桜陰堂書店2

ここは「超時空要塞マクロス」(初代)の二次小説コーナーです
左、カテゴリー内の「店舗ご案内」に掲載リストがあります

OP

2008-10-04 22:23:42 | MEGAROAD BALL
               MEGAROAD BALL
      
                    出    演
   
                   一 条  輝  

                   一 条  未 沙


                   ロ イ  フ ォ ッ カ -
 
                   ク ロ - デ ィ ア  ラ サ ー ル 
 
  
                   マ ク シ ミ リ ア ン  ジ ー ナ ス

                   柿 崎  速 雄

                   ヴ ァ ネ ッ サ  レ イ ア ー ド

                   キ ム  キ ャ ビ ロ フ

                   シ ャ ミ ー  ミ リ オ ム

                  
                   シ ュ ー ラ
                   ロ ー ラ ン
                   マ ヌ ー
                   看 護 婦
                   司 会 者


                   ト ー マ ス ・ J ・ ス ミ ス (友情出演)


                     協  力

                   メガロードシティの皆さん

                   メガロード01 乗組員の皆さん

                   メガロード・アーミー・バンド



                   原 作  「超時空要塞マクロス」

                   参 考  「Shall We ダンス?」
                          周防 正行 監督 (1996年)

                   Special Thank`s  理沙さん

                
                   作    桜陰堂




第一章「主席の女房は鬼より怖い」

2008-10-04 22:17:00 | MEGAROAD BALL
 「スロー、スロー、クイック、クイック、スロー、スロー、クイック、クイック」
 「ちょっと待ってよ、未沙。もう一時間ぶっ続けだぜ、喉渇いたよ、休憩、
休憩!」

 地球出航一周年メモリアルフェスティバル、夜の部。夕方6時から艦
内の全てのホール、公園及びあちこちの大通りで大掛かりなイベントが
催される事になっていた。各会場で歌ありダンスありサンバカーニバル
ありヨサコイあり、とに角、皆で陽気に騒ごうと云う企画だった。
 その夜、艦長夫妻はアーミーホールで開かれる大ダンスパーティ「M
EGAROAD BALL」に出席する事になっていた。問題はそのオープ
ニング、いの一番に輝が未沙をエスコートして踊り始める、と云う段取
りになっているのだ、しかもワルツを・・・。
 それが、二日後に迫っていた。

 「輝、だいぶサマになってきたわよ、きっと上手くいくわ」
 「そうかな、未沙はいいよな、子供の頃からお父さんに習わされてい
たんだから」
 「女のたしなみとか言われてね、士官学校でも習うのよ、社交の為の
時間が有るの」
 「あ~あ、お陰で家へ帰ってもこれだもんな」
 新婚気分の抜けない輝はここ一ヶ月、毎夜、未沙のレッスンを受け二
人の時間が持てない事にイライラしていた、おまけに右の親知らずが3
日前からズキズキしだしていた。
 「みんなの想像通りだよな、一条家はカカア天下で旦那は奥さんの尻
に敷かれてるって話、俺、これから素直に肯定しちゃうな」
 「そんな事ないわ、輝。私これでも一生懸命、輝を立ててるつもりよ、
今はたまたま、そういう状況なんだから仕方ないじゃない」
 「そうかな、考えてみると手を握ったのだって、告白だって、みんな未
沙の方が先で、やっぱり俺って未沙に釣り上げられたのかなぁ」
 返事が無いので、ふっとソファの後ろに立ってる未沙を見た。輝は慌
てて、
 「あっ、ご、御免」
 「輝・・・酷い事、言うのね」
 「あ、その、俺ちょっと疲れてて」
 「疲れてるのは私も同じよ、私がいつ貴方を釣り上げたの?、言って
みなさいよ、輝!」
 未沙の顔は、輝が初めて見る顔だった。
 「貴方、解ってるの!私がお掃除に来るの知ってるくせに、ミンメイの
ポスターは張りっ放しだし、あれ見て、私がどんな思いをするかなんて
考えた事ないでしょ、輝。デートすっぽかされて何時間も待ってた時の
私の気持ち、どれだけ考えた事があるの、浮かれてミンメイのマフラー
を私に掛ける人でしょ貴方って。どうして、そんな事いうの・・・酷い、あ
の日の事まで思い出しちゃったじゃない・・・、酷いわ、輝!」
 未沙は、あっけに取られてる輝を置いて寝室に走っていった。ドアを
開けながら又、未沙が怒鳴る、
 「輝、今日からそっちへ寝て、ここには入れないわ」
 バタン!!ドアが勢いよく閉まった。
 輝がドアの所へ行き、必死になって謝った、何度もいろんな言葉を
使って謝る、
 「うるさいわ、眠れないじゃない!」
 未沙の大きな声がした。
 売り言葉に買い言葉、この夜、輝は悪い星の下に居た、
 「解ったよ、人がこんなに謝っているのに。もう、勝手にしろ、パーテ
ィは君一人で出ればいい、俺は出ない。隊の連中とミンメイのコンサー
トでも言って来る!」
 ドアに何かがぶち当たった。



第ニ章「引かれ合う二人」(1)

2008-10-04 22:15:30 | MEGAROAD BALL
 「副長、時間ですので今日はこれで上がります、後を宜しく」
 「了解しました、艦長」
 スミス副長が敬礼しながら言った。
 未沙がブリッジルームを出ると、スミスが追ってきた、
 「艦長、ちょっといいですか」
 「何でしょう」
 スミスがニヤニヤしながら言う、
 「艦長、今日はどうしたんですか、今日の笑顔いつもと違うなあ、何が
有ったんです」
 「別に・・・、別に何も有りません」
 「それならいいんですけど、あれも近い事ですし」
 「ご心配には及びません、何も有りませんので・・・、では」
 未沙はくるりと背を向け、足早に廊下を遠ざかって行った。

 30分後、プライベートゲートから副長席へ電話が入った、
 「済いません、スカル隊の一条です。あのぉ、艦長はまだそこに居ま
すか」
 「少佐、僕は学校の先生じゃないんだよ、出席簿なんか持っちゃいな
いんだからね。ああ、でもね・・・今日は特別サービスで教えてあげよう、
30分前に帰られたよ。少佐、仕事中にこういう電話はいかんよぉ、いく
ら喧嘩中でもね」
 「副長、自分は喧嘩などしていません、誤解です」
 「それならいいけど、じゃあね」
 スミスが受話器を置くと、シューラ航海長が声を掛けてきた、
 「何なんです、今の電話?」
 「いや、何でもない、ちょっとね、ここんとこ暇なもんでね、からかって
みたのさ。あ、それよりシューラ君、今度の舞踏会、私とアン・ドゥ・ト
ロワどうかね?」
 航海長が副長席へやって来た、妙に艶かしい口調で、
 「副長、奥様に言いつけますわよ、でも、ボーナスが出るのなら考え
てみますけど」
 「あ~あ、グローバルの奴が羨ましい、優しいネエチャン達に囲まれ
て一年間だもんなぁ、僕は不幸だ」
 「オアイニクサマ」
 航海長が冷たく言って持場へ戻って行く、
 「何か考えんといかんかな」
 スミスが小さく呟いた。

 未沙は、そのまま部屋へ帰る気がせず街へ出ていた。飾り付けの
進んでる街の、いたる所にイベントのポスターが張ってある、商店も
それにかこつけて、あちこちでバーゲンをやっていた。いつもより多い
人混みの中を未沙は歩いていた。
 「解ってたのよ、貴方がイライラしてたの。私の悪い癖ね、何かやり
出すと熱中しちゃうの、輝がどんな気持ちか解ってるのに、一ヶ月、
疲れてる輝を休ませる事もしなかった。解ってるのに・・・相変わらず
ね、私って」
 そんな事も思うのだけど、あの時の輝の言葉が聞こえてくると、そ
んな思いは、すぐにどこかへ飛んで行ってしまうのだった、特に最後
の捨て台詞を思い出すと、どうにもいけない。
 パティシエの店「レティシア」、そんな看板が目に入った。
 「こんな時は甘い物に限るわ」、未沙が一人呟きながらドアを押そう
とすると、
 「大佐~!」
 後ろで聞き慣れたシャミーの声がした、振り返ると三人娘が立って
いる。
 ヴァネッサが聞いてきた、
 「どうしたんです、一人で?」
 「ちょっと、街を見てみたかったの、準備状況をね」
 「でも珍しいですね一人なんて、いつも少佐と一緒なのに」
 キムが言う、
 「私だって、偶には一人で街に出るわよ、いつも二人なんて事ない
わ、それに、もう結婚して一年よ、私達」
 三人が顔を見合わせている、
 「それより貴女達、ケーキでも食べない?私、ちょっとお腹が空い
たんで、ここへ入ろうと思ったの、奢るわよ」
 「ラッキー!今日はいい日だわ」
 シャミーが叫んだが、他の二人はまだ迷っている。そんな二人を
未沙とシャミーが引っ張るようにして4人が店へ入っていった。

 輝は街の中心街、フロンティア・ストリートを歩いている、さっき、シ
ティゲートの詰所へ電話した時、未沙がそこから出て行ったと知っ
たからだ。凄い人の混雑で輝は汗だくだった。
 「未沙に会わなくちゃ、会ってちゃんと謝らなくちゃ」
 今日は自分の出勤時間の方が早く、朝、謝る事が出来なかった、
仕事が終わってからと思っていたのだが、未沙に先を越されてしま
った、携帯も繋がらない、
 「昔の事、俺は過ぎた事だと思って少し軽く考えすぎてたかな。結
婚する前、一度謝った時、未沙が「いいのよ、もう、その話はよしま
しょう」って言われて、ちゃっかり、その気になっていたのかな、俺・・
・。そう云えばあの時、下向いてたよなぁ、あんな事言っちゃって傷
付いたよなぁ、デリケートだから・・・」
 一人でブツブツ言っていると、後ろから両肩へドン!と手を置かれ
た。吃驚して振り返ると右頬に指が突き刺さった、親知らず直撃だ
った。
 「痛えぇ!」、輝が堪らず、その場へしゃがみ込む。
 「マックス、掛けは俺の勝ち」
 輝が思わず叫ぶ、
 「馬鹿野郎!何やってんだ!痛てて・・・。柿崎、お前幾つになっ
たんだ、それが上官にする事か。それにマックス、お前まで一緒に
なって」
 「失礼しました、大隊長殿!」
 柿崎とマックスが姿勢を正して敬礼した、
 「おい、止せよ、こんな所で、みんなが見てるじゃないか」
 輝は立ち上がり、右頬を押さえながら逃げるように歩き出した、
二人が付いて来る。
 マックスが声を掛けてきた、 
 「隊長、待って下さい、一人でどこへ行くんですか?」
 「街の視察さ」
 「街の視察?変ですね、隊長らしくもない」
 「どうしてだよ、俺だってそれくらい」
 「変ですよ・・・」
 「何が」
 「・・・解りましたよ先輩!チャンチャンバラバラでしょ」
 「何だ、そのチャンチャンバラバラって?」
 「喧嘩ですよ、夫婦ゲ・ン・カ」
 柿崎が口を挟む、
 「隊長、本当ですか、そりゃ。で、原因は何です「艦長がモテすぎ
て」ってやつですか?」
 輝は動揺を悟られないように、わざと落ち着いた声で振り返りな
がら言った。
 「馬鹿かお前ら、TVの見過ぎだ」

 「結構、美味しかったわね、ここ」
 未沙が三人を連れ、後ろを振り返りながら店を出て来た。
 その拍子に二人がぶつかった。
 輝が奥歯を噛み締める、未沙のハンドバックが飛んだ。
 「キャッ!!」
 「痛てて、済いません。ゴメンナサイ」
 未沙が突き飛ばされ、大きくよろけ倒れそうになる、
 「危ない!」
 前の方で男の声がして未沙を抱き止めた、
 「有難う」
 未沙が思わず言うと、聞き憶えのある声が上からした。
 「大丈夫ですか?・・・おっ・・・あれま・・・、そこにポカンと突っ立
ってるのは輝じゃないか、お前、何やってんだ女房突き飛ばして」
 未沙が顔を上げた、
 「フォッカー空軍司令、クローディアも」
 「珍しい所で会うわね、未沙」
 クローディアがハンドバックを持って未沙の側へ来て言った。
 フォッカーがみんなに声を掛ける、
 「みんな、久し振りだから一緒に飯でも食おうじゃないか、俺達、
今、その途中なんだ」
 「いいですね、司令。お供しますよ」
 柿崎が真っ先に言うと、みんながその気になった。
 「僕は・・・」
 「私は、ちょっと・・・」
 輝と未沙が同時に声を出した、
 「おやおや、仲のいい事で。輝、いつからそんな付き合いが悪く
なったんだ、艦長も毎日二人で食べてんだから、偶にはいいでし
ょう」
 からかう様にフォッカーが二人に声を掛けた。

    「引かれ合う二人」(2)

2008-10-04 22:14:34 | MEGAROAD BALL
 表の喧騒を店の中へ移したように繁盛してる店で、マクロス組9人
が円いテーブルを囲んでいた、場所はフォッカーが予約してあった中
華料理店「娘々」。

 「どうしたんだ、輝、さっきからシケた面して、あんたら二人だけ黙っ
たままで、そんなに二人で食べたければ無理にとは言わん、帰っても
らって結構だ」
 マックスがすかさず、
 「司令、さっき柿崎と話してたんですけど、お二人、どうやらアレの真
っ最中じゃないかって」
 「アレって何だ?」
 シャミーの甲高い声が響いた、
 「ヤダー!大佐達、喧嘩してんですかぁ」
 「やっぱり」
 「どうも、変だと思った」
 三人娘が囃した、
 「そんな、喧嘩なんてしてません」
 未沙が強張った顔で真剣に答える、
 「未沙、貴女が嘘つく時って、妙に右肩が上がるのよね、昔から」
 クローディアがからかうと、輝がやっと反論した、
 「違います!僕も未沙も明日の事で頭が一杯なんです」
 フォッカーが思い出したように、
 「おお、輝、お前が真っ先に踊るんだってな、明日。TVも入ってる
し、そりゃ大変だ。まあ、艦長の晴れ姿だ、しっかりエスコートしてや
れよ、輝。そうか、それでか」
 「司令も出られるんでしょ、お二人で」
 マックスが聞いた、
 「ああ、出るぞ、お前達もみんな出るんだろ、賑やかな夜になるぞ、
明日は」
 「私、明日のドレスまだ決まってないのよ、どうしよう」
 ヴァネッサが困り声で言った。
 「僕はこの後、ミリアのドレスを受け取りに行かなきゃ、それで9時
から二人で体育館の最終レッスン、君達もそうだろ」
 「一ヶ月、長かったわ、でも、明日が楽しみ、いい男いないかなぁ」
 キムが言うと、シャミーが口を挟む、
 「貴女、男より料理が楽しみなクセして」
 「まあね、軍の男は毎日見てるしね」
 マックスが隣の柿崎に聞く、
 「柿崎君、あれから上達した?」
 「もう、バッチリ。体重だって二㌔痩せたんだぜ、ちょっとやってみよ
うか」
 柿崎が席を立ち、ワルツのステップらしきものを踏んだ。
 三人娘が吹き出す、フォッカーが片肘付いた手に顔を埋めた、
 「柿崎君、それで踊るの?壊れたバルキリーが盆踊りしてるみたい
だよ。それに、明日踊る相手、決まったの?」
 周りの反応に気落ちしながら、柿崎が席に着いて言う、
 「それが問題なんすよ、誰か可愛い娘居ませんかね、艦長?」
 「・・・」
 未沙は何も聞いていなかった。
 「艦長!」
 大きな声で柿崎が再び聞いた、

 「え?何?あっ、ええと私、チャーシューメン一つ」
 一瞬の沈黙が皆を支配した後、爆発した。マックスまで下を向いて
笑っていた、皆、大笑いだった、輝を除いて。
 「柿崎中尉、チャーシューメンと踊れって、艦長が言ってるわよ」
 ヴァネッサが涙を拭きながら言うと、
 「くっく、苦しい」、お腹を押さえながらキムが言った、隣でシャミー
が笑い過ぎてゼーゼー言っている。
 その時、バーン!と机を叩く音がして輝が立ち上がり怒鳴った、
 「何で、そんなに笑うんだ、未沙が可哀想じゃないか、辞めろよ、み
んな!」
 フォッカーが、まだ笑いながら言う、
 「そんな事言ったって、輝・・・、クッ、クッ、クッ、いかん、又、思い出
した、こりゃダメだ」
 また、激しく笑い出した。
 輝が血相を変えフォッカーの席へ向かおうとした、慌ててマックスが
輝の腰の辺りにしがみ付く、
 「先輩!止めて下さい!」
 店が静まり返っている。
 輝が少し正気に戻った。
 「マックス、済まん・・・、もう、大丈夫だよ」、そう言うと、静かにテー
ブルを回り未沙の席へ行った、
 「未沙、帰ろう、一緒に」
 未沙は輝の顔を見ずに軽く頷くと立ち上がった、輝が椅子に掛けて
あったハンドバックを取ると、
 「今日は、これで失礼します」
 誰に云うでもなく言い、未沙の肩を抱いて店を出て行った。
 「まったく、貴方って人は」
 クローディアがフォッカーを睨み付けた。

 表通りから一本裏の通り、ここも人通りは多かったが、さすがに表
通り程ではなかった。すでに輝は未沙の肩から手を離している。輝は
自分の心無い一言が、雪だるま式に未沙の心の傷口を拡げてしまっ
た事に動揺していた。
 「御免、未沙、あんな酷い事言っちゃって、反省してる。でも、こんな
言葉何にもならないよね、俺・・・どう言えばいいのか・・・解らない、君
にどう謝れば許してもらえるのか・・・本当に御免」
 未沙は何も答えず、ただ前を見て歩いていた。
 輝は堪らず、未沙の前に立ち塞がった、
 「未沙!本当に悪かった、俺の無神経にいつも君が合わせてくれて
たのに、本当に御免・・・、未沙、何か言ってくれよ」
 未沙が輝の顔を見た、淋しそうな目だった。
 「歩きましょう、少し」
 再び、未沙が歩き出した、輝が仕方なく後から付いていく。未沙が
ようやく口を開いた、
 「哀しかった・・・あんな事を言う貴方が、とても哀しくて悔しかった。
それに、貴方の事を考えずに突っ走ってく私も、哀しかった」
 「未沙、今度の事で君に悪い所なんて一つも無い、俺のいつもの無
神経が原因の全てだよ」
 未沙はそれに答えず、空を見上げ立ち止まった、
 「総司令が私に言ったわ、熱はいつかは冷める、問題はそれからだ
って。でもね、私はまだ醒めたくない・・・これからも、ずっと貴方と愛し
合っていたい。だから・・・、だから、もう、あんな事言わないで・・・二度
と言わないで・・・約束よ」
 「未沙、勿論だ、約束する。もっと大人になるよ、俺」
 未沙が空を見上げながら、大きく息をついた、
 「さっきは有難う、嬉しかったわ」
 「未沙・・・」
 「歩きましょう、少しお互い頭を冷やした方がいいみたい、歩きなが
ら」
 そう言うと未沙は又、歩き出した。輝が慌てて後を追いかけ、そして
未沙の手を握った。
 二人が夜の道を並んで歩き出した。
 
 

第三章「一撃必殺」

2008-10-04 22:12:54 | MEGAROAD BALL
 その少し前・・・。
 
 「シューラ君、10分ばかり副長室へ行って来る、後を頼むよ」
 突然、スミスがそう言うとブリッジを出て行った。
 スミスは副長室のドアを閉めると、真直ぐデスクの上の受話器を取っ
た。
 「さてと」、そう言うとボタンを押した、
 「総務のマヌー大尉を・・・、あ、マヌー君か、悪いんだが至急調達して
欲しいモノがあるんだ。ちょっと倉庫に無いモノ・・・居るかもしれんが、ま
あ、いい。至急コクローチを2~3匹捕獲して持ってきて欲しい」
 マヌーが思わず聞き返した、
 「え、何ですって?済いません聞き間違えたようです、副長、もう一度
仰って頂けますか」
 「聞き間違いじゃないよ、コクローチ3匹、至急、出前してくれたまえ」
 「申し訳有りませんが、理由をお聞きしてよろしいでしょうか」
 「理由は言えん、緊急且つ極秘の作戦遂行に必要なのだ、宜しく頼
む」
 マヌーの声が変わった、
 「はっ!了解しました。直ちに総務課全員出動致します」
 電話が切れると、スミスは溜息をついた、
 「この作戦、上手くいけばいいのだが」

 「俺、ちょっと医務室へ行って薬貰ってくるよ」
 シティゲートから戻ると、輝が直ぐに言った、
 「御免なさい、私ちっとも知らなくて、親知らずが痛んでいたなんて」
 「昨日迄、それ程じゃなかったんだよ、明日朝、先生に抜いてもらえ
ば夜には間に合うさ」
 「ご飯、食べられないわよね、それじゃ、どうしよう」
 「栄養剤でも飲んでおくさ」
 「大丈夫?それで・・・」
 「大丈夫さ、一日位。それより痛み止めが効いてきたら、ちょっと最後
の所のステップ、練習したいんだ、未沙、付き合ってくれる?」
 「止めて、今日は安静にしてなきゃ。それに、輝、もう今迄の練習で大
丈夫よ」
 「でも、ちょっと不安なんだ。2,3回でいいからさ、ね、後で」
 そう言うと、輝は急いで医務室へ向かって行った。

 未沙が部屋に戻ると程なくしてチャイムが鳴った、未沙が急いでドア
を開ける。
 「スミス中佐」
 ドアの前には書類と花束を持った副長が立っていた、
 「艦長、済いません、こんな時間に」
 「いえ、まだ、こんな時間ですから気にしなくて大丈夫です、何か起こ
りましたか?」
 「いえ、艦の方は何も。ただ明日のパーティの曲目が正式に決まりま
したので、曲のリストと順番表を持って参りました。艦長は一番最初に
中央フロアで踊られる訳ですし、一応、曲は少しでも早くお解りになって
いた方が良いと思いまして」
 そう言うと、簡単に綴じた薄い書類を未沙に渡した、更に、
 「私、先程、少し失礼な事を申し上げたような気がして、お詫びにこれ
をお持ちしたのですが、受け取って頂けるでしょうか」
 スミスは未沙に花束を差し出した。
 「副長、副長がいつも私の事を心配してくれているのは良く解っていま
す。だから、どうか、こんな気を使わないで下さい、私に間違った所、至
らない所がある時は、遠慮なく意見して下さい。私が副長のお陰でどれ
だけ助かっているか、良く解っているつもりです」
 「艦長、そう言って頂けて嬉しく思います、でも、これ、折角買って来た
ものですから、どうか受け取って下さい」
 「解りました中佐、ありがとう、こんなに綺麗なお花・・・。中佐、少し上
がって行って下さい、今、紅茶を入れますから」
 「艦長、お疲れでしょうし、明日の事も有ります、ここで失礼します」
 「中佐、私に遠慮は無用です、一杯だけでいいですから寄ってって下
さい」
 未沙がスミスを居間へ案内した、そしてスミスを座らせると急いでキッ
チンへ向かった。
 スミスは未沙がキッチンへ消えたのを確かめると、ポケットから少さな
皮袋を取り出し、ソファを傾け、その下へ例のモノを放り出した。そして、
ソファを元へ戻した。

 スミスは急いで紅茶を飲むと、 
 「まだ、仕事が有りますので」と言ってブリッジに戻って行った。
 間もなく、輝が帰って来た、
 「どうだった?」
 「うん、明日一番で抜いてくれるって、それ迄はこれ飲んで我慢してろ
ってさ」
 「可哀そうな輝、今、栄養剤持って来るわね、それ飲んでから薬飲ん
で」
 未沙がキッチンへ行き、やがて、お盆にフルーツと栄養剤を乗せて戻
って来た。その瞬間、
 「キャー!!」、悲鳴がして、お盆を放り投げた、
 「ゴ、ゴキブリ!輝、ゴキブリよゴキブリ」
 未沙が真っ青になっていた。実は未沙はゴキブリが異常な程苦手で、
ほぼ天敵と云って良かった、そして、それはブリッジ全員が知ってる軍
事機密だった。
 「ひ、輝、ゴキブリよゴキブリ、早く何とかして!輝!」
 「未沙、殺虫剤どこに有るんだ!?」
 「し、知らない、解んない!輝、早く何とかして、お願い!」
 輝は仕方なく、テーブルの下に有った新聞紙を丸めて追いかけた。
 バシッ!バシッ!何度か音がするのだが仕留められない、
 バシッ!ようやく仕留めると同時に未沙の突んざくような悲鳴が又、
上がった。
 「イャー!こっちにも居る!」
 輝が振り返ると、未沙が手にスリッパを持って振り回していた。
 そのお陰で、その黒虫が輝の方へ逃げて来た、今度は輝が迎え撃つ、
しかし、僅かの所で外すと、黒虫は再び未沙の方へ向きを変え飛んで
行った。
 「止めて、こっちへ来ないで!」
 未沙はスリッパを振り回しながら逃げ惑った、そして、その黒虫が未
沙の近くの壁に留まった。
 輝が急いで新聞紙を打ち付けようとする。その瞬間、背後で物凄い
殺気を感じた、思わず輝が振り向く、
 バシッ!バシーン!!
 壁を叩く音と、未沙が振り向いた輝の右頬をハードタイプのスリッパ
で張り倒す音が同時に鳴り響いた。
 輝は床に引っくり返って、声も出ず右頬を押さえていた。

 ほんの2、3秒、静かな間があった、未沙が正気に返る、
 「輝、輝!大丈夫、御免なさい!御免なさい、ねえ、何か言って!」
 未沙は慌てて輝を抱き起こすと、まだ、唸っている輝の手を退かし右
頬を見た。みるみる真っ赤に腫れ上がっていく、未沙が自分の柔らか
い手で優しく擦った。
 「御免、御免なさい、輝・・・大丈夫、ねぇ、大丈夫?」
 未沙が涙声になる、輝の口から血が零れてきた、
 「輝!死んじゃいや、死なないで!」
 未沙は、もう何が何だか解らなかった、輝の頭を膝に抱き泣き続けて
る。輝の小さな声がした、
 「タ、タイヨウフタヨ、ミサ、ホレヨリ、ハガ、ハガホレタ」
 輝が自分の口の中へ指を入れ、赤く染まった歯を一本取り出した。
 未沙が泣きながら言う、
 「輝、口開けられる?見てあげる、どこの歯が取れたの?」
 輝が「アタタ」と言いながら口を開けた、未沙が覗き込む、
 「親知らずよ・・・、輝、それ親知らずだわ」
 「ホカッタ・・・」
 未沙はまだ泣いている、
 「御免ね、輝。御免ね、痛かったでしょ」
 輝が精一杯の優しい顔で言った、
 「ミサ、ホレヨリ、ミズトコホリヲホッテキテ、ショット、クチヲユスヒタイ」
 「そうだわ、御免ね気が付かなくて、待ってて、すぐ持ってくるから」
 未沙は、輝の頭の下にクッションを当て、急いでキッチンへ走って行
った。 
 輝が小さく呟く、
 「ホカッタ、ホンホニ」

 こうして、二人の大喧嘩は無事?終了した。

                           

 
 

第四章「大団円」(1)

2008-10-04 22:11:27 | MEGAROAD BALL
 次の日の朝。
 輝が目覚めると、未沙がベッドの横に座っていた、既に制服を着ている、
 「お早う、輝、痛みは?腫れは大分引いたけどアザになってる・・・。今
日は静かに休んでて、パーティは私一人で大丈夫だから」
 「お早う・・・、もう、大丈夫だよ、一晩氷で冷やしたから、あんなに痛か
った親知らずの痛みも消えたし」
 「だって、そのアザ酷いわ」
 未沙が済まなそうに言った、
 「私、もう行かなきゃ・・・。やっぱり、今日は一日休んでて、本当に昨
日は御免なさい」
 「大丈夫だよ。きっと、これも今迄の天罰さ」
 「輝・・・」
 未沙が立ち上がった、
 「御免ね、私、行かなきゃ。何か有ったらメール頂戴、無理しないでね」
 思いを振り切るようにドアへ向かう未沙へ、輝が声を掛けた、
 「そうだ、いい考えがある、これなら大丈夫だよ、きっと」
 「何なの、それ?」
 「秘密、ヒ・ミ・ツ、今日のパーティ出るよ、ホールで会おう、未沙」
 「教えてよ」
 「未沙、時間だろ、みんなが待ってるぞ」
 「意地悪!」
 そう言って、未沙が出て行った。その後を追うように、輝がベッドから出
る、洗面所で鏡を見た、
 「酷えな、こりゃ・・・でも、何とかなりそうだな」

 暫くして玄関のドアが開いた。中から出てきたのはパイロットスーツに
ヘルメットを付けた輝、そのまま医務室へ向かう。プライベートエリアで輝
のその姿は異様だった、みんなが振り向いた。

 「先生、一条少佐です」
 看護婦の声がして少しすると、異様な男が入って来た。
 「一条少佐、何だねその格好は」
 医師長のローランが笑いながら聞く、輝はローランと二人だけなのを
確認するとヘルメットを外した。
 ローランが又、笑う、
 「一条少佐、何、悪さしたの?それにしても凄い力だね、艦長。中々こ
こまでにはならないよ」
 「先生じゃあるまいし、悪さなんてしてませんよ、僕。これは事故です・
・・、信じてもらえないでしょうね」
 「まあいい、まあいい、そこへ座んなさい、今、薬塗ってあげるから」
 「先生、薬は結構です。実は先生にお願いが有って来ました」
 「何だね、そりゃ。薬要らないのなら医者に用は無いんじゃないの?」
 「先生この前、絵の個展開きましたよね、12階のロビーで」
 「ああ、見たのかね、恥ずかしいな。ちょっと遊びの積りで描いてたもの
を艦長に見付かっちゃってな、艦長、えらく気に入ってくれて、個展開くよ
うに薦められちゃって。勿論、断ったんだけど、どうしてもって言うから。あ
の顔で頼まれたら誰だって断れないよ」
 輝が真剣な表情で言った、
 「そうだったんですか、でも、良かったですよ先生。そこで、先生にちょ
っとお願いが有るんです」

 30分程して輝が出て来ると、看護婦が吹き出した。輝の右頬には統
合軍のマークをバックにした愛機「スカルー1」がしっかりペインティング
されている。
 そのまま廊下へ出て部屋に戻る、何人もの人達から声を掛けられた、
 「大隊長、まだ朝ですよ、もう、お祭り気分ですか」
 「あれ、夜ですよ、気が早いなあ」
 誰もアザに気が付かないようだった。

 艦長席の電話が鳴った、 
 「艦長、小会議室でフォッカー空軍司令以下7名が艦長に面会を求め
ていますが、いかが致しましょう?」
 「空軍司令が・・・、解りました、すぐ行きます」
 未沙が航海長に声を掛ける、
 「少しの間、小会議室に行ってます、後を宜しく」
 未沙がブリッジを出て行った。

 未沙が小会議室に入ると、フォッカー以下、昨日の面々が直立不動
で敬礼する。
 未沙が敬礼を返し、言った、
 「フォッカー司令、何でしょうか、こんなに朝早くから」
 フォッカーが直立不動のまま答える、
 「実は昨日の事、雁首揃えて謝りに参りました」 
 「フォッカー司令、それにみんなも、私、気にしてません、忘れて下さ
い」
 「艦長、そういう訳にはいきません」
 フォッカーが号令を掛けた、
 「全員、気をつけー!みんないいな、1,2の3!昨日は済いませんで
した、御免なさい!」
 全員が声を揃え、頭を下げる。
 「そ、そんな、止して下さい。みんな、頭を上げて、お願いします」
 未沙の慌てた声で、全員が頭を上げた、
 「昨日の事は、私が悪かったんです、ぼっとしてて、みんなの話を聞
いてなかったんだから」
 フォッカーが相変わらず、直立不動のまま答えた、
 「いえ、何がどう有ろうと、あれだけ艦長を笑ってしまったのですから、
どのような処罰も全員受ける覚悟でここに来ました。艦長、営倉でも
謹慎でも何でも結構です、言って下さい」
 「みんな、そんな、困ります・・・」
 未沙がますます狼狽する。その時、ふっと閃いた、
 「あ、一つだけみんなにお願いしていいですか、それさえ守ってくれ
れば、今度の事は無かった事にします」
 「何でしょうか?」
 「実は、輝、いえ、一条少佐が昨日事故で親知らずが抜けました、
今日、顔が腫れています。今夜、少佐を見ても笑わないで下さい、そ
れさえ守ってもらえば結構です。それで、宜しいでしょうか」
 「艦長、了解であります。おい、みんな良かったな、パーティに出ら
れるぞ、艦長の仰った事、みんな肝に銘じとけよ、輝の事笑ったら、
俺が営倉にぶち込むからな、その積りでいろよ、みんな!」
 全員が声を揃えた、
 「了解しました!」
 未沙が済まなそうに言う、
 「みんな、こんなに朝早くから来てくれて、みんなに心配掛けちゃっ
て御免なさい・・・、今日は本当に有難う」
 素直に未沙が頭を下げた。
 「艦長もお忙しいと思いますので、全員これで失礼します。艦長、ま
た今晩お会いしましょう、楽しみにしてますぜ、ドレスアップした艦長
の姿・・・。それでは、失礼します」
 フォッカーはそう言って、全員を引き連れ部屋を出て行った。すぐ、
クローディアが戻って来た、
 「ちょっと、いい?」
 「ええ、あまり時間はないけど」
 「何かあったの、貴方達?昨日は普通じゃなかったわよ」
 「ちょっとね。でも、もう大丈夫、心配掛けて御免ね、クローディア」
 「そう、それならいいけど」
 クローディアがほっとした顔で言った、
 「それでは、改めて失礼します、艦長」 
 ウインクしてクローディアが出て行った。


    「大団円」(2)

2008-10-04 22:10:00 | MEGAROAD BALL
 10時からのパレード、正午の軍・民共同の記者会見、3時からは議会、
民間の有力者とのレセプション。昼間の行事が滞りなく進んでいく。今日
の為に軍は、デザイナー、メーク他、民間から集めた特別スタッフを若い
艦長に付け、サポートしていた。そして、いよいよダンスパーティの始まる
時間が近づいて来た。

 ウエィティングホールの人混みの中、輝は白いタキシードにブラック・タ
イ、頬には例のペインティングという装いでアペリティヴを口にしていた。
 「いよぉ、輝。昨日は済まんかった、許してくれい」
 フォッカーが声を掛けながら近づいて来る、
 「司令、僕はいいですよ、それより未沙に・・・」
 「艦長には、今朝一番に全員で謝りに行った、快く許してもらったよ。本
当に昨日は悪かった」
 「そうなんですか、良かった。先輩、昨日は僕の方こそ失礼しました」
 「いいって事よ。それより昨日のお前、随分、大人になったな、見直し
たよ」
 そこへ艦長が入って来た、会場が少しどよめく。未沙はラインにフィット
したパールホワイトのオーガンジーのドレス、白いロンググローブに同色
の薄いストールをまとい、左の胸元にはアクセントに淡いパステルイエロ
ーのローズコサージュが飾られている。
 フォッカーは溜息と共に言った、
 「輝、凄いぞ、お前の女房は。さっ、早く行ってやれ、ちゃんとエスコート
するんだぞ」
 フォッカーが輝の背中を押す。
 輝は未沙の元へ歩み寄ると、小さな声で言った、
 「綺麗だよ、未沙」
 「ありがとう、輝・・・。その顔、考えたわね」
 未沙がクスッと笑う、
 「まあね」
 輝はそう言うと澄ました顔で左肘を上げた、未沙がそこへ軽く手を添える。
 二人が静かに会場に向かって歩き出した。

 「作戦成功率70%負傷者1名か・・・、まっ、艦長じゃなくて良かった」
 スミス中佐は一人呟くと、10歳も若い妻を連れて会場に向かう人の流
れに入っていった。

 会場は既に用意が整っていた。正面には大勢の楽団員が其々の席に
着き、その横から両サイドの隅まで、幾つもの円いテーブルが置かれて
いる、椅子に座れない者達がその後方に沢山溢れていた。
 やがて、テーブル席が全て埋まり、会場の照明が暗くなる。スポットラ
イトが照らされ司会者が登場し短いセレモニーが行われた。
 「それでは皆様お待たせしました。これより第一回「MEGAROAD B
ALL」を開催致します。今日の演奏をして下さいますのは、本日の為に
猛特訓したメガロード・アーミー・バンド、そして最初に踊って頂くカップル
は我軍のエース、&メガロード最大の華、一条輝、一条未沙の御両人で
す。皆様、盛大な拍手をお願い致します!」
 会場が一斉に沸いた、そして、それが静まると指揮者が手を振り上げ、
団員達が楽器に手を掛ける、指揮者の手が動き出した。
 曲は「美しき青きドナウ」
 静かな柔らかい旋律が流れ出していった。スポットライトが1番テーブ
ルに注がれる。

 「踊って頂けますか」
 輝が立ち上がり、未沙の側へ来て言った。
 未沙が笑顔を浮かべ軽く頷く、輝は未沙の椅子を引き、再び未沙の側
へ寄り手を差し伸べた、未沙がそれに答えるように肩に掛けていた薄い
ストールを取って立ち上がり、輝の手をそっと取った。
 二人がゆっくりとホールの端へ歩み出た、手を離し二人は向かい合う、
輝が再び手を差し伸べた。未沙が歩み寄り、その手を取る。お互いを見
詰め合いリズムを確認すると、すっと動き出した。
 フォールアウェイからシャッセで中央に向かいテレスピン、そしてオーバ
ースウェイ、輝と未沙の片手が宙に伸び、輝の右手に抱えられた未沙が
右足をくの字に曲げ、左足を後ろへすっと伸ばし、背中をぐっと反らせた。
何本ものスポットライトが二人に注がれる、未沙の美しくしなやかな曲線
が白いドレスに反して艶かしく見えた、耳飾りがキラキラ光っている。
 会場から一斉に拍手が沸き起こった、ほんの一瞬、二人は互いを見詰
め合い、笑顔を確めると又、踊りだした。フロアーで見守る全ての視線が
二人を追っていく。
 二人は息を合わせ会場の右から左へ、そして、左から右へと踊ってい
く、再び輝と未沙が中央に向かった、未沙が素晴らしいハイスピンを決め
二人が止まる。一瞬の間の後、大きな熱い拍手が二人に送られていった。

 それを合図に、スミス夫妻、フォッカーとクローディア、マックスとミリア、
二人を見守っていた人達が次々と踊り出していく。その踊りの輪の中で
二人は、まだ、時が止まったようにお互いの瞳を見詰め合っていた。
いつまでも、いつまでも・・・

第五章「カーテン・コール」

2008-10-04 22:09:56 | MEGAROAD BALL
 「司令、司令はどんな曲になっても、ずっとチークなんですね」
 誰かが笑いながらフォッカーに声を掛けた、
 「バーロー!ダンスなんてものはな、好きな女とくっ付いていられりゃ、そ
れでいいんだよ」
 「ロイ、止めてよ、恥ずかしいじゃない」
 「なぁに、俺達の仲がいいんで、みんな妬いてんのさ」
 「貴方、どういう頭の構造してんの、まったく」
 「気にすんな、気にすんな」
 その横を柿崎とヴァネッサが通り過ぎていく、柿崎の動きが昨日よりも尚、
おかしくなっている。ヴァネッサが柿崎の足を蹴った。
 「あんた、さっきから何回足踏んだの、いい加減にしてよ!」
 「すいません」
 「全くもう、あの二人にも相当蹴られたんでしょう、食事奢って蹴られて散
々ね、柿崎中尉」
 柿崎がしょんぼりして答えた、
 「全くっす、誰ですか、こんな企画したのは、俺、給料前借りまでしたのに」

 輝はテーブルに座って、みんなが踊るのを眺めていた、曲がラテンに変わ
り踊れなかったのだ。その視線がさっきから一組のカップルを追っている、
未沙とマックスだった。
 二人は何十組も踊ってるカップルの中でひと際目立っていた。マックスの
軽快なステップでリードされる未沙、その未沙の柔らかいスカートが右に左
に妖しく揺れている。マックスの輝と違う自然な笑顔、その笑顔に答えるよ
うに楽しそうにステップを踏んでいく未沙、輝の機嫌がどんどん悪くなってい
った。
 曲が終わり、ようやく未沙がテーブルに戻って来た。
 輝が、ぶっきら棒に言う、
 「お疲れさま」
 「楽しかったわ、マックス大尉って何やっても上手いのね」
 「そうだな、俺なんかより、よっぽどな」
 その時、一人の女性中尉がテーブルにやって来た、大隊の事務方の中
尉だった。
 「少佐、宜しければ一曲、私と踊って頂けませんか?」
 「俺と?」
 「艦長、少しだけ少佐をお借りして宜しいでしょうか」
 未沙がにこやかに答える、
 「ええ、どうぞ。輝、行ってらっしゃいな、女性を待たせるもんじゃないわよ」
 未沙の声に送られて、輝が中尉と踊りだした、それを見ている未沙。心な
しか笑顔が少しキツくなったような・・・。

 輝は隊の女性兵士、下士官に隠れた人気が有った、男前で優しくて落ち
着きが有って。彼女達には申し分のない男に見えた、ただ、艦長という奥
さんさえ居なければ。
 そんな訳で、誘いに来た中尉の後を争うように皆が輝を離さなかった。
 何曲目かの時、未沙が引きつった笑顔と共に席を立ち、輝の元へ歩み
寄った。
 「少尉、いいかしら?」
 言われた少尉がすごすご輝から離れる、輝が未沙の手を取り二人は踊
りだした、
 「未沙、どうしたんだよ、そんな顔して」
 「随分、引っ張りダコで気持ちがいいでしょう」
 「そんな事言ったって、悪いだろ断ったら」
 「知らないわ」
 「未沙こそ何だよ、マックスとあんなに楽しそうに長い時間踊ってたじゃ
ないか」
 「妬いてるの?」
 「未沙こそ妬いてるんじゃないか」
 「誰が!」
 二人の踊りが、どんどんぎこちなくなってくる、
 「痛い!足踏まないでよ、輝」
 「まったく、もう!未沙は・・・」
 輝が止まった。
 「未沙、俺がどれだけ君の事愛してるか解らないのか」
 「解らないわ!」
 輝は未沙の背中に回していた手に力を込め、未沙を引き寄せた、
 「この、わからず屋・・・。これ位だ!」
 輝は未沙の顔を自分に向けると、その唇に唇を重ねた、
 「・・・!」

 「おおぅ」
 周りで踊ってる人達から、どよめきが拡がっていく。
 未沙の両手が輝を突き放そうするが、次第に弱まり、その手が輝の背中
に絡み付いていった。
 輝と未沙の、その空間の輪が拡がりだす、照明が暗くなり二人にスポット
ライトが注がれた。輝と未沙の耳には、すでに音楽は聞こえていない、二人
の耳に聞こえるのは、ただ、お互いの熱い鼓動だけだった。


                   
                  完
 





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 お名前 拝借  スミス   「メガロードの翼」
                    理沙さん
          シューラ   「誓いの休暇」
                    G・チュフライ 監督
                    (1959年 ソ連)
          レティシア  「冒険者たち」
                    R.アンリコ 監督
                    (1967年 仏)
          ローラン    同上

          マヌー     同上


 お読み頂き心より感謝致します。ありがとうございました。
                  2008.10.29  桜陰堂

ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場

2008-10-04 22:06:58 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
        いらっしゃいませ
  (私の勝手なお願いに、快く許可をくだされた、ゆばさんに感謝致します)

 このコーナーは「萌えおぼ」でお馴染みの、ゆばさんの素敵なイラストに無謀にも文章(400字前後)を添えてしまったコーナーです。基本コンセプトは、これもゆばさんの言葉になりますが「永遠の新婚さん、永遠のバカップル」です。ゆばさんのイラストのイメージを壊したくないお客様、「初代」、「愛・おぼ」のイメージを汚されたくないお客様、更に、小・中学生、お子様連れのお客様は申し訳有りませんがご遠慮願います。
 本作は、ゆばさんのイラストから桜陰堂が勝手にイメージした文章です、その為、イラストと文が微妙にズレたものが有ります、この点、ご了承頂きたく存じます。
 前置きが長くなりました、それでは奥へお入り下さい、リストは下記の通りです。

   1、「純情」編   こちら
   2、「予感」編   こちら
   3、「妄想」編   こちら
   4、「魔性」編   こちら
   5、「さざ波」編  こちら
   6、「因果」編   こちら
   7、「応報」編   こちら
   8、「  」(無題) こちら
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   9、「番外編」   こちら

「純情」編

2008-10-04 22:05:58 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (9月19日のイラストより)  「萌えおぼ」
      「純情」

 深まり行く秋、そんな或る日。
 すっかり色づき、散り始めた銀杏並木を二人は歩いていた。
 輝が立ち止まる、つられて未沙も立ち止まった。
 「俺って、いい加減な男でさ、デリカシーもないし」
 輝が未沙を見た。
 「でも、こんな男だけど、君を思う気持ちは誰にも負けない
積りなんだ」
 突然の言葉に戸惑う未沙。
 「今までの事、御免」
 未沙に向かって、輝は頭を下げた。
 二人の間の時が止まり、銀杏の黄色い葉が音も無く舞ってい
る。
 未沙が静かに口を開いた、
 「輝、もう止めて・・・。一度だけ・・・一度だけよ、輝」
 「・・・ありがとう、未沙」
 輝が頭を上げて続ける、
 「酷い奴だな、俺は。でも俺、二人で・・・君と二人で、これから
は歩いて行きたいと思ってる。   早瀬未沙さん!今日からは
そのつもりで俺と、いや、僕と付き合ってくれますか!?」
 黙ったまま輝を見つめる未沙、その視線に戸惑いながら、
 「べ、別に、今すぐ、ここで返事という訳じゃないんだけど」
 二人の肩へ黄色い葉が、また、舞い落ちてきた。
 「わ、私、気が強いわよ、融通効かないし、面白くないし、それ
に、それに・・・甘えるの下手だし」
 「僕は、そのみんなが好きなんだ」
 「意地っ張りだし、年上だし、それに、えぇと、えぇと」
 輝が未沙を遮った、
 「未沙、約束のキス・・・していい?」
 輝が未沙の顎に、軽く指を添える。
 みるみる未沙は少女のように顔を赤くしていった。

「予感」編

2008-10-04 22:05:15 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
 (「恥ずかしがるところを押さえつけて」より) 「萌えおぼ」
       「予感」
 
 輝ったら、いつもの悪いクセ・・・
 未沙はそれでも少し抗ってみた
 所詮、無駄と解っていながら
 輝の熱い吐息が耳もとにかかる
 そして、唇が耳へ
 このまま・・・いつものように、きっと・・・

 未沙は押し寄せて来るだろう、うねりの中へ
 飲み込まれまいと、最後の抵抗を試みる

 「愛してる、未沙」
 その声を聞く時、未沙はすべてを諦める
 いつものように・・・
 輝の手がスカートの中へ入ってきた

「妄想」編

2008-10-04 22:04:35 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (8月12日のイラストより)  「萌えおぼ」
      「妄想」

 夏の或る日、お出掛け日。
 輝は居間で、未沙の仕度の出来るのを待っていた、
 「あいつ、今日は何着てくのかな、フォーマルなのもいいかも。
未沙、清楚だからな、風がさぁっと吹いて、柔らかなスカートが
そよいで・・・、いいなぁ。
 でも、ワイルドな感じも悪くない。谷間を強調した服なんかも
・・・、駄目、絶対駄目!
 う~ん、白いテニスウェアもいいな、可愛いがろうな、いいな、
いいなぁ・・・ん?そうか、今日はお出掛けだっけ」
 妄想は止まらない、
 「キャミなんかいいね。すっと後ろから抱きしめて、未沙の綺
麗な肩にカプッなんて、手を裾から差し入れると、肩紐がスッと
落ちて、いいなぁ・・・」
 その時、ドアが開いた。
 「おまたせ!」
 未沙が着ていたのはホルダーネックのワンピースだった。
 結局、その日、玄関のドアは・・・

「魔性」編

2008-10-04 22:02:49 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (「胸に頭を乗せて」より)  「萌えおぼ」
       「魔性」

 未沙の動きが、また変わった
 どんどん早くなっていく、妖ましい声とともに
 輝は下から、未沙の動きに合わせていった
 輝は女という生き物に、ようやく気付き始めた
 得体の知れない、底なし沼に似た恐ろしさを感じ
始めていた
 つい先っき、自分の腕の中で・・・燃え尽きたと
思っていたのに
 それが、今、再び。
 女は自分の中に居る魔物によって、どんどん成長
していく、それに較べれば男なんて、なにも成長し
ない。

 輝は、自分の名前を呼ぶ妻の声で我に帰った。
 短い声とともに、彼女の身体が仰け反り、一瞬、
硬直する。輝は慌てて彼女の背中に回していた手に
力を入れ、強く抱きしめた。
 その瞬間、輝は例えようのない愛しさを感じる
 魔物でもいい、何でもいい。僕は・・・僕は、未沙
に溺れる。
 輝が未沙の胸に顔を埋ずめた。
 

「さざ波」編

2008-10-04 22:01:53 | ゆばさんに捧げる 妄想トンデモ劇場
   (9月22日のイラストより)  「萌えおぼ」      
      「さざ波」 

 「こいつったら、いったい何考えてんのかしら、済ました顔し
て」
 未沙は輝の指の結婚指輪を見て思った。
 「昨日のあれは、許せない」
 少し酔ったような若い女の肩を、しっかり抱きながら歩いてい
た輝、夕方の悪夢。
 「どういう事・・・」
 もう一度、指輪が目に入った。
 未沙は、輝の腕を邪険に振り払うと、輝の前に立ち塞がった。
 「輝、昨日のあれは一体」
 その時、未沙の後ろで若い女の声がした。
 輝の顔が、優しい笑顔に変わる。
 「昨日は、どうも有り難うございました、探してたんです、貴方
の事」

 道端で具合の悪くなった彼女を、病院まで送って行った、ただ、
それだけの事だった。
 「昨日のあれって何なの?」
 彼女が去ると、輝が未沙を向いた。
 「昨日のあれって・・・、あ、ほら、昨日遅かったでしょ、帰りが。
お料理冷めちゃうし、そういう時は電話してよって」
 「何だ、そんな事か、御免、御免」
 未沙が輝の腕を取って歩き出した、
 「昨日は輝の好きな物、一生懸命作ったのよ、それなのに」
 「悪かったよ、未沙。でも、あんな怖い顔すんなよ、昔を思い出
したじゃないか」
 「御免なさい、輝」
 再び、輝に肩を抱かれながら、未沙は歩いた。
 輝の鈍感に、ほんの少し感謝しながら。