宇宙人は柴犬と

SFコメディー小説です。

第37:正月はちょっと太りそうです 2/3

2011-01-03 08:00:50 | 日記

【空中要塞戻る】
宇宙。
2本の鋼材で連結し、地球へと向かう空中要塞とBXS1。
切り離しのときが迫っている。
お互いの鋼材の根元から1m放した位置に、棒状にしたプラスチック爆弾をまきつける。
布和「戦闘宙域で待っている。」
ソロ「ああ、俺達の分も残しておいてくれよ。」
ソロ船長が苦笑したのには理由がある。
地球近傍の戦闘宙域までの距離、まだ30万km以上ある。
空宙要塞はいい。
先の質量兵器迎撃でく号兵器の射程距離が400万km以上あることがわかった。
髪の毛より細く収束させた怪力線は指向性が驚くほど高く、大気の無い宇宙空間では拡散せずに果てしなく遠くまで届くのだ。
恐るべきは旧日本陸軍の技術力、テスラの天才、そして最後に完成させた芹技博士の執念。
とにかく空中要塞は残り30万kmまで戻れば良い。
そこまで戻れば地球との通信が回復する。
対質量兵器の時は、地球上のスーパーコンピューターが予測したポイントを狙った。
質量兵器を放った散歩する惑星は太陽系の外にいたが、文字どうり惑星と同じ大きさであり、地球の天文台や衛生から観測できた。
正確な位置を測定できた。
それと似た事を、再びやろうとしているのだ。
ソロ「衛生とスーパーコンピューターの件は念押ししないんだな。」
布和「ああ、信じている。」
ソロ「それでも確認するのが隊長だぜ。」
布和「日本の隊長は古来目で話す。口数が多いのは三流だ。」
ソロ「ほう、覚えておくぜ。」
今回はソルトフラットの、世界最高を誇るレーダーとコンピューターを使おうというのだ。
説明がてら、先に行われた打ち合わせの内容を書こう。
空中要塞の操縦室内。
布和隊長、ソロ船長、アチハ、ユリコ、タイゾウ、そしてちるばぁちゃん。
もり香は倉庫で宇宙服を寝袋代わりに仮眠をとっている。
アチハ「もう、戦闘宙域に戻るのは不可能なんじゃないですか?35万km近く離れているんですよ。きっと、たどり着く頃には戦闘は終わっている。」
布和「バカタレ!そこを考えるのが俺たちの仕事だ。」
タイゾウ「射程距離だけなら、この位置でも充分なんですけどね。」
ぼそっとつぶやいたその一言に全員言葉を失う。
ソロ「まじ?35万km近くあるんだぜ?」
ユリコ「いえ・・そういえばそれくらいの射程距離が無いとおかしいわね。質量兵器を迎撃できるはずがないもの。恐らく有効射程は・・」
タイゾウ「400万kmです。オーバーヒートを心配して検査に行ったとき、ローカルメモリの運用ログを確認しました。一番出力が下がったときの、理論有効射程距離400万kmです。」
アチハ「タイゾウww、お前冷静だなww。俺がそんなハッピーな数字見たら皆に言いふらして回るぜ。」
タイゾウ「ああ、なんか数値が途方もなさすぎて、逆に冷静になった。」
布和「ふふっ、作戦時には気にもしなかったな。俺たちにはく号兵器しかなかった。結果、とんでもない実績を作ったわけだ。」
ソロ「経験的な勘で悪いが、それだけの兵器なら、こっから撃ってテー家の全長5kmの戦艦を一撃で破壊できるぜ。」
布和「敵もできる奴等だ。ソロ船長と同じことを考えているだろう。地球には恐るべきエネルギー砲があるとな。」
ユリコ「でも、30万kmまでは戻らないと。」
アチハ「レーダーで敵の正確な位置を割り出せないな。ここから目隠し同然で撃ったら、下手したら味方、いや地球にダメージを与えてしまうかもしれない。」
布和「30
kmではまだ遠すぎると思う。潜水艦乗りとしての意見なのだが、敵は余裕で回避行動をとれるのではないだろうか?」
ソロ「ち、その通りだ。30万km(光速で1秒)・・レーダーで敵の位置を知るまで数秒、怪力線が敵に当たるまでだと10秒ほどあるな。」
布和「こっちはたったの1門。常に動き回っていればそうは当たらぬ。」
ソロ「(ため息)」
これまで激しく意見を出し合っていたのだが、全員口を閉ざしてしまう。
布和「とりあえず、空中要塞とBXS1を連結する作業を始めよう。戻らねばならぬのは確かなのだ。」
そんな諦めたような言葉にアチハ、ユリコ、タイゾウは納得できない。
これはもう少し説得が必要だな。
布和「戻りながら考える時間は有る。今、決定案はでない。ならば決定していることを少しでも進めるべきだ。」
打開できない壁から、前向きな理由で目を背けただけだが・・
はがゆいな。
ちる「おまいら、質量兵器とはどうやって戦った?」
突然の老婆の一言に、一同ハトが豆鉄砲を食らったような顔。
お互いの顔を見合わせる。
ちるばぁちゃんの真意をすぐに理解できたものはいないようだ。
1~2秒してハッと気づく表情が、ドミノ倒しのように連鎖してゆく。
ソロ「・・6秒くらいには縮まるってことか。」

布和「ああ、だが微妙だな。」
ユリコ「大気中でほとんど有視界で戦闘するのとは、かなり違いますね。」
ソロ「お前ら、隊長が潜水艦乗りでラッキーだったな。俺も宇宙は何度も飛んだが、宇宙での戦闘は初めてだ。」
モニタに表計算ソフトを表示し、数式を打ち込むタイゾウ。
タイゾウ「ひぃぃ。こっちで0.1度照準がずれたら30万km先では523.6kmのずれになるんですね。これ、コンピューターのサポートいりますよ。」
一人だけまだぽかんとしている。
アチハ「あれ?なんか判っていないの、俺だけ?」
ぶっちゃけやすいタイゾウに向かって問いを投げる。
タイゾウ「地球のレーダーで戦艦の位置を観測してもらい、そのデータを送ってもらおうって話ですよ。レーダー測距と通信の差分だけ、時間を短縮できる。」
アチハ「ああ、そっか。」
何だそんなことかと悔しがる。
布和隊長は目を瞑り、6秒で行える戦艦の回避運動をイメージしている。
布和「魚雷と違って追尾しねぇんだよな。うん・・100%とは言いきれないが、潜水艦乗りの俺なら当てる可能性は有る。」
ソロ「頼もしいなww。」
布和「だが、正確な敵艦の動きを絶えず送りつづけてもらう必要が有る。動きが読めないからな。」
ソロ「そっちは俺が手配しよう。ソルトフラットの衛生とスーパーコンピューターを使えるようにしてやる。」
布和「助かるぜ。よし!話は決まったな。」
ソロ「ああ」
アチハ、ユリコ、タイゾウも頷く。
これだ、この前進して行く感じ、体に力がみなぎってくる。
布和「おいタイゾウ。」
名を呼ばれ、反射的にびくんと身を縮める。
タイゾウ「はい。」
布和「引き金を引くのはお前だ。」
タイゾウ「はい。」
なんか隊長の目がすわっているっぽいのだけど。
いやな予感しかしない。
布和「俺の指示通りに撃たなかったら、その身を切り刻んで魚釣りのコマセにしてやる。」
ひぃぃぃぃぃぃっっ!!
こえぇぇぇぇ・・
この人、本気過ぎる。
老兵の熱血ほどタチが悪いものもないな。
潜水艦の船長時代もこうやって部下にプレッシャーかけていたんだろうなぁ・・
コンビ組みたくねぇ~・・
タイゾウ「あの・・お言葉ですが。宇宙に魚はいませんよ。」
布和「安心しろ。お前のために漆黒の宇宙で釣り針をたれてやる。」
タイゾウ「ぐっ・・」
ソロ「わっはっはっはっっ!!」