道は太平洋クロマグロ漁で、道内の今期(7月~来年3月)の小型魚(30キロ未満)漁獲枠が「実質ゼロ」となったことから、漁業者が網などにかかった後、放流した数が7~11月の推計で3万7800匹に上ると明らかにした。大型魚(30キロ以上)を含めると、4万匹に達した。一方、マグロは繊細な魚種で逃がしても死んでしまう可能性が指摘されており、生存率を高める放流方法の普及や、地域を超えた漁獲枠の融通で放流数自体を減らす取り組みが課題になりそうだ。
国はクロマグロの資源管理のため、今期から法規制を導入。道内の漁獲枠は、道南で昨期の枠を大幅に超えた小型魚を実質ゼロ、大型魚を208トンとした。
道は漁業者に目視で小型、大型魚別に放流数を推計してもらい、各漁協の報告をまとめた。地区別では小型は南かやべ漁協(函館市)が2万6100匹と7割を占め、その他の渡島管内が1万1千匹、後志、胆振など他の管内が700匹。大型は、小型魚と一緒に網から逃げるなどした2220匹で、同漁協分が9割を超えた。全体の漁法別では、定置網が3万1200匹、一本釣り・はえ縄が8820匹。計4万匹は重量換算で数百トン規模とみられる。
一方で、放流が必ずしも資源保護につながっていない、との見方もある。
定置網漁では網をたぐり寄せ、マグロを確認した時点で網を開放するか、たも網で逃がす方法が一般的だ。これに対し、クロマグロの飼育展示で知られる葛西臨海水族園(東京)は「マグロは口を半開きにし、泳ぎ続けることで酸素を取り込むため、動きが止まると呼吸できなくなる。定置網を狭めると酸欠になりやすく、一度酸欠状態になると回復しない」と指摘する。
マグロの生態に詳しい東京海洋大の秋山清二准教授によると、定置網のマグロをたも網でいけすに移す実験で、約60匹が翌日には全部死んだこともあった。同准教授は網で魚体が傷つくなどしたためとみており、目の粗い網から小型魚だけを逃がし、大型魚を捕る定置網の活用を呼びかける。
放流は漁業経営にも影響する。南かやべ漁協は定置網の開放などで放流をしたが、大型マグロやサケ、ブリも多数逃がす結果になったという。同漁協幹部は「国は漁業者の努力を理解し、小型魚の枠を少しでも増やしてもらえるよう、配慮してほしい」と要望する。
国は来期、都道府県間で漁獲枠を融通できるルールを新設する方針。枠に余裕がある地域と不足する地域の調整が進むか、注目されている。(佐々木馨斗)