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★☆土筆の別荘☆★~Produced by level5~

カープとバファローズに偏っています。現在、LEVEL5というサークルで活動中☆

久しぶりに♪

2007-12-17 10:43:12 | Weblog

久日ぶりにまともにブログを書いてみたり♪
最近、友達とかも結構やってて、軽く影響されてるとかされてないとかはかなり秘密ですw
そうそう、最近、土筆は小説だけでなく、絵にも挑戦してるのですよぉ!
そんなこんなでへっぽこ絵が掲載されてますww

まじ、さらしもんじゃいwww



もっと上手くなりたい……

365日……

2007-09-24 00:50:31 | Weblog


2006年9月24日からちょうど1年が経ちました。今日は2007年の9月24日……。
さかのぼること21年前の1986年9月24日にこの世に生を受けました。
3歳くらいからの記憶しかありません。そりゃそうかww
ちなみにこの1986年はカープが優勝した年です☆ちょっぴり運命を感じません?
今年とは言わなくても干支の2週目(もうすぐ)にはばっちり優勝してほしいですね☆アンバランスさをなくせばきっと強いチームになれます。


さて……。
2006年9月~2007年9月までを少し振り返ってみようかなと思います。
2006年9月と言ったら大変な時期でした。
8月に突然やめるとって行方をくらましてしまった先輩に代わり、バイト長を若干まだ19だった自分がやってました。
店長とMGR以外に店を開け閉めできるのは自分しかいないので正直厳しかった。
時間帯責任者で入ってるときは風邪でもなんでも休めず、なれるまでにずいぶんかかりましたよ。
ちょうど広島に行く前日に突然やめるとか……危うく広島行きまで中止になるところでした。
10月11月の記憶はありません。しいて言うなら付き合ってた人と別れたことくらいかなぁ……。
ずっと一緒だと思ってたんだけど……ものすごく鬱抱えちゃって結局自分から別れ話をふりました。だいぶ泣かれました……。ごめんなさい。
でも、今でも好きです。もうチャンスはないかもしれないけど。
12月。大イベントが待ってました。
かねてから、コミケに一緒に行こうといってた友達から電話が入りました。その子は1,2日目は全然スルーだったので「どうだったの?」的な会話だったんですが……この次になった電話が運命を変えました。
「確かねこばす停行くんだよね?徹夜の列に入れてあげるから頼んでもいい?」
この瞬間、来た!と思いましたね。実はこの時点で大手は完璧にあきらめてたんです。いつも「買えたらいいな~」「猫禁、絵、かわいいなぁ~」っていう、遠くから眺めているだけだったんですが、あの会場の熱気と雰囲気と勢いにかなうわけもなく、2日間行った時点で「無理かな」って思ってたんです。
それが急にこういう話になって。あわててさっきの友達に電話しました。ついでに学校で唯一こういうねたを話せる友達にも連絡しました。
こうして、学校での友達……というかグループが確定して、さっきの子からはまた友達を紹介されて、仲良くなりました。
自分の周りにこういう話を出来る友達っていなかったのに……急に増えちゃいましたww えへっww
1月、成人式ですね。
実はこの時期、ちょっと気になる程度の人がいたんですが、告白してみたらOKだったので付き合いました。1週間程度でしたけど。
やっぱり自分にはあの人しかいない気がします。
あの人から卒業できる日は来るのかな……無理かもねw
2月、無事にテストも終わってバイト三昧でした。
なぜか知りませんがずっと早番でした。
でも、あのころのバイト先が一番楽しかったかな?
売り上げ自体は下降線でしたが、ひとりひとりがのびのびと、楽しく仕事をしていたと思うし、そういう雰囲気を大事にしてきました。
殺伐とした雰囲気だったお店が少しずつ花を咲かそうとしてたときでした。
3月、このころ自分の人生の中で画期的なイベントが起こりました。
教習所通いです。
今まで行きたいとは思ってましたが、ずっとスルーしてきていました。
それを勇気を出していってみました。
えっと、すべて一発スルー。一回も落ちずに5月1日には晴れて免許証を手に入れ、その2週間後くらいには愛車「ESSE」通称:エセ坊を購入しました。
少しだけ、大人になった気がします。
4月には3年生になりました。
校舎が変わりました。水道橋の中でも結構高いところにさらに高いビルが出来たので、景色は最高です。
でも、ちょっとへまをしてしまい、今までの校舎にも通わなくてはいけなかったのです……とほほ
そして夏になり……
半年振りにイベント参加です。
今回も徹夜の列に入れてもらえたので、買い物を完璧にこなして、イベントを盛り上げてきました。
コミケの3日間に関して言えば多分、10000文字あっても語れないですね。この3日間だけでさまざまなドラマがありましたし。
きっと一生忘れない3日間になったと思います。
現時点では伏せておきます。


なんだか、1年って早いんだなぁって思いました。
歳はとりたくないと思ってても時間って過ぎていくんですね……。
なんだか、誕生日を迎えるたびにちょっとだけアンニュイになっていくのでしたw

ボクは女の子(オリジナル)  広島編2

2007-07-05 01:04:58 | Weblog
「ちょ、ちょっと! なんでボクの手、握ってるのさ?」
 隣を黙々と歩いていた少女が急に声を荒げた。どうやら、元に戻ったらしい。
「美奈ちゃん? お兄さんは美奈ちゃんをここまで連れてきてくれたんだよ? お礼を言わなきゃダメだよ?」
「何でお礼なんか……。頼んでないし! それにこの人は誰なのよ?」
 三郎さんはやれやれと言わんばかりに頭をかいた。
「ごめんな、若葉君」
「良いですよ。美奈ちゃん……だっけ? ボクは若葉。よろしくね」
「若葉……? どこかで聞いたことが……」
 そうだろう。一度自己紹介している人だから。それが彼女の頭の片隅に残っているのだろう。なるほど。完璧に多重人格という訳ではなさそうだ。
「どうでも良いけど、あまり変なことしたら健君に言いつけてあげるんだから!」
「どうでも良いけど、ボクにはそのつもりはないから安心していいよ」
「まぁまぁ二人とも……。どうする? 若葉君。中をちょっとだけ見ていくかい?」
 ボクは病院を見上げた。相当大きな病院だった。きっと県内でも一、二番に大きいのだろう。少しだけ興味がわいた。
「そうですね。じゃあ、ちょっとだけ……」
「良かった。ぜひ君に見て欲しいところがあるんだ」
「見てもらいたいところ?」
「良いから、良いから」
 そういうと三郎さんは美奈ちゃんを病室に送ると言って、少女の手をとった。少女は空いているもう片方の手であかんべぇをした。どうやら相当嫌われたようだ。
 ――まぁ、女の子に嫌われるのは慣れてるけどね。
 ボクは深い深いため息をつくと、周りを見回した。三郎さんたちが歩いていった方向には『脳外科』と書いてある看板があった。それぞれによって病室が分かれているらしい。なるほど、それほどこの病室は大きいということだ。
 少し歩くことにした。脳外科の病棟は別館にあるらしいから、三郎さんが帰ってくるまで、五、六分かかると思っていたが、ものの二、三分で三郎さんは戻ってきた。
「いやぁ。走ってきたからねー。本当はいけないんだけど」
 見ると三郎さんの肩がわずかに上下している。この程度の運動、三郎さんにとってはなんでもないのだろう。ボクなら息も絶え絶えに、話すこともままならないだろう。
「別に、そんなに急がなくてもよかったですよ?」
「いやいや。なんだか君、フラフラとどこかに行ってしまいそうだったから。行ってしまう前にぜひとも見てほしいものがあってね」
 にっこり笑う三郎さん。ボクに対する信用がないことに少しがっかりしたが、この笑顔を見ると、不思議といやな気分にはならなかった。
「こっちだよ」
 おいでおいでとばかりに手を振り歩き出す三郎さん。ボクはそれに続く。どこへ連れて行くのかと思って回りをきょろきょろ見回すと、ボクらの行く先と同じ方向を指している矢印と、その場所がどこに続いているのかを示した案内板を見つけた。そこには『精神科』と書かれていた。
「気を悪くするといけないんだけど、君はまだまだ症状が軽いほうなんだ。先生に見てもらう必要がないくらい。軽いうつ病? って感じかな? ただ、これから目にする子達はどうにも症状が重くて入院を余儀なくされている。ここを発つ前に君に見てもらおうと思ってね。何かしら君にとってプラスになると思うから」
 精神病患者は。おそらく人と比べると、はるかに大勢見てきたつもりだ。中には右も左もわかっていない人もいて、ボクはその人みたくなってしまえばどんなに楽かと思ったこともあったくらい。
「俺もさ、野球をやめたときも、進路で悩んだときも、先輩にここに連れてこられて一緒にその子たちの話し相手になってあげてた。いやぁいい経験になったよ。俺ってこんなに小さなことで悩んでたんだって。毎日、生きていくのが精一杯なその子たちを見てるとね、不思議とそんな気分になってきた。同時にね、この子達に夢を与える存在になりたいって思ったんだ。死ととなり合わせのその子達だからこそ夢を持ってほしい。そうすればきっと病気なんてたちまちに治るだろうからね。夢を持つこと、それに向かって進むことは、どんな薬でもかなわない最高の治療法だと思うから」
 三郎さんはそこまで言うと、はっとしたように口をつぐんだ。
「ごめんね。またしゃべりすぎたみたい。普段は無口なほうなんだけど……。何だろう。君は不思議な子だね」
 不思議な……。ボクが旅に出てから、そういわれたのはこれで二回目だ。最初はボクの旅のゴールになってくれるといった千夏さん。ただ単に変なこと思われているかもしれないが、三郎さんも千夏さんもそういうつもりで言ったんじゃないと思う。そう思えることが何故なのかは、ボクにもわからないけど……。
「さ、着いたよ」
 精神科の病棟に着いた。見ると、ボクが想像していた光景とは大きく違っていた。精神科と聞いて思い浮かべるのといったら、まず何をとっても徘徊であった。それこそ、過去に何人か見てきた、右も左もわからないような人たちが、わけのわからないうめき声を発して、歩き回っているのかと思った。――あれはゾンビに等しかった。
 しかし、周りを見回しても、それらしき人は見当たらない。耳をすましても、物音ひとつしない。
「あちゃあ。昼寝の時間にぶつかっちゃったかぁ」
 三郎さんが頭をかいた。
「昼寝の時間なんてあるんですか?」
「え? あ、うん。この子達が一番精神的に落ち着くのは寝ている時間だからね。まぁ、治療ってわけじゃないんだけど、少しでも苦しい時間を減らしてあげようって。よく言えば応急処置、悪く言えば逃げだよね。どっちもあまり良い言い方ではないけどさ。正直、この子達の病気はやっかいでさ。こっちがどう努力しても、この子達がそれを受け入れてくれなければよくならない。しかも、ひとりひとりその方法が違うから……。正しいピースをはめてやるのは至難の業なんだ」
 ボクは一番近くの部屋を覗き込んだ。なるほど、皆が皆、一斉に静かな寝息を立てている。布団をかぶって寝ている人もいるので定かではないけど、この部屋の子達は皆、ボクと一緒かボクよりうんと若い子たちだった。三郎さんが”患者さん”といわず、”子達"と表現したのはこのためなんだろう。
「普段はどんな感じなんですか?」
「え?」
「あ、いえ。テレビとかでよく見る光景では、その……」
「徘徊? ないよ」
「そうなんですかっ?」
「うん。この子達は主に……自虐的な行動に走ることが多いからね。あまりにひどいと、俺らでも手に負えなくてさ……。美奈ちゃんみたいにするしか……」
「ベッドに縛り付けるんですね?」
「いやな言い方するなぁ。これもこの子達の大切な命を守るためなんだよ?」
「本当に……そうでしょうか?」
「え……?」
「本当に、この子達はそんな縛り付けられた生き方を望むでしょうか?」
 はっと気づいて口をつぐむ。三郎さんの困惑した顔が見える。このままうやむやにしておきたかったが、動き出したボクの口は止められなかった。
「そもそも、この子達がそういう症状を抱えてしまったことには原因があるんじゃないんですか? 原因もなく、自虐的になったり、鬱のどん底に落ちたりするでしょうか? しかもその原因って言うのはきっとこの子達のせいじゃないと思います。消えてしまいたい、自分なんて存在していても仕方がないと思うのって、まぁ、三郎さんたちから見たら”逃げ"なのでしょうけど、それでも! この子達にそうさせてるのって、この子達が悪いわけじゃないと思うんです! なのに……また他人が勝手に生き延びさせるためにアレやコレをされても、迷惑なだけでひとつも解決にならないような気がします。違いますか?」
「……じゃあ、どうすれば、良いんだい?」
 三郎さんの口調が少し弱くなった。何も知らないド素人にここまで言われ、怒りを覚えてはいるが、必死にそれを隠そうとしているようだった。
「この子達の……好きにさせてあげるべきだと思います」
 はっと見開いた三郎さんの目。次の瞬間には胸ぐらをつかまれ、近くの壁に押し付けられた衝撃。ボクはたぶん、この瞬間の出来事は一生忘れないだろう。
「じゃあ何か? この子達が本当に死んでも見殺しにしろって言うのかっ?」
「そこまでは言ってません。死ぬ前に気づかせてあげるのが、三郎さんたちの仕事じゃないんですか?」
 ボクは胸ぐらをつかんでいる三郎さんの右手を払いのけた。予想もしていない力にびっくりして三郎さんは、二、三歩よろける。でも、口調はゆるめない。
「君はこの仕事を知らないからそういうことがいえるんだ!」
「じゃあ、何のための精神科病棟なんですか? この子達を隔離するためのものなんですか? 人間が人間らしく生きることもできず、ただ生かされているだけ、そんな施設じゃないでしょ! 精神科病棟はっ!」
「何だとー?」
 三郎さんが再びボクの胸ぐらをつかみ、右腕を高く振り上げた。
「やめろ! 三郎!」
 その瞬間、病棟中に響き渡るかのような声が上がった。
「市来……先輩……」
 ボクは呆然と、声のしたほうに目を向ける。三郎さんと同じく、白衣のようなものを着た男の人がそこに立っていた。肩は激しく上下している。
「三郎、悔しいがその子のいうとおりだ。治療というよりは延命でしかないんだよ」
「でも、先輩はっ!」
 男の人は力なく首を横にふった。
「お前も半人前だが、看護士になった今ならわかるだろう。確かに定期的にこの子達の話し相手にはなっている。でもそれは、俺たちが勝手にやっていることで、ここの医師たちはそれを望んでいない。なぜかわかるか?」
「……?」
「少しでも長く、入院してもらったほうが儲かるんだよ。病院が……」
「っっ?!」
 そこまで言うと男の人はふうっと深く息を吐いた。
「お前も気づいているとは思ったんだが……。三郎、お前は本当に馬鹿正直で、どこまでもまっすぐなんだな。さすがは甲子園を沸かせた若き豪腕投手だ」
 三郎さんの顔色が見る見る青くなっていくのがわかった。
「勘違いするな。これはほめているんだぞ。ただ、その長所は時として短所にもなるんだ」
 長所は時として短所になる。いつだったかボクも耳にしたことがある。ボクは長所と呼べるところを見出せず、聞き流していたが、それを現実のものとしてお目にかかれるとは思ってもみなかった。
「君、すまなかったね。怪我はなかったかい?」
 男の人がボクの胸ぐらをつかんでいる三郎さんの手をどけ、よろけたボクに手を差し伸べて言った。
「あ、大丈夫です。すみませんでした」
「君が謝ることはないよ。ちょいとこいつが暴走しちまっただけで、君は見たまんま、感じたまんまを口にした。しかもそれは事実なんだから」
 男の人はにこっと笑った。三郎さんとはまた違う、優しさを含んだ笑みだった。
「自己紹介が遅れました。俺は市来達哉。三郎から話を聞いてるかわからないが、この病院で看護師をしている。よろしく」
 市来さんはネームプレートを見せつつ自己紹介をしてくれ、握手を求めるように右手を差し出した。
「あ、こ、こちらこそ……。ボクは……わ、若葉って言います」
「若葉かぁ。いい名前だね。昔、この病院に入院していた女の子がいるんだけど、その子が『若葉』が好きだって言ってたのを思い出したよ。何でも、生まれたばかりで何も汚れていない元気な様子が好きなんだってさ。変わった子でね。『私は男の子に生まれるべきだったのに……』って言い始めたらこっちとしてはお手上げだったなぁ。元気にしてるのかな。あの子は」
 市来さんが言った内容に聞き覚えがあった。というか、たぶん、この子とボクは出会っている。
「その人……ひょっとして相川千夏って子じゃないですか?」
 ボクは勇気を出して聞いてみた。
「よく知ってるね! もしかして知り合い?」
「あ、いえ……。知り合いっていうか……」
 最後まで言い終える前に、首にかけているだけのボクのマフラーを市来さんは見つけた。
「そのマフラー。あの子がずっと大事に編んでいたマフラーじゃないのかい? そっかぁ。君は選ばれたんだね」
「え、えっと……」
 何のことを言われているのかわからず、呆然とするボクに、市来さんはそっと優しく微笑み、こう言った。
「頑張って生き抜くんだよ? あの子が心を許した唯一の『女の子』なんだから」
「はぁ……」
「きっと君の悩みも時間を追うごとに自己解決出来るようになるよ。時間はかかるかもしれないがね。でも、そういう悩みを持って生きている若者って言うのは将来、絶対に強い人間になる。俺が保証してやる。君はその経験を同じような悩みを抱えている子のために活かしてほしい。君が次は太陽になる番だ」
 そういうと、軽く手を振り、三郎さんに肩を貸し、去っていった。
 ボクには市来さんの言っていることが半分しか理解できなかったが、なんとなく心が少し温まったような気がした。
「さて、次はどこへ行くかな」
 決意に満ちた顔でボクは歩き出す。
 病院の角をいくつも曲がり、見覚えのあるロビーまで歩いてきた。
「あなた、千夏さんを知ってるのね?」
 不意に声をかけられ、ボクは立ち止まる。見ると、この病院に来るきっかけとなった女の子、美奈だった。さっきの会話を陰で聞いていたらしい。
「うん。知ってるよ」
「じゃあ、伝えて! 私もいつか東京に行く! 千夏さんのように強い人になって東京に行くから。そしたら、約束を守ってくださいって」
「うん。何のことかさっぱり分からないけど、伝えておくよ」
「あ、ありがと。若葉……」
「元気でね」
 そしてボクは歩き出す。次の目的地に向かって、ただひたすら歩き出す。
 胸の中には、次にどんな人と出会えるのかわくわくした気持ちを秘めながら。
 ボクは歩き出す。

ボクは女の子(オリジナル)  広島編1

2007-07-05 01:04:44 | Weblog
 長い夢を見ていた。
 広島へと向かう深夜バスの中。
 寝心地は最悪だった。
 でも、夢を見ていた。幸せな夢だった。幸せで、幸せで……でも、幸せすぎて夢だと気づいた。
 ボクにそんな幸せなんて訪れるはずがなかったから。
 夢の中であの子は笑ってくれていた。誰に対してでなく、ボクに対して微笑みかけてくれた。手をつなぎ、ボクの家の近くの桜並木を歩いていた。満開の桜が風に揺れる。あの子の長くきれいな髪も揺れていた。
 所詮は夢だ。現実に起こりようのない空想。そう、ボクがノートに書いているこの物語のように……。
 広島の地に降り立ったとき、そこは雨だった。いや、正確には晴れていたのだが、ボクがバスから降りた瞬間、突然、スコールのように降り出した。正直、疫病神な気分。
「ふぅ」
 ふとボクは歩き出す。行き先なんて分からない。ここへ来るのは初めてだったし、別段どこへ行きたいわけでもない。ただの思いつきでこの地にたどりつき、これからも足が向かうがままに進むだろう。
 勝手気ままに動くボクの足は、不思議と原爆ドームへと向かっていた。行き先なんて分からないけど、なんとなく歩いていたら、そこに向かっているらしかった。野球のシーズンはとっくに過ぎ、こちら側にはほとんど人が居ない。まぁ、平日の真昼間にこんなところを歩く人など、観光客くらいしか居ない。人気の多い東京から逃げるように、ここ広島に来たわけだが、今のところその選択は正解だったといえよう。
 そんな道中、ボクは奇妙な少女を見かけた。
 年齢は、ボクより五つくらいは下だろう。だとすると、この時間は学校に行っているはずだ。確かにセーラー服を着てはいる。だが、周りをキョロキョロとうかがいながら恐る恐る歩いているような感じ。それでも登校しているとは思えなかった。どこか別の場所に向かっているのだろうか。
 声をかけるべきか。いや、やめておこう。新しいスタートの日に厄介事は似合わない。でも気になるので少女に向かって歩き出した。
 ――結構、カワイイ……。
 サラサラですっとストレートな黒髪、化粧は……していないのだろうが、頬のあたりがほんのり赤く染まっていた。
 ボクは少女の横を通り過ぎようとする。そして少女のちょうど真横に立った瞬間、少女の目がカッと見開き、ボクを見た。
「君、誰?」
 突然、少女が話しかけてきた。その質問をそのままそっくり返したい。
「君こそ誰だよ! こういう時って、自分から名乗るものなんじゃないの?」
「ボク? ボクは……。誰?」
「はい?」
「分からない……。ボクは誰なの? 君、知ってる?」
 ボクは少女に近づいたことを後悔した。この子、記憶をなくしている。
「ここはどこなの? ねぇ、何でボクはここに居るの?」
「落ち着いて。ここは広島の市内だよ。ボクは……えっと……若葉」
「ワカ……バ? ヒロ……シマ?」
 弱った。こういう時、どうすれば良いんだろう? 病院に連れて行く? でも、ここら辺に病院があるかどうかも分からない。
「おーい! 美奈ちゃーん!」
 困り果てているボクの元に、一人の青年が駆け寄ってくる。眼鏡をかけて、とても優しそうな感じの人だった。白衣を着ているところを見ると、医者が看護士だろう。
「こんなところに居たのかい? ずいぶん探したよ」
「さぶろー……さん?」
 女の子がうつろな目でその青年を見上げた。“さぶろー”と呼ばれた青年がにっこり笑うと、安心したかのように、彼に抱きついた。
「すみません……。この子、病院から抜け出してきちゃったんです。原因不明の記憶喪失でたまに一人でどこかへ行っちゃうんです」
 ペコりと頭を下げる青年。ボクはどう反応して良いか分からず、つられてお辞儀をした。
「あ、申し遅れました。オレ、青島三郎って言います。この近くの病院で看護士をしています。……まだ見習いですが……。えっと、君は……」
「あ、若葉って言います」
「若葉君ね。ありがとう、助かったよ」
「いえ、ボクは何も……」
 そう。何もしていない。ただ興味本位で近づいて、巻き込まれただけだ。
「君、ここら辺に住んでるの?」
 三郎さんが聞いてきた。
「いえ、ボクは今、旅をしているんです。まぁ、半分家出ですが……」
「そっかぁ。学生さん?」
「はい。一応、大学生やってます。……自主休学中ですが」
「へぇ、良いねえ。俺も学生の頃は一人で日本一周とか無茶なことをしたよ」
 一枚も二枚も、三枚も上手がいた。
「広島から北へ向かって行ったんだけど、大阪でスリに会っちゃってさー。全財産台無し。泣く泣く親に連絡してさ、迎えに来てもらったよ。はははっ。だからオレの日本一周の夢はいきなり大阪でストップ。親にもこっぴどくしかられてさ……。そう、大学に嫌気が差して飛び出してきたもんだからさ。今の君と同じ。
 オレ、応援するよ! オレの代わりにさ、日本一周とまどはいかないにしろ、何かを見付けて欲しい。目的地はここじゃないんだろ?」
「え? あ、はい。そのつもりですが」
「どこから来たんだい?」
「えっと……東京です」
「東京かぁ。一度行ってみたいんだよね。新宿とか……お台場とか特にね!」
「何もないですよ……。高いビルと心の冷め切った人類ともロボットともいえないものが行き交っているだけで」
「君は、東京が嫌い?」
「はい、大嫌いです。もう二度と帰りたくないくらい」
 ふと、首に巻かれているマフラーに手をやった。帰りたくはないが、帰らなくてはならないことに気づく。あの女(ひと)、千夏さんと約束したから。再会して、報告とともにこのマフラーを返さなくては。
「でもね、故郷ってのは、不思議と暖かいものだよ。オレだってここには帰りたくなかったけど、帰ってきたときにはほっと安心したしね」
「そんな、ものですかね?」
「そんなもんだよ」
「さぶろー……」
 さっきまで三郎さんにくっついていた少女が少しぐずりだした。三郎さんは「ごめんね」と言って少女の頭をなでた。
「ごめんよ、美奈のやつが寒いって。だから病院戻るな」
 いつの間にか雨はやんでいた。ほんの通り雨だったらしい。長いきれいな髪がびっしょり濡れている少女は「くしゅん」と小さくくしゃみをした。
「分かりました。お邪魔してすみません」
「いやいや。久しぶりに昔の話をしたからね。楽しかったよ」
 三郎さんはさわやかな笑顔で手をふっていた。でも、その笑顔の中に一点の陰りが浮かんだのをボクは見逃さなかった。この人も過去に色々と経験したのだな。と何故だか少し穏やかな気持ちになった。
 三郎さんが「じゃ」と言って、少女の手を取り、歩き出そうとしたが、少女のほうは全く動こうとしなかった。
「どうしたの?」
 三郎さんが問う。
「若葉―。若葉も一緒」
 三郎さんにつながれていた手を振りほどき、両手を広げてボクに近づいてくる。
「へ?」
 この子、さっきと様子が違う……。まるで別人……と言うか、まるで幼い少女のようになっている。
「この子は……たまにこうやって別の人格らしきものが出てきちゃうんだ」
 多重人格……みたいなものか。
「多重人格、とはちょっと違うんだ。この子はある日突然記憶をなくした。それは本人にとって相当ショックなことだったと思う。だからこそ、自分を守るために、新しい人格のようなものを作り出した。いや、人格とまではいかないか。幼く、何も分からない頃の性格を作った。先生が言うには三、四歳くらいだろうって。ややこしいと思うかもしれないけど、この方が今の彼女にとってはいいことなんだ。この性格が出来るまで彼女は自分を傷つけ続けた。来る日も来る日もね。仕方なくオレらは彼女の手をベッドに縛り付けた。この性格が出来たのはその頃からかな」
「若葉ー」
 少女がボクに抱きついてきた。ボクはどうすれば良いのか分からず、とりあえず頭をなでてやると、気持ち良さそうに目を細めた。彼女の手は冷たく冷え切っていた。
「弱ったなー。ねぇ若葉君、病院までついて来てくれるかい?」
「え? あ……別にかまわないです。どうせ、行き先なんてないですし」
「悪いね。心ばかしのお礼はするからさ」
「いえ、お礼なんて……」
 三郎さんは「でも……」と言って聞かなかったので、ボクは三郎さんの言葉に甘えることにした。
 少女は嬉しそうに笑い、ボクの手を握り、歩き出した。女の子と手をつなぐのはこれは初めてじゃないけど、何だか少し落ち着かない。そわそわしている所を三郎さんに見つかり、笑われた。
「ははは。ダメだよ、若葉君。その子にはとっても大切な彼氏さんが居るんだから。彼ね高校生なんだけど、好きな野球部を辞めて、毎日美奈ちゃんのお見舞いに来ているんだよ。すごい野球の上手い子でね、足も速くて中学では一番を打ってたんだ。高校でも一年からショートのレギュラーももらってて、そうそう。ここ広島のカープスカウト陣も夏の大会、身に来てたくらい。でも、決勝戦で痛恨のタイムリーエラーしちゃって……甲子園には行けなかったんだ。ちょうど美奈ちゃんが記憶をなくした頃でね。少なからずというか、相当ショックだったんだろうね……」
「へぇ……。三郎さん、野球詳しいんですね」
「ああ。高校のときまでずっと野球しかやってなかったからね。こう見えてもエースピッチャーだったんだ。ところが、高校三年の夏に、甲子園で投げたんだけど、相手チームの四番バッターの打球が右ひじに当たっちゃって、そのまま病院送り。右ひじの骨折と靭帯断絶。もう二度と、ピッチャーでは投げれなかった。新聞にも載ったんだけどなぁ。『MAX145キロ、プロ六球団が獲得に』ってね。でもすべてパー。キャッチボールすらままならない。チームはその夏、初のベストエイトまで行ったんだけど、素直に喜べなかったよ。悔しくて悔しくて、一人で隠れて泣いてたなぁ」
 三郎さんが懐かしそうに目を閉じた。やっぱり悔しいんだろうな。ずっと夢に向かって進んでいたのに、それがいきなりなくなってしまった。ボクだったら立ち直れるだろうか。多分、無理だろうな。今だって、自分が女の子として生まれなかったこと、またそれを理解してくれる友人が居ないことに苛立ちを感じている……。まぁ、別に理解して欲しいわけじゃないけど、話を聞いてもらうだけでもかなり楽になるってことをボクは東京を発つ時に知った。千夏さんのおかげで。
「ははっ。少し喋りすぎたみたい。もし嫌じゃなければ君のことも聞いて良いかな?」
「ボクですか?」
「うん。君は何故、旅に出ようと思ったんだい? ただ単に東京が嫌いだからじゃないんだろう?」
「はい。確かに東京は大嫌いですけど、それが原因ってわけじゃないです」
「じゃあどうして?」
「ボク……今の性別とは逆で生まれてきたかったんです。つまり、女の子になりたくて」
「そっか……。あ、うちの病院にね、性転換の先生居るよ。その人に頼めば……」
「違うんです!」
 ボクは思わず大声を上げてしまった。
 恐る恐る三郎さんを見上げると、予想通り、かなりびっくりしたような顔をしていた。
「あ、すみません……」
「いやいや。俺こそごめん。どういうことなんだい?」
「えっと、上手く言えるかわからないんですけど……そういう作り出した性は嫌なんです。最初から女の子として産まれてきたかった。でもボクは男の子。もうどうしようもないんです。だから、そんなやり場のない気持ちを吹っ切るためにも……ボクの両親をこれ以上苦しめないためにも家を出たんです……」
「そうだったんだ。そうだとは知らずにごめん」
「いえ、謝るのはボクの方です。ごめんなさい。あの、一つ質問していいですか?」
「なんだい?」
「三郎さんは、どうして看護士になろうと思ったんですか?」
 すると三郎さんは「看護士かぁ……」と言って目を閉じた。
「右ひじをね、手術するために今働いている病院に入院したんだけど、そこでお世話になった看護士さんがいるんだ。その人さ、病院の中でも唯一の男性看護士でね、色々話を聞いてもらったんだ。市来さんって言って、今じゃ俺の先輩だけど。市来さんさ、すごく親身になって話を聞いてくれて……。俺、そのおかげで立ち直れたんだ。もう一度がんばろうってね、それで退院するときに市来さんが『何かあったらいつでも来いよ。何でも相談にのるからな』って言ってくれてすごくうれしかった。それから何か変化があるたびにあの病院行っては相談にのってもらったよ。野球部をやめたこと、進路で悩んだこと、そりゃもう数え切れないほどのことをね。市来さんは優しくも厳しく俺を導いてくれた。だから、そんな先輩みたくなりたくて、看護士になろうって猛勉強したんだ。色々つらかったけど、目標を新しく見つけたからね。何とか頑張ってここまで来れた。まだまだだけどさ」
 そう言うと三郎さんは照れたように笑う。この人は本当に強い人だと思った。何度となく転んでは、その数だけ立ち上がる。ボクには出来ない芸当だ。
「君は……将来、何になりたいんだい?」
「ボクは……」
 思わず言葉に詰まる。今を生きるのに必死すぎて何も見えないままここまできてしまったのだった。
「そっか。今、大学生だっけ? 何学部?」
「えっと、とりあえず文学部で語学を専攻しています。英語とかイタリア語とか……」
「へぇ、すごいじゃんか。イタリア語ってあれ? Chiao! とかでしょ?」
「はい。まだ全然なんですけど」
「そっかそっか。将来はバイリンガルとか?」
「いえ、そういうつもりはないんですけど……」
「そうなんだ。趣味とかは?」
「今、つたないですが小説を書いています」
「小説かぁ。俺、本はよく読むんだけど書けないなぁ。どんな話を書いているんだい?」
「今は、夢が見つけられない少女が旅をする話かな。旅先でいろんな人と出会って少しずつ、自分のやりたいことを見つけていくんです」
「その話の少女は、君のことだね?」
 三郎さんは核心を突いたように言った。そのとおりだった。実際この話の舞台も、真っ先に広島に来ている。でもボクは広島にきたことがない。全て想像で書いたのだが、それでは限界があった。実際にこうして見てみる広島と、想像していた広島とは当然のことながら大きく違っていた。
 ボクのこの目に見えた広島の市街は、東京のそれとさほど変わってないことに気づいた。それはボクにものすごい衝撃を与え、同時に世間知らずな事実をストレートにボクにぶつけてきた。
「でも、すごいなぁ。俺なんか小説どころか作文すらままならないからなぁ。いつから小説を書き始めたんだい?」
「えっと……中学にあがったころからです」
「へぇ、じゃあ長いんだね」
「いえ、まだまだです」
 ボクよりも上手くて、きれいな文を書ける人はこの世に何千人と居る。ボクなんかその人たちの足元にも及ばないと思ってる。
「頑張ってね! 本に……なるのかな? なったら絶対読むから!」
「当分先の話ですけど、頑張ります!」
 そんな会話をしているうちに、三郎さんの足が止まった。どうやら病院に着いたらしい。

久日記♪

2007-05-23 11:43:05 | Weblog
最近、車を買ってからうはうはな自分ww
調子に乗りすぎて車体をこすったりもしたけど、まぁ、平気♪
今日も元気に!!







……はぁ……また水曜の2限サボっちゃったよ↓↓
これで欠席が3回目かな?
う~む……ちょっと危ない感じかな?
何とか3年生のうちに取りきっちゃって、後はゼミだけにしたいんだけどね。
まだまだ遊びたい盛りなのでwww

それはそうと、昨日から交流戦始まりましたね☆
蒼も真紅も調子が上向いていただけに、初戦直接対決は残念でなりません。
まぁ、2勝2敗を希望してますwww
交流戦もなぁ……カープが一番勢いづく季節にやらなくてもいい気がするんですけどww

ボクは女の子(オリジナル)

2007-02-28 20:55:36 | Weblog
   ボクは女の子
 いつの頃からだろう。ボクがボクとは別の性に憧れを持つようになったのは。
 憧れ……。違う。憧れなんかじゃ、ない。ボクは女の子で生まれてくるべきだったのに。どうして、なんで男になんか生まれたんだろう。
 ボクは……女の子に……なりたい。




 現代の医学をもってすればボクを女の子にするのは可能だろう。こんな落書き、毎日のように書かずに済む。
 でもボクが欲しいのはそんな作られた性なんかじゃない。
 本物の……リアルな性だ。

 西に傾いた夕陽を見ると、ボクは精神的に落ち込みだす。なんでだか分からないし、いつの頃からかも分からない。ただ、夕方という時間帯がボクは一番嫌いだった。
 この光景を人は綺麗だと言うかもしれない。ボクもそう思う。でも、綺麗なだけだ。ただそれだけ。そこに存在するだけ。ボクの生活には関係のないこと。いわば飾りみたいなもの。
 ボクは歩き出す。どこへともなくだ。この世界にボクのような存在を認めてくれるところを探すのだ。いや、認めてくれなくたっていい。ただただ傍観してくれるだけでいいんだ。別に誰かの干渉を受けたいわけじゃないし、むしろその逆だ。誰の力も頼らないかわりに誰にも手出しをしたりはしない。ボクは一人、そこに存在していればそれでいいんだ。
「どうせ……死ぬ勇気だってないんだ」
 独り言を言うのはもはや日常のことだった。話し相手なんかいない。いや、話し相手はいた。ボクが拒絶しただけだ。
 友達とは名ばかりで、誰も本当のボクを見ようとしない。そんな関係がいやでボクはボクのほうから人間関係を断ち切った。
 ボクは一人……。
「こんにちは!」
 不意に声がした。周りを見渡してもボクしかいない。
「君だよぉ。君以外、誰もいないからね」
 やっぱりボクに話しかけていたんだ。
 見上げてみる。女の子だった。ボクがなりたいもの。憧れのもの。
 女の子は黒髪でショートのボブカットで、服は派手になりすぎない程度にシックにまとまっていた。スカートから伸びるすらっと真っ白な足は、それはそれは神秘的な魅力を持っていた。
「ボクに、何か用ですか?」
 ボクはその女の子に尋ねた。
「死にそうな顔してたからねー。大丈夫かなって思ってさ」
 女の子は曖昧に笑った。
「ボクのことなんて、どうなったってあなたには関係のないことです」
「そうね……確かに関係ないわ。それでも、興味はあるわね」
 こういう子が一番たちが悪い。興味本位で近寄ってきて飽きた頃にはけなす側に回るのだ。何度こういう子に裏切られてきたか。
「迷惑です」
「つれないこと言うのね。いいじゃない。減るもんじゃないでしょ」
「いえ、減るとか減らないとかの問題ではありません。迷惑だと言っているのです」
「あ、自己紹介がまだだったわね。私は千夏。相川千夏よ。君の名前は?」
「話を聞いてください。ボクは迷惑だといっているんです」
「あら、人が名乗ったのに自分は名乗らないって失礼じゃない?」
 全くもって話を聞こうとしない。この子には耳というものがついていないのか? それともバカなのか。どっちにしろこんな変な子を相手しているほど暇じゃない……わけでもないか。
「ボクは名前なんかない」
「嘘よぉ。名前を持たない子なんてこの世にいるかしら? それじゃあ、私がつけてあげようか?」
「いい。別に名前なんか必要ないから」
 そう、一人で生きていくのに名前なんか必要ない。呼ばれる必要がないからだ。両親がつけてくれた名前はもう、とうの昔に捨てた。とんだ親不孝者だと思う。でも、ボクを男として生んできたこと、それは今でも許せることじゃない。分かってる。責めたってどうしようもない事だって。でも、誰かを責めないと、当たりようのないこの怒りをどう静めればいいのか、ボクにはさっぱり検討がつかなくなってしまう。
 だからといって、面と向かって両親を傷つけたくはない。だから家を出てきたのだ。ボクがボクらしく生きる場所を探して。
「んー……君の名前は若葉! どう? いい名前でしょ?」
「女の子……っぽいな」
「君、女の子になりたいんでしょ?」
 はっとした。こいつ、なんでそのことを……。ひょっとして独り言を聞いたのか? それともちょっと目を放した隙にこのノートを見たのか?
「君を見てれば分かるよ。そういう子、少なくはないからね」
「ボクみたいなやつ、そんなにいっぱいいるんですか?」
「んー……いっぱいって訳じゃないわね。どっちかというとやっぱり少数派。でもそういう子たちって、不思議と私の前に現れるのよね。なんでかしらね?」
「そんなこと……ボクに聞かれても分かりませんよ」
「だよね。実はね、私も本当は男の子に生まれたかったの。男の子っていいよね。友達関係も簡単そうだし、毎月のあの苦痛を味あわなくてもすむものね。女の子って意外に大変なのよ? それでもあなた、女の子になりたいの?」
 一瞬、何を言われているのかが分からなかった。この子は男の子になりたがっている。顔立ちは決して悪くない。どっちかといえば美少女に近い。なのにどうして男なんか野蛮な生き物になりたがるのだろう。
「人間ね、やっぱり、自分とは違うものに魅力を感じるみたいだよね。ほら、女の子が男の子を、男の子が女の子を好きになるみたいにさ。それぞれ、お互いが持っていないものを求める。不思議なものよね」
「うん……」
「若菜は誰かを好きになったこと、ある?」
「ボクの名前、それで決定なの?」
「嫌なら別のにするよ。どんなのがいい?」
「いや、若菜でいい」
 正直、名前なんかどうでも良かった。ただ、名前がないと千夏……だっけ。とにかく彼女が困るだろうから、この際、なんでもいい。
「で、どうなのよ?」
「うん……。あるよ」
「へぇ。どんな子? あ、ひょっとして相手の子って男の子だったりする?」
「いや? 普通に女の子だけど?」
 そういうと彼女は目を真ん丸くしてボクを見た。
「案外君ってノーマルだったんだね」
「別に……どっちだっていい」
「そうなんだー。その女の子、可愛かった?」
「うん。生涯きっとあの子より可愛い子になんて出会えない気がするよ」
「告白はしたの?」
「ううん。してない」
 勇気がないのだ。ボクに決定的にかけているもの、一つあげろといわれればすぐにでも浮かび上がる。勇気だ。何かを言う勇気、行動する勇気、そして……死ぬ勇気もない。
 ボクは常に全てのことをそつなくこなしてきた。可もなく不可もなく。上でもなければ下でもない。常に出来事の真ん中を占めている、以下同文な存在。
「そっかぁ。私もね、言いたいこと、言えないタイプなの」
「君が?」
「そうは見えない? これでも結構繊細なんだよぉ」
「へぇ。人はやっぱり見かけによらないんだね」
「なんか言い方、すごい失礼だけどこの際許してあげる。で? これからどうするつもりなの?」
「質問、多いね」
「癖なの。君、見た感じ十七、八っていったところだけど」
「今年で生まれてきて十九年になります」
「へぇ。じゃあ私の三つ下だ。私二十二だもん」
「二十二って言うと、大学生ですか? 社会人ですか?」
 ボクは途中から敬語ではなくなっていることに気づき、修正した。
「敬語じゃなくていいよ。敬語使われるような存在じゃないからね。私は一応、社会人かな。君は?」
「ボクは……大学生、かな」
 大学なんてほとんど行っていない。大学に行ったところで先生はボクが求めているような答えをくれるわけではない。今現在、自主休学中だ。
「その口調だと、あんまし学校には行ってないみたいね。大丈夫なの? 単位」
「別に、もう行くつもりは、ないから」
「もったいないわね。大学だけは出ておかないと、この先苦労するわよ」
 そんなこと、言われなくたって知ってる。大体、どうして大学を出なきゃ就職出来ないんだろうか。義務教育とされているのはたった九年なのだ。その義務教育を全うしただけじゃまともな仕事に就けない。だからこそ皆は勉強して高校に入る。そしてそこを卒業しても就職率は半分以下だ。皆は頑張って大学に進もうとする。中には浪人なんてものにもなりながら大学生になる。この世の中は狂っている。なんで、そこまでして大学に入らなくちゃいけないんだろう。
「はっきり言って、うんざりしてる」
「ん。君の気持ち、分からなくもない」
「この世界のこと、そしてどうしようもないこの心の闇」
「そうね。でも、私たちは前に進むしかないんじゃないかしら?」
「そんなこと、誰だって言うのは簡単だよ。でも……」
「『進むったって、どう進んだらいいのか分からない』といったとこかしらね?」
 この人、すごいと思った。まるでボクが思っていることがすべてこの人の頭の中に入り込んでいるのではないかと思うくらいだ。
 実際、本で読んだことがある。エスパーというものは実在するらしい。もし、彼女がそのエスパーだとしたら……。だとしても、ボクにとってプラスに作用するかどうかなんて分からない。
 ふと気づく。
 今までマイナスな気分だったボクが、プラスなんていうことを考えた。これはひょっとすればひょっとするかもしれない。
「ねえ」
「あら、何?」
「君、何者なの?」
「私? 私はただの通りすがりの女の子。君みたいな男の子にあこがれて、毎日、空っぽの人生を生きてる、ただの可哀想な女の子よ」
「ボクたち、似てるね」
「そうね」
 夕陽は完全に地平線の向こうへと沈んでいった。初冬の肌寒さがボクを取り巻く。マフラー、持って来ればよかったかな。
「これからどうするの?」
「ボクは……西へ行く。ここ東京から、大阪を越えて、広島のほうまで」
「なんで広島?」
「平和の街だから?」
「くすっ……何それ」
「な、何だっていいだろう」
「そうね。何でも良いわね」
 彼女はそういうと、首に巻いていたマフラーをボクの首に巻いてきた。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「これは?」
「お守りよ。私はここであなたの帰りを待つことにする。誰かが待っているって思ったほうがあなたも安心するでしょ?」
 そういうと彼女はにこっと笑った。笑うと意外に……というか、相当可愛い。
 昔、好きだった子を思い出す。あの子も笑うと相当可愛かった。でも、その笑顔は決して、ボクに向けられることはなかった。情けないことに。そして、ボクのほうから彼女との縁を切ってしまったのだ。チャンスはいくらでもあった。でも、いかせなかった。
 ボクには勇気がないから。
「行く先々で色々な困難にぶつかるかもしれない。でも、きっと君なら乗り越えられるわ。君は、不思議な魅力を持っているもの」
 そんなこと、初めて言われた。
「いつか必ず、このマフラーを返しに来るよ」
「期待しないで待ってるわね」
 ボクはくるりと彼女に背を向ける。旅に出るには軽装備過ぎるその荷物を持って。
 旅立ちの日に、彼女に出会えたことは今後のボクにとって、どう作用するかなんて分からない。
 ただ、人と話したことによって、少しだけ心が穏やかになれた気がする。
 少しだけ……。
 ボクは振り返った。彼女はまだそこで手を振ってくれている。ボクも彼女に手を振った。
 さよならじゃない。またねだ。
 そしてボクは、旅に出た。

音姉とボク

2007-02-27 20:58:42 | Weblog
 「音姉!!」
 俺は息が切れていることも忘れて玄関の扉を勢い良く開け放った。
「……ぐすっ……お、弟……くん?」
「おわっ! な、何だこれ?」
 見ると部屋中ちり紙が散乱していた。音姫が涙を拭いたもの、鼻をかんだものがゴミ箱に入らずに散らばっていたのだった。まるで白い花畑のようにも見えた。
「お前……」
「ごめんなさい! 私……私……」
 涙と鼻水で可愛い顔を台無しにしながらもぺこぺこと謝る音姫を見るのは辛かった。
 俺は足早に音姫の元に歩み寄り、そして今まで以上の力で抱きしめてやった。強く強く、気持ちを込めて。
「ずっと、一緒に居るから……」
「ほ、本当……?」
「あぁ。もう、お前を悲しませたりなんかしないさ。嘘も隠し事もしない。約束だ」
 俺は音姫の髪をそっとなでてやった。
「本当かなぁ? 次、嘘ついたらどうする~?」
 さっきまでの涙はどこへ行ったのやら、意地悪そうな笑顔で俺を見上げてきた。
「うっ……。そうだなぁ。一週間、音姉の言うことを聞く! でどうだ?」
「え~? それじゃ軽すぎじゃない~? くすっ! まぁ、それで良いよ」
 何やら少し引っかかるが承諾してくれたのだから良かった。
「あ~あ。弟君のせいで、髪の毛くしゃくしゃになっちゃった。ねぇ、久しぶりにすいてよ」
 そう言うと音姫はいつも使っているブラシを俺に渡してきた。以前、音姫の髪をすいてやったときよりだいぶ激しく乱れている。これは俺なんかより、普段からやりなれている音姫がやるべきなのでは? と思ったのだが。
「だ~め! こうなったの、弟君のせいなんだからね。ちゃんと責任、取ってよ?」
「頼むから俺の心を読んだように先に言うのはやめてくれ……」
「ふふふ。だって弟君、すごい顔に出やすいんだもん。だから、どんな嘘だって私、見抜くからね!」
「分かった、分かった……」
「『本当のことは一回しか言わない』っていうコマーシャル知ってる?」
「すみません……」
「よろしい!」
 俺は仕方なく、音姫の髪をすき始めた。さっとブラシを通すだけであっという間に元のサラサラな髪に戻っていく。いったいどんなケアをしたらここまで綺麗な髪を維持できるのであろうか。もはや、シャンプーのコマーシャルに出てくる女優なんかと比較しても肩を並べるか、ひょっとしたらそれ以上じゃないかと思う。
「リボン、外すぞ?」
「うん」
 音姫のトレードマークとも言える大きなピンク色のリボンを外すと、束ねられていた髪がふわっと舞い、まるで幻想世界にいるような感覚にとらわれた。
 美しい。
 そう、美しかった。音姫は他のどんな女の子にもない美しさがあると、その時俺は感じた。
「きれいだ……」
「……ありがと。なんか、照れる……」
「いや、お前は世界で一番、素敵な女の子だと思う。心から」
「そんなお世辞、今日で何回目かしら~?」
 音姫は可笑しそうに笑うが、俺としてはかなり真剣に言ったつもりだった。でも、まぁ良いかと思う。音姫が笑ってくれれば、それで……。
「……。大好きだよ。義之」
 ぼそりと音姫が俺に言った。うん、分かってる。そんな言葉、言われなくたって俺には伝わっている。お前の俺を見る目、しぐさ、その全ては俺に向けられたものだから。
 今ならきっと言えるはず。これからもずっと、一生かけてお前を幸せにすると。それは世間で言ったら「婚約」になるのかもしれない。そんな大それたこと、学生の俺なんかが軽々しく口に出していいことではない。そんなことは分かっているつもりだ。
 でも……。
「なぁ、音姫?」
「ん? なぁに?」
 すっかり髪全体にブラシが通ったをなびかせながら音姫が振り返る。
「俺さ」
「ん」
「お前が好きだ」
「それは知ってるよぉ」
 くすくすと音姫は笑う。
「違う。そういうんじゃなくてさ……」
 決意を込めて開いた口を音姫がそっとふさぐ。
「まだ、だめ。解決すべきこと……残ってるでしょう?」
「あ、ああ。そうだな」
「初音島のこと、由夢ちゃんのこと。そして……おじいちゃんのこと」
「ああ……」
「忙しくなるね~」
「ああ……」
「テストもあるしね~」
「ぐっ……」
「弟君は大丈夫なのかしらねぇ。今回が初めての定期テストなんでしょう?」
 音姫が俺のおでこを小突いた。
「まぁ、定期テストと名のつくものは付属の頃から散々やってきたからな。かっては分かっているつもりだけど……」
「甘いっ! 大学のテストをなめたら痛い目にあうぞぉ?」
 びしっと音姫が俺に人差し指を突きつけてきた。
「大学ではね。成績不良者に何の配慮もしてくれないの。要するにその時点で落第。単位はなしなのよ? その辺、本当に分かってる?」
 頭が痛いほど学校側の説明会で聞いた。
「それにね、先生と学生なんてそこまで親密に付き合ってるわけじゃないから、それこそ点のつけ方はシビアだよ?」
「うん……分かってる」
「よろしい。じゃあ、お姉ちゃんと明日から特訓だね」
「え? でも、明日は音姉の誕生日だし……明後日からでも」
「だ~め! ちょうどいい機会じゃない。私の誕生日を返上して弟君を鍛えてあげる! 無事にテストを乗り越えたらそのとき改めて誕生日を祝ってもらうよ。由夢ちゃんも混ぜてね」
 音姫のお姉ちゃんモードが今日も始まってしまった。でもまぁ。不思議なことに今日はそこまでいやな感じはしない。むしろ、そんな音姫が愛しくて、欲しくて欲しくて、俺は音姫を抱きしめていた。
「だめ。テスト終わるまではお預けです」
 きっぱりと断られてしまった。テストって言うがあと一ヶ月もあるんだぞ?
「そうは言うけど音姉こそ我慢できるの?」
「わ、わわわ私は平気だよ! そ、そんな目で見ないで! Hなんて……しなくたって平気だもん」
 相当動揺している音姫がまた可愛かった。なんだかんだ言って人間、欲望には勝てないものだなぁと思った。
「え~。ほこん! ところで弟君? テストの教科とレポートで良い教科、ちゃんと把握してる?」
「ほぇっ? テスト受けなくても良い教科があるのか?」
「はいぃ? そ、そんなことも知らなかったの? ちゃんと講義聞いてる~?」
「いえ……あんまり……」
「ノートは?」
「さっぱりです」
 大げさなくらい大きなため息を音姫はついた。
「呆れた……。大学に何しに行ってるの~? サークルもやってるわけじゃないし……」
「い、いやぁ。な、なんとなくかな」
 苦笑いする俺を差し置いて音姫は自分の本棚を漁り始めた。
「確か……この辺に……」
 見ると音姫が使っていた教科書やらノートやらが大量に出てきた。さすがだ。一年の頃から今まで綺麗に整理してある。
「リーディングの先生は、今井先生よね?」
「え? あ、ああ」
「じゃあ、私のノート使えるね。私も今井先生だったんだよ」
 その整理されているノートの中から一冊音姫が引っこ抜いた。見ると、「リーディング一年」と書いてある。俺はページをめくってみた。確かにこんなような内容の授業をやっていたような気がする。
「あとは?」
「え?」
「弟君が取っている教科よ」
「え、えっと……。経済学と……」
 その晩、俺の授業事情を洗いざらい音姫に暴露し、ありがたいことに全ての教科のノートを手に入れることが出来、無事に就寝時間となったのだった。


 ここは……。
 俺は気づくと風見学園にいた。
 桜は当然のように満開であった。
「兄さんはいつもお姉ちゃんお姉ちゃんって……」
「由夢……」
 校門のところに由夢は立っていた。
「いいですよぉ。どうせこんながさつな妹なんか嫌でしょうし」
「違う。そう言うんじゃないんだ!」
「何が違うんです?」
 由夢は本校の制服姿のまま振り向いた。その目には涙が浮かんでいるようにも見えた。
「それは……」
 言葉に詰まる。正直なところ、由夢に魅力がないわけじゃない。由夢だって可愛いし、まぁ、がさつではあるがそれなりに頑張りやな所もある。何がいけないわけじゃない。
「お姉ちゃんはいいなぁ」
「え?」
「お姉ちゃんってさ~。頭は良いし、可愛いし、性格良いし、お料理も上手だし……まさに完璧を絵に描いたような女の子だもんね。そりゃ、皆、お姉ちゃんのこと好きになっても不思議じゃないよね~」
「た、確かにそうだけど。けど、お前にもお前の良いところが」
「もういい!」
「由夢?」
「慰めなんか、聞きたくない。惨めになるから」
 そう言うと由夢はすたすたと歩き出してしまった。
「由夢!」
「さようなら……兄さん」
 そのまま由夢はまるで煙のように消えた……。


 「……くん? 弟君?」
 音姫が俺を呼んでいる……。今のは、夢? それにしてはなんて嫌な夢なんだろう。
 俺はがばっと起き上がる。
「きゃっ! び、びっくりしたぁ。どうしたの? なんか、すごい汗だよ? 悪い夢でも見た?」
「い、いや。なんでもない。暑いからかな?」
 俺はパジャマを脱ぐと扇風機の前に座りスイッチを強にした。
「そんなことしてたら風邪ひくよ? ちゃんとタオルで拭かないと」
「大丈夫だよ! 俺はめったに風邪ひかないタイプなんだ」
 やれやれという具合に音姫は台所に戻った。
 一応、悟られてはいないみたいだな。由夢が俺の夢に出てきたなんて、いったい何を暗示しているのか? なんだかいやな予感がした。
 いつものとおり、二人で食卓を囲み、テレビを見ながら朝食を食べる。出掛けるときも一緒だ。何一つ変わらない一日の始まりだが、どうも何か引っかかる。あの夢を見たからだろうか?
「どうしたの~? もう出掛けるよ?」
 音姫が俺の顔を覗き込んだ。
「あ、ああ。行こうか」
「あのあと、すぐ寝ちゃうんだもん! せっかくお姉ちゃんがみっちり事前指導してあげようと思ったのにぃ」
「あ、あはは。疲れてたみたいだからさ」
 思えば昨日は色んなことがあったなぁ。まるで一日が一週間に感じたくらいだった。
 そんな物思いにふけりつつ、大学の構内に入っていった。
「ねぇねぇ弟君! テスト終わったら、初音島に戻る前にさ、温泉行かない?」
「温泉?」
「いいでしょ~! この前テレビでさ、ここら辺に天然温泉が出たってやってたんだ~! 一度行ってみたくてさ!」
 温泉か……。そういえばしばらくその手のものに入ったことがないな。骨休みの意味を込めて、それもいいかもしれない。
「そうだな。行くか! 温泉!」
「そうこなくっちゃ!」
 音姫は飛び上がって喜んだ。
 その時、音姫の携帯が鳴った。
「ごめんね。電話みたい」
 ディスプレイを確認した音姫の顔が硬直する。気になって覗いてみるとそこには“朝倉由夢”と表示されていた。
「由夢……」
 勇気を振り絞るように、一度深呼吸をしてから、音姫は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あ! お姉ちゃん?! おじいちゃんが……おじいちゃんが!!』
 由夢の絶叫に近い声が俺のところまで聞こえてくる。
「あ、ああ……由夢ちゃん? 落ち着いて? おじいちゃんがどうしたの?」
 いやな予感が的中した。純一さんもいい年頃だ。いつ何があってもおかしくなかった。特に、俺が初音島を出るころには体調もあんまり良くなかったことを今でも忘れることが出来ないからだ。
『おじいちゃんが……急に倒れたの! 今、救急車で病院に来てるんだけど……』
「そう。先生はなんて?」
『お姉ちゃん?! どうして? どうしてそんなに落ち着いてるの? おじいちゃん、死んじゃうかもしれないんだよ?』
 由夢の気持ちは分からなくもない。けど、俺らではどうしようもないことなのだ。音姫のように落ち着きすぎもどうかと思うが、少し落ち着かせるのが吉だろう。
「音姉、ちょっと貸して?」
 音姫から携帯を奪う。音姫は『駄目!』というように首をふったが気にしてなどいられない。このままでは、由夢が混乱状態から抜け出せずに、患者がもう一人増えてしまうかもしれない。
「由夢、とりあえず落ち着け」
『兄さん?! あなたまでそんなことを……。兄さんには関係ないじゃん! 部外者は黙っててよ!』
 予想を超えた由夢の反応に、少し戸惑ったが、ここは折れるわけにはいかない。由夢。お前のためだ。分かってくれ。
 そう祈りつつ、言葉を続けた。
「部外者なんかじゃない。俺も純一さんにお世話になった。お前と、音姉と、三人で一緒に育ってきたじゃないか。家族のいない俺にとって、純一さんやお前は家族同然。それに……」
『うるさい! お姉ちゃんに代わりなさいよ!!』
 だめだった。俺は間違っていたのか。
 見かねた音姫がそっと俺を抱き寄せ、携帯をとった。
「由夢ちゃん、言いすぎよ。弟君に謝りなさい!」
『いやよ! 兄さんのせいで……兄さんが悪い!!』
「由夢ちゃん!」
 最初は落ち着いていた音姫も思わず声を荒げた。キャンバス内を行きかう学生は、音姫の声に驚き、足を止めてこちらを見ている。
『もう知らない! 勝手にすれば良いじゃない! 兄さんもお姉ちゃんも大嫌い!!』
――ガチャ。ツー。ツー。ツー。
 むなしい電子音が繰り返される。
 音姫は呆然と立ち尽くし、その音を聞いていた。俺はそんな音姫を後ろから抱きしめるしか出来なかった。


音姉とボク(18歳未満閲覧禁止)

2007-02-19 13:59:56 | Weblog
 「……。これで良しっと……」
 翌朝、音姫が起きる前にこっそりと起き、杏からの指令を実行すべく小恋にメールを送った。
 朝、早い時間にメールを送るのはいささか抵抗があったが、この時間しかこっそりメールを送る時間はないので仕方がない。何しろ、音姫にばれてしまったら相当やばいことになりかねない計画を実行に移そうとしているのだ。慎重にならざるを得ない。
 さらに俺は、念には念を入れ、送信メールを削除した。
「……。これで、良かったんだよな……」
 そんな疑問に誰一人、答えてくれる人はいなかった。
 小恋からの返信メールは、学校に着いた瞬間に来た。もちろん、隣には音姫が居たのでその場で開くことはしなかった。
「今日も良い天気ねぇ。なんだか、今年の梅雨は全然雨が降らないよね」
 左の薬指には、昨日買いに行ったペアリング『永遠の愛』が刻まれたものがはまっている。音姫は時々、ちらちらとその指輪を見ては、幸せそうに微笑むのであった。
 正直な話、相当心が痛い。
 こんな計画、すべてを無にして音姫と二人、隠れながらでもいいから、誰にも邪魔されずに過ごしたい。しかし、動き出してしまった計画をとめることなど出来ないのだった。
「明日は音姉の誕生日だしな。この天気もその前祝いなんだろ」
「え~? 前日に晴れて、当日に雨が降られても困るよぉ。お天気予報では明日の空模様、怪しいらしいし……」
 そう。天気マークは曇りになっていたが、ところによってはにわか雨が降るらしい。こればっかりは、俺の力ではどうしようもない。
確かに音姫の普段の行いを見ていれば、雲ひとつない快晴で音姫の誕生日を祝福しても、バチは当たらないはずだ。
 となると……。明日の予報が芳しくないのは……。
「……俺の……せいだよな」
「ん? どうしたの? 何か言った?」
「い、いや。なんでもない。明日、何とかして晴れてくれないかなぁってさ」
「あ~。くすっ。その気持ちだけで充分だよぉ。ありがとね。弟君」
 にこっと笑った音姫。
 この笑顔を守ると誓ったあの朝。あの時点では、まさかこんな状況になるとは思っても見なかっただろう。
 俺は自分を見失いそうだった。
「……。最近の弟君、変だよ?」
「え? お、俺っても、もともと変じゃなかったっけ? あはは」
「変じゃなかったよぉ。そんなに変な子だったら私、好きになってないもん。どうしたの? 何か、悩みごと?」
 限界が近づいてきていた。これ以上、音姫に嘘はつきたくない。だましたくない。でも、今実行中の計画を打ち明けるには、俺の心が弱すぎた。
 もうひとつの隠し事。これを打ち明ける決意を俺は固めた。
「音姉、最近、初音島のニュース見た?」
「え? ううん? 最近、テレビはドラマかお天気予報しか見てないなぁ。何かあったの?」
「実は……」
 俺は、初音島の枯れない桜が復活していることをついに告げた。同時に、その原因が二通り考えられること、夏に初音島に帰ったらその原因をつきとめて、早急に桜を枯らしたい旨を伝えた。
「そっかぁ。でも、そんな大事なこと、どうして黙ってたの? 隠し事はしないって約束だったよね?」
 痛いところをつかれた。
「音姉に……またつらい思いをさせたくなくて……。特にあの桜が、由夢の仕業だとしたら」
「言ったでしょ? 私は、弟君……義之と一緒に居れるならどんなつらいことでも乗り越えていけるって。それくらいの覚悟は出来てるって!」
「うん……。ごめん」
「謝らないで!」
 音姫はすごい剣幕で俺を見た。いや、睨んだという表現がぴったりかもしれない。
「義之は、そんなに私のこと信用できない? 私はどんなときも義之を信じてきた。この前聞いたよね? 『何か隠し事してない?』って! そしたらあなた『してない』って言ったよね? あれ、嘘ついたんだね? どうして? そんなに……そんなに私って頼りない? 私の方がお姉さんなんだよ? もう少し頼っても良いと思う!」
「あ……。うん……」
「信じられない! 義之は嘘つく人じゃないと思ってたのに! がっかりしたよ……」
 そう言い放つとスタスタと自分の教室へと向かってしまった。
「音姉……」
「少し、頭を冷やしなさい? お姉ちゃんがなんで怒ってるのか、考えてごらんなさい」
 振り向きざまに言った音姫の一言がとどめとして俺に刺さった。
 初音島のことを告げただけでこうなってしまったのだ。例の計画を告げたとしたら……。
 恐ろしくて想像が出来ない。きっと……。
 俺は立ち尽くしたまま、身動きをとることが出来なかった。何時間経ったのかも分からない。
そんな時、俺の携帯に電話が入った。
 音姫かと思って少し期待したが、ディスプレイに表示されていた名前は違う人だった。
『もしもしぃ? メール送ったのに返事なかったから、電話しちゃった。今って電話大丈夫?』
 小恋だった。通話ボタンを押すなり明るい声が俺の耳に届いた。
「あ……あぁ。ごめん……」
『? 今日、元気ないね? どうしたのぉ?』
「い、いや……。そんなこと、ないと思うぞ? あはは」
『さては音姫先輩と喧嘩でもしたな~? 大丈夫よ、義之ぃ。もし、音姫先輩と別れたらぁ、私が義之の彼女になってあげるから! なんちって。えへへ』
 真面目に冗談きついです……。このタイミングでその言葉は俺に相当なダメージを与えた。
『冗談はそこまでにしてぇ。今日の夕方で良いんだよね? どこで待ち合わせする~?』
「あ、うん。どこでも良いぞ」
 半分、ヤケを起こしている俺に何を聞いても無駄だ、小恋。
『じゃあ、4限の講義が終わったら電話するね! 今日はいっぱいおいしいもの食べるぞぉ。楽しみ! じゃ、またねぇ』
 言いたいことだけ言ってさっさと切ってしまった。
 なんだかおかしくなって、俺は空笑いを繰り返した。
「何がそんなに面白いのかしら~? くすくす」
 一番、聞きたくない声がした。
「杏……」
「ふふふ。見てたわよ。凄い迫力ね、音姫先輩。この計画をばらしたらどんな風になるのか見てみたいわね……」
「や、やめろ……。そ、それだけは勘弁してくれ」
 俺はとっさに杏に土下座した。道行く人が不審がってこちらを見てくるが、気にしてはいられない。音姫を失うくらいだったら、どんな恥さらしにでもなってやる。
「ふふ。必死ね。大丈夫よ。そんなことはしないから……多分ね」
 にやりと笑った杏の顔が悪魔に見えた。小悪魔なんて可愛いものじゃない。完璧な悪魔の微笑だった。
「今日の予定は? 義之」
「え? あ……。一応、小恋を飯に誘ったぞ。あいつが授業終わったら俺に電話かかってくるはず」
「そう。よくやったわね。義之にしては上出来じゃない。合格よ」
 杏が土下座をしていた名残で座り込んでいる俺の頭をなでてきた。
「ふふ。可愛いわ。義之って、こんなに可愛い子だったかしら? 小恋に渡すのももったいないわね……」
 正直、付属の頃の杏はこんなじゃなかった。何が原因でこんなに変わってしまったのだろう……。
 何が原因……?
 頭の中で何かが引っかかっていたが、それが何なのかは分からなかった。
「義之、立てる?」
 杏が手を差し伸べてきた。
「あ、ああ。大丈夫だ」
 俺は杏の手を借りずに立ち上がった。別にどこか具合悪いわけではないのだから、すんなり立てるはずだった。
 しかし、立ち上がった瞬間に目の前がふらふらしだした。
「立ちくらみね……。全く、情けないじゃない。義之」
 相当参っているみたいだ。
「ちょっと、保健室で休んでくるわ……」
「そうしなさい。夜までには体力を回復してもらわないと……。あの小恋を抱けないものね。くすっ。楽しみにしてるわよ」
 そういうと杏はあっという間に俺の視界から消えた。
 あいつ、そんなにすばしっこかったか? そのときは、そんなに気にもしなかった。
 これが、歯車が狂いだした序章であったと言うことに、俺は気づかなかったのだった。
 
 
 「おいしかった~! ありがとね! 義之」
 サイダリアから出た瞬間、小恋が満面の笑みでそう言った。
 小恋のやつ、落ち込んでいる俺を知ってか知らずか良く注文した。
 パスタにドリア、ケーキやアイス、さらにはドリンク飲み放題まで……。俺はただただ呆れて、コーヒーを飲むのが精一杯だった。
「今日はありがと。また、誘ってね~! 今度は私も出すからさ」
 小恋が帰ろうとしている。まぁ、このまま何事もなく済めばそれはそれでいい。
 俺は小恋に手を振ろうとした瞬間、激しい視線を感じた。
「っ?」
「ん~? どうしたのぉ? 義之ぃ」
「い、いや。なんか変な視線を感じてな……」
 キョロキョロと周りを見回した俺の視点がある部分でぴたっと止まった。
 建物の物陰から、なんともいえない呪詛のオーラを出してこちらを見ている杏の姿が目に入ったからだ。
「ははは……」
「どうしたのぉ? 何か居た?」
「い、いや。なんでもない。ちょ、小恋。これから時間空いてるか?」
「ん~? 今日はちょうど暇だったんだぁ。なになに~? どこか遊びに行くのぉ?」
「い、いや。ちょっとな。ははは。お前ん家、行っても大丈夫か?」
「ほぇっ? だ、大丈夫だけど……散らかってるよ?」
「構わないさ。ささっ、行こうか」
 俺は無理矢理その場から小恋を連れ出した。これ以上、あの目で見られてたら何か不吉なことが起きる予感がしたからだ。
 杏のやろう……。そこまで俺に小恋を抱かせたいか……。抱いてやろうじゃないか! こっちだって半ヤケ起こしてるんだ。何がどうなったって動じるものか!
「でも、家に来てどうするの?」
「い、いやぁ……。ほら、この前家に来た時にお前が抱いてって言ってたからさ……」
「え~!? あれ、本当にやってくれるの? ってことは、音姫先輩とは……」
「一回だけだ! それ以上はまけられん!」
「どういうこと? なんでいきなり?」
「くぅ~……。それはお前の大親友に聞いてくれ!」
 そういうと小恋は真っ赤な顔をさらに赤くしていた。多分、怒ってるんだと思うが俺の知ったことではない。
「杏~! また余計なことをして~!」
「んん~……。よ、余計なことなら、抱かなくても良いか?」
「そ、それとこれとは話が別だよぉ。せっかく義之がその気になってくれたんだから……良いよ? 一回だけでも……」
 少し照れたようにうつむいた。
 小恋のそんな姿に心なしかドキドキしている俺が居て驚いた。同時に今、この瞬間に小恋のことを女として見ている自分がいることに、苛立ちも感じていた。
「分かった……」
 程なくして、小恋の家についた。
 小恋が散らかってるといっていた部屋は、案外片付いていた。俺が想像する散らかるというものとの差を目の当たりにした瞬間だった。
「あぅ……。わ、私はどうすればいいの?」
 荷物を置いた小恋がもじもじしながら俺に尋ねてきた。
「本当に、後悔しないんだな?」
「うん……」
「俺が本当に好きなのは音姫だからな?」
「うん……悔しいけど……」
「じゃあ、行くぞ?」
 俺は持っていた荷物をその場に放り投げると小恋を強く抱いた。
「ふぇっ……。く、苦しいよぉ、義之ぃ」
「え? あ、すまん……」
「まぁ、良いけど……。ちゅう……して?」
「ん……」
 小恋のリクエストに応えてやった。音姫とはまた違った感触。
 俺は音姫とのキス以上に小恋とのキスに酔いしれていた。そんな感覚がまた、俺の興奮を呼び起こしていた。
 後ろめたさと罪の意識。
 この二つが俺を加速させた。無意識のうちに俺を取り込んでいた。
 もっと、強く、激しくこの子を抱きたい。この子のすべてを見てみたい。音姫以外の女の子が裸になる姿を見てみたい。触ってみたい。この手で、犯してしまいたい。
 欲望は次の欲望を生んでいく。
「んぁっ……。は、恥ずかしいよぉ」
 小恋のその一言で我に返った。俺は小恋の服を乱暴に脱がしているところだった。
「義之ぃ……。や、優しくしてよぉ」
「す、すまん。なんか、小恋が可愛くてさ」
「音姫先輩には劣りますけどねぇ」
「そういうことを言うか、こういうときに」
「だってぇ。義之、私を見てないもん……。今日くらいは……音姫先輩のこと、忘れちゃいなよ……」
「言われなくてもそうしてる。今は激しく小恋を抱きたいと思ってる」
「本当かなぁ? 途中で『音姫~』なんていったら、義之の大事なところ、蹴り上げてやるんだから!」
「はは……。言わないように努めます」
「よろしい! あぅ~。やっぱり、服は自分で脱ぐよ……。お気に入りの服なのにくしゃくしゃになっちゃった……」
「あ、ごめん……」
 小恋は『別にいいよ』というと、ゆっくりと服を脱いでいく。音姫に負けないくらいの白い肌があらわになった。そして下着に取り掛かろうとして
「や、やっぱり恥ずかしいよぉ」
 赤面してしゃがみこんでしまった。
「後は、俺がやってやるからさ」
 小恋をその場で押し倒し、そっとキスする。
「んっ……んんっ……んぁっ……よ、よしゆきぃ……」
 いつも音姫とHする時のように深い、深いディープキスからはじめた。
「じゃ、いくよ?」
 そういうと俺は小恋のブラを外しにかかった。それにしても小恋のやつ、ものすごいブラをつけているんだな。音姫のように可愛げがあるブラではなく、本格的に大人なブラだったことに少し驚いた。
 ブラのホックが外れ、小恋の胸が現れた。
 なるほど、ビーナスのあだ名はだてじゃなかったということか。
 俺はそのあふれんばかりの双丘を揉みほぐし始めた。
「んあっ……。義之のぉ……え、えっちぃ……んんっ……」
「す、すごい柔らかい……」
 俺は片方の乳首に口をつけ、舐めてやった。
 とたんに、小恋は激しくあえぎ始め、俺は徐々に優越感に浸っていく。
「んっ……やぁ……そんな、は、激しく吸っちゃ……。だ、だめぇ……あっ……」
 小恋は本気で感じているみたいだった。
 下半身に手をやる。パンツはもぅじっとりと湿っていた。
 そっと口を離す。
「小恋、こんなに濡らしちゃって……。案外お前もエロいんだな」
「ぶ~……。女の子って皆、意外にエッチなんだぞぉ~!」
 顔を赤らめながら、必死に訴えかけてくる小恋。そんな姿が可愛くて俺は次なる攻撃を仕掛ける。
「あっ! そ、そんないきなり触っちゃ……い、いやっ……」
 小恋の股間に指を忍ばせ、泳がせた。パンツを脱がさず、脇から指を挿れているそんな状況がまた俺に興奮をもたらした。
 中指を追うようにして、人差し指も挿入した。
「んあっ……やっ……あっ……ああっ……も、もっとぉ……た、足りないよぉ……」
 指二本、小恋の中で暴れさせているのだが、小恋にとってそれはお遊び程度にしか感じていないらしかった。
「もう一本、挿れていいんだな?」
「んっ……う、うんっ……ちょ、ちょうだい……あっ……」
 いったん、すべての指を抜いて、しっかりと指を湿らせまた小恋の中に挿れていく。
 少しきつかったが、すんなりと三本入っていった。
 俺はいたずらにその指を動かす。
「あっ……ああっ……んっ……んあっ……だ、だめっ……。し、死んじゃうよぉ~……あっ……ああああっ……」
 その瞬間、俺の手に大量の愛液がかかった。
 どうやら達してしまったらしい。
「はぁ……はぁ……。義之ぃ。義之が欲しい……。挿れて? 義之をちょうだい?」
 上気した顔でお願いしてくる。
 俺の下半身は我慢の限界を超えていた。
「んじゃ、挿れるぞ?」
「んっ……きて……」
 パンツはぬがさず、ずらしたまま俺は挿入した。
 少しずつ奥へ奥へと進んでいく。そして根元まで入った。
「あっ……んんっ……。う、動いて? は、激しく……」
「良いんだな?」
「うん……」
 俺は小恋のリクエストに応えるべく、激しく腰を振った。とたんに小恋はあえぎ声を出した。同時に小恋の胸が揺れて、その光景は本当にエロかった。
 音姫とはまた違った魅力がある子だなと思った瞬間だった。
「あっ……ああっ……だめっ……死んじゃうよぉ……んあっ……んんあああっ……」
「可愛いな。お前……」
 正直な感想だった。このまま、この子と一緒にいてもいいような感じがした。
「よ、よしゆきぃ……んあっ……あっ……んんっ……」
「そろそろ、いきそうだ……」
「いいよ。わ、私も……いくぅぅ」
 俺はラストスパートにと、激しく腰を振った。限界点が近づいてきた。ふと、ゴムをつけていないことに気づき、外に出そうとしているとき
「あっ……!! ああっ……!! だ、だめ~! い、いくぅ」
 小恋がきつく抱きしめてきた。
「よ、よせ。このままじゃ……」
 それをとめる術を俺は持っていなかった。
 俺の精液は大量に小恋の中に流れていったのだった。
「はぁ……はぁ……。き、気持ちよかったよぉ。義之ぃ」
「んあ……。そ、それよか大丈夫なのか? 中に出しちまった……」
「だ、大丈夫。何とかなるよ。えへへ。よしゆきの精液だぁ。感じるよ、暖かい……」
 俺の心配とは裏腹に満足げだった。
 その後、二人でシャワーを浴び、服を着た。
「あ、その指輪。音姫先輩とのペアリング?」
 小恋が目ざとく俺の指輪を指摘した。
「ああ、そうだけど?」
「いいなぁ。私にも欲しいなぁ」
「ペアリングをか?!」
「違うよぉ。何でも良いかなぁ。義之がくれるものだったら……」
 小恋はにっこりと笑った。
「そうだな。考えとくよ」
「ほんとっ? 約束だよぉ!」
 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる小恋を見て、少し安心した。
 これで、いつもの小恋に戻ったわけだし、杏の指令は無事にクリアしたわけだ。
「じゃあ、そろそろ俺、帰るわ」
「うん! 今日は本当にありがとね!」
 玄関先で大げさに手を振る小恋。俺も少し遠慮がちに手を振りながら小恋の家を後にした。
 時間を確認しようと携帯を開いた。
 ディスプレイは一件のメール受信を知らせる画面になっていた。慌てて開いてみる。受信時刻は今から約一時間前。
『弟君……。今日はごめんね? お姉ちゃん、少し言い過ぎたかもしれない。きっと弟君は私のことを思って黙っててくれたんだよね? 本当にごめんなさい。家で弟君の帰り、待ってます。早く帰ってきて……。会いたいよぉ。会って、謝りたいよぉ。わがままでごめんなさい……。      音姫』
 携帯を閉じ、全力疾走する。
 音姫が待っている!
 早く音姫の元に行ってやらなきゃ。
 もう、悲しませたくない!
 俺は赤信号も無視して、何回も轢かれそうになりながら家路へと駆け出していった。

音姉とボク

2007-02-16 17:57:41 | Weblog
 制服は良い。
 皆が同じものを着ることによって一体感が出るし、さらには着こなし次第ではそれぞれの個性が出る。
 そして何より。
「可愛い……」
 そう、可愛いのだ。
 物心ついた頃から初音島に居た俺にとって、本島の多種多様な制服が珍しくて仕方がない。
 ブレザー。セーラー。
 どちらにも、それぞれの良いところがある。
 さらに言えば今日は日曜日だ。数少ない制服女子高生を見かけるたびにかなり目立つ。そしてその女子高生たちがまた可愛かったりするのである。
「もぉ~! また見てる……。弟君ってそんなに女子高生が良いの?」
 隣を歩いていた音姫が唇を尖らせて抗議してきた。
「え? み、見てない見てない! それに、あの子達と音姫を比べたら足元にも及ばないから!」
「どっちがどっちの足元にも及ばないのかしらねぇ。しっかりとチェックしちゃって」
 完璧にご立腹であった。
 今日は約束の日曜日。音姫の誕生日プレゼント探し兼、久々のデートなのだ。ほかの女の子に目移りしてる場合ではない。
 一生、音姫と一緒に居るという決意は、制服という魔物によってすっかり侵食されるところであった。
「私だって……。ちょっと前までは制服……着てたんだからね?」
――ちょっと。
 女の子が言う『ちょっと』とはどのくらいまでを指すのだろうと少し首をひねった。
「そりゃあ、可愛いよ? 私だってあんな制服着たかったんだから。それにね、今だって頑張ればまだまだいけるんだから!」
 音姫が本校を卒業して数年の今日。音姫はまたとんでもないことをしでかそうとしてたので、そこはしっかりと止めておいた。
 少なからず音姫の制服姿をもう一度拝んでみたい気持ちもあったが、それは二人きりの時のほうがいいだろう。うん。色々な意味で危ないからな。
「それよか、まだ気に入ったものは見つからないのか?」
 すでに今入ろうとしてる店で十八件目である。いささか俺の足も限界といわんばかりに重さを感じ出した。
「えへへ。実は、もう決めてあるんだよ?」
「だ、だったら最初からそこに行けば……」
 すると音姫は『わかってないなぁ』といわんばかりに首を振った。
「こういうのはね、一番最初に目的を達成しちゃったらつまらないでしょ? 色々ぐるぐると回って、色々と見て、色々試してみるのが楽しいの。それがデートってもんじゃない?」
「……。よく、分からないが、音姫がそれで良いって言うなら、良いんじゃないか?」
「なぁに? そのやる気のない言い方は~。もぅ、男の子なんだからもっとしゃきっとしてよぉ。これくらいで疲れてちゃ、私と由夢ちゃんのお買い物についていけないよぉ?」
 音姫は言った後にハッとなった。
 やっぱり気にしているんだな。由夢を一人、初音島に残してきたことを。
「まぁ~。俺がその買い物に付き合うかどうかって言う選択肢があるのかないのかはよく分からないが……。夏休みはいっぱい、由夢との時間をすごしてやれ」
「うん……。そうする」
 とりあえずこんなで応急処置はオッケーだろう。なんだかんだ言って俺だって由夢のことが気にならないわけではない。
 さらに悪いことは、初音島の桜が復活しているということ。しかもそれの原因がひょっとしたら由夢にあるかもしれないこと。
 未だに音姫には内緒だが、初音島に帰る前には告げなければいけないだろう。
 初音島に着くなり桜が復活している様を見て、卒倒されてもかなり困るからな。
「んで? この店では何を見て回るんだ?」
「あ、えっとね。実はこのお店がゴールだよ。私が欲しいものはねぇ……」
 音姫がキョロキョロと店内を見回し、あるショーケースを指差した。
「ペア……リング?」
「……そう。半分、出すからさ」
 そういえば付き合ってから数年経つというのに未だに俺らの指にはその手のものが存在しない。
 音姫個人で言えば、俺が一昨年あたりの誕生日プレゼントに買ってやった指輪を持っているのだが、俺はアクセサリー類とは無縁の生活を送ってきた。
「指輪……かぁ」
「い、いやかな?」
 音姫がお願いするときにするあの、子犬のような目で俺を見てきた。
「べ、別に嫌じゃないけどさ。なんか、こう改まって買うとなると少し気恥ずかしい気がするなぁってさ」
「弟君って案外照れ屋なんだね」
「そんな意外性がウリなんでな」
 するとそんな俺らに店員さんが話しかけてきた。
「お仲がよろしいんですね。本日はペアリングをお探しですか?」
「え? あ、ああ。は、はい。そ、そうです!」
 いきなり話しかけられて混乱する音姫。店員さんはそんな音姫を見て、クスッと笑った。左手の薬指にはシルバーの指輪が光っている。
「あの、店員さんのそれもペアリングですか?」
 我ながら野暮ったいことを聞いたと思う。それでも店員さんは嫌な顔をひとつせずに笑顔で答えてくれた。
「これですか? これは、婚約指輪なんですよ」
 にっこりと幸せそうな笑顔。きっとこの笑顔は営業スマイルではないんだろうな。見た感じ新婚ほやほやっていうオーラを放っていた。
「お二人はお付き合いしてどれくらいなんですか?」
「俺たちはもぅかれこれ三年くらい経ちますね。だよな?」
「え? ええ。もぅそんな経ったんだねぇって感じだよね」
「ふふふふふ。お仲がよろしいんですね。羨ましいです」
 店員さんも幸せオーラふりまいてるくせに……。
今回はぐっとこらえた。きっとこれも営業マニュアルみたいなものにそってのことなんだろう。ああ、そう考えてしまう自分が果てしなく嫌だ。
「それでしたら、良いものがあるんですよ」
 どうぞ、といわれて店の奥に案内される。
 周りを見渡してもカップルしかいなかった。そりゃ、ひとりでペアリングなるものを見ても、むなしいだけだしな。
 そんなことを考えていたとき、いったんバックヤードに下がっていた店員さんが戻ってきた。
「これなんかどうでしょう。このリングの内側部分にフランス語で『永遠の愛』と書いてあるんですよ」
 確かに見たこともない単語が筆記体で書かれていた。なんて読むのかはフランス語を勉強していない俺にはわからなかった。
 もっとも、英語だったとしてもきっと読めない自信がある。
「へぇ~。なんか、良いよね! 他にお勧めとかありますか?」
 音姫がノッてきた。女の子の本領発揮である。
 他にも三、四個と見比べてみたが、俺にとっては同じ指輪にしか見えなかった。そこで俺は、すべての選択は音姫にゆだねることにした。
 それでも音姫は最後の二択で迷っていて指輪を俺に見せてきた。
「ねぇ。どっちがいいかな?」
 正直……見分けがつきません。
「こっちがね、一番最初に店員さんが持ってきてくれたやつで、こっちはね、デザインがちょっと可愛いの。どっちも捨てがたいんだけどぉ……。弟君はどっちが良い?」
 最終決定権が俺に回ってきたらしい。
「ん~……。俺としては音姉とずっと一緒に居たいから……。こっちかなぁ」
 最初に店員さんが持ってきてくれた『永遠の愛』と刻印の入った方を指差した。
「弟君ったら~。ずっと一緒に居るに決まってるじゃない! でも、私もこの刻印、良いかなって思っててさ」
「お熱いんですね。お二人とも」
 店員さんがからかってきた。
 音姫は顔を真っ赤にして、少しうつむきかげんだった。
 そんな初々しい反応が出来るお前が本当羨ましいよ。まぁ、そこが好きなんだけどな。
「えっと、こっちでお願いします」
 俺が指輪を店員さんに渡した。
「号数はいかがなさいます?」
 号数? 何じゃそりゃ。
「私は七かな? 弟君、号数って測ったことある?」
 だから、号数って何?
「よろしければ、お測りしましょうか?」
「あ、ああ。お願いします」
 俺は流されるがままに店員さんの指示に従った。それにより俺の号数とやつは『十三』であることが判明したのだった。
「指、細いんですね。素敵です」
 ほめられた。確かに、友達と指の太さを比べても圧倒的に俺のほうが細かったが、ほめられるほどのことなのか? これは。
「それでは在庫を確認してまいりますので少々お待ちくださいませ」
 ペコリとお辞儀をして、またバックヤードへと入っていった。
「いよいよだね」
「音姉、はしゃぎすぎ」
「だってぇ。永遠の愛だよ? 永遠の愛! なんか、素敵じゃない~?」
「そのまま結婚指輪にしても良い感じだな」
「え~! それはそれで別に欲しいよぉ」
「うっ……。経済的余裕が出来たらな」
「うん! プロポーズ、楽しみにしてる!」
「そういうことを言うか? 普通」
 そんなやり取りをしている間に店員さんが戻ってきた。
「ちょうどお二人の分、ありましたよ。こちらで、お間違えないですね?」
 確認のために店員さんが二つの指輪を俺たちに見せた。確かに。よく分からない筆記体が入っていたから間違いないだろう。
「それではお会計のほうお願いします」
 俺らはレジに誘導された。そこでお金を払い、お互いの名前が入れられることや、手入れの仕方などを説明された。
 店を出た頃にはもう薄暗くなってきていた。
 音姫が今その指輪をはめたいと言ったので、お互いがお互いの指にはめっこした。
 なんだかこそばゆかったが、これでまたひとつ、音姫とのつながりが増えたのかと実感することが出来た。
 まさにそのとき、俺の携帯がメールの受信を告げた。
「ちょっとごめん」
 携帯を開いて俺は少し動揺した。
 送り主は……杏。
『明日の夜、小恋を夕食に誘いなさい。ちょうど明日の夜だったら小恋も予定ないし、音姫先輩の誕生日ともかぶらないでしょ? ふふふ。結果報告、楽しみにしてるわよ』
「誰から~?」
 音姫が俺の携帯を覗き込もうとしたのであわてて携帯をしまった。
「え、えっと。と、友達だよ。そう、大学の友達!」
「ふ~ん? でもなんでそんなにあわててしまったの? ……あ~! ひょっとして女の子っ?」
 女の子……には違いないのだが、本気で大学の女の子だったらどんなに良かったかと思った。
「え? ち、違うよ! あのバカ、『音姫さんとは今日は何回やったんだ?』とか送ってきたから、慌てちゃって。あはは」
「あのバカって?」
「え、えっと……す、杉本! そう、杉本だよ! 音姉も一回会ったことあるだろ?」
「あぁ。あのメガネかけてて、ちょっと根暗そうな子? あの子、そんなこと言うんだ~。ちょっと意外かな。でも、男の子ってそんなものなのかな?」
「そ、そうだね。あはは。俺も男だから、なんとなくあいつの気持ち、分かるかな。あはは」
「でも、弟君はそんなにエッチじゃないもん。そこが良いところなんだからね! ものすごくエッチになっちゃったら、お姉ちゃん、嫌いになっちゃうかもよぉ~」
「う、うん……。約束する」
「あはは。冗談だよぉ」
 音姫はケラケラ笑い出した。
 音姫……本当にごめん! お前に何回嘘ついたか分からないよな。
 今、出来ることならお前に土下座をして謝りたい。まだ未遂とはいえ、許してくれないかもしれない。でも、これ以上、嘘つくよりはましな気がする。
 でも、でもだ。この作戦が上手くいけば、もう悩むこともなくなるし、音姫との関係もきっと、もっと深いものになる気がする。
 本当にごめんな。心の中でしかお前に土下座できないなんて……。
「どうしたのぉ?」
 音姫が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「え? いやぁ。ちょっとね……」
「なぁに? お姉ちゃんに話せることなら話してみてよ?」
「い、いやぁ。えっと……その……。そうそう! そいつが明日一緒に飯食わないかって言ってきてさ! ちょっと迷ってるんだよね……」
 聞く人が聞いたら絶対に嘘だとばれるような嘘だったが、音姫は信じてくれた。
「そっかぁ~。じゃあ、明日は何か適当に食べるよ。弟君もお友達づきあい、大事だからさ。私のことは気にしないで楽しんできて! そうだ。私もお友達のところに上がりこんじゃおうかなぁ」
「それって……」
「大丈夫! いつも大学で仲良くしてくれてるなっちゃんだから。そんな、男の人の家になんか行くわけないじゃん! だから、安心して?」
 音姫が俺の頭をなでてきた。いつもとは立場が逆になったが、嫌な感じはしなかった。
 むしろ音姫のその手は暖かくて、優しかった。
 ただひとつ、俺の中に音姫に対する申し訳なささえなければ、そっと音姫の胸に沈んでいきたい気分だった。
「帰ろう?」
「ああ」
 どことなく後ろめたさを感じながらも、音姫と二人、手をつないで家路に向かった。