになるが、衝撃を和らげるために足をさげることはしない。
痛みに叫び声が出かかるが、歯を食いしばり飲み込む。
脳が震え視界が歪むが体の芯を真直ぐに保つ。
退かぬ己の戦い方を貫き通す青年を、じっと見下ろす狼。
じぃの戦いは前にも見ており、気に入っていた。
命に代えても曲げぬか・・
やがて優しい笑みとともに、半歩下がった。
前のめりに倒れるじぃを抱きとめる狼。
なな「じぃっっ!!」
怪人2体でじぃを奪い取る。
別の4体で四方からとび蹴り。
まったく効いていないようだが、じぃを連れて帰るまでの時間稼ぎになればそれでいい。
4体は狼の左腕の一閃でなぎ倒された。
ヂェット「流石だな、力の狼。」
狼頭王「来たな、技の7番。」
CEOから数えて7番目に戦いを挑むのは、宇宙警備隊最強の戦士。
捕まえに来た狼の腕を右に払い、脛を斜めに蹴る。
特にひるんだ様子はないのだが、続けて脇に掌を打ち込むと、いかなる攻撃にも微動だにしなかった狼がヨロリと退がった。
ぴろウき「おお、最強は伊達じゃねーな。」
呑気に驚くだけのCEOをみて、文月なながいら立つ。
なな「ええい!なにをしている!!」
怪人2体を操作し、狼の頭上から蹴り。
ヂェットとななはコンビを組んで2年近く、どうすればいいのかは良く判っている。
片膝をつく狼。
ぴろウき「なるほどな。」
2人は教えてくれた、最強の戦士ヂェットが隙を作った後なら、無敵の狼にダメージを与えられる。
じぃ「それしかないか。」
さがらない方針を変える気はないが、ヂェットに頼る作戦はやむなしと受け入れた。

立ち上がる狼。
彼の鋭い視線に応え、一歩前に出るヂェット。
ヂェット「力よ!」
狼頭王「技よ!」
ヂェット「お前の力はいかなる速さも、技も凌駕すると聞く!我はそれを知るか!?」
狼頭王「知るだろう!お前の技の切れ味は不足無し!」
ヂェット「心躍ることよ!!」
狼頭王「技よ!」
ヂェット「力よ!」
狼頭王「お前の技にはいかなる速さも力も屈すると聞く!それはまことか!?」
ぴろウき「す、すげぇな・・」
迫力ある二人の口上にだれも割って入れない。
もし、それができるとしたら、そいつは宇宙一空気の読めない・・・・

バクテー「ガパオさーん!そっちわヤバそうだから行っちゃだめーっ!」
来た来た、バカ到着。

第34話:根が真面目だからコメディしか書けない 1/2

2010-11-21 20:52:03 | 日記
宇宙人は柴犬と


※今回は真面目な文章のみ・・ギャグが無いと本当に書けない。真面目展開を書くってタールの海を泳ぐようなものなのですね・・と、いうわけでいつもより短めです。すいませんです


第34話:根が真面目だからコメディしか書けない

【消滅】
阿仁木「最後に今一度、ぴろウき様の腕に抱かれて眠りたかった。」

その台詞が発せられた地点から離れること約80km。

ぴろウき「最後も何も!そんな事実はねぇ~っっ!!」
4分の1とはいえ、B26暗黒星雲人の血。
その迫力。
本気で叫び声をあげると、テー家の騎士ですら驚き思わず首をすくめる。
その隣、宇宙警備隊最強の戦士が素っ頓狂な声に目を丸くする。
ヂエット「ど、どうした。」
すいません。
無理やりギャグ入れました。
もうしません。
許してください。

チャンネル√4銚子倉庫 地下65m・・最下層。
水槽のチャイの部屋の前。
入口を守る阿仁木とウルトの前に、すでに8人の騎士がいるのだが、さらに3人やってきた。
他のフロアを調査し退路を確保、そのうえで3人を追加投入してきた。
11人、阿仁木はその人数を見て覚悟を決めたのだ。
”この人数と引き換えなら悪くない”
長引く戦いに疲弊する阿仁木とウルト。
敵を警戒はするが、味方に注意する余裕などない・・何のことかって?
ウルト「何をするっ!」
阿仁木は若き戦士の肩を掴み、自分の後ろに投げた。
そして11人の騎士に向かい突進。
騎士たちはその奇妙な攻撃の作法に”何かある”と警戒、安易に阿仁木の接近を許さない・・
つもりなのだ・・が・・
ウルト「速い!」
地を滑るように進む。
まるで、床と彼の足の間に摩擦が存在しないよう。
それは、ほぼ事実。
今までの物語に書いた事実を今一度紹介したい。
⇒ 彼は筋肉を振動させて可聴音を作り、会話を成立させた。
⇒ 彼は掌を振動させガラスのひび割れをふさいだ。
彼は超振動の男。
足の裏と床の摩擦抵抗は、振動によりその存在を無視できるほど小さくなっているのだ。
騎士たちがその異常なスピードを認識したときはもう遅い。
阿仁木「とっておきを見せるのは一度きりだ。」
キイイイイイイィィィィッッ!!!!!!!
鼓膜を引き裂くごとき高周波。
阿仁木の皮膚が泡立つ。
肉体が超振動の熱で沸騰しているのだ。
その体で騎士に触れると相手は蒸発、消滅した。
床を滑り、次々と騎士を捕える。
ウルト「お、お前・・」
阿仁木自身も薄くなり、消えてゆく。
阿仁木「ぬおおおおおっっ」
おのれの肉体を滅する苦痛に耐え、振動を続ける。
そしてついに騎士11人と阿仁木、全て煙と消えた。
立ち込める髪の毛を焦がしたようなにおいにむせる。
若い戦士の傷ついた体に、疲労が一気に来る。
膝をつき、一筋だけ己の頬に涙が這うのを許した。
ウルト「まいりました。」
喪失感に体にも心にも力無く。
だが、礼をあらわさなければと口にした。
せめてもの一言。


【無感覚】
水槽のチャイの部屋。
瀬瀬博士に無造作に近づく騎士一人。
そうだろう。
痩せたその科学者の白くか細い腕に、抵抗する力があるなどとは考えない。
横に犬がいるが、噛まれたところでどうということはないだろう。
科学者は武器を隠し持っているかもしてない?
例えば銃か?
それがどうした。
今、彼が手にしているのは携帯端末一つ。
ポケットに拳銃があるとして、それを取り出される前に相手を無力化できるだろう。
犬がかみついた隙に取りだすか?
見え見えの手順だ。
判っていればそれを許さず回避できる。
従って、無造作に近づく行為は間違っていない。
やっさん「あー、君・・」
呼びとめる声に騎士は耳をかさず、ただ足を進める。
必要無いからだ。
騎士の目的は水槽のチャイの確保。
目の前の博士は邪魔立てせぬ限り相手をしなくてよい。
この国では逮捕権はないからね。
やっさん「君は鍛え上げたその体に自信があるのだろう・・だが、脳はどうだい?」
なぜそんな質問をする。
テー家の騎士は皆慎重。
思わず足をとめた。
彼の細い指がブラックベリーの小さなキーを撫でたとき、しまったと思った。
”相手に攻撃のチャンスを与えてしまった”
それを確信した。
やっさん「脳も強靭なぁのかい?」
部屋に設置されている3つの大型スピーカーから音・・いや、衝撃が発せられた。
神経を逆なでする不快な音に押しつぶされる。
黒板を爪でひっかくような音や、胃の中のものが逆流してくるような低周波。
すさまじい音量。
耳をふさいでも、音が体にしみて骨を伝い全身に行き渡る。
気が狂いそうだ。
犬の形をした人造生物Xはすでに嘔吐。
音源を破壊しなければ。
歪む視界や言うことを聞かない足と戦い、スピーカーを目指す。
その騎士の首に腕をまわし、のしっともたれかかる瀬瀬博士。
やっさん「やっぱり音楽は最高だねぇ。」
鼻歌を歌いだす。
この男は何ともないのか?
敵に近寄られた危機感より驚きが勝る。
やっさん「げぼおぉっ!」
吐きやがった。
高そうなソファーに汚物を撒き散らしやがった。
やっさん「ク、ククク・・あ~ぁ、すっきりした~・・あはははははははははっ!らんらんらぁー。ホぉラァ、君も歌いなよ!」
狂っている。
やせ我慢なんかじゃない、この状況を楽しんでいる。
体力的に劣るはずの眼鏡の優男。
狂っているのか??
・・・・この男はヤバイ。
やっさん「良い音楽には、最高の光の演出が似合うのさぁ~。」
ぎくり、背中に冷たいものが走った。
まだ何かやる気だ。
ブラックベリーのキーを押す。
部屋の棚に置いてある投光機のようなもの10個以上。
仕舞ってあるだけと思ったら、電源につながっていた。
熱く汗をかくほどの光量で激しく点滅。
目を開けていると痛くて耐えられない。
光量がありすぎて、周りの物をまともに認識できない。
物の輪郭が無い、影が無い。
マッドサイエンティストの乱れた歌声。
騎士は彼の細い腕が、己の首を徐々に締め上げてゆくのに気づくことが出来なかった。

やっさん「ぼくは見た通りのもやしっ子だよ・・ああ、体は弱いよ。だけど脳は、脳はねK-1ファイター並なんだよぅ。頭が良いって意味じゃなく、人体組織として強靭なのさ。だれよりも頑丈な脳なのだよぅ。ふっ・・ふはははははははは!!」
力を失った騎士の手から剣を奪い、喉元に・・
いや、床に落とした。
やっさん「エックスぅ・・」
呼ぶ声に反応し、ガタガタと身を震わせる人造生物。
やっさん「お前がとどめをさしておけ。コイツのさぁ・・」

第33.333・・3話:じゃ、おにこでいいです

2010-11-07 23:49:25 | 日記
宇宙人は柴犬と



第33.333・・3話:じゃ、おにこでいいです

※えっしーが「今、おにこしか描けないんだ」というので、今回も短めでイラストはおにこです。
えっしーの手が空いてきたので、次回からいつも通りで進めさせていただきます。
よろしくお願い申し上げます。



【否定論】
水槽の脳(Brain in a vat)
1982年 哲学者ヒラリー・パトナムによる思考実験。

彼は言う、
「あなたが体験し現実と思っているこの世界は、実は水槽の中の脳に科学者が見せている幻覚なのではないか?」

全ての事実は異論の余地がある。

やっさん「wwまさか、ぼくが水槽の脳そのものをつくるとはねwww。」
チャンネル√4銚子倉庫 地下65m。
水槽のチャイの部屋。
眼鏡の青年は瀬瀬やすひろ博士。
ソファーに座り、スマートフォン ブラックベリーをいじっている。
それで、大阪にある自宅のサーバーを遠隔操作しているのだ。
さらにサーバーは水槽のチャイとガパオを遠隔操作する。
彼の命令は往復1,000km以上を旅して二人に届くわけだ。
二人を支配下に置くソフトウェア群には特に名前は無い。
ソフトウェアには大きく分けて2つの機能がある。
一つ目は、行動を強制する機能で、電気的な信号により肉体を自在に操作する。
二つ目は、阻害情報を緩和する機能だ。
本人の思考や条件反射に由来して決まる体の動きは、このソフトウェアの決定した(一つ目機能)動きと多くの場合競合する。
これらは切り離したいところだが、コンピューターの計算量や通信負荷を下げるため、また滑らかな動きを実現するために一部を利用せざるを得ない。
そこで競合要因には偽の情報・・例えば幻覚を見せて意図したものとほぼ同じ動作をしたがるようにする。
幻覚は非常に簡単で抽象的なものでよいことがわかっている。
十分なヒントとなるイメージさえ与えれば、あとは脳が勝手にそれと認識してくれるのだ。
壁のシミを見て、人の顔と誤認するのに似ている。
5本の棒を人型に組み合わせた画像を送れば、脳にとっては十分に人間なのだ。
ソフトウェアの支配下に置かれている間、水槽のチャイとガパオは幻覚を見続けている。
だから、そのときの状況や行動とは全くかかわりの無い表情をしたり、言葉を話したりする。

ディZ2ーランドでバクテーから逃げているガパオ。
その行く先はむちゃくちゃで目的地は知れない。
追うバクテーも首をかしげている。
実は行く先などなく時間稼ぎをしていた。
バクテーの追撃が思いのほか厳しく、トリッキーな動きで撹乱し、何とか捕まらずにいた。
だが、ぴろウき達が行動に出たことで行く先が決まる。
目指すは狼頭王。
戦闘力の高いバクテーを連れてゆくと面倒には違いないが、現場に自分の手駒がいなければ話にならない。

銚子倉庫 水槽のチャイの部屋に話を戻す。
ソファーの背もたれに体重を預け、反り返って後方を逆さに見る。
コピー機にエコマーク。
グリーン購入か。
やっさん「ちきゅうにやさしい・・笑わせるよねぇ。」
瀬瀬博士はこう考えている。
人間ほど地表のルールに逆らう存在はいない。
本来なら淘汰される弱き仲間を生存させるために、複雑で人間にしか通用のしない社会システムを構築してきた。
無駄なリソースを多く割り当ててきたといってよい。
その勘違い、手前勝手な正義は人以外の種にも及び、例えば絶滅危惧種を保存しようとする。
存在するのが困難になった種はそれで本当に幸せなのか?
人間はそんなことお構い無しだ。
延々と繰り返されてきた種の発生と消滅。
その流れをかき乱す権利を人間が持っているというのか?
種をおもちゃにして遊んでいるだけだ。
やっさん「人間が地表で傍若無人なのはいいさ。強い種ということだ。でもねぇ・・正義面はやめてほしいよね。種のためなんかじゃない。人間の都合、ひょっとしたら、ある個人の趣向でしかない。」
自分に都合の良い正義を、レンズの内側に貼り付けた遠眼鏡で世界を見渡している。
そんな奴らに真実は見えない。
真実を直視せず”ああ、やはり思ったとおりだった、やってよかった”と高笑いするのか?
皆、ヒステリックに失うことを恐れている。
多くの人たちがありがたがっている言葉は、ヒステリーを厳選された文字で正当化しているにすぎない。
やっさん「おっと、ぼくとしたことが。感情的に思いつめてしまった。」
この天才科学者は人間が好きではない。
できるだけかかわりたくないと考えている。
無視したい存在だ。

部屋の外では相変わらず戦いが続いている。
ドアの前に立ちふさがる阿仁木とウルト。
二人を排除するために攻めるテー家騎士団。
建物を破壊し、水槽のチャイにダメージを与えてしまう恐れがあるため、大技は使えない。
それも戦いが長引いている原因。

水槽のチャイの部屋、内部。
廊下側の床を音なく突き破り人差し指が現れた。
指が引っ込み、穴からは目が覗いている。
バッ!!
床板を5本の指が突き破り現れた。
そして指を内側に曲げ、床板1枚を握りバリンと床下に引き抜いてしまった。
やっさん「!」
床下から現れたのは一人のテー家騎士。
サーバー室から続いている2重床を通ってきた。
やっさん「やぁ、いらっしゃい。」
騎士はその科学者の動じぬ様子に、逆にひるんだ。


【待ち人】
布和「そんなはずはない。」
散歩する惑星と月との線上。
通り過ぎてゆく空中要塞とBXS1。
一瞬、空間が膨張して見えた。
散歩する惑星の方向にある星の光が、外側に向かって一斉に逃げていったのだ。
ドヴン!!
巨大なハンマーに殴られた感じ。
空中要塞は船体を大きく歪ませ、BXS1と接触。
重力流の中心に向かって吸い込まれてゆく。
ユリコ「きゃああああっっ!」
初めて経験する事態に取り乱すユリコ隊員。
とっさに操縦桿から手を離すもり香。
BXS1の動きを見て叫ぶ。
もり香「あっち(BXS1)に操縦桿から手を放すよう言って!(船が)折れるわよ!」
怯えているユリコ隊員を席からどかして、布和がソルトフラットチームを呼び出す。
布和「回線が繋がらぬ!」
重力の濁流に押し流され、電波が届かない。
BXS1がめりめりと空中要塞にめり込んできている。
もり香「ちっ」
エンジンを吹かし、距離をとった。
2つの船は激しく擦り合い、破損した。
だが、あのまま船がへし折れるのを待つよりはましだ。
”ひょっとすると折れずに耐えきるかも”などという考えは戦場では通用しない。
布和艦長はもり香の判断の早さ、思い切りの良さに改めて感心した。
そして、船内の警報が鳴り響く中確信した。
空中要塞は彼女が操縦桿を握るのを待っていた。
この船は困難な作戦に参加し、やむなく多くの英雄の死を見送った。
だが今は違う、違うぞ。
不可能を可能にするパイロットがここにいる。
布和「仏蘭西原くん、生きて帰るぞ。」
聞いているほうはきょとんとしている。
もり香「へ?ななな、なに?なんかヤバイの?死ぬほどなの?」
どうやら宇宙のちりと消えるなど、この天才は考えてもいなかったらしい。
船はしゃべると舌をかみそうなほど揺れ、下手したら分解するかもしれないのに。
布和「いーやなんでもない。その調子で頼むぜ。」
ちるばぁちゃんはずっとシートに座っているが、激しいGの変化につらそう。
タイゾウはく号兵器メンテナンス用のタラップにしがみついている。
アチハはソルトフラットの隊員2人を貨物室に引き入れた。
壁にしがみついていたがたまらない。
ソルトフラットの隊員のうち一人は片腕を負傷している。
長くはもちそうにない。
アチハは天井クレーンを下げ、ロープを3人にまきつけた。
激しい流れに、船は揺さぶられる。
質量兵器の威力を殺せていないように見える。
もり香「失敗したの?」
布和「いや、作用点は月をそれてゆく空中要塞を追ってきた。進む方向を変えることができたはずだ。」
それは祈りにも似た分析。

BXS1の燃料タンクを引きずって飛ぶイタリア サルデーニャブランチの船ケンタウロ。
BXS1と空中要塞がレーダーから1瞬で消えたのを確認した直後、燃料タンクを引くワイヤロープを切断、エンジン全開で最後に反応のあった地点へと加速。

質量兵器の作用点は月をそれたが、余波が襲う。
山脈が切り崩され、大岩が宇宙空間に舞いあがった。

地球上空に待機するテー家の戦艦4隻。
質量兵器による攻撃の失敗を確認した。
旗艦のCIC(Combat Infomation Center)。
指揮官がうなり、思わずマイクを取る。
4隻全ての館内に流れた放送。
「手のあいている者は、月に向かい敬礼されたし。」
自身、月の方角に真直ぐ向き、拳を胸元に置いた。

第33.5.1話:ボイドな話 -その2ノ1

2010-11-02 00:44:38 | 日記
宇宙人は柴犬と


第33.5.1話:ボイドな話 -その2ノ1

※忙しいえっしーは、わずかな自由時間を使い、ひのもとおにこのラフ画を描いていた。
ごふっっ・・・・・つぎのうp、遠い・・・・
本編に影響のない、あっさり味のコメディーを、2回ほど予定しています。


【狼来訪 前篇】
時計逆回転。
狼頭王が乗るオンバク号が地球に降りてから、1週間後あたりのお話。

地球防衛軍さいたまブランチ内。
宇宙の家庭料理 さくら。

奥のまかない部屋では、ちいさなワタシちゃんがすやすやと寝ている。
横に座り、頭をなでているのはちるばあちゃん。

他に客のいない店内で遅い昼飯を食べるタイゾウ。
ドサ号墜落事件にかかわってから、ロクに寝ていない。
気を抜くと落ちる。

携帯電話に着信。
急いで口の中の物を飲み込み、さっとお手拭で口をぬぐう。
軽く鼻をすすりながら、ポケットから携帯を取り出し耳にあてがう。
タイゾウ「はい、ハラタです・・・ああ、ディヴ。え?えー・・ああ、もちろん良いってゆーか断れないだろ?もり香?ああ、いーんじゃない、あいつ暇人だから。」
もり香「おい!」
居眠り寸前のだらけ具合で夕方ようの仕込みをしていたもり香。
今の一言ですっかり目は覚めた。
手にした包丁をタイゾウに向ける。
タイゾウは意に介さず、話を進めている。
タイゾウ「えー、だいじょぉ・・んー、じゃあ聞いておくよ。」
電話を切った。
ディブに頼まれた確認をするため、もり香に話しかけんとするタイゾウ。
もり香「ああ、忙しい。すごく忙しいなぁー。」
軽やかな包丁の動きがわざとらしい。
なんだろ?こいつのダメ女っぷりって。
見た目、思想、言動・・徹底しすぎており、ある意味尊敬してしまう寸前なのだが。
なんか・・やっぱいいや・・確認せんでも。
ディブには適当に言っておこう。
タイゾウは再び箸を動かし、飯をかっ込む。
ふと思いついたようにもり香に顔を向けた。
やっぱ聞いたことは伝えておくべきか?
こやつに関係あることだしな。
残業続きの疲労感と良心がせめぎ合う。
タイゾウ「おふぁえひゃあ、ひははほう?」
そのどちらが勝ったというわけでもない、中途半端な現象となった。
口に物が入った状態で話しているので、言葉になっていない。
もり香「おい諜報員。ちょっと礼儀について調べて来い。」
タイゾウ「ほうほうほーがほへは・・んぐ・・ごくっ・・ちに挨拶したいんだってさ。詳しくはオレかディブからまた連絡するから。」
もり香「前半、何言っているのか全く解らないのだが・・私に話しているんだよな?」
タイゾウ「じゃ、伝えたからな。よろしくな。コーヒーまだ?」
無視してんじゃねー・・
瞬間、もり香のこめかみのあたりで、なにかぶちっと切れた。
ガキッ!
もり香は左手でタイゾウの顎を掴み、顔を上に向けさせた。
ぎゅうううううう・・・
そして力の限り握りしめ、口を無理やり開ける。
さて、右手に持っているのはコーヒーの入ったポット。
コーヒーの温度は通常85℃に保たれている。
すっと、再沸騰のボタンを押す。
ギラリと光る女の目。
ぷぴーっ!!
蒸気が噴き出す。
もり香「あら?今100℃かしら?」
こじ開けた口の上で、ポットをゆっくりと傾けてゆく。
タイゾウ「ぐがああああ!!はばふはばぶ!」
何言っているかはわからないが、明らかな降参のジェスチャー・・ってゆーか泣いている。
女は手を離した。
タイゾウは1から10までゆっくりと数え上げ、恐怖に逆立った全身の神経をなだめる。
もり香「もーいーだろー。さぁ話せ。」
タイゾウ「狼頭王がオレ達に挨拶したんだってさ。」
もり香「ろーとーおぉ?」
タイゾウ「パパドのお父さんだよ。1週間前、ドサ号墜落事件調査のため地球にやってきた。」
もり香「あー・・パパド言ってたわ、そんなこと。」
タイゾウ「いつ来るかはまだ決まっていないみたい。」
もり香「ふーん。明日かな、明後日かな?あやつのお父ちゃん冗談ヤバイくらい偉いらしいしな。このかっこじゃまずいわよね?」
作務衣の袖を握り、腕を左右に突っ張り、パンパンと音を鳴らした。
タイゾウ「wwwだな。」

がらがらがら、ちりりりりん。
引き戸につけた呼び鈴が鳴る。
誰か店に入ってきたのだ。
それは小さな影。
パパド「ルアイ!ルアイ!」
もり香「なんだパパドか。ルアイ、ルアイ。」
タイゾウ「なに、ルアイルアイって?」
パパド「ルアイルアイわ!ルアイルアイだ!ぶわぁ~か!」
もり香「今日は早いわね。学校、もう終わったの?」
パパド「テー家のお使いで早びけ。もり香さんに伝言頼まれたから・・電話でもよかったのだけど、どうせ夕方ここで待ち合わせしているしねー。」
タイゾウ「伝言?」
パパド「うん、オトーサンが2人に会いたいって。」
もり香「それならディブから連絡があったぞ。」
パパド「で・・ぶ・・ああ、体脂肪率がイチローの打率を超えているカンジの人?」
もり香「wwwww。パパドwwww。」
ネタがつぼにはまり、声が裏返ってしまった。
パパド「何?」
もり香「でぶじゃねー。ディブ!人の名前だww。」
しかしその笑いは、次の一言で一気飲み込むことになる。
タイゾウ「パパドよく知っているな。ディブは0.15t。メタボが自慢の男だぞ。」
パパド、もり香さんに視線を流し、うすら笑い。
もり香「てめぇ、はめやがったな!?お前、ディブに会ったことあるべ?」
パパド「まぁー、それはさておきですね、ディブの持っている情報はちょっと古いんですよ。ぼくの情報の方が30分くらい新しいのです。」
もり香「30分wwww。刻んできたなww。」
携帯電話で現在時刻を確認するパパド。
パパド「えー、あと30秒で、オトーサンが到着します。」
目を丸くするタイゾウともり香。
もり香「30分で急展開してんじゃねーっっ!!」
タイゾウ「むしろ携帯電話で一刻も早く知らせてくれよ!!」
パパド「さぷらいず?」
ちょこんと首を傾げてみた。
もり香「可愛くっても!だめだああああっっ!!」

などと言っている間に、到着したらしい。
入口の向こうから、けた外れのプレッシャーが押し入ってくる。
もり香「なんかすげーのが外にいるぞ。」