留萌の漁業者、国と道提訴 マグロ漁連帯責任「理不尽」 資源管理のあり方問う
2018/10/14 北海道新聞
留萌の漁業者、国と道提訴 マグロ漁連帯責任「理不尽」 資源管理のあり方問う
太平洋クロマグロの小型魚(30キロ未満)の資源管理を巡り、留萌管内の沿岸漁業者が国と道を提訴した。留萌管内は昨期(昨年7月~今年6月)、全国的な漁の自主規制を守ったものの、道南の大量漁獲などで道内全体では漁獲枠を超過。法規制が導入された今期(7月~来年3月)は昨期の超過分が差し引かれ、道内の枠が「実質ゼロ」となり、休漁を強いられているためだ。原告は他地域の枠超過の「連帯責任」を負う理不尽さを訴え、適正で公平な資源管理のあり方を問うている。
■渡島が超過
「正直者がばかを見ることになった」。5日午後、札幌弁護士会館。留萌管内羽幌町でクロマグロ引き縄漁を行う高松幸彦さん(62)は、国と道に約3700万円の賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こした原告9人の代表として記者会見し、悔しさをあらわにした。
訴状などによると、渡島管内では昨期の定置網漁で7月に枠の2・5倍超の104・4トンを漁獲。だが、その後も漁獲量は増え、10月末までに一本釣り、はえ縄漁を含む80・4トンの枠に対し、約700トンに達した。全道の漁獲超過は枠の6倍の約660トンに及んだ。
一方、国が10月6日に操業自粛要請を道など関係自治体に出したことから、留萌管内では12・7トンの漁獲枠の半分以上を残したまま、休漁に追い込まれた。国は都道府県単位で枠の超過分を次の漁期から一括して差し引くことを決め、今期は道内全体の小型魚の枠が「実質ゼロ」となった。
原告側は、小型魚の漁獲量を2002~04年の半分に抑える現行規制が26カ国・地域の国際合意に基づく重みから、国は昨期から「法的規制を講じるべきだった」と主張。道についても昨年7月の段階で定置網漁の枠超過があったにもかかわらず、その後の期間を含め「実効性のある厳しい対処を怠った」としている。
これに対し、北海道新聞の取材に、水産庁は「昨期は法規制移行への試行期間で、規制は順守徹底のお願いにとどまっていた」(資源管理推進室)、道は「枠を超えた漁協にはその都度、操業自粛要請を行ったが、操業停止命令は法的根拠がなく出せなかった」(漁業管理課)と答えた。
道によると、道は昨年7月以降、定置網漁で小型魚を大量漁獲した南かやべ漁協(函館市)などに計6回、操業自粛を要請。裁判では国、道の法的責任の有無などが争点になりそうだ。
■6年休漁も
留萌管内の漁業者には、昨期は自主規制だったといっても、その間の他地域の枠超過により、今期からの法規制下の枠配分に影響が及び、「実質ゼロ」にされた現実への憤りがある。今期から、枠の超過などの違反には3年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される。水産庁は都道府県別の超過分は「完済」するまで、枠から差し引き続ける方針。原告側はこのルールが続けば、今後6年間、休漁を強いられるとみる。
道内には今期、大型魚(30キロ以上)の枠も200トン余り配分されたが、留萌地区など漁獲の大半が小型魚の海域も多く、現場の苦悩は深い。高松さんは「沿岸漁業者が漁をする権利を回復してほしい」と訴える。
■国の見通し甘い
浜田武士・北海学園大教授(水産政策論)の話 (昨期までの)法的な規制がない中で、漁業者に漁獲枠を守ってもらうことは簡単ではありません。資源管理の必要性を現場の末端の漁業者にまでよく理解してもらい、互いの信頼関係の中で取り組んでいくしかないからです。国は地方説明会を開くなど努力はしましたが、深い関係性を築けたとは言えません。法的規制なしに、乗り切れると思っていた国の見通しは非常に甘かったと思います。
昨年はたまたま南かやべ漁協に入っただけで、定置網はその漁法上、どこでも突発的に大量漁獲してしまう可能性があります。そのしわ寄せが留萌管内の漁業者に来て漁ができなくなったわけですから、その責任を損害賠償で請求するのは妥当でしょう。
定置網漁の魚種で数量管理をする難しさは、スケソウダラなどの資源管理でも経験済みです。もっと緊張感を持ち、大量漁獲を防ぐための二重三重の仕掛けを設けておくべきでした。
■個別割り当て必要
勝川俊雄・東京海洋大准教授(水産資源学)の話 特定の定置網などで大量超過したからといって、自分たちの枠を守っていた漁業者まで、小型魚の枠が6年間もゼロというのは乱暴かつ理不尽です。広い北海道を一律で管理すれば、ある地区で捕りすぎて、別の地区が割を食うことが起きるのは当然予想できます。
こうした事態を防ぐため、海外では、漁獲可能量(TAC)を漁業団体や漁船ごとに配分する「個別割り当て(IQ)制度」が行われています。枠を超過した場合には、他の漁業者の未使用の枠を購入する仕組みもあります。地域間で不公平感が広がらないよう、こうした仕組みの導入が日本でも必要だと考えます。
今回の提訴はこうした不公平さをただそうという問題提起でしょう。漁業者が何度も配分の見直しを求めたにもかかわらず、訴訟になるまで放置した国の責任は極めて重いと思います。沿岸漁業者の意見を聞き入れ、彼らの生活が守られるよう配慮すべきです。(佐々木馨斗)