「冒険者たち」
ロベール・アンリコetフランソワ・ド・ルーべ
作品と監督、音楽家に感謝を込めて。
僕達の世代の男は、皆、レティシアが眩しかった。
そして、ローランとマヌーの男の友情に憧れていた。
桜陰堂
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(1)
晴れた空の下、長い髪をなびかせて、未沙がジープを走らせている。
初夏のマクロスシティ、郊外へ向かう長い直線道路を、未沙の運転するジ
ープが140kmの猛スピードで突っ走ってる。
行先は遠くに見える黒い森の向こう、スワン飛行場。
(まったく・・・、飛行機の事になると、まるで子供なんだから、輝は)
そんな事を思いながらも、未沙の顔は微笑んでいる。
隣の助手席には、輝の代わりに二人分の昼食と飲み物が入ったバスケット。
遥か彼方の森まで続く緑の平原を、カーキ色のジープが只一台駆けて行く。
「輝、どうしたの・・・」
ベッドを出る気配を感じて、未沙が目を開けた。
「うん、ちょっとね・・・、俺、先に行っててもいいかな」
「先って、今、何時?」
「5時を回ったところ」
「ねえ、輝、私も少し早く起きるから・・・一緒に行きましょ」
「未沙はゆっくり寝てて、お弁当作って予定通りでいいから。未沙を乗っける
前に、ちゃんと自分で整備したいんだ」
「私、どうやって行くのよ、車、一台しか借りてないのよ」
「俺、自転車で行くから」
「スワンまで30キロ以上有るわ」
「平気だよ、30キロなんて」
そう言うと、輝は未沙を置いて、そそくさと部屋を出て行った。
彼方の黒い森の上を、小さな飛行機が飛び越えて来た。
飛行機はそのまま地上近くまで降下すると、一直線に未沙の車へ向かって
来る。
まるで絵本の中に出てくるような、古めかしい銀色の複葉機。
未沙がクスッと笑った。
「今日さ、訓練飛行の帰りに複葉機、見かけたんだ」
勤務から帰ってきた輝が、開口一番、未沙へ言った、
「複葉機?今時、そんなの有るの?」
「俺も吃驚してさ、帰ってから調べたんだ」
「それで、遅かったのね、輝」
「スワンに有る教習所の持ち物だった、教習所の所長が練習用にって趣味
で作ったんだって」
「まあ、電話までしたの?」
「ああ、ちょっと懐かしくてね」
「呆れた!」
あれから一ヶ月。
輝が所長と掛け合い、一日だけ借りられる事になった。
「ピクニックがてら、お弁当持って二人で空を飛ぼうよ」
「未沙の操縦訓練にもなるしさ、もう、随分、操縦桿握ってないだろ」
「何とか晴れてくれないかな、二人でノンビリ空を飛ぶなんて、初めてだよ
ね」
この所、ずっと輝は子供のようにはしゃいでいる。
楽しそうにしてる輝を見て、未沙は嬉しくもあり、呆れもしながら、少しだけ
淋しい気もしてる。
「私より、飛行機なの・・・?」
ブォーン!!
未沙のジープのすぐ横を、輝の複葉機が超低空で飛び抜けて行く。
機首を上げ、宙返りをするように高度を上げるとクルッと半捻りして、今度は
未沙の車を追い駆ける。
疾走する未沙のジープの後ろへ、輝が近付いてくる。
少しスピードを緩めながら、振り返る未沙。
操縦席には、いつもと違う皮ジャンと飛行帽を被り、白いマフラーとゴーグル
を着けた輝が、こちらへ向かって手を振っていた、口元が笑っている。
未沙も笑いながら、手を振り返す。
軽く敬礼しながら、輝が未沙の横をすり抜けて行く。
その輝に、未沙は可笑しそうに敬礼を返した。
じゃれ合うように輝の複葉機と未沙のジープが、緑の平原を駆けている。
未沙の右を、次には左を、未沙の上を跳び越えて行く複葉機の車輪は、未
沙が立ち上がれば手が届く程だった。
再び、未沙の左傍を飛び抜ける時、輝は一杯まで速度を落としながら大声
で叫んだ、
「飛行場で待ってる!!」
勿論、聞こえはしないが、未沙には「待ってる」という口の動きが解った。
大きく頷く、未沙。
それを見ると、複葉機は高度を上げ、森の向こうへ遠去かって行く。
未沙の目の前には、いつの間にか大きな森が迫っていた。
「また、危ない事を」
「脇見運転だって、危ないと思うよ」
「誰がさせたの?」
何も言わず、輝が笑う。
そんな輝に、バスケットを差し出す未沙。
「はい、お弁当」
「ありがとう」
バスケットを受け取ると、輝は未沙の腕を取り、滑走路脇の駐機場へ引っ張
って行く。
そこには、つい先っきまで空を駆けていた証のように、熱気を含んだ二枚羽
根の複葉機が腰を下ろしていた。
「本物、初めて見たわ」
未沙が思わず呟く、
「ここの人達が総出で作ったんだって、心がこもってるのかな、すごく素直で
癖の無い飛行機だよ」
「輝、昔、こういうのに乗ってたんだ」
「俺が初めて乗った飛行機さ、オヤジや先輩に乗せられて、これで操縦を覚
えたんだ」
「ふふ、目に浮ぶわ、子供の頃の輝が・・・、あ、ゴメン、辛い事、思い出させ
て」
「今じゃ、みんな、掛け替えのない思い出だよ、未沙」
そっと、未沙が翼に触れる、
「バルキリーに較べて、柔らかい感じがする」
「そうだろ、やっぱ、飛行機はこうでなくちゃ。さ、早く未沙も着替えて、二人
でこれを飛ばそう」
再び、輝が未沙の手を引くと、小さな飛行場の小さな建物へ向かって歩き出
した。
ロベール・アンリコetフランソワ・ド・ルーべ
作品と監督、音楽家に感謝を込めて。
僕達の世代の男は、皆、レティシアが眩しかった。
そして、ローランとマヌーの男の友情に憧れていた。
桜陰堂
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(1)
晴れた空の下、長い髪をなびかせて、未沙がジープを走らせている。
初夏のマクロスシティ、郊外へ向かう長い直線道路を、未沙の運転するジ
ープが140kmの猛スピードで突っ走ってる。
行先は遠くに見える黒い森の向こう、スワン飛行場。
(まったく・・・、飛行機の事になると、まるで子供なんだから、輝は)
そんな事を思いながらも、未沙の顔は微笑んでいる。
隣の助手席には、輝の代わりに二人分の昼食と飲み物が入ったバスケット。
遥か彼方の森まで続く緑の平原を、カーキ色のジープが只一台駆けて行く。
「輝、どうしたの・・・」
ベッドを出る気配を感じて、未沙が目を開けた。
「うん、ちょっとね・・・、俺、先に行っててもいいかな」
「先って、今、何時?」
「5時を回ったところ」
「ねえ、輝、私も少し早く起きるから・・・一緒に行きましょ」
「未沙はゆっくり寝てて、お弁当作って予定通りでいいから。未沙を乗っける
前に、ちゃんと自分で整備したいんだ」
「私、どうやって行くのよ、車、一台しか借りてないのよ」
「俺、自転車で行くから」
「スワンまで30キロ以上有るわ」
「平気だよ、30キロなんて」
そう言うと、輝は未沙を置いて、そそくさと部屋を出て行った。
彼方の黒い森の上を、小さな飛行機が飛び越えて来た。
飛行機はそのまま地上近くまで降下すると、一直線に未沙の車へ向かって
来る。
まるで絵本の中に出てくるような、古めかしい銀色の複葉機。
未沙がクスッと笑った。
「今日さ、訓練飛行の帰りに複葉機、見かけたんだ」
勤務から帰ってきた輝が、開口一番、未沙へ言った、
「複葉機?今時、そんなの有るの?」
「俺も吃驚してさ、帰ってから調べたんだ」
「それで、遅かったのね、輝」
「スワンに有る教習所の持ち物だった、教習所の所長が練習用にって趣味
で作ったんだって」
「まあ、電話までしたの?」
「ああ、ちょっと懐かしくてね」
「呆れた!」
あれから一ヶ月。
輝が所長と掛け合い、一日だけ借りられる事になった。
「ピクニックがてら、お弁当持って二人で空を飛ぼうよ」
「未沙の操縦訓練にもなるしさ、もう、随分、操縦桿握ってないだろ」
「何とか晴れてくれないかな、二人でノンビリ空を飛ぶなんて、初めてだよ
ね」
この所、ずっと輝は子供のようにはしゃいでいる。
楽しそうにしてる輝を見て、未沙は嬉しくもあり、呆れもしながら、少しだけ
淋しい気もしてる。
「私より、飛行機なの・・・?」
ブォーン!!
未沙のジープのすぐ横を、輝の複葉機が超低空で飛び抜けて行く。
機首を上げ、宙返りをするように高度を上げるとクルッと半捻りして、今度は
未沙の車を追い駆ける。
疾走する未沙のジープの後ろへ、輝が近付いてくる。
少しスピードを緩めながら、振り返る未沙。
操縦席には、いつもと違う皮ジャンと飛行帽を被り、白いマフラーとゴーグル
を着けた輝が、こちらへ向かって手を振っていた、口元が笑っている。
未沙も笑いながら、手を振り返す。
軽く敬礼しながら、輝が未沙の横をすり抜けて行く。
その輝に、未沙は可笑しそうに敬礼を返した。
じゃれ合うように輝の複葉機と未沙のジープが、緑の平原を駆けている。
未沙の右を、次には左を、未沙の上を跳び越えて行く複葉機の車輪は、未
沙が立ち上がれば手が届く程だった。
再び、未沙の左傍を飛び抜ける時、輝は一杯まで速度を落としながら大声
で叫んだ、
「飛行場で待ってる!!」
勿論、聞こえはしないが、未沙には「待ってる」という口の動きが解った。
大きく頷く、未沙。
それを見ると、複葉機は高度を上げ、森の向こうへ遠去かって行く。
未沙の目の前には、いつの間にか大きな森が迫っていた。
「また、危ない事を」
「脇見運転だって、危ないと思うよ」
「誰がさせたの?」
何も言わず、輝が笑う。
そんな輝に、バスケットを差し出す未沙。
「はい、お弁当」
「ありがとう」
バスケットを受け取ると、輝は未沙の腕を取り、滑走路脇の駐機場へ引っ張
って行く。
そこには、つい先っきまで空を駆けていた証のように、熱気を含んだ二枚羽
根の複葉機が腰を下ろしていた。
「本物、初めて見たわ」
未沙が思わず呟く、
「ここの人達が総出で作ったんだって、心がこもってるのかな、すごく素直で
癖の無い飛行機だよ」
「輝、昔、こういうのに乗ってたんだ」
「俺が初めて乗った飛行機さ、オヤジや先輩に乗せられて、これで操縦を覚
えたんだ」
「ふふ、目に浮ぶわ、子供の頃の輝が・・・、あ、ゴメン、辛い事、思い出させ
て」
「今じゃ、みんな、掛け替えのない思い出だよ、未沙」
そっと、未沙が翼に触れる、
「バルキリーに較べて、柔らかい感じがする」
「そうだろ、やっぱ、飛行機はこうでなくちゃ。さ、早く未沙も着替えて、二人
でこれを飛ばそう」
再び、輝が未沙の手を引くと、小さな飛行場の小さな建物へ向かって歩き出
した。