桜陰堂書店2

ここは「超時空要塞マクロス」(初代)の二次小説コーナーです
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2009-05-04 22:29:55 | マクロス 序章
 「ガンサイト1より、スカル1へ」
 マクロス航空隊長、ロイ・フォッカー少佐の機へ、ブリッジから通信が入る、
 「こちら、スカル1」
 「敵は、右、中央、左に各50機、中央後方上空に更に50機、接触地点は、
エリアI、A6,B7ポイント、4分50秒後です」
 「2個師団対4中隊か、酷え戦さだな」
 「あらあら、戦う前からもう弱音、普段の貴方らしくもない」
 未沙の傍へ来た、クローディアが冷やかす、
 「統合軍も御苦労なこった、って言ってるだけよ、今夜は美味い酒飲ませて
貰うぜ、クローディア。ガンサイト1、了解」
 フォッカーが、通信を切り換える、
 「全機、今、聞いた通りだ。レッド、グリーンは俺の中隊の両翼へ散開しろ、
但し、余り拡がりすぎるな。イエロー中隊は高度を上げて、上から突っ込んで
来る奴を叩き落せ。敵は、数が多くても旧型機だ、VF-1の威力を見せてや
れ!」
 各中隊が、直ぐに指示通りの陣形に移る、
 「いいか、スカル、レッド、グリーンは、このまま敵中央を突破する、敵をやり
過ごすと同時に、ガウォークを使って急反転、敵の後方へ回り込め、B体形は
一瞬で済ませろ、グズグズしてると、敵の狙い撃ちだぞ」
 「了解!」
 威勢のいい応答が、次々と返ってきた。
 「こちら、ガンサイト1、会敵ポイントまで、後1分です」
 「ガンサイト1、了解。スカル、レッド、グリーン、全機、ミサイル発射用意、全
弾ぶっ放せ、少しでも数を減らすぞ」
 「レッド中隊、了解」
 「グリーン中隊、了解」
 彼我の差は、既に20kmを切っている。
 ・・・10,000・・・8、000・・・7、000・・・6、000、
 「今だ!ぶっ放せ!!」
 白い糸を引きながら、ミサイルの束が前方に拡がっていく。

 勿論、ミサイルは演習用に開発されたもので、接近し敵を捕捉すると、そこ
で爆発、粉々になる、ミサイルから放たれた信号を受けると、コック・ピット内
に設置された反応器にランプが点く。
 赤    破壊
 赤・点滅 大破
 黄    中破
 黄・点滅 小破
 それに伴い、機体からは、赤(戦闘能力なし)、黄(中破)、緑(小破)のスモ
ークが射出される仕組みになっている。又、強力なレーザー・ビームを、弾丸の
代わりに使用していた。

 「スカル、レッド、グリーン、速度をMAXへ上げろ、敵ミサイルを回避しながら、
突っ込め!」
 敵のミサイル群が、高速で近づいて来る。
 VF-1が運動性能を生かし、懸命に回避を試みる。
 敵も、マクロス側の中央突破を読むと、左翼の中隊を前のめりにバルキリー
に突っ込ませる、右翼隊は反転に警戒して、旋回運動に入ろうとしていた。
 敵、中央の50機は、VF-1のミサイルで一瞬にして12機まで減った、マク
ロス側も、45機の内、残ったのは33機。
 その33機が、一勢にガウォークで逆噴射、急反転して、敵の背後を衝こうと
する、そこへ、右翼隊が突っ込んで来る。一瞬、スピードに勝ったバルキリーが、
右翼隊の攻撃をかわす。
 上空では、下方の戦場へダイブする50機に、イエロー中隊がいいポジュショ
ンから攻撃を加える事に成功した。
 「レッド中隊は、敵、中央隊を追え!ここは、スカル、グリーン、イエローがや
る!!」
 バルキリーの各コック・ピットに、フォッカーの大声が響く。

 「あ、敵、左翼隊と中央の残存部隊が、こちらへ向かって来ます」
 レーダーを見つめたまま、ヴァネッサが叫ぶ、クローディアと未沙が、直ぐ反
応する、
 「左舷、守備隊、迎撃用意!」
 「イエロー中隊、第4、第5小隊は、レッド中隊と共に左翼隊の背後を襲え、第
1,2,3小隊は、そのまま、その場にて攻撃を続行!ブルー中隊は、防衛ライ
ンより前進、敵を挟撃せよ!」
 そこへ、再び、ヴァネッサの声が被さる、
 「早瀬中尉、パープル、ヴァーミリオンの中隊が敵に囲まれてます、敵、残数
60、こちらは、2中隊合わせて13機です」
 航空管制補佐の、シャミー少尉の甲高い声が続く、
 「パープル4より、増援要請!」
 「シャミー!被弾帰還機の数は?」
 「エリアIから8機、エリアEからは3機です」
 (再搭乗率25%だから、3機か)
 また、シャミーの声、
 「帰還中のヴァーミリオンの1機、墜落」
 (2機か)
 コントロール・パネルのスイッチを、未沙が押す、
 「パープル、ヴァーミリオンの各機へ。各機は出来る限り、敵に損傷を与えつ
つ、戦場を離脱せよ、繰り返す、各機、敵に損傷を与えつつ、戦場を離脱せよ」
 「こちら、パープル4、我々は敵に囲まれ、集中砲火を受けてる、離脱」
 無線が切れた、クローディアが、直ぐ、通信ボタンを押す、
 「艦首、艦尾のトマホーク隊、急ぎ、右舷へ移動せよ、時間がない、急げ!」
 残存機から、必死の声が入る、
 「離脱は無理だ!」
 「早く、増援を!」
 「寝ぼけた事、言うな!!」
 バチッ!
 未沙が無線のスイッチを切る、その指が、別のボタンを押した。
 「整備班、こちら、ガンサイト1、予備機の準備状況を知らせよ」
 「ガンサイト1へ、こちら、整備班。予備機10機、全て発進準備O.K」
 「ガンサイト1、了解」
 スイッチを切ると、未沙は、再びモニターを見上げた。

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2009-05-04 22:29:27 | マクロス 序章
 甲高いエグゾート・サウンドを残しながら、輝のファン・レーサーが、スタ
ートラインに突っ込んで来る。
 速度は、時速738km。
 「オール・ブルー、全機、クリア!」
 実況席から、ひと際大きい声が響き渡ると、直ぐ、満員のスタンドがどよ
めいた。
 A Roddy  +0.19
 B Curd   +0.58
 C Ichijo   +0.03
 ロディの0.19も凄いが、輝の0.03は、最早、神業に近い。時速730
km超で距離にして、僅か2、3mしかなかった。
 輝は、少しでもロディの先を取りたかった、ほんの僅かでも、先にシケイ
ンに飛び込み、得意の旋回テクニックで相手を離し、ロディやクルトを焦ら
せたかった。そこで、一か八かの勝負に出、+0.03の結果を得た。
 直ぐに、各機が急バンクして、シケイン・コーナーへ突っ込んで行く。シー
トにめり込むようなGに耐えながら、レバーとスロットルを動かす。
 「あ!!」
 第2ゲートを出た時、コック・ピットの上に、ロディの銀色の機体が見えた。
既に、10m以上、先行している。
 「凄え!」
 たちまち、第3ゲートが迫る、ジャンの声が聞こえた、
 「笑い話のネタだぜ」
 その声で、輝は、少し冷静になれた。
 第3、第5ゲートを通過しながら、輝はロディに、ジリジリと差を付けられ
て行く、クルトのブルー・シャークの機体も、直ぐ、上に迫っている。そのま
ま、右スピン・ターンから左スピン・ターン、そこで又、差が開く、既に、50
mは離されている。
 「クソ!どうすりゃいいんだ」
 コック・ピットの中で、輝が叫んだ時、ふと、フォッカーの声と共に、昔の
場面が甦った。フォッカーと二人、滑走路の脇で、自分達の複葉機を眺め
てた時の事を。

 「なあ、輝。飛行機の操縦ってのはな、ある所までは手取り足取り教え
られる、理屈もな、でもな、ある線を越えるとよ、そこから先は、感覚の世
界だ」
 「・・・」
 「その後はな、突入角度、加減速、フラップの使い方、全部、人のを見て
感覚で覚えるしかねえ。俺もそうだった、オヤジさんの後ろを、飛んで、飛
んで、厭がられる程な、下に居る時は、オヤジさんの飛んでるのを、喰い
入るように見てたっけ」
 「そんなもんですかね」
 「今に解るさ、そん時が来たら、好きなだけ飛ばしてやるぜ、俺の後ろを
よ」

 (そうか、あいつのやり方を見て、覚えりゃいいんだ)
 輝のファン・レーサーは、1周目、最後のゲートに差し掛かっている、機
体を、右50度からフラットに戻しつつストレート・ラインへ入った。80m先、
上空に、ロディの銀色の機体が、陽に照らされキラキラ光ってるのが見え
る、直ぐ上には、クルトのブルーの機体も。
 ストレート・ラインを進むに従って、クルトの機体が、徐々に中央のライン
から左側へ離れて行く。ロディも、少しずつ左へ寄るが、その幅は、クルト
の半分しかない。
 輝は、ロディのラインの下に入った。
 (このまま行ったら、レッド・ポールを、はみ出すかも・・・、でも、もう、行く
しかないよね)
 輝のファン・レーサーが、ロディを追い駆けながら、ゴール・ラインの上を
飛び抜けて行く。
 各機が、シケイン・コーナーへ向け、急バンクする。
 輝は、バンク角76度、速度510kmを取りながら、上を見た。
 ロディの機体は、もっと鋭角だった。
 (ありゃ、80度を越えてるよ、スピードも20kmくらい速い、あんなんで
突っ込めるのかよ)
 輝は、ロディのフラップが一瞬の内に、その、ほんの一瞬の中で、緩急
を付けながら流れるように持ち上がるのを、見たような気がした。
 実際に見たのは、1秒前後の事かもしれない、全部、本当に見たのか
も、よく解らない、それ迄だった、自分もシケインに突入しようとしていた。
 コントロール・レバーを一杯に引っ張る、案の定、センターへ寄り過ぎて
いた為、外側へ振られる、翼が、赤いレーザー光の中へ突っ込むのを感
じながら、辛うじてシケインを抜け出る、輝が前方を見ると、2機は遥か彼
方を飛んでいた。
 (しゃあないさ)
 輝は、2機の後を追う、遠く離れてしまったが、その目は、ロディの機体
を追い続けていた。

 ファン・レーサーが、大きく離されながら、メイン・スタンドへ戻って来た。
輝は、前回と同じラインを取って飛んでいる。
 (バンクは1度ずつ、速度は5kmずつ上げていってみるか、あの人が出
来るんだから、俺だって)
 輝の頭の中に、赤と白の機体が、バランスを崩し、木の葉のように舞っ
ていく姿が浮ぶ。
 「俺だって、いつまでも先輩の後ろを、飛んでる訳にはいきませんよ」
 先っき見た、銀色の機体の残像を追いながら、輝は、シケインに突っ込
む。
 コントロール・レバーを、いつもより、ほんの少しだけ速く引っ張ってみる、
瞬間、今迄より強烈なGが身体に掛かった。フラップ上げが急すぎたのか、
失速感と、足元の方へ強く煽られていく感じがする、慌てて、コントロール・
レバーとスロットルを操作しようとするが、腕に掛かるGで、思うように動か
ない。
 「クソッタレ!」
 思いっきり腕に力を入れ、2つのレバーとペダルを操る。
 機体の操作に必死で、関門を通過出来たのか、まるで解らなかったが、
輝の機体は、再び、翼を赤い光の中へ突っ込みながらも、外側ギリギリで
何とか通過していた。

 その後、9周、輝は、只、高速ターンを覚える為だけに飛んでいた。
 「角度とスピードと、フラップの動かし方だね、これは。それと、あのGの
中で動く筋力を付けないと」
 そう思いながら、輝は、何度も挑戦していく。誰も言ってくれないが、輝
の飛行センスは、すこぶる上等なのだ。
 最後のシケインでは、バンク角79度、速度518kmで綺麗にクリア出来
た。
 そして、この日のレースは終わった。

(8)

2009-05-04 22:28:49 | マクロス 序章
 「敵機、後退して行きます」
 ヴァネッサ少尉の声が響く。
 未沙がディスプレイを、素早く操作する。
 「早瀬中尉、追い掛けないんですか」
 甲高い、シャミー少尉の声、
 「残念だけど、こっちも弾切れだわ」
 そう言いながら、未沙が通信ボタンを押す、
 「ガンサイト1より各機へ、戦闘終了、全機帰投せよ、繰り返す、全機帰
投せよ」
 「こちら、スカル1、了解。これより基地へ戻る」
 フォッカーの声が返ってくる、それを聞くと、クローディアもコントロール・
パネルに指を伸ばす、
 「デストロイド各隊、戦闘態勢解除、その場にて暫く待機、次の指示を待
て」
 「了解!」
 各部隊からの応答が、次々とクローディアのパネルに入る。
 戦闘中、ずっと無言だった、グローバルの声がした。
 「キム君、マクロスの被害状況は?」
 「マクロスに、損傷は有りません」
 「クローディア君、地上部隊の損害は?」
 「こちらも、損傷は殆ど有りません、ファランクス2機とディフェンダー1機
に、数発、機銃弾が当たりましたが、搭乗員に怪我は有りません」
 「早瀬君、航空隊の状況は?」
 「現在、57機が帰投中、損傷を受けて、既に、帰還した機が12機、未
帰還機51機です」
 「ヴァネッサ君、後退中の敵の数は、何機だね?」
 「36、いいえ、37機です、艦長」
 「よし、解った。後30分は、このまま、警戒態勢を取るように」
 グローバルは、無表情のまま命令すると、立ち上がった。
 「私は、艦長室へ戻る、何か状況に変化が有れば、直ぐ連絡するように」
 そのまま、何も言わずにブリッジを出て行く。
 「何よ、あれ!「御苦労」の一言くらい有ったっていいじゃない。狸オヤジ」
 クローディアがぶつくさ言うと、キムが合わせた、
 「自分よりも、上手くやられちゃって、立場ないんじゃない」
 「そうかもね」
 これは、ヴァネッサ。そこへ、シャミーが口を挟む、
 「早瀬中尉、凄いわ!3倍の敵をやっつけちゃうなんて」
 「相手は旧型機、こちらはフォッカー少佐率いるバルキリーの精鋭部隊・・・、
でも、あれが、バルキリーと同等か、それ以上だったら、どうにもならないわ」
 クローディアが、未沙の席に来た、
 「それにしても、大したもんよ、撃墜263よ、マクロスは無傷だし」
 「ありがとう」
 少しだけ、未沙が表情を緩める、
 「あいつ、何機、落としたのかしら、今晩、また騒さいわ」
 「それ、オノロケかしら、クローディア」
 「そうよ、未沙。あんたも、その歳で、男の一人や二人居ないなんて、身体
に悪いわよ」
 「私の事は、御心配なく」
 「あんた、隙が無さすぎるのよ、いつまでも高嶺の花やってると、あっと言う
間に、オバンよ」
 クローディアのパネルを、未沙がチラッと見た、
 「クローディア、ディフェンダーがお呼びよ」
 慌ててクロディアが、コントロール・パネルに戻る、
 「ヴァネッサ、キム、シャミー、聞き耳立ててないで、ちゃんと仕事しなさい!」
 自分のパネルを見ながら、未沙が振り向きもせず、三人娘を制圧した。

(9)

2009-05-04 22:27:48 | マクロス 序章
 (もう、この時間なら大丈夫よね)
 ミンメイが、自室の電話機のダイヤルを押している。
 ピッ、ポッ、ピッ、パッ・・・。
 「あ、叔父さん。私、ミンメイ、お久し振りでえす、お元気ですか?」
 受話器の向こうから、叔父、鈴少江の陽気な声が聞こえてきた、
 「いよいよ、「マクロス」の進宙式なんですって?」
 「そうなんだよ、この前、兄さんに、みんなで遊びに来いって誘ったあるけ
ど、まだ返事なしね、どうなってるね」
 「それが、お店が忙しいらしくて・・・、あの、叔父さん、ちょっと、お願いが
有るんだ・・・」
 暫くの間、ミンメイの部屋から、楽しそうな話し声が続いた。


 第一種非常警戒態勢が解除され、残務処理も、ようやくピークを超えた頃、
ブリッジの扉が開いた。
 吃驚したのは、クローディア、
 「まあ、ロイ、珍しいじゃない、ブリッジへ来るなんて」
 フォッカーが、未沙を見る。
 「今日は、何機、落としたの?」
 再び、クローディア、
 「11機だ、旧型機相手の演習じゃ、気合が入らなくてな・・・、早瀬中尉、
ちょっと話が有る、会議室で待ってるから、時間を作って来てくれ」
 「少佐、5分、お待ち頂けますか、これを、急いで済ませなければいけませ
んので」
 未沙が、答える、
 「解った」
 そう言うと、フォッカーは、直ぐにブリッジを出て行く。
 「何なの、あれ」
 クローディアが、狐につままれたように言う横で、何事も無かったように、再
び、未沙が、パネルを操作し始めた。

 「早瀬中尉、入ります」
 「おう」
 中から、フォッカーの声が聞こえる。
 未沙が、ドアを開けると、フォッカーが、コの字型に置かれたテーブルの向
こうに、座っているのが見える。中へ入ろうとして驚いた、グローバルが中央
に座っている。
 「早瀬君、ドアを閉めたまえ、そして、そこへ座りなさい」
 未沙は、ドアを閉め、フォッカーの向かいの席へ座った。
 グローバルが、再び、口を開く、
 「私も、君に話が有ったのだが、フォッカー君が、君と話がしたいと言うので
な、まず、君達の話を聞こうと思ったのだ」
 「今日の、演習の事でしょうか」
 「そうだ、私は、何も言わず、ここで聞いている。早瀬君、私に遠慮せず、フ
ォッカー少佐と話し合ってみたまえ」
 「・・・」
 フォッカーが、グローバルへ向いた、
 「艦長、では、宜しいでしょうか」
 「ああ、存分にやってくれたまえ」
 また、フォッカーが未沙へ向く、未沙も、フォッカーを正面に見据えた。

(10)

2009-05-04 22:27:24 | マクロス 序章
 表情を変えずに、フォッカーが話し出す、
 「まず、今日の戦果だが、敵、300機の内、撃墜及び戦闘不能が263、
それに対して、当方は稼動、延べ123機、大破、中破を含めて、帰還機
69、喰われたのが51、マクロス本体は無傷、地上隊も、蚊に喰われた
程度、大勝利だな、早瀬中尉」
 「敵は旧型機、こちらはVF-1、しかも、フォッカー少佐を始め、1級のパ
イロットで編成された精鋭部隊、ですから、想定の範囲の数字だと思いま
す」
 「まあ、そう、謙遜するな、早瀬。これを大勝利と言わず、何と言うんだ」
 「・・・」
 「特に、俺の居た左舷方面。誘導も的確だったし、戦闘開始直後、相手
の動きと戦力比を計算して、イエローから2小隊引っこ抜き、レッドに加勢
させて敵を挟撃、相手にダメージを与えると、すぐに又、俺達の側面援護
に回す、素晴らしい手際の良さだったよ、他の指示も、完璧と言っていい
程、的確だった。さすがに噂に高いだけの事は有ったよ、中尉」
 「有難うございます、少佐。挟撃は、最初の一撃が大事だと思いました
ので、咄嗟に決め、実行しました」
 「うむ、まあ、そう云う事で左舷は100点、いや、120点だ、早瀬中尉、
さて、問題は、パープル、ヴァーミリオンの居た右舷だな」
 「確かに、パープル、ヴァーミリオン2中隊は、戦闘初期に被弾帰還した
2機を除き、全機、未帰還になりましたが、右舷は一発も被弾してません、
2中隊未帰還が問題と云う事でしょうか、少佐」
 途端に、フォッカーが大声を出した、
 「未帰還なんて、シャレた言い方をするな、早瀬!!全滅って言うんだ、
あれは!お前、何故、奴らを見殺しにした?」
 「パープル、ヴァーミリオン、両中隊共、開戦初期に中隊長機が撃破され、
ヴァーミリオンに至っては、副隊長機までが、ほぼ同じ時間にやられました。
結果的に両中隊共、戦力が落ち、敵の包囲を受ける事になりました。少佐、
お言葉を返すようですが、私は見殺しに等、断じてしてません。戦線離脱を
指示しています」
 未沙も、声を大きくして反論する、
 「お前、その離脱命令の時、「敵に、損害を与えつつ」と言ったそうだな」
 「はい、言いました。離脱するにしても、少しでも相手を減らして欲しかっ
たからです」
 「4倍以上の敵に囲まれて、そんな器用な事が出来ると、お前、本気で
思ってるのか!」
 フォッカーの声が、又、大きくなる、
 「言い方が、少し拙かったかなとは思います」
 「そう云う所は、実戦を知らない学校の先生だな、お前も」
 「それは、少し言い過ぎでは有りませんか、少佐」
 未沙が、キッとなった。
 「いや、俺は、そうは思わんね」
 「訂正を願います!」
 「断る!いいか、話はまだ続くんだ」
 フォッカーを睨み付ける未沙、構わず、フォッカーが話し出す、
 「パープル、ヴァーミリオンの救援要請に、お前は問答無用とばかりに、
無線をぶった切ったそうだな、何故、「無理なら、無理」と言ってやらない」
 「一刻を争う時に、水掛け論は出来ません!」
 「救援が出来ないなら、「残念ながら、救援出来ず、一刻も早く戦場を離
脱せよ」、どんな非常時でも、それを伝えるのが管制官の、お前の仕事だ
ろう、残された連中は、どう思う。戦いの中で、無我夢中の内にやられるな
らまだしも、母艦に見捨てられ、絶望の中で死んじまうんだぞ」
 「どんなに困難な状況でも、救援に行けない場合は有ります!」
 「そんな事ぁ、解ってる!だから、そんな時だからこそ、一言が必要なん
だよ。・・・それにな、今回は行けたはずだ」
 「ブラウン中隊から、2,3小隊を行かせても、戦力の逐次投入になり、各
個撃破されるのは目に見えてます」
 「教科書ではな、それは、2,3小隊だからだ、中隊丸ごと増援に行かせ
れば、別だ」
 「それでは、最終防衛ラインがガラ空きになります、まるでキーパーの居
ないゴールです」
 「航空隊はな、だが、キーパーは居る、強力な地上軍が控えてる。敵は
60機だ、中隊一つ投入すれば、直ぐに40機近くに減らせる筈だ、その程
度なら、ディフェンダーとトマホーク、ファランクスの二段構えで、幾らでも料
理出来る」
 「少佐、それは、敵が旧型機だから言える事です、もし、相手が同等か、
それ以上の戦力、例えば、我々の反応弾より強力な兵器を持っていたら
、どうするのです。私には、マクロスを守る使命が有ります、私の仕事は、
航空隊を使って、マクロスを守る事です」
 相変わらず、フォッカーを睨み付けたまま、未沙は強い調子で言い切っ
た。

 「我々は、お前の駒にすぎんのか?」
 冷ややかな声で、フォッカーが聞く、
 「そうは言ってません、只、最善の策を取れば、非情にならざるを得ない
時も有ります、特に、今回のような大軍が攻めて来た時は、マクロス本体
を、どう守るかが、私にとって全てです」
 「早瀬、お前は、そう思ってるだろうが、航空隊の連中は、そうは思わん
ぞ。ブリッジは、自分達が生き残る為に、俺達を見殺しにする」
 未沙が、血相を変えた、
 「そんな事は、絶対、有りません!!」
 「早瀬!それは、お前の頭ん中の世界だ!!」
 「・・・」
 「いいか、早瀬。バルキリー1機に1人の人間が乗ってるんだ、そいつら
には親が居て、女房、子供の居る奴もいる、恋人が待ってる奴もいる、た
った1枚の戦死通知・・・紙切れ1枚で、どれだけ、残された人間が悲しむ
か、お前だって、知らん訳じゃないだろう」
 未沙の中に、ライバーの面影と声が、瞬間、甦る。
 「それは・・・」
 少しの間、二人は黙り合った。
 「なあ、早瀬、お前は敵を、我々より優れた相手と想定して今日の戦さを
した。お前、それを、我々に伝えたか?「今日は、レベル・オーバーを想定
して、作戦運用します」って言ったか、どうだ?」
 「伝えませんでした」
 「何も知らない俺達が戦闘に突入する、いくら相手が旧型だって、あれだ
け数が多けりゃ無我夢中だ、余裕なんてコイてる暇は無い、そこで大軍に
囲まれて、どうにもならなくなった部隊が救援要請をする、ところが、ブリッ
ジは動かない、後詰めの部隊が居るのに救援してくれない、そればかりか、
問答無用で通信をぶった切る」
 「・・・」
 「実戦だったら、戦死通知の山だな、演習だから問題ないと思うかもしれ
んが、そうじゃない、同じくらい、タチが悪いぞ」
 未沙が、押し黙ったままになった。
 「墜落信号を受けたパイロットはどう思う、「俺の死が、マクロスを救った」
か、違うな、「これが、実戦だったら、オフクロどうすんだよ」、「もう、アイツ
に逢えないじゃないか」、「家のガキ、まだ、赤ん坊なんだぞ」・・・、そんな
とこだな。そこで、どうなる?生き残るチャンスが有ったのに、それを無視さ
れた連中とブリッジの関係は、それを知った、航空隊とブリッジの関係はど
うなる?「今日は、演習だから」で済むと思うか?早瀬」
 血の気が引いた未沙が、フォッカーを見る、
 「少佐!」
 「待て、早瀬、あと一言だけ言わせろ、今のお前の遣り方でいったら、今
日の大勝が、最後の勝利だぞ。早瀬、俺はな、今日、ここまで言うのは、お
前さんが優秀だからだ、今日、身に沁みて解ったよ、だから、解って欲しい
んだよ、管制官とパイロットにとって一番大事なものを。聡明なお前さんの事
だから、解ると思うがね」
 消然とした未沙が、上を向く、
 「少佐、バルキリーの人達と、話をさせて下さい、今日の事を説明させて
下さい、そこで・・・謝罪、したいと思います」
 ホッとしたような顔を、フォッカーが見せた、
 「中尉、今日はいい、今日は止めとけ、俺が連中に言っておく。こう云う事
は、少し頭が冷えてからでないと、余計、こじれる」
 「でも、少佐」
 「2,3日したら、俺から連絡を入れる、まあ、その時は、覚悟して来てくれ」
 「解りました、ですが、それで本当に宜しいのでしょうか」
 「ああ、それでいいんだ。焦るな、直ぐに結果を求めるな、「急いては事を
仕損じる」、お前さんの国の諺じゃなかったかな」

 「話は、終わったようだね」
 それまで、黙って腕を組んでいたグローバルが、二人に声を掛けた。
 フォッカーと未沙が、頷く、
 「早瀬中尉、私が言おうとした事は、全て、少佐が言ってくれた。中尉、戦
場では信頼関係が、何を置いても一番大事な事だ」
 「はい」
 未沙の声は、落ち着きを取り戻してる、
 「お互いを信じられない者達が、幾ら大軍を作っても、強い絆を持つ少数に
敗れる事は、いくらでも例が有る、まして、我々は少数だ、マクロス防衛のバ
ルキリーは120機に過ぎん。その少数の部隊に信頼関係が無かったら、ど
うなる。そんな軍隊は、誰と戦っても勝てんよ、そして、どんな精鋭部隊だって、
不断の努力で信頼関係を作っていかなければ、直ぐに、烏合の衆だ。それだ
けは、忘れないでくれ、早瀬君、私の言う事は、それだけだ」
 グローバルが、席を立った。
 フォッカーと未沙も立ち上がり、敬礼する。
 「私は、これからブリッジへ行く、君も後から来給え」
 軍帽を直しながら、グローバルが静かに部屋を出て行った。

(11)

2009-05-04 22:26:31 | マクロス 序章
 夕暮れが迫り出す滑走路、先程までの熱気と喚声は消え、今は、仮設ス
タンドを解体する音が聞こえる。
 近くの草叢に、昨晩と同じようにジャンが寝転がり、煙草を吸っていた。
 「明日は、シドニーですか?」
 輝が近寄りながら、話し掛ける、
 「ブリスベンだ、あいつが10日間、休暇を取ったんだと、ゴールド・コースト
でバカンスよ」
 「シドニーへ寄って、乗っけてけば、いいじゃないですか、ちょっと窮屈だけ
ど」
 「俺と二人乗りじゃ、アブなくて厭だと」
 「隣、座っていいですか?ジャンさん」
 「ああ、ここは自由席さ、どこへでも」
 ジャンの隣に、輝が座る。
 「ジャンさんの言ってた通りだ、凄いのが来ましたね」
 「・・・」
 「あ、僕、黙ってましょうか」
 「構わんさ」
 煙草を、ジャンが投げ捨てる。
 「お前は、どうすんだ?次のテキサスまで、間が有るぜ」
 「土曜日まで、ここに居ます」
 「こんな、ちっちゃな町に居ても、面白いとこなんざ無えぞ、お前、若いん
だから、メルボルンでも、シドニーでも行きゃいいじゃないか」
 「僕は、こういう町の方が落ち着くんですよ、ごちゃごちゃした所は苦手だ
な」
 「年寄り臭い事言うぜ・・・、俺は、ゴメンだね、こういう辛気臭い町は」
 「今度の日曜、南アタリアへ行って来ます、それから、日本へ行って、ラジ
エーターの交換をしてきます、ボロボロなんですよ」
 「好きだな・・・、VF-1を見に行くのか、お前」
 輝が、胸ポケットから、白い封筒を取り出す、
 「先っき、ここのスタッフから渡されたんですけど、昨日話した、僕の先輩
が、南アタリアに居るんですよ、何でも、来週「マクロス」って軍艦の進宙式
が有るから、「遊びに来い」って、招待状が届いたんです」
 「ふうん」
 「ついでに、そのVF-1とか云うやつも見て来ます、良かったら一緒に、と
思ったんですけど、特別な妹さんと一緒じゃね」
 そう言いながら、輝も寝転がった。
 「どっちにしろ、ゴメンだな、そんな、軍人ばっかの町は。ビキニの女が一
杯の方が、お似合いなんでね、俺は」
 「そんな・・・いつもの癖出すと、マズイんじゃないですか、勘がいい人なん
でしょ」
 「本当に、口が達者だな、お前って奴は」
 そこへ、別の足音が聞こえてくる、
 「クルトさん」
 珍しいものでも見るように、輝が言った、
 「どういう風の吹き回しだ、お前が、他人の所に来るなんて」
 「・・・別に訪ねて来た訳じゃない、散歩してたら、お前たちが居ただけだ」
 まるで、テノールのように綺麗な低音の声が、ジャンに向けられた、
 「お前さんも、あいつにショックを受けたクチか」
 それには答えず、黙って、ジャンの隣に腰を下ろす。
 可笑しそうに、顔を見合すジャンと輝。暫くして、クルトが輝を見る、
 「一条、お前、見掛けによらず、厭らしい奴だな」
 クルトの顔が、一瞬、ニヤリとしたような気がした。
 ジャンが輝に、耳打ちする、
 「お前、ロディの真似してただろ、下から見てたぜ、その事を言ってるのさ。
珍しいこったけど、ありゃ、アイツの褒め言葉だぜ」
 そのまま、三人は彼方の夕陽を眺めてる。輝が、思い切って、クルトに話
し掛けた、
 「クルトさん、次のテキサスまで、ドイツへ帰って静養ですか?一ヶ月、有
りますからね」
 ジャンが、クルトに代わって、呆れたように言う、
 「お前、馬鹿か。・・・何にも知らないんだな、まあ、その歳だからな・・・・、
いい時に生まれてるよ」
 ムッとする、輝、
 「何ですか、それ。「いい時に、生まれてる」って。僕、子供の時から、戦
争に追いまくられて・・・、アクロバット・チームの中で、生まれ育ったんだけ
ど、みんなで、折角、準備して、「さあ、明日はいよいよ」ってなると、爆弾、
落っこちてきたり、ミサイル飛んで来たりで、ロクな子供時代じゃ無かったで
すよ」
 「そういう意味では、そうかも知れんな。だがよ、俺達みたいに、いい歳を
して、戦争なんか有るとよ、それも、厭なもんだぜ」
 「へえ、そんなもんですかね」
 クルトは、まるで二人の話が聞こえないかのように、黙ったまま、夕陽を眺
めている。
 ジャンが、続ける、
 「いい歳をして、戦争に行かない、おまけに飛行機なんぞ乗り回してる、そ
りゃな、戦争やってても、周りが平和ならな、別に、どうって事じゃない」
 「・・・」
 「だがよ、あそこの息子が戦死、あっちの娘は、地球の裏側で戦死、街に
はミサイルが落っこちて来て、大勢の死人が出る。そんな時によ、のほほん
と、飛行機レースやってる奴が居れば、どうなる?」
 胸ポケットから、又、煙草を取り出し、火を点ける。白い煙を一つ吐き出した。
 「俺たちはよ、故郷(くに)には居られないのさ、企業のお抱えは別として、
フリーランスは、みんな、そうだぜ」
 相変わらずクルトは、表情ひとつ変えず、黙っている、
 「軍のパイロットも俺達も、ただ、飛行機が好きで、空、飛ぶのが好きで、あ
んまり、変わらんとは思うんだがよ、片や英雄、片や非国民さ・・・。だから、南
アタリアなんてゴメンだって、言ったのさ」
 そのまま、ジャンは押し黙る、夕闇が濃くなって来た。
 車の音がした、滑走路をジープが1台、こちらへ近づいて来る。
 キキッ!
 派手なブレーキ音を立てながら、輝達の前で止まった。
 「これは、御三方、仲の良い事で。・・・今更、「初めまして」も間抜けな話だ
から、ま、「今後共、宜しく」って、とこだな」
 それだけ言うと、又、ロディが走り出そうとした。
 輝が起き上がり、呼び止める。
 「ロディさん、ロディさんは、軍隊帰りって聞いたけど、ロイ・フォッカーと云う
人、知りませんか?統合軍で、パイロットしてるんですけど」
 ロディの顔が、能面のように無表情になった、
 「名前は知ってる、若いの・・・、一条とか言ったな」
 「ええ、一条輝です」
 三人を、ロディが冷ややかに見渡す、
 「あんたら、ここが、戦場じゃなくて良かったな、戦場で俺に会ってたら、今
頃、神様の国で井戸端会議だったぜ。速く飛びゃ、それで美味い飯が食える
ってのは、いい商売だな、これからも、しっかり稼がせて貰うよ」
 ジャンが、すっと起き上がり、三人が、ロディを睨み付ける、ロディも、三人
を睨み付けた。
 「一条、そいつの名は知ってる、だがな、良く覚えときな、俺は、反統合軍
だぜ」
 吐き捨てるように、それだけ言うと、ロディはエンジンを目一杯吹かし、夕闇
の中へ消えて行った。
 「何でぇ、アイツもハグレ鳥か」
 呟くように、ジャンが言う、
 「邪魔したな」
 クルトが立ち上がる。それを見上げた輝は、爪が喰い込む程、固く握り締
められた拳を見た。クルトが気付き、その手を開きながら、顔を叛ける。
 釣られるように、ジャンも立ち上がった。
 「輝、じゃあな、来月、テキサスで会おうぜ」
 二人は、そのまま肩を並べて、輝の元を去って行く。残された輝は、又、ゴ
ロッと横になった。
 見上げた空に、星が光り出していた。

(12)

2009-05-04 22:25:58 | マクロス 序章
 1日の仕事を終え、ほっとした頃、電話が鳴った。
 「もしもし、明謝楼ですが・・・、あら、少江さん・・・、えっ、うちの人、ちょっと
待ってて下さい、貴方!少江さんから国際電話よ、急いで」
 宝雄が、厨房から飛び出して来た、 
 「おう、少江。何ね?」

 「ミンメイ、先っき、少江叔父さんから電話が有ってな」
 鈴家の遅い夕食時、宝雄が話しを切り出す、
 「少江叔父さんから・・・、もしかして、「遊びに来い」って話?」
 そ知らぬ顔で、ミンメイが答える。
 (叔父さん、約束、守ってくれて、ありがとう)
 「ああ」
 「ねえ、お父さん、私、行きたい!叔父さん、叔母さんにも会いたいし、その
「マクロス」って、島みたいに大きな船も、見てみたいなぁ、ねえ、お願い、行
ってもいいでしょ」
 「まったく、あんたって子は、言い出したら利かないんだから」
 疲れたように、しげよが口を挟む、
 「少江に、横浜まで、迎えに出るとまで言われちゃ、断るのも何だろう、母さ
ん」
 「それは、そうだけど」
 ミンメイが、顔を輝かせる、
 「え、叔父さん、ここ迄、迎えに来てくれるの?」
 「ああ。でも、むこうも、今が稼ぎ時だからな、そこまでして貰う訳にはいか
んよ。ま、成田まで、カイフンに送って貰って、少江には、向こうの空港へ出
向いて貰う、それなら、大丈夫だろう」
 それでも、しげよが心配顔を崩さない、
 「お父さん、いいんですか、娘一人で行かせても」
 「一人と言っても、飛行機の中だけだからな、それ程、心配は要らんさ。こ
んなに誘われちゃあ、断れないよ」
 父の声に、ミンメイが飛び上がって喜ぶ、
 「有難う、お父さん、お母さん。行ってもいいのね」
 「ちゃんと、勉強道具、持っていくんですよ、向こうでは行儀良くしてね、変
な事したら、笑われるのは私なんですからね」
 「解ってます!やったね!!」
 嬉しそうに、ミンメイが餃子を口の中へ放り込んだ。
 「言ってる傍から、そんな、大口開けて・・・、あ、そうそう、先っき、こんなも
のが、ポストに入っていたけど」
 しげよがミンメイに、白い封筒を渡す、
 「わ、イートランド事務所からだわ」
 「何です、その、イートランド事務所というのは。お前、まさか、又、どっかの
オーディションに応募したの?」
 母が、問い詰める。
 それに構わず、ミンメイが封の中を見た。
 「やった!!今日はいい日だわ」
 「いい加減にしなさい、、ミンメイ、貴方、もう高校生ですよ。そんな、歌手に
なる夢なんか見てる場合ですか」
 「母さん、そんな、頭ごなしに怒鳴らなくても」
 恐る々々、宝雄が口を挟む、
 「貴方は、いつもそう、ミンメイに甘いんだから。貴方が言ってくれないから、
私が大きな声、出してんじゃない」
 「ごちそうさま!急いで、試験勉強してきまぁす」
 白い封筒を手に、ミンメイが、そそくさと自分の部屋へ戻って行った。
 バタン!!
 ドアが閉まる。
 「貴方!」
 しげよが、宝雄を睨み付けた。

 
 輝、未沙、ミンメイ。
 3人の時間が、進宙式に向け動き出した。

 

(13)

2009-05-04 22:25:31 | マクロス 序章
 4日後のAM11:00、成田空港。
 ミンメイが、従兄弟のカイフンと向かい合っている。
 「カイフン兄さん、送ってくれて、有難う」
 「気を付けるんだぞ、ミンメイ」
 「解ってるって、空港には叔父さんが迎えに来てくれてるし、大丈夫よ」
 ちょっと、言い難くそうに、カイフンが切り出す、
 「ミンメイ、オヤジとオフクロに、「俺は、元気でやってるから、心配要ら
ない」って、伝えてくれ」
 「うん、解った、必ず伝えるわ。じゃあ、行って来る、今日は、ありがとう」
 手を振りながら、ミンメイが出発ゲートへ消えて行く。
 それを見届ける、カイフン。
 視界からミンメイが消えると、クルッと背を向け、足早に歩き出した。

 -  ー  -  -  ー  ー  -  -  -  -  -  -  -  -

 いよいよ、進宙式前の最後の夜、時計は、もう直ぐ、当日の日付に変わ
ろうとしている。
 未沙は、自室の窓から夜空を眺めていた。
 火星が、見える。

 つい、小一時間前、全ての準備を終わらせ、部屋へ戻って来た。
 クローディアは、未沙より先に、そそくさと帰って行った。きっと、フォッカ
ー少佐の所だろう。
 急いで、口に何かを入れ、シャワーを浴び、夜着に着替えた。そのまま、
ベッドに倒れ込もうとして、カーテンの開け放しに気付き、窓辺へやって来
た。
 夜空を見上げる。
 火星を探す為に・・・。

 ねえ、ライバー
 私、やっと、宇宙へ行けるわ
 貴方に会う為に、ただ、それだけの為に、士官学校へ入ったのよ
 恋に、恋してる、少女だったのかしら、私も
 貴方は、「バカな事、するな」って、言ったけど・・・

 あれから、何年、経ったのかしら
 掛かり過ぎたわね、時間が・・・、余りにも
 御免なさい、間に合わなくて
 本当に・・・、御免なさい
 会いたかった、もう一度、貴方の声を聞きたかった
 あの、夏の続きを、貴方と一緒にって、何度も思ったわ
 それは、今でも

 私ね、 今度の航海でサラへ寄るのよ
 夢にまで見た、サラへね
 今はもう・・・ただ、辛いだけだけど
 それでも、貴方の居た場所で、貴方の暮らした場所で、貴方を想いたい

 笑う?
 「いつまでも、子供みたいだな」って
 そうね、貴方は、きっと笑う、きっと・・・


 貴方のいなくなった宇宙へ
 明日行くわ、待ってて
 ライバー

 未沙が、そっと、カーテンを閉めた。

(14)

2009-05-04 22:24:45 | マクロス 序章
 翌朝、南太平洋パラオ、コロール飛行場、AM6:00。
 赤と白のファン・レーサーが、滑走路に向かって動き出す。
 「さてと、それじゃ、先輩の顔を久し振りに、見に行きますか」
 そう呟くと、輝は操縦桿を握り直した。
 「ファン・レーサー、テイク・オフ、OK!」 
 「了解!」
 輝の左手が、スロットル・レバーを、グッと引く。
 みるみるうちに、ファン・レーサーが速度を上げる、操縦桿を引いた。
 赤と白の機体が、フワッと地上を離れる。
 柔らかなエンジン音を残して、輝を乗せたファン・レーサーが、薄曇りの、
北の空へ遠去かって行った。



 「司令、間もなく、デフォールド・ポイントです」
 ゼントラーディ軍、第67グリマル級分岐艦隊司令ブリタイの命令が響く、
 「全艦、戦闘用意のまま、デフォールドに備えよ!」 
 小柄なエキセドルが座ったまま、ブリタイを見上げた、
 「長い、フォールドでしたな」 
 「全くだ、どうせ、又、直ぐフォールドだろうよ」
 「さて、何が出るやら」 
 「残存部隊でも居てくれれば、暇つぶしになるのだがな」
 記録参謀エキセドルを見下ろしながら、ブリタイが笑う。
 「デフォールド、3分前」 
 指揮所に、コントロール・ルームからの声が響いた。                                           

  
                                「マクロス 序章」          







            長い話を読んで頂きまして、心より感謝申し上げます。
            ありがとうざいました。
                                 桜陰堂  H21.5.8                                                 








プロムナード

2009-05-04 22:23:34 | マクロス 序章














OP

2008-10-04 22:23:42 | MEGAROAD BALL
               MEGAROAD BALL
      
                    出    演
   
                   一 条  輝  

                   一 条  未 沙


                   ロ イ  フ ォ ッ カ -
 
                   ク ロ - デ ィ ア  ラ サ ー ル 
 
  
                   マ ク シ ミ リ ア ン  ジ ー ナ ス

                   柿 崎  速 雄

                   ヴ ァ ネ ッ サ  レ イ ア ー ド

                   キ ム  キ ャ ビ ロ フ

                   シ ャ ミ ー  ミ リ オ ム

                  
                   シ ュ ー ラ
                   ロ ー ラ ン
                   マ ヌ ー
                   看 護 婦
                   司 会 者


                   ト ー マ ス ・ J ・ ス ミ ス (友情出演)


                     協  力

                   メガロードシティの皆さん

                   メガロード01 乗組員の皆さん

                   メガロード・アーミー・バンド



                   原 作  「超時空要塞マクロス」

                   参 考  「Shall We ダンス?」
                          周防 正行 監督 (1996年)

                   Special Thank`s  理沙さん

                
                   作    桜陰堂




第一章「主席の女房は鬼より怖い」

2008-10-04 22:17:00 | MEGAROAD BALL
 「スロー、スロー、クイック、クイック、スロー、スロー、クイック、クイック」
 「ちょっと待ってよ、未沙。もう一時間ぶっ続けだぜ、喉渇いたよ、休憩、
休憩!」

 地球出航一周年メモリアルフェスティバル、夜の部。夕方6時から艦
内の全てのホール、公園及びあちこちの大通りで大掛かりなイベントが
催される事になっていた。各会場で歌ありダンスありサンバカーニバル
ありヨサコイあり、とに角、皆で陽気に騒ごうと云う企画だった。
 その夜、艦長夫妻はアーミーホールで開かれる大ダンスパーティ「M
EGAROAD BALL」に出席する事になっていた。問題はそのオープ
ニング、いの一番に輝が未沙をエスコートして踊り始める、と云う段取
りになっているのだ、しかもワルツを・・・。
 それが、二日後に迫っていた。

 「輝、だいぶサマになってきたわよ、きっと上手くいくわ」
 「そうかな、未沙はいいよな、子供の頃からお父さんに習わされてい
たんだから」
 「女のたしなみとか言われてね、士官学校でも習うのよ、社交の為の
時間が有るの」
 「あ~あ、お陰で家へ帰ってもこれだもんな」
 新婚気分の抜けない輝はここ一ヶ月、毎夜、未沙のレッスンを受け二
人の時間が持てない事にイライラしていた、おまけに右の親知らずが3
日前からズキズキしだしていた。
 「みんなの想像通りだよな、一条家はカカア天下で旦那は奥さんの尻
に敷かれてるって話、俺、これから素直に肯定しちゃうな」
 「そんな事ないわ、輝。私これでも一生懸命、輝を立ててるつもりよ、
今はたまたま、そういう状況なんだから仕方ないじゃない」
 「そうかな、考えてみると手を握ったのだって、告白だって、みんな未
沙の方が先で、やっぱり俺って未沙に釣り上げられたのかなぁ」
 返事が無いので、ふっとソファの後ろに立ってる未沙を見た。輝は慌
てて、
 「あっ、ご、御免」
 「輝・・・酷い事、言うのね」
 「あ、その、俺ちょっと疲れてて」
 「疲れてるのは私も同じよ、私がいつ貴方を釣り上げたの?、言って
みなさいよ、輝!」
 未沙の顔は、輝が初めて見る顔だった。
 「貴方、解ってるの!私がお掃除に来るの知ってるくせに、ミンメイの
ポスターは張りっ放しだし、あれ見て、私がどんな思いをするかなんて
考えた事ないでしょ、輝。デートすっぽかされて何時間も待ってた時の
私の気持ち、どれだけ考えた事があるの、浮かれてミンメイのマフラー
を私に掛ける人でしょ貴方って。どうして、そんな事いうの・・・酷い、あ
の日の事まで思い出しちゃったじゃない・・・、酷いわ、輝!」
 未沙は、あっけに取られてる輝を置いて寝室に走っていった。ドアを
開けながら又、未沙が怒鳴る、
 「輝、今日からそっちへ寝て、ここには入れないわ」
 バタン!!ドアが勢いよく閉まった。
 輝がドアの所へ行き、必死になって謝った、何度もいろんな言葉を
使って謝る、
 「うるさいわ、眠れないじゃない!」
 未沙の大きな声がした。
 売り言葉に買い言葉、この夜、輝は悪い星の下に居た、
 「解ったよ、人がこんなに謝っているのに。もう、勝手にしろ、パーテ
ィは君一人で出ればいい、俺は出ない。隊の連中とミンメイのコンサー
トでも言って来る!」
 ドアに何かがぶち当たった。



第ニ章「引かれ合う二人」(1)

2008-10-04 22:15:30 | MEGAROAD BALL
 「副長、時間ですので今日はこれで上がります、後を宜しく」
 「了解しました、艦長」
 スミス副長が敬礼しながら言った。
 未沙がブリッジルームを出ると、スミスが追ってきた、
 「艦長、ちょっといいですか」
 「何でしょう」
 スミスがニヤニヤしながら言う、
 「艦長、今日はどうしたんですか、今日の笑顔いつもと違うなあ、何が
有ったんです」
 「別に・・・、別に何も有りません」
 「それならいいんですけど、あれも近い事ですし」
 「ご心配には及びません、何も有りませんので・・・、では」
 未沙はくるりと背を向け、足早に廊下を遠ざかって行った。

 30分後、プライベートゲートから副長席へ電話が入った、
 「済いません、スカル隊の一条です。あのぉ、艦長はまだそこに居ま
すか」
 「少佐、僕は学校の先生じゃないんだよ、出席簿なんか持っちゃいな
いんだからね。ああ、でもね・・・今日は特別サービスで教えてあげよう、
30分前に帰られたよ。少佐、仕事中にこういう電話はいかんよぉ、いく
ら喧嘩中でもね」
 「副長、自分は喧嘩などしていません、誤解です」
 「それならいいけど、じゃあね」
 スミスが受話器を置くと、シューラ航海長が声を掛けてきた、
 「何なんです、今の電話?」
 「いや、何でもない、ちょっとね、ここんとこ暇なもんでね、からかって
みたのさ。あ、それよりシューラ君、今度の舞踏会、私とアン・ドゥ・ト
ロワどうかね?」
 航海長が副長席へやって来た、妙に艶かしい口調で、
 「副長、奥様に言いつけますわよ、でも、ボーナスが出るのなら考え
てみますけど」
 「あ~あ、グローバルの奴が羨ましい、優しいネエチャン達に囲まれ
て一年間だもんなぁ、僕は不幸だ」
 「オアイニクサマ」
 航海長が冷たく言って持場へ戻って行く、
 「何か考えんといかんかな」
 スミスが小さく呟いた。

 未沙は、そのまま部屋へ帰る気がせず街へ出ていた。飾り付けの
進んでる街の、いたる所にイベントのポスターが張ってある、商店も
それにかこつけて、あちこちでバーゲンをやっていた。いつもより多い
人混みの中を未沙は歩いていた。
 「解ってたのよ、貴方がイライラしてたの。私の悪い癖ね、何かやり
出すと熱中しちゃうの、輝がどんな気持ちか解ってるのに、一ヶ月、
疲れてる輝を休ませる事もしなかった。解ってるのに・・・相変わらず
ね、私って」
 そんな事も思うのだけど、あの時の輝の言葉が聞こえてくると、そ
んな思いは、すぐにどこかへ飛んで行ってしまうのだった、特に最後
の捨て台詞を思い出すと、どうにもいけない。
 パティシエの店「レティシア」、そんな看板が目に入った。
 「こんな時は甘い物に限るわ」、未沙が一人呟きながらドアを押そう
とすると、
 「大佐~!」
 後ろで聞き慣れたシャミーの声がした、振り返ると三人娘が立って
いる。
 ヴァネッサが聞いてきた、
 「どうしたんです、一人で?」
 「ちょっと、街を見てみたかったの、準備状況をね」
 「でも珍しいですね一人なんて、いつも少佐と一緒なのに」
 キムが言う、
 「私だって、偶には一人で街に出るわよ、いつも二人なんて事ない
わ、それに、もう結婚して一年よ、私達」
 三人が顔を見合わせている、
 「それより貴女達、ケーキでも食べない?私、ちょっとお腹が空い
たんで、ここへ入ろうと思ったの、奢るわよ」
 「ラッキー!今日はいい日だわ」
 シャミーが叫んだが、他の二人はまだ迷っている。そんな二人を
未沙とシャミーが引っ張るようにして4人が店へ入っていった。

 輝は街の中心街、フロンティア・ストリートを歩いている、さっき、シ
ティゲートの詰所へ電話した時、未沙がそこから出て行ったと知っ
たからだ。凄い人の混雑で輝は汗だくだった。
 「未沙に会わなくちゃ、会ってちゃんと謝らなくちゃ」
 今日は自分の出勤時間の方が早く、朝、謝る事が出来なかった、
仕事が終わってからと思っていたのだが、未沙に先を越されてしま
った、携帯も繋がらない、
 「昔の事、俺は過ぎた事だと思って少し軽く考えすぎてたかな。結
婚する前、一度謝った時、未沙が「いいのよ、もう、その話はよしま
しょう」って言われて、ちゃっかり、その気になっていたのかな、俺・・
・。そう云えばあの時、下向いてたよなぁ、あんな事言っちゃって傷
付いたよなぁ、デリケートだから・・・」
 一人でブツブツ言っていると、後ろから両肩へドン!と手を置かれ
た。吃驚して振り返ると右頬に指が突き刺さった、親知らず直撃だ
った。
 「痛えぇ!」、輝が堪らず、その場へしゃがみ込む。
 「マックス、掛けは俺の勝ち」
 輝が思わず叫ぶ、
 「馬鹿野郎!何やってんだ!痛てて・・・。柿崎、お前幾つになっ
たんだ、それが上官にする事か。それにマックス、お前まで一緒に
なって」
 「失礼しました、大隊長殿!」
 柿崎とマックスが姿勢を正して敬礼した、
 「おい、止せよ、こんな所で、みんなが見てるじゃないか」
 輝は立ち上がり、右頬を押さえながら逃げるように歩き出した、
二人が付いて来る。
 マックスが声を掛けてきた、 
 「隊長、待って下さい、一人でどこへ行くんですか?」
 「街の視察さ」
 「街の視察?変ですね、隊長らしくもない」
 「どうしてだよ、俺だってそれくらい」
 「変ですよ・・・」
 「何が」
 「・・・解りましたよ先輩!チャンチャンバラバラでしょ」
 「何だ、そのチャンチャンバラバラって?」
 「喧嘩ですよ、夫婦ゲ・ン・カ」
 柿崎が口を挟む、
 「隊長、本当ですか、そりゃ。で、原因は何です「艦長がモテすぎ
て」ってやつですか?」
 輝は動揺を悟られないように、わざと落ち着いた声で振り返りな
がら言った。
 「馬鹿かお前ら、TVの見過ぎだ」

 「結構、美味しかったわね、ここ」
 未沙が三人を連れ、後ろを振り返りながら店を出て来た。
 その拍子に二人がぶつかった。
 輝が奥歯を噛み締める、未沙のハンドバックが飛んだ。
 「キャッ!!」
 「痛てて、済いません。ゴメンナサイ」
 未沙が突き飛ばされ、大きくよろけ倒れそうになる、
 「危ない!」
 前の方で男の声がして未沙を抱き止めた、
 「有難う」
 未沙が思わず言うと、聞き憶えのある声が上からした。
 「大丈夫ですか?・・・おっ・・・あれま・・・、そこにポカンと突っ立
ってるのは輝じゃないか、お前、何やってんだ女房突き飛ばして」
 未沙が顔を上げた、
 「フォッカー空軍司令、クローディアも」
 「珍しい所で会うわね、未沙」
 クローディアがハンドバックを持って未沙の側へ来て言った。
 フォッカーがみんなに声を掛ける、
 「みんな、久し振りだから一緒に飯でも食おうじゃないか、俺達、
今、その途中なんだ」
 「いいですね、司令。お供しますよ」
 柿崎が真っ先に言うと、みんながその気になった。
 「僕は・・・」
 「私は、ちょっと・・・」
 輝と未沙が同時に声を出した、
 「おやおや、仲のいい事で。輝、いつからそんな付き合いが悪く
なったんだ、艦長も毎日二人で食べてんだから、偶にはいいでし
ょう」
 からかう様にフォッカーが二人に声を掛けた。

    「引かれ合う二人」(2)

2008-10-04 22:14:34 | MEGAROAD BALL
 表の喧騒を店の中へ移したように繁盛してる店で、マクロス組9人
が円いテーブルを囲んでいた、場所はフォッカーが予約してあった中
華料理店「娘々」。

 「どうしたんだ、輝、さっきからシケた面して、あんたら二人だけ黙っ
たままで、そんなに二人で食べたければ無理にとは言わん、帰っても
らって結構だ」
 マックスがすかさず、
 「司令、さっき柿崎と話してたんですけど、お二人、どうやらアレの真
っ最中じゃないかって」
 「アレって何だ?」
 シャミーの甲高い声が響いた、
 「ヤダー!大佐達、喧嘩してんですかぁ」
 「やっぱり」
 「どうも、変だと思った」
 三人娘が囃した、
 「そんな、喧嘩なんてしてません」
 未沙が強張った顔で真剣に答える、
 「未沙、貴女が嘘つく時って、妙に右肩が上がるのよね、昔から」
 クローディアがからかうと、輝がやっと反論した、
 「違います!僕も未沙も明日の事で頭が一杯なんです」
 フォッカーが思い出したように、
 「おお、輝、お前が真っ先に踊るんだってな、明日。TVも入ってる
し、そりゃ大変だ。まあ、艦長の晴れ姿だ、しっかりエスコートしてや
れよ、輝。そうか、それでか」
 「司令も出られるんでしょ、お二人で」
 マックスが聞いた、
 「ああ、出るぞ、お前達もみんな出るんだろ、賑やかな夜になるぞ、
明日は」
 「私、明日のドレスまだ決まってないのよ、どうしよう」
 ヴァネッサが困り声で言った。
 「僕はこの後、ミリアのドレスを受け取りに行かなきゃ、それで9時
から二人で体育館の最終レッスン、君達もそうだろ」
 「一ヶ月、長かったわ、でも、明日が楽しみ、いい男いないかなぁ」
 キムが言うと、シャミーが口を挟む、
 「貴女、男より料理が楽しみなクセして」
 「まあね、軍の男は毎日見てるしね」
 マックスが隣の柿崎に聞く、
 「柿崎君、あれから上達した?」
 「もう、バッチリ。体重だって二㌔痩せたんだぜ、ちょっとやってみよ
うか」
 柿崎が席を立ち、ワルツのステップらしきものを踏んだ。
 三人娘が吹き出す、フォッカーが片肘付いた手に顔を埋めた、
 「柿崎君、それで踊るの?壊れたバルキリーが盆踊りしてるみたい
だよ。それに、明日踊る相手、決まったの?」
 周りの反応に気落ちしながら、柿崎が席に着いて言う、
 「それが問題なんすよ、誰か可愛い娘居ませんかね、艦長?」
 「・・・」
 未沙は何も聞いていなかった。
 「艦長!」
 大きな声で柿崎が再び聞いた、

 「え?何?あっ、ええと私、チャーシューメン一つ」
 一瞬の沈黙が皆を支配した後、爆発した。マックスまで下を向いて
笑っていた、皆、大笑いだった、輝を除いて。
 「柿崎中尉、チャーシューメンと踊れって、艦長が言ってるわよ」
 ヴァネッサが涙を拭きながら言うと、
 「くっく、苦しい」、お腹を押さえながらキムが言った、隣でシャミー
が笑い過ぎてゼーゼー言っている。
 その時、バーン!と机を叩く音がして輝が立ち上がり怒鳴った、
 「何で、そんなに笑うんだ、未沙が可哀想じゃないか、辞めろよ、み
んな!」
 フォッカーが、まだ笑いながら言う、
 「そんな事言ったって、輝・・・、クッ、クッ、クッ、いかん、又、思い出
した、こりゃダメだ」
 また、激しく笑い出した。
 輝が血相を変えフォッカーの席へ向かおうとした、慌ててマックスが
輝の腰の辺りにしがみ付く、
 「先輩!止めて下さい!」
 店が静まり返っている。
 輝が少し正気に戻った。
 「マックス、済まん・・・、もう、大丈夫だよ」、そう言うと、静かにテー
ブルを回り未沙の席へ行った、
 「未沙、帰ろう、一緒に」
 未沙は輝の顔を見ずに軽く頷くと立ち上がった、輝が椅子に掛けて
あったハンドバックを取ると、
 「今日は、これで失礼します」
 誰に云うでもなく言い、未沙の肩を抱いて店を出て行った。
 「まったく、貴方って人は」
 クローディアがフォッカーを睨み付けた。

 表通りから一本裏の通り、ここも人通りは多かったが、さすがに表
通り程ではなかった。すでに輝は未沙の肩から手を離している。輝は
自分の心無い一言が、雪だるま式に未沙の心の傷口を拡げてしまっ
た事に動揺していた。
 「御免、未沙、あんな酷い事言っちゃって、反省してる。でも、こんな
言葉何にもならないよね、俺・・・どう言えばいいのか・・・解らない、君
にどう謝れば許してもらえるのか・・・本当に御免」
 未沙は何も答えず、ただ前を見て歩いていた。
 輝は堪らず、未沙の前に立ち塞がった、
 「未沙!本当に悪かった、俺の無神経にいつも君が合わせてくれて
たのに、本当に御免・・・、未沙、何か言ってくれよ」
 未沙が輝の顔を見た、淋しそうな目だった。
 「歩きましょう、少し」
 再び、未沙が歩き出した、輝が仕方なく後から付いていく。未沙が
ようやく口を開いた、
 「哀しかった・・・あんな事を言う貴方が、とても哀しくて悔しかった。
それに、貴方の事を考えずに突っ走ってく私も、哀しかった」
 「未沙、今度の事で君に悪い所なんて一つも無い、俺のいつもの無
神経が原因の全てだよ」
 未沙はそれに答えず、空を見上げ立ち止まった、
 「総司令が私に言ったわ、熱はいつかは冷める、問題はそれからだ
って。でもね、私はまだ醒めたくない・・・これからも、ずっと貴方と愛し
合っていたい。だから・・・、だから、もう、あんな事言わないで・・・二度
と言わないで・・・約束よ」
 「未沙、勿論だ、約束する。もっと大人になるよ、俺」
 未沙が空を見上げながら、大きく息をついた、
 「さっきは有難う、嬉しかったわ」
 「未沙・・・」
 「歩きましょう、少しお互い頭を冷やした方がいいみたい、歩きなが
ら」
 そう言うと未沙は又、歩き出した。輝が慌てて後を追いかけ、そして
未沙の手を握った。
 二人が夜の道を並んで歩き出した。
 
 

第三章「一撃必殺」

2008-10-04 22:12:54 | MEGAROAD BALL
 その少し前・・・。
 
 「シューラ君、10分ばかり副長室へ行って来る、後を頼むよ」
 突然、スミスがそう言うとブリッジを出て行った。
 スミスは副長室のドアを閉めると、真直ぐデスクの上の受話器を取っ
た。
 「さてと」、そう言うとボタンを押した、
 「総務のマヌー大尉を・・・、あ、マヌー君か、悪いんだが至急調達して
欲しいモノがあるんだ。ちょっと倉庫に無いモノ・・・居るかもしれんが、ま
あ、いい。至急コクローチを2~3匹捕獲して持ってきて欲しい」
 マヌーが思わず聞き返した、
 「え、何ですって?済いません聞き間違えたようです、副長、もう一度
仰って頂けますか」
 「聞き間違いじゃないよ、コクローチ3匹、至急、出前してくれたまえ」
 「申し訳有りませんが、理由をお聞きしてよろしいでしょうか」
 「理由は言えん、緊急且つ極秘の作戦遂行に必要なのだ、宜しく頼
む」
 マヌーの声が変わった、
 「はっ!了解しました。直ちに総務課全員出動致します」
 電話が切れると、スミスは溜息をついた、
 「この作戦、上手くいけばいいのだが」

 「俺、ちょっと医務室へ行って薬貰ってくるよ」
 シティゲートから戻ると、輝が直ぐに言った、
 「御免なさい、私ちっとも知らなくて、親知らずが痛んでいたなんて」
 「昨日迄、それ程じゃなかったんだよ、明日朝、先生に抜いてもらえ
ば夜には間に合うさ」
 「ご飯、食べられないわよね、それじゃ、どうしよう」
 「栄養剤でも飲んでおくさ」
 「大丈夫?それで・・・」
 「大丈夫さ、一日位。それより痛み止めが効いてきたら、ちょっと最後
の所のステップ、練習したいんだ、未沙、付き合ってくれる?」
 「止めて、今日は安静にしてなきゃ。それに、輝、もう今迄の練習で大
丈夫よ」
 「でも、ちょっと不安なんだ。2,3回でいいからさ、ね、後で」
 そう言うと、輝は急いで医務室へ向かって行った。

 未沙が部屋に戻ると程なくしてチャイムが鳴った、未沙が急いでドア
を開ける。
 「スミス中佐」
 ドアの前には書類と花束を持った副長が立っていた、
 「艦長、済いません、こんな時間に」
 「いえ、まだ、こんな時間ですから気にしなくて大丈夫です、何か起こ
りましたか?」
 「いえ、艦の方は何も。ただ明日のパーティの曲目が正式に決まりま
したので、曲のリストと順番表を持って参りました。艦長は一番最初に
中央フロアで踊られる訳ですし、一応、曲は少しでも早くお解りになって
いた方が良いと思いまして」
 そう言うと、簡単に綴じた薄い書類を未沙に渡した、更に、
 「私、先程、少し失礼な事を申し上げたような気がして、お詫びにこれ
をお持ちしたのですが、受け取って頂けるでしょうか」
 スミスは未沙に花束を差し出した。
 「副長、副長がいつも私の事を心配してくれているのは良く解っていま
す。だから、どうか、こんな気を使わないで下さい、私に間違った所、至
らない所がある時は、遠慮なく意見して下さい。私が副長のお陰でどれ
だけ助かっているか、良く解っているつもりです」
 「艦長、そう言って頂けて嬉しく思います、でも、これ、折角買って来た
ものですから、どうか受け取って下さい」
 「解りました中佐、ありがとう、こんなに綺麗なお花・・・。中佐、少し上
がって行って下さい、今、紅茶を入れますから」
 「艦長、お疲れでしょうし、明日の事も有ります、ここで失礼します」
 「中佐、私に遠慮は無用です、一杯だけでいいですから寄ってって下
さい」
 未沙がスミスを居間へ案内した、そしてスミスを座らせると急いでキッ
チンへ向かった。
 スミスは未沙がキッチンへ消えたのを確かめると、ポケットから少さな
皮袋を取り出し、ソファを傾け、その下へ例のモノを放り出した。そして、
ソファを元へ戻した。

 スミスは急いで紅茶を飲むと、 
 「まだ、仕事が有りますので」と言ってブリッジに戻って行った。
 間もなく、輝が帰って来た、
 「どうだった?」
 「うん、明日一番で抜いてくれるって、それ迄はこれ飲んで我慢してろ
ってさ」
 「可哀そうな輝、今、栄養剤持って来るわね、それ飲んでから薬飲ん
で」
 未沙がキッチンへ行き、やがて、お盆にフルーツと栄養剤を乗せて戻
って来た。その瞬間、
 「キャー!!」、悲鳴がして、お盆を放り投げた、
 「ゴ、ゴキブリ!輝、ゴキブリよゴキブリ」
 未沙が真っ青になっていた。実は未沙はゴキブリが異常な程苦手で、
ほぼ天敵と云って良かった、そして、それはブリッジ全員が知ってる軍
事機密だった。
 「ひ、輝、ゴキブリよゴキブリ、早く何とかして!輝!」
 「未沙、殺虫剤どこに有るんだ!?」
 「し、知らない、解んない!輝、早く何とかして、お願い!」
 輝は仕方なく、テーブルの下に有った新聞紙を丸めて追いかけた。
 バシッ!バシッ!何度か音がするのだが仕留められない、
 バシッ!ようやく仕留めると同時に未沙の突んざくような悲鳴が又、
上がった。
 「イャー!こっちにも居る!」
 輝が振り返ると、未沙が手にスリッパを持って振り回していた。
 そのお陰で、その黒虫が輝の方へ逃げて来た、今度は輝が迎え撃つ、
しかし、僅かの所で外すと、黒虫は再び未沙の方へ向きを変え飛んで
行った。
 「止めて、こっちへ来ないで!」
 未沙はスリッパを振り回しながら逃げ惑った、そして、その黒虫が未
沙の近くの壁に留まった。
 輝が急いで新聞紙を打ち付けようとする。その瞬間、背後で物凄い
殺気を感じた、思わず輝が振り向く、
 バシッ!バシーン!!
 壁を叩く音と、未沙が振り向いた輝の右頬をハードタイプのスリッパ
で張り倒す音が同時に鳴り響いた。
 輝は床に引っくり返って、声も出ず右頬を押さえていた。

 ほんの2、3秒、静かな間があった、未沙が正気に返る、
 「輝、輝!大丈夫、御免なさい!御免なさい、ねえ、何か言って!」
 未沙は慌てて輝を抱き起こすと、まだ、唸っている輝の手を退かし右
頬を見た。みるみる真っ赤に腫れ上がっていく、未沙が自分の柔らか
い手で優しく擦った。
 「御免、御免なさい、輝・・・大丈夫、ねぇ、大丈夫?」
 未沙が涙声になる、輝の口から血が零れてきた、
 「輝!死んじゃいや、死なないで!」
 未沙は、もう何が何だか解らなかった、輝の頭を膝に抱き泣き続けて
る。輝の小さな声がした、
 「タ、タイヨウフタヨ、ミサ、ホレヨリ、ハガ、ハガホレタ」
 輝が自分の口の中へ指を入れ、赤く染まった歯を一本取り出した。
 未沙が泣きながら言う、
 「輝、口開けられる?見てあげる、どこの歯が取れたの?」
 輝が「アタタ」と言いながら口を開けた、未沙が覗き込む、
 「親知らずよ・・・、輝、それ親知らずだわ」
 「ホカッタ・・・」
 未沙はまだ泣いている、
 「御免ね、輝。御免ね、痛かったでしょ」
 輝が精一杯の優しい顔で言った、
 「ミサ、ホレヨリ、ミズトコホリヲホッテキテ、ショット、クチヲユスヒタイ」
 「そうだわ、御免ね気が付かなくて、待ってて、すぐ持ってくるから」
 未沙は、輝の頭の下にクッションを当て、急いでキッチンへ走って行
った。 
 輝が小さく呟く、
 「ホカッタ、ホンホニ」

 こうして、二人の大喧嘩は無事?終了した。