7月の定期演奏会を目指して練習が再開した矢先に大阪のコロナ新規感染者増で再度練習活動が休止になりました。
まあ趣味の事だからいいけどプロの演奏家は大変だろうなと思う。
大阪の街へ出ても誰もがマスクをして各所には消毒設備も設けられ検温も実施され、的を得てるのかどうか知らないけど飲食店等の時短も強制されているのに、
あざ笑うかのように感染者数が増えているのは根本的に感染ルートの見誤りではないのでしょうか?
小説「Obralmの風」
店内には客の入れ替えはあっても減らず賑わっている。
こんなにも多くのサラリーマンが日頃のウサ晴らしや酒を介してのコミュニケーションに話の花を咲かせていることに岳は改めて驚いた。
岳もこんなところで常時笑いを絶やさず仲間たちと語り合っていたりしていたらストレスは随分軽減されて居たかも知れない、またしても来た道への後悔に包み込まれて行くのを覚えた。
本当に自分はこのまま都会の健常な営みの狭間に身を沈めながら朽ちるように命を終えるのであろうか。
岳は石田と別れてから肥後橋で小さな居酒屋を営んでいる同級生を訪ねた。
「おお、久保やないか久しぶり」
同級生の中島は満面の笑みでおしぼりを手渡した。
彼とは明子同様、小学校からの同級生であった。
「一昨日弓田が来たところや、惜しかったな」
「弓田ってあの腕白やった吉男のこと?」
「そうや、今では随分丸くなって、それに事業がうまく行っているんか結構羽振りがよさそうやった」
「そうか、それは懐かしいなあ」
岳がここへやって来たのは昔の仲間に別れ言うのが目的だったのかと、自問しながら苦笑した。
「おいおい、どうしたんや?気持ち悪いなあ思い出し笑いか?」
「いや何でもないよ、ちょっと昔を想い出したんや」
「それより久保、ちょっと痩せたか?悪い病気になってないやろな」
的を得たような問いに岳は一瞬たじろいだ。
「大丈夫や」
「ならええけど、ワシらはもう何があってもおかしない年代に足を突っ込んでるからなあ」
彼は何を思い出したのか、カウンター端の壁に架かっているカレンダーを繰った。
「おい、久保。九月の中旬に休みを取れへんか?」
カレンダーを見つめながら彼は言った。
「ああ、どうせ退職して暇してると思うから大丈夫や」
「えっ?退職?失業したんか?」
「いや、諸事情があって希望退職や」
「何や?その諸事情って」
彼は岳の名前をカレンダーの余白に書いた。
「また話すわ。それより9月にいったい何があるんや」
「また話すって、そんなに深刻なことなんか?」
ビールとグラスをカウンターに置くと真顔で岳を見詰めた。
「まあ今日はええやないか。9月がどうしたんや?」
岳は心の内を見透かされないよう笑顔で誤魔化した。
「いや、弓田が音頭を取ってサイパン島へゴルフに行かへんかとメンバーを募っているんや」
「サイパン?そらええなあ。是非仲間に加えておいてくれや。でも何でサイパンなんや?」
「よう判らんけど、得意先の旅行代理店からの斡旋らしいわ」
岳はサイパン島という日常からかけ離れた場所に多少の違和感を覚えた。
ともあれ懐かしい同級生との楽しそうな時間はこの世の名残には最高のイベントだと思った。
幼友達との再会や同級生と語らい、それらを想像するとこの世もまんざら悪くないと未練が残る。
無事退職を済ませた翌日、岳は朝から拘束のない時間を迎えていた。
今日から永遠にあの職場に足を運ばなくてもいい、そう思うだけで心が穏やかになる。
岳に職場は特別な悪環境ではなかった、確かに自分と合わない人々もいたがそれはこの世間で生きておれば大なり小なりあることだから仕方はないと自分に言い聞かせていた。
そんなことより毎日の積み重なる変化の無い時間の方がむしろストレスの原因だったかも知れない。
健常な体であればこんな生活は不安の方が先だって、のんびりと自由な時間を味わってはいられないかも知れない。
昼前になって携帯が鳴った。
電話の主は遠藤部長であった。
「今ええかな?さっき『吉井美華(よしいみか)』という若そうな女性から君宛あてに電話があったんや。ウチのお得意様かと調べさせたけどその名前は見当たらなかったんや。誰か心当たりはある?」
「さあ・・・誰かさっぱり判りませんわ。それで電話の用件はどんな内容でした?」
「それが言わへんのや『じゃあいいです』と言うて一方的に切れたんや」
「そうですか・・・、何か利殖の勧誘やないんかな」
「そうなんかなあ、何か妙な気がして君に知らせたんだや」
「それはありがとうございます。もし次に架かって来たら皆さんにご迷惑をかけたらあかんので私の携帯番号を教えて頂いて構いませんから」
遠藤はまだ何か話をしていたそうな感じだったが岳は丁重に礼を述べて電話を切った。
昨日まで上司だった彼が何かと気にかけてくれるのは嬉しい。
しかし岳にはひとつの所に留まっている余裕はなかった。
岳は石田の姉である明子と会う決意をした。
何をおいてもそのことを優先しなければならい気がしている。
それは遥か過去の失態を正すためか、今彼女がおかれている状況に対して少しでも力になってやりたいという気持ちの表れなのかが自分でも判らない。
ただ岳には常人程の時間は与えられてはいないのは事実だった。
進に連絡をして翌週の火曜日に明子と会うことになった。
彼女とは小学校以来の再会になる、でもこれが最後の別れになるだろうと思うと複雑な気持ちになった。
まあ趣味の事だからいいけどプロの演奏家は大変だろうなと思う。
大阪の街へ出ても誰もがマスクをして各所には消毒設備も設けられ検温も実施され、的を得てるのかどうか知らないけど飲食店等の時短も強制されているのに、
あざ笑うかのように感染者数が増えているのは根本的に感染ルートの見誤りではないのでしょうか?
小説「Obralmの風」
店内には客の入れ替えはあっても減らず賑わっている。
こんなにも多くのサラリーマンが日頃のウサ晴らしや酒を介してのコミュニケーションに話の花を咲かせていることに岳は改めて驚いた。
岳もこんなところで常時笑いを絶やさず仲間たちと語り合っていたりしていたらストレスは随分軽減されて居たかも知れない、またしても来た道への後悔に包み込まれて行くのを覚えた。
本当に自分はこのまま都会の健常な営みの狭間に身を沈めながら朽ちるように命を終えるのであろうか。
岳は石田と別れてから肥後橋で小さな居酒屋を営んでいる同級生を訪ねた。
「おお、久保やないか久しぶり」
同級生の中島は満面の笑みでおしぼりを手渡した。
彼とは明子同様、小学校からの同級生であった。
「一昨日弓田が来たところや、惜しかったな」
「弓田ってあの腕白やった吉男のこと?」
「そうや、今では随分丸くなって、それに事業がうまく行っているんか結構羽振りがよさそうやった」
「そうか、それは懐かしいなあ」
岳がここへやって来たのは昔の仲間に別れ言うのが目的だったのかと、自問しながら苦笑した。
「おいおい、どうしたんや?気持ち悪いなあ思い出し笑いか?」
「いや何でもないよ、ちょっと昔を想い出したんや」
「それより久保、ちょっと痩せたか?悪い病気になってないやろな」
的を得たような問いに岳は一瞬たじろいだ。
「大丈夫や」
「ならええけど、ワシらはもう何があってもおかしない年代に足を突っ込んでるからなあ」
彼は何を思い出したのか、カウンター端の壁に架かっているカレンダーを繰った。
「おい、久保。九月の中旬に休みを取れへんか?」
カレンダーを見つめながら彼は言った。
「ああ、どうせ退職して暇してると思うから大丈夫や」
「えっ?退職?失業したんか?」
「いや、諸事情があって希望退職や」
「何や?その諸事情って」
彼は岳の名前をカレンダーの余白に書いた。
「また話すわ。それより9月にいったい何があるんや」
「また話すって、そんなに深刻なことなんか?」
ビールとグラスをカウンターに置くと真顔で岳を見詰めた。
「まあ今日はええやないか。9月がどうしたんや?」
岳は心の内を見透かされないよう笑顔で誤魔化した。
「いや、弓田が音頭を取ってサイパン島へゴルフに行かへんかとメンバーを募っているんや」
「サイパン?そらええなあ。是非仲間に加えておいてくれや。でも何でサイパンなんや?」
「よう判らんけど、得意先の旅行代理店からの斡旋らしいわ」
岳はサイパン島という日常からかけ離れた場所に多少の違和感を覚えた。
ともあれ懐かしい同級生との楽しそうな時間はこの世の名残には最高のイベントだと思った。
幼友達との再会や同級生と語らい、それらを想像するとこの世もまんざら悪くないと未練が残る。
無事退職を済ませた翌日、岳は朝から拘束のない時間を迎えていた。
今日から永遠にあの職場に足を運ばなくてもいい、そう思うだけで心が穏やかになる。
岳に職場は特別な悪環境ではなかった、確かに自分と合わない人々もいたがそれはこの世間で生きておれば大なり小なりあることだから仕方はないと自分に言い聞かせていた。
そんなことより毎日の積み重なる変化の無い時間の方がむしろストレスの原因だったかも知れない。
健常な体であればこんな生活は不安の方が先だって、のんびりと自由な時間を味わってはいられないかも知れない。
昼前になって携帯が鳴った。
電話の主は遠藤部長であった。
「今ええかな?さっき『吉井美華(よしいみか)』という若そうな女性から君宛あてに電話があったんや。ウチのお得意様かと調べさせたけどその名前は見当たらなかったんや。誰か心当たりはある?」
「さあ・・・誰かさっぱり判りませんわ。それで電話の用件はどんな内容でした?」
「それが言わへんのや『じゃあいいです』と言うて一方的に切れたんや」
「そうですか・・・、何か利殖の勧誘やないんかな」
「そうなんかなあ、何か妙な気がして君に知らせたんだや」
「それはありがとうございます。もし次に架かって来たら皆さんにご迷惑をかけたらあかんので私の携帯番号を教えて頂いて構いませんから」
遠藤はまだ何か話をしていたそうな感じだったが岳は丁重に礼を述べて電話を切った。
昨日まで上司だった彼が何かと気にかけてくれるのは嬉しい。
しかし岳にはひとつの所に留まっている余裕はなかった。
岳は石田の姉である明子と会う決意をした。
何をおいてもそのことを優先しなければならい気がしている。
それは遥か過去の失態を正すためか、今彼女がおかれている状況に対して少しでも力になってやりたいという気持ちの表れなのかが自分でも判らない。
ただ岳には常人程の時間は与えられてはいないのは事実だった。
進に連絡をして翌週の火曜日に明子と会うことになった。
彼女とは小学校以来の再会になる、でもこれが最後の別れになるだろうと思うと複雑な気持ちになった。