信じ難い夜に

　桜陰堂にしては珍しい即興作、原稿無しで、いきなりＰＣに打ち込みながら作ってくなんて・・・。
　本当は別のストーリーが頭ん中に有るんだけど、そいつが失敗ばかり、ちょっと場繋ぎみたいで申し訳ないんですが。
　今回は崩れたと言うか、女々しい未沙。
　なので、女性陣には不興かもしれませんが、お許しを。
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　「ねえ輝、愛って何なの」
　「どうしたんだよ、突然」
　「私が聞いちゃ、おかしい？」
　「おかしかないけど・・・」
　「いつもいつも、私が先生みたいに言って、はね返りの生徒みたいにあ
なたが答える、私が生徒みたいに聞いちゃダメなの、輝先生」
　店仕舞い間近のＢＡＲ、カウンターから離れたテーブルに客は未沙と輝
の二人だけ。
　「未沙、飲みすぎだよ」
　「悪い？」
　「・・・」
　「あのね・・・あのね・・・、輝、私、機械じゃないのよ、怒りもするし笑いも
するし、悲しかったり淋しかったり、そんな時は泣くのよ、解る？」
　「当り前じゃないか」
　「解ってないわ！・・・ちっとも・・・私だって人間なのよ」
　「・・・」
　「愛って、何なんだろうね、輝」
　「それは・・・、お互いのことを思いやって、一緒に居ると気持ちが優しく
なれて、お互いが相手を必要としててさ、離れられない、そんな二人が」
　「学校の答案用紙みたいね、素晴らしいわ、ちょっと、笑っちゃうけど、
でもね、それって恋よ、だから落第！」
　「・・・」
　「怒ったの？」
　「別に」
　「ねえ、愛って何なんだろ、身体を合わせることなの？そうすれば相手
を信じられるのかしら、そこから始まるの？」
　未沙はテーブルの上に置かれた、自分のグラスを見詰めてる。
　輝は、未沙の頭の上に掛かってる写真を見ていた。
　そのモノクロームの歌手が誰なのか、輝には全然見当もつかない。
　グラスから、目を離さずに未沙が呟く。
　「ねえ、輝はどう思う？」
　「さあね、俺の答えなんか、どうせ、学校の答案用紙さ」
　見てもいない写真に顔を向けたまま、輝が答える。
　「・・・」
　「信じたい、信じていたい、信じる・・・、でも、何を信じればいいのかしら
ね、確かなものなんて何にもないんだもの・・・」
　「・・・」
　「お客さん、申し訳有りませんが、そろそろカンバンなんですが」
　「蛍の光」のメロディを背に、マスターが済まなそうに立っていた、
　「これ、「エクソシスト」ってカクテルなんですが、私からのサービスです」
　カクテルグラスにシェイクされた氷と透明な液体。
　「もう酒は」と輝。
　「これは別物ですから、大丈夫ですよ」
　輝が口を付けてみた、思いがけない味に顔が綻ぶ。
　それを見て、マスターがニッコリした。
　ただの冷えたレモン水。

　ドアを開け、外に出た二人。
　降りしきる雪。
　足取りの覚束ない未沙。
　輝が未沙の前にしゃがんだ。
　「何よ」
　「俺の背中に」　
　「馬鹿にしないで」
　「俺の答えを知りたいんだろ」
　「・・・知りたくないわ！」
　殆ど無理矢理、未沙の腕を取っておんぶする輝、そのまま歩き出す。
　「やめてよ！歩けるから」
　「・・・」
　「誰かに見られるたら、どうすんのよ」
　「さあね、どう思われたっていいじゃない、俺達だけの問題なんだから」
　「・・・」
　「気持ち悪くない？」
　「これが答えなの・・・」
　「答えは、君が素面の時に提出するよ」
　「ねえ、これが答えなの？輝・・・」
　音も無く降り続く雪。
　二人は髪を少しずつ白くしながら、ひっそりとした道を遠去かっていく。
　輝の踏みしめる雪の音だけを微かに響かせながら。