宇宙人は柴犬と
※今回は真面目な文章のみ・・ギャグが無いと本当に書けない。真面目展開を書くってタールの海を泳ぐようなものなのですね・・と、いうわけでいつもより短めです。すいませんです。
第34話:根が真面目だからコメディしか書けない
【消滅】
阿仁木「最後に今一度、ぴろウき様の腕に抱かれて眠りたかった。」
その台詞が発せられた地点から離れること約80km。
ぴろウき「最後も何も!そんな事実はねぇ~っっ!!」
4分の1とはいえ、B26暗黒星雲人の血。
その迫力。
本気で叫び声をあげると、テー家の騎士ですら驚き思わず首をすくめる。
その隣、宇宙警備隊最強の戦士が素っ頓狂な声に目を丸くする。
ヂエット「ど、どうした。」
すいません。
無理やりギャグ入れました。
もうしません。
許してください。
チャンネル√4銚子倉庫 地下65m・・最下層。
水槽のチャイの部屋の前。
入口を守る阿仁木とウルトの前に、すでに8人の騎士がいるのだが、さらに3人やってきた。
他のフロアを調査し退路を確保、そのうえで3人を追加投入してきた。
11人、阿仁木はその人数を見て覚悟を決めたのだ。
”この人数と引き換えなら悪くない”
長引く戦いに疲弊する阿仁木とウルト。
敵を警戒はするが、味方に注意する余裕などない・・何のことかって?
ウルト「何をするっ!」
阿仁木は若き戦士の肩を掴み、自分の後ろに投げた。
そして11人の騎士に向かい突進。
騎士たちはその奇妙な攻撃の作法に”何かある”と警戒、安易に阿仁木の接近を許さない・・
つもりなのだ・・が・・
ウルト「速い!」
地を滑るように進む。
まるで、床と彼の足の間に摩擦が存在しないよう。
それは、ほぼ事実。
今までの物語に書いた事実を今一度紹介したい。
⇒ 彼は筋肉を振動させて可聴音を作り、会話を成立させた。
⇒ 彼は掌を振動させガラスのひび割れをふさいだ。
彼は超振動の男。
足の裏と床の摩擦抵抗は、振動によりその存在を無視できるほど小さくなっているのだ。
騎士たちがその異常なスピードを認識したときはもう遅い。
阿仁木「とっておきを見せるのは一度きりだ。」
キイイイイイイィィィィッッ!!!!!!!
鼓膜を引き裂くごとき高周波。
阿仁木の皮膚が泡立つ。
肉体が超振動の熱で沸騰しているのだ。
その体で騎士に触れると相手は蒸発、消滅した。
床を滑り、次々と騎士を捕える。
ウルト「お、お前・・」
阿仁木自身も薄くなり、消えてゆく。
阿仁木「ぬおおおおおっっ」
おのれの肉体を滅する苦痛に耐え、振動を続ける。
そしてついに騎士11人と阿仁木、全て煙と消えた。
立ち込める髪の毛を焦がしたようなにおいにむせる。
若い戦士の傷ついた体に、疲労が一気に来る。
膝をつき、一筋だけ己の頬に涙が這うのを許した。
ウルト「まいりました。」
喪失感に体にも心にも力無く。
だが、礼をあらわさなければと口にした。
せめてもの一言。
【無感覚】
水槽のチャイの部屋。
瀬瀬博士に無造作に近づく騎士一人。
そうだろう。
痩せたその科学者の白くか細い腕に、抵抗する力があるなどとは考えない。
横に犬がいるが、噛まれたところでどうということはないだろう。
科学者は武器を隠し持っているかもしてない?
例えば銃か?
それがどうした。
今、彼が手にしているのは携帯端末一つ。
ポケットに拳銃があるとして、それを取り出される前に相手を無力化できるだろう。
犬がかみついた隙に取りだすか?
見え見えの手順だ。
判っていればそれを許さず回避できる。
従って、無造作に近づく行為は間違っていない。
やっさん「あー、君・・」
呼びとめる声に騎士は耳をかさず、ただ足を進める。
必要無いからだ。
騎士の目的は水槽のチャイの確保。
目の前の博士は邪魔立てせぬ限り相手をしなくてよい。
この国では逮捕権はないからね。
やっさん「君は鍛え上げたその体に自信があるのだろう・・だが、脳はどうだい?」
なぜそんな質問をする。
テー家の騎士は皆慎重。
思わず足をとめた。
彼の細い指がブラックベリーの小さなキーを撫でたとき、しまったと思った。
”相手に攻撃のチャンスを与えてしまった”
それを確信した。
やっさん「脳も強靭なぁのかい?」
部屋に設置されている3つの大型スピーカーから音・・いや、衝撃が発せられた。
神経を逆なでする不快な音に押しつぶされる。
黒板を爪でひっかくような音や、胃の中のものが逆流してくるような低周波。
すさまじい音量。
耳をふさいでも、音が体にしみて骨を伝い全身に行き渡る。
気が狂いそうだ。
犬の形をした人造生物Xはすでに嘔吐。
音源を破壊しなければ。
歪む視界や言うことを聞かない足と戦い、スピーカーを目指す。
その騎士の首に腕をまわし、のしっともたれかかる瀬瀬博士。
やっさん「やっぱり音楽は最高だねぇ。」
鼻歌を歌いだす。
この男は何ともないのか?
敵に近寄られた危機感より驚きが勝る。
やっさん「げぼおぉっ!」
吐きやがった。
高そうなソファーに汚物を撒き散らしやがった。
やっさん「ク、ククク・・あ~ぁ、すっきりした~・・あはははははははははっ!らんらんらぁー。ホぉラァ、君も歌いなよ!」
狂っている。
やせ我慢なんかじゃない、この状況を楽しんでいる。
体力的に劣るはずの眼鏡の優男。
狂っているのか??
・・・・この男はヤバイ。
やっさん「良い音楽には、最高の光の演出が似合うのさぁ~。」
ぎくり、背中に冷たいものが走った。
まだ何かやる気だ。
ブラックベリーのキーを押す。
部屋の棚に置いてある投光機のようなもの10個以上。
仕舞ってあるだけと思ったら、電源につながっていた。
熱く汗をかくほどの光量で激しく点滅。
目を開けていると痛くて耐えられない。
光量がありすぎて、周りの物をまともに認識できない。
物の輪郭が無い、影が無い。
マッドサイエンティストの乱れた歌声。
騎士は彼の細い腕が、己の首を徐々に締め上げてゆくのに気づくことが出来なかった。
やっさん「ぼくは見た通りのもやしっ子だよ・・ああ、体は弱いよ。だけど脳は、脳はねK-1ファイター並なんだよぅ。頭が良いって意味じゃなく、人体組織として強靭なのさ。だれよりも頑丈な脳なのだよぅ。ふっ・・ふはははははははは!!」
力を失った騎士の手から剣を奪い、喉元に・・
いや、床に落とした。
やっさん「エックスぅ・・」
呼ぶ声に反応し、ガタガタと身を震わせる人造生物。
やっさん「お前がとどめをさしておけ。コイツのさぁ・・」