つれづれよれよれ

2008-01-30 23:45:21 | 雑事
今週は大事な顧客へのプレゼンテーションがあったりと、心労が重なります。

営業になりたてのころ、バンドの先輩で営業マンだった人に、商談もプレゼンも、ライブと一緒だよと言われたことがあって、なるほどなと思いました。

客を楽しませながら、可能なかぎり、その場を支配する。まあ、ライブと同じようにいっこうに客がのらなくて、惨憺たる結果ということも、ままありますが。

吹かなくてもサックス首から下げてさえいれば、もっと落ち着いて勝負な商談に立ち向かえたりするのにな、と思ったりしています。

環境問題あれこれ

2008-01-28 23:52:38 | 雑事
ガソリン暫定税率継続の是非をめぐって政局と化した国会議論において、自民党はガソリン税の温暖化対策への貢献を思いついたかのように、振りかざしはじめました。出てきました、環境問題。現代社会のキングオブ正論、誰しも温暖化を防ぐという大義名分の前には跪かざるを得ないという意味で、まさにコーランにしてカノン、大日本帝国における大東亜共栄圏八紘一宇の思想ですな。

もちろん、本来的な意味においてはそのとおりだと思います。地球が住めなくなるのは困るし、文字どおり是非もなく是なわけで。でも、でもね、あらゆる反論をあらかじめ封殺するかのような、判断停止に持ち込むようなロジックはとても嫌な感じがします。権力はいくらでもロジックを横滑りさせますから、伝家の宝刀のような思想はまったく危険な気がします。環境問題は、思想であり宗教だと思いますよ。

狂信的エコロジスト集団の反捕鯨活動など、どう考えても常軌を逸しています。あの日本船に乗り込んできた武装集団はどうなったのでしょう。まったく欧米人のやることは訳が分かりません。さんざんぱら鯨油としてクジラを狩ってきたのにね。筒井康隆が言うように、まずは白鯨モビィ・ディックの物語でも発禁にしたほうが良いのではないでしょうか。

企業ステータスとしてのエコロジー。製紙会社の度重なる再生紙偽装は悪質である以上になんだか滑稽です。品質がとても良いモノを、再生紙と偽って売らざるを得ない現況。これ、紙さえろくに買えない国の人々はどう見るんでしょう。なんだかんだ言って、日本は裕福で、ただ単に環境問題に貢献しているという満足感が欲しいだけ、という気もしないでもありません。

クリスマスシーズン。新型LEDは従来型照明よりも電力を九○パーセント抑えられます。いや、だからさ、べつに生きるのに必須ではないのだから、そんな無駄な照明しなければ百パーセント削減でしょうが。なんだか絡んでいるみたいですよね。もちろん、華やかな無駄が人間に必要なのは心より認めます。でもアリバイ作りのようにそんなことを言って、エコロジーに配慮していますよ、というポーズがなんだか気持ち悪いんです。

一方で、京都議定書による排出権取引、金融証券化は環境問題を欲望の対象に置き換えます。CO2排出を抑えればそれを金に換えることができます。逆に、CO2をがつがつと排出したい国(企業)は、金を払えばそれが可能になります。しかもそれが相場のなかで売り買いされるしくみ。マイ買い物袋、マイ箸の地道な作業に比べれば、なんだか言語道断な制度のように思えますが、結局マイ~ブームが企業の仕掛けたキャンペーンに過ぎないとしたら、欲望の経済原則にそれを投げ入れる協定はよく考えられている気もします。

いずれにしろ洞爺湖サミットが近づくにつれ、環境問題はかまびすしく喧伝されるでしょう。正論と操作の二枚舌に踊らされぬよう、注意が必要かもしれません。

音楽予定、追加

2008-01-26 16:40:56 | 音楽
練習しています。あんまり時間がなくて焦っていますが。チンドン、ジャズ、沖縄に引き続き、ロカビリー、そのあと弾き語りの人とのフォークが入り、来週末から一ヶ月で五本もライブが入っております。それぞれ、違ったグループの方と演るので、曲のカブリはもちろんありません。全部で三十曲ぐらいかなあ。もう憶えるのは不可能なので、ほとんどはメモを見ながら演奏させていただくつもりです(ロック出身としては少々不本意ですが)。

というわけで、練習練習。いろいろなところで、いろいろな人と音楽が出来るのは、とても楽しみです。がんばりまーす。

『出版業界の危機と社会構造』(承前)

2008-01-24 23:46:09 | 書籍
いや、再販制度があるからこそ、淘汰のスピードが落ち、今日まで戦後から繋がる出版文化を延命できている、という見方ももちろんあるかもしれません。しかし無意味な延命よりも、凝り固まった制度の呪縛から離れ、出直す覚悟がそろそろ必要なのかもしれません、たとえそれが尊厳死になるとしてもです。東京にいる分には、出版文化の危機はあまり感じないのです。しかし、地方に生まれ、その土地の小さな本屋や古本屋で育った身からすると、帰郷の際、本をめぐるあまりに暗澹たる状況を目の当たりにするわけで、まったくこのままではいかんと思うのです。

『出版業界の危機と社会構造』でも、後半部分では社会構造の変化が取り上げられます。CCC(TSUTAYA)やGEOといったレンタル/リサイクル業と結びついた複合書店は駐車場を完備した郊外型ロードサイドビジネスを展開し、現在はニッパンや角川といった取次/出版社までを呑み込むまでに成長、台風の目となっています。ロードサイドビジネスといった意味ではブックオフも含まれるでしょう。そして大規模小売店舗法(大店法)緩和に伴うイオンなどの超大型ショッピングセンター内書店(未来屋など)と、ネット通販(アマゾン)が、これからの主流となりつつあります。

ここで述べられる風景の変化は、生まれ育った北関東の小都市社会における書店の変遷をそのまま表しています。一方、出版社は”新書”がブームとなると、どこもかしこもうんざりするほど新書を出しまくり、ディアゴスティーニのような付録付き週刊誌が売れるとなれば、大手小学館まで初回限定百何十円で参入したりしています。もう、なりふりなど構っていられないのでしょう。

文化の蓄積を目指すべき公立図書館は無料貸本屋と成り下がり、新聞は自身の定価再販売制度に飛び火するのを怖れ、再販制度の是非については箝口令を敷かれたように押し黙り、小さな本屋も出版社も取次もつぶれまくります。まったくこのままではいかんです。

『出版業界の危機と社会構造』 

2008-01-22 23:40:38 | 書籍
新年早々、斬新な視点としっかりとした企画で幾多のベストセラーを輩出した中堅出版社「草思社」、そして自費出版という新しい業態で躍進していた「新風舍」が相次いで経営破綻しました。警句に満ちたノンフィクションと社会問題を取り上げたまっとうな企画でも、また大風呂敷的な宣伝文句でアマチュア作家予備軍を広範に吸い上げ驚異的な出版点数で業界の間隙を縫う商法でも、もはや出版という商売は成り立ち得ないということなのでしょうか。

一九九六年以降、出版業界全体の売り上げは減少し続け、返品率は四十パーセント近い高水準を維持するという異常事態が続いています。一方で、出版点数そのものは、この十年間で六万点台から一気に八万点と三割増です。これを出版文化の多様化と捉えるむきは、やや楽観的に過ぎるように思います。返本制度内では、ひとまず本を出せば一時的にせよ金が入るというのが実情です。資金繰りに困る前に、とにかく本を出す自転車操業。結果、返品の山。出版社はますます苦しくなり、取次に残るのは不良債権。悪循環です。

小田光雄著、論創社、2007年。去年刊行されたこの本では、ニ〇〇〇年以降の出版業界の衰退がつぶさに語られます。少し前に取り上げた同著者の『ブックオフ~』はもちろんのこと、『アマゾン~』への言及もあります。一方で、街の小さな本屋さんがまったくの壊滅状態であることも、はっきりと認識させてくれます。早川義夫の経営したような店は、ほとんど日本には残っていないのです。

再販制度について、ニ〇〇一年公正取引委員会は当面のあいだ維持することを決定しました。政府の規制緩和方針のなか、十年にもわたる維持か廃止かの議論の末の結論です。日本書店商業組合連合会のほか文化人、作家まで巻き込んで廃止反対運動が盛り上がりました。彼らの要望が受け入れられた格好です。筆者も、漠然とですが出版界のためには、再販制度は維持したほうが良いと信じてきました。

その公取委の「著作権物再販制度の取り扱いについて」(『新文化』ニ〇〇一年・三・ニ九)という発表。「文化商品である本について経済効率の面から流通制度を考えることは不適当である。再販制度が廃止されると価格競争が激化して、書店の品揃えは売れ筋にのみに偏り、出版社は売れ筋のみを発行するようになる、また、地域の最寄りの書店が淘汰されたり、書店間の価格差が発生する結果、特に地方の消費者、高齢者、児童等に不利益を与えるなどの指摘が寄せられている」。

これは筆者の認識でもありました。再販制度の撤廃は出版文化を衰退させると。しかし上の文章は、まるで今現在の出版業界をそのまま描写しているようにも思えます。売れ筋に偏る出版は化け物ベストセラーを生み出し、書店はその売れ筋を軸に棚を構成する結果、どこでも同じ品揃えになる。特にその傾向は地方で顕著で、地方と中央の文化格差が進んでいます。いったい再販制度、そして返本制度は出版文化を護る役目を果たしているのでしょうか。

音楽予定

2008-01-20 23:57:36 | 音楽
一月前半は家に籠って本など読んでおりましたが、ぼちぼち音楽方面もエンジン始動しなければならなくなってきました。二月一週目はチンドン本番、こちらは高崎に泊まりがけのつもりです。二週目は身内の結婚式で博多へ、ピアノの人とジャズ演奏。三周目は太田のショッピングセンターでらふてぃーずさんと沖縄音楽を中心に演奏。三月に入ってからはレギュラーのロカビリーバンドでライブ。

そのほか、東京のジャズバーに行こうとか、浦和のお店に伺う予定もあったりと、嬉しいお誘いがたくさんです。ああ、練習しなきゃ。練習しなきゃ。

『ぼくは本屋のおやじさん』

2008-01-18 11:58:08 | 書籍
早川義夫、晶文社、1982年。またまた出版業界の話に戻ろうと思います。しかしながら、少々音楽も絡めて。著者の早川義夫は、六十年代の伝説のロックバンド、ジャックスのリーダーだった人物です。当時はほとんど評価されないままに解散、早川はスタジオで働きますが、やがて音楽から足を洗い、突然書店の店長となります。ご存知の方はとっても良くご存知の事実だと思います。

本屋になった理由は、もちろん本が好きだったこともあるようですが、きっとこの商売は銭湯の番台のように座っていれば良いと思った、と告白もしています。しかし当然のことながら、そのように甘いものではありませんでした。早川が疑心悪鬼の塊になるほどに悩まされたのは、ここでもさんざん取り上げている返本制度/再販制度でした。この制度下では本屋には取次(流通業者)から勝手に本が送られてきます。

もちろん、書店が発注することも可能なのですが、早川の店のような小規模店には客注分や定期購読の分まで、勝手に数が削られて搬入されます。客から催促され、ほとほと困り果てた彼は、神田の問屋街をうろつきまわったり、時には同業の本屋からお客の希望の品を買うことで凌がざるをえません。確実に売れると分かっているベストセラーものも数部しか届かない。

一方で、出版社の大型企画モノや、どう考えても不要な本は山ほど送られてきて、毎日何十箱も届く本のうち半分は即返品になるのでした。この文章が書かれたのは、おそらく七十年代だと思います。当時からこの調子だったのです。しかしながら、右肩上がりの成長のもとにあった当時では、逆に早川義夫のように揃えたい本があるといった欲を出さず、客は冷たくあしらい、売れない本はきっちり返本期日までに返せば、書店は経営できたのです。

そんな商売が面白いのか、と言えばもちろん面白くないに決まっています。しかし制度がそうなっていた。バブル崩壊後の不景気下でも出版業は確実に成長していた。が、二十一世紀に入り、成長が止まり、社会情勢が一変すると、街の小さな本屋さんは凝り固まった制度に捕縛され身動きもままならぬまま、倒産の憂き目にあうのでした。業界の話は、また回を改め続けるつもりです。一方、この本の文章はとても良い感じです。決してスマートな文体ではないのですが、なんともいえぬ味があります。

表現者としての矜持がにじみ出ています。「僕は思う。ものを書くという行為は、自分を正当化するためにとか、自分を売りこむためにとかいうことではない。書くことによって、もしかすると自分が不利になるような、自分の醜さがさらけ出されてしまうような、どんなに外に向けて書いたものでも、自分にはねかえってくるようなものでなければならない。どちらかといえば、書かなければよかったと思うようなものが、本来、書かねばならないことなのではないだろうか」

お気に入りの一節です。一九九四年、早川義夫は音楽活動を再開します。そして、上記の宣言を実践するかのような佳曲を次々と発表するのでした。

『黒幕 昭和闇の支配者 一巻』

2008-01-16 23:44:36 | 書籍
大下英治、だいわ文庫、2006年。せっかくなので、第一巻も取り上げます。こちらの主役は児玉誉士夫。右翼の大物として戦前より活動、戦中軍部の物資入手のための秘密機関である通称児玉機関を組織、その遺産が戦後の鳩山一郎らの日本自由党(現:自民党)の結党資金になったと言われています。しかし、今回はその児玉からはなれ、同じく右翼の大立物であった笹川良一を取り上げます。

笹川良一。戦前は国粋大衆党の総裁として、ファシストを標榜します。先日のテロ特措法の衆議院での再議決において、五十七年ぶり二回目、前回はモーターボート競争法と、でかでかと新聞で報道されました。実は、その一九五一年モーターボート競争法成立に裏から表から関わったのが、政界の黒幕的存在でもあった笹川です。彼は立法後、その利権の多くを手にします。

A級戦犯として巣鴨に収容されていた際に雑誌のグラビアでモーターボートを見たのが、きっかけだとのこと。当時の再議決の際には、小沢一郎の父、小沢佐重喜が衆院議院運営委員長職にありました。いっぽう、笹川良一の息子、笹川堯は今回の再議決では衆院議院運営委員長の立場にあります。時代はめぐるというか、血脈で日本は動くというか。

筆者ぐらいの年代の方は誰でも知っているのではないでしょうか。日本船舶振興会のCM、火の用心を呼びかけたり、「一日一善」を唱えたりする、あのおじいちゃん、あれが笹川良一です。モーターボート収益のほか、莫大な資産を抱え、CMもうち放題。右翼の大立物として政界にも隠然たる実力を持ち、マスコミでは一時期、笹川について触れることさえタブーだったようです。

さて、脈々とした流れにマスコミも加わりました。かのナベツネさんも若い頃、政治部記者の立場でありながら児玉誉士夫と懇意になり政界で暗躍、保守政界と強力なパイプを持つようになります。財界と利権と裏社会をめぐる関わりも相当なものがあるでしょう。そんな裏表を巻き込む激流の中、今年は政界に大きな変動がありそうです。さて、どうなることやら。

『首領 昭和闇の支配者 三巻』

2008-01-14 21:59:38 | 書籍
大下英治、だいわ文庫、2006年。以前に同じシリーズから児玉誉士夫をちょっとだけ取り上げたことがありました。今回は同シリーズから任侠界の大物、戦前から博徒として熱海を中心にめきめきと頭角をあらわし、山口、住吉とならぶ大組織を一代で作り上げた稲川会の大親分、稲川聖城です。

先日、九十四歳で大往生を遂げました。その生涯において、戦後の混乱期、愚連隊として暴れ回っていたモロッコの辰や井上喜人、長谷川春治、森田祥生らをその人徳で纏め、山口組、政治家、文化人らと交流を重ねながら、強力な一枚岩体制のもと関東一円どころか日本中にその影響力を及ぼすに至ります。まさに『麻雀放浪記』の坊や哲やドサ健の時代を生き抜き、束ねた親分さんだったわけです。

左翼運動華やかなりし六十年安保闘争の際には、自民党安保委員会の要請と、右翼の大物小沼正、児玉誉士夫の求めに応じ、機動隊と共闘する鎮圧隊を形成したとも言われています。また現在でも、横須賀に稲川組の地場があることもあって、選挙対策本部長が元組員であると言われるなど、小泉純一郎ともなかなか深い結びつきがあるようです。

山口組が美空ひばりなど芸能界と強力な繋がりを持つことは、つとに知られていますが(その流れは脈々と吉本興業に引き継がれます)、芸能界、政界と裏社会の繋がりには誠に確固たるものがあるのだと改めて感じます。このラインが急激に途絶えるわけもなく、思想色を脱色しているかにみえる現政界ももちろん、油断すれば生え際にとても濃い色が現れます。

『アマゾン・ドット・コムの光と影』

2008-01-12 23:54:36 | 書籍
横田増生著、情報センター出版局、2005年。アマゾンの日本でのサイトオープンはニ〇〇〇年。疲弊しきっている出版流通への革命者、あるいは再販制度に風穴を開ける黒船と、話題になりました。しかしながら、オープンから数年間はアメリカ本社のネットバブル崩壊に伴う業績不振などもあり、ひっそりと鳴りをひそめていました。

しかしそれは、極端な変化を怖れる日本の出版業界を、充分に意識した戦略であったのかもしれません。当初は、宅配便では日通、取次は大阪屋と各事業の二番手三番手と手を組んでいます。無理をすれば最大手との取引も可能であったでしょうが、そうなると千五百円以上の買い物での送料無料といったサービスを実現させる、有利な条件は引き出せないでしょう。

雌伏の数年のうちに、サイトコンテンツを充実させるとともに、顧客情報を丹念に収集します。日本での売り上げは公開されず、アメリカ本社より発表される海外部門の一部として推定するしかないのですが、それでもおそらく丸善、紀伊国屋といった書店トップに肩を並べると、現在では言われています。となると、ニッパン、ヤマト運輸といった最大手も黙ってはいられません。アマゾンにとって有利な条件で取引を開始せざるを得ないでしょう。

『光と影』では、業界誌ライターである著者が、アマゾンの中枢とも言うべき浦安のアマゾン物流センターにアルバイトとして潜入したルポルタージュです。時はニ〇〇三年、まさにアマゾンが雌伏の時期から立ち上がろうという年です。しかし、現場はピッキング(棚から個別に荷出しする作業)のノルマと、二ヶ月ごとの契約更新という、アルバイトにとってはがんじがらめに縛られた過酷なものでした。

一時期、物流大手で長期アルバイトをしていた経験が筆者にはあります。そこも過酷でしたが、まったく先の展望もなく、かつまさに子どもでも出来るまでにマニュアル化(ああ、ここでもマニュアル化!)された単純作業は、人の心を奪います。そしてそれこそが、アメリカ流というわけなのでしょう。

アマゾンのページを開くと、”~さんへのおすすめ商品”の文字とともに商品がずらずらと表示されます。おそらく、これは街の本屋さんの本来あるべき姿なのでしょう。しかし人同士の繋がりの最前線たる小さな書店では、返本制度と再販制度に搦めとられ続け、そのような対応が出来ないまでに疲れきっています。アメリカ式の非人間的経営と、電算機/ネットという機械のデータ管理のもとにおいて始めて、顧客の趣向に応じた人間らしい対応が出来るというのも、誠に皮肉なことであります。

再販という価格維持制度は、アマゾンの経営に利すればこそ害にはなっていません。ネット販売につきものの泥沼の安売り競争に足を踏み込まずに済んでいるのですから。本拠地アメリカでは、大幅な本の安売りという業態で旋風を巻き起こしたわけですが、日本では再販制度を利用できるかぎりは利用し続けるでしょう。

書棚を眺めるように書誌情報を検索し、ワンクリック人差し指を微かに動かすだけで、二十四時間以内に本が届く。さきのブックオフでは、話題のベストセラー、どこの本屋に行っても定価なのに、それが百円で手に入る。本を買うという経験が激変しています。業界は対応できるのでしょうか?

『ブックオフと出版業界』

2008-01-10 23:41:31 | 書籍
小田光雄著、ぱる出版、2000年。”新古書店”という名称で日本を席巻しているブックオフ。一九九○年神奈川に第一号店、その後ニ〇〇六年時点で全国に八六六店舗を展開しています。なお、良く似た外観のハードオフは、創業者同士の仲が良かったものの、資本関係は全くありません。

どこに行っても見かけますね、ブックオフ。むしろ、創業から二十年にも満たないのに、地方では”古本屋”=ブックオフのイメージで捉えられているのかもしれません。マスコミへの露出も多く、印象的なCMのほか、業界誌でもニュービジネスの旗手、成功起業家、出版流通革命、などといった刺激的な惹句とともに紹介されたりしています。

しかしながら『ブックオフと出版業界』では、そのようないわば神話を切り崩すことに主眼が置かれています。資料価値による古書評価、お客/売り手との濃密な交流といった伝統的な古書店経営手法を切り捨て、本の”きれいさ””新しさ”に絞った買い入れ/値付け。一時期出版界で悪評をかった表紙へのバーコード印刷は、奥付を見ることさえ知らないブックオフのアルバイトが、本の発行年を判断する指標にしたそうです。

そのような徹底的なマニュアル主義。あるいは”出版革命”を掲げる創業者と、パートタイマーから社長に就任したおばちゃんといった広告塔のぶち上げ。それらは、つまりフランチャイズという”儲かる”組織を運営するためだけの、手法であったと著者は言います。もともと不動産などを手がけていた創業者が、単なるリサイクル業として始めたビジネスの、さらなる拡大手法としてのフランチャイズ。それはロイヤリティやアドバイス料といった濡れ手で粟の金を集めるための、魔法の杖であったようです。

出版業界の新刊本大量断裁、それを掬いあげる(実際には掬いあげていないのに)エコロジーと結びつけた地球にやさしいといったスローガン。読者が欲しいものを、安価で提供するといった消費者重視主義のスローガン。結局、それらは大規模チェーンを運営するための(そしてやがて迎える株式公開のための)アドバルーンにすぎなかったようです。

そのような経営がこの先順調に発展するのか、はなはだ疑問ではありますが、一方でそのような経営者の参入を許し、実際に売り上げ面では出版社/取次/書店のトップクラスに悠々肩を並ばれるほどにしてしまう業界の脇の甘さには、反省すべき点が多々あります。現実に、断裁される本は年ごとに増えていますし、出版流通が動脈硬化を発症しているのは、ほぼ確かなことです。

再販売価格維持制度(再販制度)と委託販売制度(返本制度)、この出版業界のしくみが、現在でも有効性を持ち得ているのか否か。ブックオフは、本の定価は定められている(つまり安売りができない)という現状を生かし、それが除外される古本での大安売りを目玉にしました。いわば、制度を逆手に取ったわけです。

次回では出版業界では黒船上陸と怖れられながら、しかし同じように再販制度をうまく盾に取り、順調に業績を伸ばすアマゾンを取り上げるつもりです。

『青春デンデケデケデケ』

2008-01-06 19:56:15 | 書籍
芦原すなお著、河出文庫、1992年。時は一九六五年、四国の高校生、藤原竹良通称ちっくんは、ラジオから流れたベンチャーズ「パイプライン」のデンデケデケデケ~を聴いた瞬間、電撃が身体をつらぬくのを感じます。以来、彼はロックに取り憑かれてしまうのでした。軽音楽部でひとりロックにはまるギターの求道者にして魚屋の息子、白井との出会い。

さらに彼らは、寺の跡取りで身体の弱い父に代わって法事を執り行う(説教までたれる!)、トッチャン坊やのような富士男をベースに。のんびりやの岡下を強引に、ドラムに引き入れます。彼らは楽器を買うため、一夏をアルバイトに費やすのでした。淡い恋模様や、先生の急死、バンド合宿、みじめな初ライブを経て、彼らは高校三年の文化祭、バンドの総決算ライブを迎えるのでした。

ベンチャーズ、ビートルズはもちろんレイ・チャールズやロイ・オービソン、ラビン・スプーンフル、バーズ、さらにスウィンギング・ブルー・ジーンズ、チャック・ベリーは「ジョニー・B・グッド」!。古い音楽を愛する者として、とても嬉しくなる名前がずらずら並ぶとともに、それをリアルタイムに聴くことが出来た、この時代の子どもたちがとても羨ましくなってしまうのでした。

そして、作中設定では、彼らの上級生は「アロハ・オエ」や「アルプス一万尺」を演奏し、下級生はフォーク・ソングやグループ・サウンズに夢中です。多様な音楽が存在しえた六十年代は、やっぱりすごいなと思います。と同時に、バンドをやるということにおいては、今も昔も大して変わらないんだなあ、と妙に感心してしまいました。

さて、年末正月と酒をやたら呑んでは寝たりしていましたが、後半は家でじっくり本を読んでいました。「アマゾン」や「ブックオフ」の業界本なども読み終えて、あらためて出版社・取次・書店と再販/委託制度についても考えさせられました。これからの出版関連業界はどうなっていくのか。少しずつまとめていきます。