桜陰堂書店2

ここは「超時空要塞マクロス」(初代)の二次小説コーナーです
左、カテゴリー内の「店舗ご案内」に掲載リストがあります

第四章「大団円」(1)

2008-10-04 22:11:27 | MEGAROAD BALL
 次の日の朝。
 輝が目覚めると、未沙がベッドの横に座っていた、既に制服を着ている、
 「お早う、輝、痛みは?腫れは大分引いたけどアザになってる・・・。今
日は静かに休んでて、パーティは私一人で大丈夫だから」
 「お早う・・・、もう、大丈夫だよ、一晩氷で冷やしたから、あんなに痛か
った親知らずの痛みも消えたし」
 「だって、そのアザ酷いわ」
 未沙が済まなそうに言った、
 「私、もう行かなきゃ・・・。やっぱり、今日は一日休んでて、本当に昨
日は御免なさい」
 「大丈夫だよ。きっと、これも今迄の天罰さ」
 「輝・・・」
 未沙が立ち上がった、
 「御免ね、私、行かなきゃ。何か有ったらメール頂戴、無理しないでね」
 思いを振り切るようにドアへ向かう未沙へ、輝が声を掛けた、
 「そうだ、いい考えがある、これなら大丈夫だよ、きっと」
 「何なの、それ?」
 「秘密、ヒ・ミ・ツ、今日のパーティ出るよ、ホールで会おう、未沙」
 「教えてよ」
 「未沙、時間だろ、みんなが待ってるぞ」
 「意地悪!」
 そう言って、未沙が出て行った。その後を追うように、輝がベッドから出
る、洗面所で鏡を見た、
 「酷えな、こりゃ・・・でも、何とかなりそうだな」

 暫くして玄関のドアが開いた。中から出てきたのはパイロットスーツに
ヘルメットを付けた輝、そのまま医務室へ向かう。プライベートエリアで輝
のその姿は異様だった、みんなが振り向いた。

 「先生、一条少佐です」
 看護婦の声がして少しすると、異様な男が入って来た。
 「一条少佐、何だねその格好は」
 医師長のローランが笑いながら聞く、輝はローランと二人だけなのを
確認するとヘルメットを外した。
 ローランが又、笑う、
 「一条少佐、何、悪さしたの?それにしても凄い力だね、艦長。中々こ
こまでにはならないよ」
 「先生じゃあるまいし、悪さなんてしてませんよ、僕。これは事故です・
・・、信じてもらえないでしょうね」
 「まあいい、まあいい、そこへ座んなさい、今、薬塗ってあげるから」
 「先生、薬は結構です。実は先生にお願いが有って来ました」
 「何だね、そりゃ。薬要らないのなら医者に用は無いんじゃないの?」
 「先生この前、絵の個展開きましたよね、12階のロビーで」
 「ああ、見たのかね、恥ずかしいな。ちょっと遊びの積りで描いてたもの
を艦長に見付かっちゃってな、艦長、えらく気に入ってくれて、個展開くよ
うに薦められちゃって。勿論、断ったんだけど、どうしてもって言うから。あ
の顔で頼まれたら誰だって断れないよ」
 輝が真剣な表情で言った、
 「そうだったんですか、でも、良かったですよ先生。そこで、先生にちょ
っとお願いが有るんです」

 30分程して輝が出て来ると、看護婦が吹き出した。輝の右頬には統
合軍のマークをバックにした愛機「スカルー1」がしっかりペインティング
されている。
 そのまま廊下へ出て部屋に戻る、何人もの人達から声を掛けられた、
 「大隊長、まだ朝ですよ、もう、お祭り気分ですか」
 「あれ、夜ですよ、気が早いなあ」
 誰もアザに気が付かないようだった。

 艦長席の電話が鳴った、 
 「艦長、小会議室でフォッカー空軍司令以下7名が艦長に面会を求め
ていますが、いかが致しましょう?」
 「空軍司令が・・・、解りました、すぐ行きます」
 未沙が航海長に声を掛ける、
 「少しの間、小会議室に行ってます、後を宜しく」
 未沙がブリッジを出て行った。

 未沙が小会議室に入ると、フォッカー以下、昨日の面々が直立不動
で敬礼する。
 未沙が敬礼を返し、言った、
 「フォッカー司令、何でしょうか、こんなに朝早くから」
 フォッカーが直立不動のまま答える、
 「実は昨日の事、雁首揃えて謝りに参りました」 
 「フォッカー司令、それにみんなも、私、気にしてません、忘れて下さ
い」
 「艦長、そういう訳にはいきません」
 フォッカーが号令を掛けた、
 「全員、気をつけー!みんないいな、1,2の3!昨日は済いませんで
した、御免なさい!」
 全員が声を揃え、頭を下げる。
 「そ、そんな、止して下さい。みんな、頭を上げて、お願いします」
 未沙の慌てた声で、全員が頭を上げた、
 「昨日の事は、私が悪かったんです、ぼっとしてて、みんなの話を聞
いてなかったんだから」
 フォッカーが相変わらず、直立不動のまま答えた、
 「いえ、何がどう有ろうと、あれだけ艦長を笑ってしまったのですから、
どのような処罰も全員受ける覚悟でここに来ました。艦長、営倉でも
謹慎でも何でも結構です、言って下さい」
 「みんな、そんな、困ります・・・」
 未沙がますます狼狽する。その時、ふっと閃いた、
 「あ、一つだけみんなにお願いしていいですか、それさえ守ってくれ
れば、今度の事は無かった事にします」
 「何でしょうか?」
 「実は、輝、いえ、一条少佐が昨日事故で親知らずが抜けました、
今日、顔が腫れています。今夜、少佐を見ても笑わないで下さい、そ
れさえ守ってもらえば結構です。それで、宜しいでしょうか」
 「艦長、了解であります。おい、みんな良かったな、パーティに出ら
れるぞ、艦長の仰った事、みんな肝に銘じとけよ、輝の事笑ったら、
俺が営倉にぶち込むからな、その積りでいろよ、みんな!」
 全員が声を揃えた、
 「了解しました!」
 未沙が済まなそうに言う、
 「みんな、こんなに朝早くから来てくれて、みんなに心配掛けちゃっ
て御免なさい・・・、今日は本当に有難う」
 素直に未沙が頭を下げた。
 「艦長もお忙しいと思いますので、全員これで失礼します。艦長、ま
た今晩お会いしましょう、楽しみにしてますぜ、ドレスアップした艦長
の姿・・・。それでは、失礼します」
 フォッカーはそう言って、全員を引き連れ部屋を出て行った。すぐ、
クローディアが戻って来た、
 「ちょっと、いい?」
 「ええ、あまり時間はないけど」
 「何かあったの、貴方達?昨日は普通じゃなかったわよ」
 「ちょっとね。でも、もう大丈夫、心配掛けて御免ね、クローディア」
 「そう、それならいいけど」
 クローディアがほっとした顔で言った、
 「それでは、改めて失礼します、艦長」 
 ウインクしてクローディアが出て行った。


    「大団円」(2)

2008-10-04 22:10:00 | MEGAROAD BALL
 10時からのパレード、正午の軍・民共同の記者会見、3時からは議会、
民間の有力者とのレセプション。昼間の行事が滞りなく進んでいく。今日
の為に軍は、デザイナー、メーク他、民間から集めた特別スタッフを若い
艦長に付け、サポートしていた。そして、いよいよダンスパーティの始まる
時間が近づいて来た。

 ウエィティングホールの人混みの中、輝は白いタキシードにブラック・タ
イ、頬には例のペインティングという装いでアペリティヴを口にしていた。
 「いよぉ、輝。昨日は済まんかった、許してくれい」
 フォッカーが声を掛けながら近づいて来る、
 「司令、僕はいいですよ、それより未沙に・・・」
 「艦長には、今朝一番に全員で謝りに行った、快く許してもらったよ。本
当に昨日は悪かった」
 「そうなんですか、良かった。先輩、昨日は僕の方こそ失礼しました」
 「いいって事よ。それより昨日のお前、随分、大人になったな、見直し
たよ」
 そこへ艦長が入って来た、会場が少しどよめく。未沙はラインにフィット
したパールホワイトのオーガンジーのドレス、白いロンググローブに同色
の薄いストールをまとい、左の胸元にはアクセントに淡いパステルイエロ
ーのローズコサージュが飾られている。
 フォッカーは溜息と共に言った、
 「輝、凄いぞ、お前の女房は。さっ、早く行ってやれ、ちゃんとエスコート
するんだぞ」
 フォッカーが輝の背中を押す。
 輝は未沙の元へ歩み寄ると、小さな声で言った、
 「綺麗だよ、未沙」
 「ありがとう、輝・・・。その顔、考えたわね」
 未沙がクスッと笑う、
 「まあね」
 輝はそう言うと澄ました顔で左肘を上げた、未沙がそこへ軽く手を添える。
 二人が静かに会場に向かって歩き出した。

 「作戦成功率70%負傷者1名か・・・、まっ、艦長じゃなくて良かった」
 スミス中佐は一人呟くと、10歳も若い妻を連れて会場に向かう人の流
れに入っていった。

 会場は既に用意が整っていた。正面には大勢の楽団員が其々の席に
着き、その横から両サイドの隅まで、幾つもの円いテーブルが置かれて
いる、椅子に座れない者達がその後方に沢山溢れていた。
 やがて、テーブル席が全て埋まり、会場の照明が暗くなる。スポットラ
イトが照らされ司会者が登場し短いセレモニーが行われた。
 「それでは皆様お待たせしました。これより第一回「MEGAROAD B
ALL」を開催致します。今日の演奏をして下さいますのは、本日の為に
猛特訓したメガロード・アーミー・バンド、そして最初に踊って頂くカップル
は我軍のエース、&メガロード最大の華、一条輝、一条未沙の御両人で
す。皆様、盛大な拍手をお願い致します!」
 会場が一斉に沸いた、そして、それが静まると指揮者が手を振り上げ、
団員達が楽器に手を掛ける、指揮者の手が動き出した。
 曲は「美しき青きドナウ」
 静かな柔らかい旋律が流れ出していった。スポットライトが1番テーブ
ルに注がれる。

 「踊って頂けますか」
 輝が立ち上がり、未沙の側へ来て言った。
 未沙が笑顔を浮かべ軽く頷く、輝は未沙の椅子を引き、再び未沙の側
へ寄り手を差し伸べた、未沙がそれに答えるように肩に掛けていた薄い
ストールを取って立ち上がり、輝の手をそっと取った。
 二人がゆっくりとホールの端へ歩み出た、手を離し二人は向かい合う、
輝が再び手を差し伸べた。未沙が歩み寄り、その手を取る。お互いを見
詰め合いリズムを確認すると、すっと動き出した。
 フォールアウェイからシャッセで中央に向かいテレスピン、そしてオーバ
ースウェイ、輝と未沙の片手が宙に伸び、輝の右手に抱えられた未沙が
右足をくの字に曲げ、左足を後ろへすっと伸ばし、背中をぐっと反らせた。
何本ものスポットライトが二人に注がれる、未沙の美しくしなやかな曲線
が白いドレスに反して艶かしく見えた、耳飾りがキラキラ光っている。
 会場から一斉に拍手が沸き起こった、ほんの一瞬、二人は互いを見詰
め合い、笑顔を確めると又、踊りだした。フロアーで見守る全ての視線が
二人を追っていく。
 二人は息を合わせ会場の右から左へ、そして、左から右へと踊ってい
く、再び輝と未沙が中央に向かった、未沙が素晴らしいハイスピンを決め
二人が止まる。一瞬の間の後、大きな熱い拍手が二人に送られていった。

 それを合図に、スミス夫妻、フォッカーとクローディア、マックスとミリア、
二人を見守っていた人達が次々と踊り出していく。その踊りの輪の中で
二人は、まだ、時が止まったようにお互いの瞳を見詰め合っていた。
いつまでも、いつまでも・・・

第五章「カーテン・コール」

2008-10-04 22:09:56 | MEGAROAD BALL
 「司令、司令はどんな曲になっても、ずっとチークなんですね」
 誰かが笑いながらフォッカーに声を掛けた、
 「バーロー!ダンスなんてものはな、好きな女とくっ付いていられりゃ、そ
れでいいんだよ」
 「ロイ、止めてよ、恥ずかしいじゃない」
 「なぁに、俺達の仲がいいんで、みんな妬いてんのさ」
 「貴方、どういう頭の構造してんの、まったく」
 「気にすんな、気にすんな」
 その横を柿崎とヴァネッサが通り過ぎていく、柿崎の動きが昨日よりも尚、
おかしくなっている。ヴァネッサが柿崎の足を蹴った。
 「あんた、さっきから何回足踏んだの、いい加減にしてよ!」
 「すいません」
 「全くもう、あの二人にも相当蹴られたんでしょう、食事奢って蹴られて散
々ね、柿崎中尉」
 柿崎がしょんぼりして答えた、
 「全くっす、誰ですか、こんな企画したのは、俺、給料前借りまでしたのに」

 輝はテーブルに座って、みんなが踊るのを眺めていた、曲がラテンに変わ
り踊れなかったのだ。その視線がさっきから一組のカップルを追っている、
未沙とマックスだった。
 二人は何十組も踊ってるカップルの中でひと際目立っていた。マックスの
軽快なステップでリードされる未沙、その未沙の柔らかいスカートが右に左
に妖しく揺れている。マックスの輝と違う自然な笑顔、その笑顔に答えるよ
うに楽しそうにステップを踏んでいく未沙、輝の機嫌がどんどん悪くなってい
った。
 曲が終わり、ようやく未沙がテーブルに戻って来た。
 輝が、ぶっきら棒に言う、
 「お疲れさま」
 「楽しかったわ、マックス大尉って何やっても上手いのね」
 「そうだな、俺なんかより、よっぽどな」
 その時、一人の女性中尉がテーブルにやって来た、大隊の事務方の中
尉だった。
 「少佐、宜しければ一曲、私と踊って頂けませんか?」
 「俺と?」
 「艦長、少しだけ少佐をお借りして宜しいでしょうか」
 未沙がにこやかに答える、
 「ええ、どうぞ。輝、行ってらっしゃいな、女性を待たせるもんじゃないわよ」
 未沙の声に送られて、輝が中尉と踊りだした、それを見ている未沙。心な
しか笑顔が少しキツくなったような・・・。

 輝は隊の女性兵士、下士官に隠れた人気が有った、男前で優しくて落ち
着きが有って。彼女達には申し分のない男に見えた、ただ、艦長という奥
さんさえ居なければ。
 そんな訳で、誘いに来た中尉の後を争うように皆が輝を離さなかった。
 何曲目かの時、未沙が引きつった笑顔と共に席を立ち、輝の元へ歩み
寄った。
 「少尉、いいかしら?」
 言われた少尉がすごすご輝から離れる、輝が未沙の手を取り二人は踊
りだした、
 「未沙、どうしたんだよ、そんな顔して」
 「随分、引っ張りダコで気持ちがいいでしょう」
 「そんな事言ったって、悪いだろ断ったら」
 「知らないわ」
 「未沙こそ何だよ、マックスとあんなに楽しそうに長い時間踊ってたじゃ
ないか」
 「妬いてるの?」
 「未沙こそ妬いてるんじゃないか」
 「誰が!」
 二人の踊りが、どんどんぎこちなくなってくる、
 「痛い!足踏まないでよ、輝」
 「まったく、もう!未沙は・・・」
 輝が止まった。
 「未沙、俺がどれだけ君の事愛してるか解らないのか」
 「解らないわ!」
 輝は未沙の背中に回していた手に力を込め、未沙を引き寄せた、
 「この、わからず屋・・・。これ位だ!」
 輝は未沙の顔を自分に向けると、その唇に唇を重ねた、
 「・・・!」

 「おおぅ」
 周りで踊ってる人達から、どよめきが拡がっていく。
 未沙の両手が輝を突き放そうするが、次第に弱まり、その手が輝の背中
に絡み付いていった。
 輝と未沙の、その空間の輪が拡がりだす、照明が暗くなり二人にスポット
ライトが注がれた。輝と未沙の耳には、すでに音楽は聞こえていない、二人
の耳に聞こえるのは、ただ、お互いの熱い鼓動だけだった。


                   
                  完
 





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 お名前 拝借  スミス   「メガロードの翼」
                    理沙さん
          シューラ   「誓いの休暇」
                    G・チュフライ 監督
                    (1959年 ソ連)
          レティシア  「冒険者たち」
                    R.アンリコ 監督
                    (1967年 仏)
          ローラン    同上

          マヌー     同上


 お読み頂き心より感謝致します。ありがとうございました。
                  2008.10.29  桜陰堂

プロムナード

2008-10-04 22:08:43 | MEGAROAD BALL
,










































                                    。

                                     

ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場

2008-10-04 22:06:58 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
        いらっしゃいませ
  (私の勝手なお願いに、快く許可をくだされた、ゆばさんに感謝致します)

 このコーナーは「萌えおぼ」でお馴染みの、ゆばさんの素敵なイラストに無謀にも文章(400字前後)を添えてしまったコーナーです。基本コンセプトは、これもゆばさんの言葉になりますが「永遠の新婚さん、永遠のバカップル」です。ゆばさんのイラストのイメージを壊したくないお客様、「初代」、「愛・おぼ」のイメージを汚されたくないお客様、更に、小・中学生、お子様連れのお客様は申し訳有りませんがご遠慮願います。
 本作は、ゆばさんのイラストから桜陰堂が勝手にイメージした文章です、その為、イラストと文が微妙にズレたものが有ります、この点、ご了承頂きたく存じます。
 前置きが長くなりました、それでは奥へお入り下さい、リストは下記の通りです。

   1、「純情」編   こちら
   2、「予感」編   こちら
   3、「妄想」編   こちら
   4、「魔性」編   こちら
   5、「さざ波」編  こちら
   6、「因果」編   こちら
   7、「応報」編   こちら
   8、「  」(無題) こちら
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   9、「番外編」   こちら

「純情」編

2008-10-04 22:05:58 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (9月19日のイラストより)  「萌えおぼ」
      「純情」

 深まり行く秋、そんな或る日。
 すっかり色づき、散り始めた銀杏並木を二人は歩いていた。
 輝が立ち止まる、つられて未沙も立ち止まった。
 「俺って、いい加減な男でさ、デリカシーもないし」
 輝が未沙を見た。
 「でも、こんな男だけど、君を思う気持ちは誰にも負けない
積りなんだ」
 突然の言葉に戸惑う未沙。
 「今までの事、御免」
 未沙に向かって、輝は頭を下げた。
 二人の間の時が止まり、銀杏の黄色い葉が音も無く舞ってい
る。
 未沙が静かに口を開いた、
 「輝、もう止めて・・・。一度だけ・・・一度だけよ、輝」
 「・・・ありがとう、未沙」
 輝が頭を上げて続ける、
 「酷い奴だな、俺は。でも俺、二人で・・・君と二人で、これから
は歩いて行きたいと思ってる。   早瀬未沙さん!今日からは
そのつもりで俺と、いや、僕と付き合ってくれますか!?」
 黙ったまま輝を見つめる未沙、その視線に戸惑いながら、
 「べ、別に、今すぐ、ここで返事という訳じゃないんだけど」
 二人の肩へ黄色い葉が、また、舞い落ちてきた。
 「わ、私、気が強いわよ、融通効かないし、面白くないし、それ
に、それに・・・甘えるの下手だし」
 「僕は、そのみんなが好きなんだ」
 「意地っ張りだし、年上だし、それに、えぇと、えぇと」
 輝が未沙を遮った、
 「未沙、約束のキス・・・していい?」
 輝が未沙の顎に、軽く指を添える。
 みるみる未沙は少女のように顔を赤くしていった。

「予感」編

2008-10-04 22:05:15 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
 (「恥ずかしがるところを押さえつけて」より) 「萌えおぼ」
       「予感」
 
 輝ったら、いつもの悪いクセ・・・
 未沙はそれでも少し抗ってみた
 所詮、無駄と解っていながら
 輝の熱い吐息が耳もとにかかる
 そして、唇が耳へ
 このまま・・・いつものように、きっと・・・

 未沙は押し寄せて来るだろう、うねりの中へ
 飲み込まれまいと、最後の抵抗を試みる

 「愛してる、未沙」
 その声を聞く時、未沙はすべてを諦める
 いつものように・・・
 輝の手がスカートの中へ入ってきた

「妄想」編

2008-10-04 22:04:35 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (8月12日のイラストより)  「萌えおぼ」
      「妄想」

 夏の或る日、お出掛け日。
 輝は居間で、未沙の仕度の出来るのを待っていた、
 「あいつ、今日は何着てくのかな、フォーマルなのもいいかも。
未沙、清楚だからな、風がさぁっと吹いて、柔らかなスカートが
そよいで・・・、いいなぁ。
 でも、ワイルドな感じも悪くない。谷間を強調した服なんかも
・・・、駄目、絶対駄目!
 う~ん、白いテニスウェアもいいな、可愛いがろうな、いいな、
いいなぁ・・・ん?そうか、今日はお出掛けだっけ」
 妄想は止まらない、
 「キャミなんかいいね。すっと後ろから抱きしめて、未沙の綺
麗な肩にカプッなんて、手を裾から差し入れると、肩紐がスッと
落ちて、いいなぁ・・・」
 その時、ドアが開いた。
 「おまたせ!」
 未沙が着ていたのはホルダーネックのワンピースだった。
 結局、その日、玄関のドアは・・・

「魔性」編

2008-10-04 22:02:49 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (「胸に頭を乗せて」より)  「萌えおぼ」
       「魔性」

 未沙の動きが、また変わった
 どんどん早くなっていく、妖ましい声とともに
 輝は下から、未沙の動きに合わせていった
 輝は女という生き物に、ようやく気付き始めた
 得体の知れない、底なし沼に似た恐ろしさを感じ
始めていた
 つい先っき、自分の腕の中で・・・燃え尽きたと
思っていたのに
 それが、今、再び。
 女は自分の中に居る魔物によって、どんどん成長
していく、それに較べれば男なんて、なにも成長し
ない。

 輝は、自分の名前を呼ぶ妻の声で我に帰った。
 短い声とともに、彼女の身体が仰け反り、一瞬、
硬直する。輝は慌てて彼女の背中に回していた手に
力を入れ、強く抱きしめた。
 その瞬間、輝は例えようのない愛しさを感じる
 魔物でもいい、何でもいい。僕は・・・僕は、未沙
に溺れる。
 輝が未沙の胸に顔を埋ずめた。
 

「さざ波」編

2008-10-04 22:01:53 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (9月22日のイラストより)  「萌えおぼ」      
      「さざ波」 

 「こいつったら、いったい何考えてんのかしら、済ました顔し
て」
 未沙は輝の指の結婚指輪を見て思った。
 「昨日のあれは、許せない」
 少し酔ったような若い女の肩を、しっかり抱きながら歩いてい
た輝、夕方の悪夢。
 「どういう事・・・」
 もう一度、指輪が目に入った。
 未沙は、輝の腕を邪険に振り払うと、輝の前に立ち塞がった。
 「輝、昨日のあれは一体」
 その時、未沙の後ろで若い女の声がした。
 輝の顔が、優しい笑顔に変わる。
 「昨日は、どうも有り難うございました、探してたんです、貴方
の事」

 道端で具合の悪くなった彼女を、病院まで送って行った、ただ、
それだけの事だった。
 「昨日のあれって何なの?」
 彼女が去ると、輝が未沙を向いた。
 「昨日のあれって・・・、あ、ほら、昨日遅かったでしょ、帰りが。
お料理冷めちゃうし、そういう時は電話してよって」
 「何だ、そんな事か、御免、御免」
 未沙が輝の腕を取って歩き出した、
 「昨日は輝の好きな物、一生懸命作ったのよ、それなのに」
 「悪かったよ、未沙。でも、あんな怖い顔すんなよ、昔を思い出
したじゃないか」
 「御免なさい、輝」
 再び、輝に肩を抱かれながら、未沙は歩いた。
 輝の鈍感に、ほんの少し感謝しながら。

「因果」編

2008-10-04 22:01:16 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (「もたれかかり、安心しながら」より)  「萌えおぼ」
      「因果」

 「未沙、こっち向いてごらん」
 未沙がふっと輝を見上げると、そのまま目を閉じた。首を後ろ
に反らすと、輝の唇が重なってきた。
 短いキスだった。
 「幸せって、きっとこんな事ね」
 「こんな事もね・・・」
 輝が再び唇を重ねてきた、甘いキスだった。未沙の身体が輝
の右腕の中に崩れる。
 二人の激しいキスが続く。
 輝の指がワンピースのジッパーを降ろし、ブラのホックを抓んだ。
 未沙が唇を離す、
 「ダメよ、今日は・・・ね、輝」
 「え、アレなの?」
 「ううン、ほら、今日は危ない日だから」
 輝は未沙を右手で強く抱き締め、耳元に囁いた。
 「未沙、そろそろ僕達の子供がほしい、駄目かい?」
 「輝、いいの?本当?」
 輝が未沙の目を見る。
 「本当さ、未沙こそいいの?」
 未沙が輝の肩に顔を埋ずめながら言った、
 「嬉しい・・・ありがとう」
 「良かった・・・」
 未沙が顔を上げ、甘え声で言う、
 「ねぇ、輝、お風呂入りましょ、それから・・・」
 「それから・・・?それから、こうかい」
 輝が又、未沙の唇を奪う、未沙の白い指が輝の耳元から髪の中
へ入っていった。

「応報」編

2008-10-04 21:59:40 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (「首に腕を回して」より) 「萌えおぼ」
      「応報」

 「輝、この前、あんな事言ってくれたけど、本当に喜んでくれ
るのかしら?」
 今、病院から帰って来た未沙、そのままソファに腰を下ろす。
 「その場の雰囲気に弱いから、輝は」
 二人の子供が自分の中に居る喜び、出産の恐怖。でも・・・
私と輝の赤ちゃんをこの手に抱きたい、そして二人で成長を
見守りたい。
 「あいつ、本当はもっと自由でいたかったんじゃないかしら?」
 「私の子供好きに合わせたのかも?」
 言い知れぬ不安が拡がっていく。

 玄関のドアが開いた。
 「未沙、どうだった?」
 無表情で輝が聞く、
 「7週目、妊娠二ヶ月だって・・・」
 ぱっと輝の顔が輝いた。
 「本当!未沙、本当なんだね」
 「え、ええ・・・。輝、喜んでくれる?」
 「当り前じゃないか、未沙」
 「だって、入って来た時の顔」
 「用心だよ、用心!もし違ってたら、未沙がガッカリしてる
と思って」
 不安が一気に解放されていく。
 「良かったね、未沙。俺、嬉しいよ」
 その顔に何のためらいも無い。
 「輝!」
 未沙は輝の首に手を回し、しがみついていった。
 「私、嬉しかった、あなたの赤ちゃんが出来て本当に嬉しか
った。でも、輝もそうなのか心配だった」
 「馬鹿だな、未沙は」
 輝が未沙の顔を見た、
 「おめでとう、未沙」
 未沙が輝を見つめた、輝の顔が次第にぼやけていく・・・。

「  」

2008-10-04 21:58:58 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (9月12日のイラストより) 「萌えおぼ」

 帰宅した輝が二人を眺めている

 未来。お前ちょっとライバルだぞ
 俺の未沙を独占しちゃって
 ん、そうだな、俺の最大の強敵だ
 未来は
 そんな無邪気で、可愛い顔して
 パパとママはな、夜、忙しんだぞ
 解ってるのか、お前は
 夜、そんなに起こさないでくれよ

 ありがとう、未沙。この娘を産んでくれて
 君と出会い、一緒になって
 一人が二人になって、そして三人目
 幸せすぎさ、俺は

 ふっと、未沙が目覚めた
 「・・・輝、帰ってたんだ、おかえりなさい」
 輝が優しい声で答えた
 「うん・・・ただいま、未沙」





 ※「この娘」は「このこ」と読んで下さい。

「番外編」

2008-10-04 21:57:52 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (再び「胸に頭をのせて」より) 「萌えおぼ」
     「番外編」

 春うららな競馬場。
 新聞紙を丸めて持つ輝の傍らに未沙がいる。
 場内スピーカーから切迫した声が流れる。
 「さあ、集団だ、集団で4コーナーを回って来ました、いよい
よ最後の直線です」
 その時、輝の買った馬が前へ動き出した、
 「イクの?」
 「イッチャエ!」
 「イケ!」
 「イクんだ!」
 GOA~L!!
 「イッた?」
 突然の輝の声に、あらぬ世界へ迷い込んでしまった未沙、輝
の荒い息遣いに思わず呟く。
 「そんな・・・輝・・・掛け声だけじゃイけないわ、ワタシ・・・」
 「・・・?」

 春の陽射しは、どこまでも、どこまでも、のどかです。

                     
                
   お粗末さまでした、お後がよろしいようで。
   長い間のお付き合い、本当にありがとうございました。
   心より、お礼を申し上げます。

                Special Thank`s  ゆばさん

その他、短編集

2008-10-04 21:57:51 | その他、短編集
 掲載リスト
  ・「信じ難い夜に」
  ・「あなたの傍へ流れたい」
  ・「終わらないフーガの中で」
  ・「ファンタズム PART2」
  ・「Goodbye girl」
  ・「Oh My God!!」
  ・「祇園祭の牽牛と織女」
  ・「バカ殿の野望with納めのご挨拶」
  ・「二年前」