カメラを持って出掛けよう

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母に残された時間

2022年08月14日 | ぼやき
私は事情があって生後1週間で産みの母と別れなければならなかった過去があります。
今から約30年前に一度探し当てた母と会うことが出来、それ以諸事情で降会うことが叶いませんでした。
今年になってようやく二度目の再会が果たせましたが、母は既に90歳を超える高齢になっていました。
再会して間もなく母は老人ホームに入居することとなり、再び会える機会がコロナ騒動によって奪われています。
母が高齢なら私もそれに準じて歳を重ねていますので二人にはそんなに長く時間は残されていません。
今まで別の人生を歩んできた親子がようやく話し合えることになったのに悲しいかな面談が許されません。
コロナ風邪のウィルスが弱毒化した今日なのにいつまで2類になったままなのでしょうか?
残された時間を惜しんでいるのは私だけでしょうか?



小説「Obralmの風」



岳はコツンと彼女の缶に当てて乾杯をした。
男の独り住まいを承知で泊まりに来た彼女と酒を飲む。
もし岳が豹変して男の欲望を強要したら彼女はどうするつもりだろう。
『そんな人とは思わなかったわ、最低!』と言い放って平手打ちをして出て行くか『やはり久保さんも世間の男共と一緒だったのね』と溜息交じりで開き直って身を任せるのだろうか。
しかし死期がそんなに遠くない自分にとっては倫理観よりも、生きることへの絶望感が勝っているのか淫らな欲望は湧いて来ない。
「どうしたんですか?急に考え込んで」
彼女はまるで岳の考えていたことを見透かしたように問いかけた。
「いや何でもないよ。それよりあの女性の泣く声は何やったんかなぁ。まさか二人とも幻聴に惑わされた訳でもなやろいし」
岳は淫らな妄想を払拭しようと話題を変えた。
「いや案外二人とも疲れていて同じ幻聴に悩まされていたのかも知れませんよ」
彼女は笑いながらビールを飲んだ。
「それより久保さんは今まで特定の女性は居なかったのですか?」
(やはり話はそちらへ行くか)
「さっきも言ったけど女性を家に招待するようなこともなかったし、友人程度で恋愛感情を抱いた女性は残念ながら居らんかったわ」
「じゃあ好きな女性は現れなかったんだ」
彼女は感慨深く何度も頷いた。
「そうや、考えてみたら心がときめいたり、身を焦がすような恋心は芽生えなかったわ。挙句の果てはこのまま人生の幕引きやなんてちょっとばかり寂しいけど仕方ないわ」
「ちょっとどころか、かなり悔いが残る感じですけど」
「ハハハ、それやったら美華さんが残された時間の恋人になってくれる?」
「ええ、別に構わないですよ」
「いや構わないって言ってもそんな簡単に恋が出来る訳でもないし、たとえそうなったとしても後が辛いだけやで。冗談だよ冗談」
岳はわざと明るく笑って見せた。
「でも久保さんはこのままで人生終わっていいんですか?」
「終わっていいかって、どうあがいても仕方ないやないか」
何度か小刻みに頭を縦に振ると彼女は意外なことを口にした。
「私しばらくここに泊めてもらってもいい?」
彼女は岳の心を模索しているかのように真っ直ぐな眼差しで見つめた。
「全然構へんよ。美華さんが居てくれたら部屋が明るくなったみたいやし、それに若いパワーを貰っているような気がして、願ってもないことやわ」
美華はそれを聞いて安堵したのか柔らかな笑みを浮かべた。
「じゃあ朝晩の食事は私が担当するわ。昼間はバイトに出掛けるけどね」
「ええよ、そしたら甘えさせていただこうかな」
岳は今までこの部屋になかった人の暖かさを感じていた。
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