カメラを持って出掛けよう

仕事と音楽の合間に一眼レフとコンデジで撮った写真を掲載しています。

もうそろそろ

2021年09月11日 | 音楽
今月末まで延長され、オーケストラ活動や音楽活動は全て中止となってしまいました。
感染流行から1年以上経過して全容が判明して来た今日この頃、もうそろそろ特別扱いを止めて例年のインフルエンザ同様の扱いをすればいいのじゃないかなと思います。
もうこれ以上世の中を変えて欲しくはありません。






小説「Obralmの風」




岳は驚いて振り返るとそこには薄汚れたカーキ色の半そで軍服に、汗か油の染みが目立つ垂れ付の帽子を被った男が腕組みをして立っていた。
そして無精髭の生えた口元から厳しい言葉が吐き出された。
「貴様は英霊の遺骨に小便を引っ掛けるつもりか」
「い、遺骨?どこですか?」
岳は慌てて足元を見たが枯れたブッシュと雑草しか見えなかった。
「この地面には我が同胞の遺骨がいたるところに眠っているんだ」
「ここは墓場ですか?」
「馬鹿を言うな、ここは戦場跡だ。片付けられなかった遺体が累々と転がっているんだ」
「えっ、そ、そんな」
岳は思わず片足ずつ上げて再び足元を見た。
「それより、あなたはどなたですか?映画の撮影中でしたか?」
「そんな訳ないだろう!ワシはこの丘を守っておる」
「ま、まさか兵隊、いや兵隊さんの幽霊ですか?冗談は止してくださいよ。女の人の鳴き声が聞こえなくなったと思ったら今度は姿の見える幽霊なんて」
兵士は腕組みをしながら岳の足から頭までを睨みながら時計の針と逆方向に歩き出した。
「何を言っておるんだ貴様は」
「あの、その貴様は止めて下さい。私は久保岳と言います。あなたのお名前は?」
「ワシは伊藤だ。ここへ来る日本人の観光客の様子を見ていると本土は平和になったのだと安堵しているが、久保君そう思っていてもいいのか?」
岳は咄嗟にどう答えようかと迷った。
「何だ答えに困っているのか」
彼は岳を見ずにその場に屈み込んだ。
「えっ、私の心が読めるのですか?」
「まあそんなところだ。即答出来ない理由を教えてくれないか」
伊藤という亡霊は眉をしかめながら辺りの地面を眺めて呟くように言った。
「平和なのはおっしゃる通りですが、その反面個人の個が主張され過ぎてそれに個の欲が絡んでしまって、やりにくい世の中になっているのも事実です」
「そうか、人は欲には弱いものだからなあ・・・、我がままが横行しているというのか?」
「それより伊藤さん私と一緒に日本へ帰りましょう」
「久保君がそう言ってくれるのは嬉しいけが、そうはいかんのだ」
「どうしてですか?伊藤さんが幻影だからですか?じゃあ遺骨はどこですか?」
「大勢の仲間を置いて私だけ帰れるはずがないだろう」
「ここで偶然あなたに会ったのも何かの因縁ですし、もう戦いは終わったんです。あなたは自由になれたんですよ」
「これは戦中教育で洗脳されたと思っては欲しくはないが、人の道として自分だけが仲間を置き去りにして帰る訳には行かない。戦は終わってもこの気持ちは失いたくない。悪く思わんでくれ」
「だって、皆さん故郷へ帰りたかったんやなかったのですか?」
「ワシらはここでいい、敵味方が眠るこの地でいいんだ。それぞれの故郷とそこに住む大切な家族や恩師を偲んでここに眠っているんだ」
「何だか私までここに残りたくなってしまいますよ」
「馬鹿をいっちゃいかん、先ほどから聞いた今の日本が歪んでる道を少しでも正す為に戻ってくれ。ワシらの命と引き換えにした平和をいつまでも維持してくれ、それがワシ等英霊の悲願だ」
そう言いながら彼は立ち上がると風に揺れるブッシュの中に分け入った。
岳は思わず後を追うように立ち上がると、既に姿は見えないブッシュの向こうから大きな叫び声が聞こえた。
「来るな!」
果たしてこれが幻影なのか。
岳は伊藤を追ってブッシュを掻き分けて右足を一歩踏み出したところで硬直してしまった。
彼が消えていった場所は断崖の絶壁で足元には打ち寄せては波が白く砕けていた。
勢いよくブッシュを通り抜けていたら足は空を踏み、そのまま荒波の海面に転落していた。
岳はしばらくその場に立って波を見つめた。
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