道東を発見する旅 第3の人生

嫌われ恐怖症候群

嫌われ恐怖症候群

自分の親は、幼い自分に、周囲の期待にこたえるのが人生の目的であるかのように教育してきたのだと思う。

親の求める理想的な子供像は、他人と協調して仲良くできる子供であるべきで人を嫌いになるなんてとんでもない事だった。

だから、いつも回りに気をつかい人から嫌われないためにどうすればいいかと考えて育ったようだ。

だから、自分の場合、嫌われることに対する極端な恐怖感があるのだろう。それを自分で「嫌われ恐怖症候群」と名づけてみた。

これは今回のテーマである、哲学者の言う「嫌い恐怖症候群」のさらに上のレベルなのだと思う。

人から嫌われる事を怖れて他人に対して、自分がどう振る舞うべきかを決めてきた。その結果、「自分は善人であり、回りの人にもそうであってほしい」という信念が出来上がり、それを信じて生きてきた。

もちろん、そんな信念がずっと永続きするはずは無く、それが揺らいでしまうエピソードがいくつかあった。

一番大きなエピソードは、若い頃の上司が、他人を踏み台にしてでも偉くなろうとするエゴの塊のような人で、最初はその人の言うことを絶対的に受け入れていたのであるが、終わりの方には激しく反発して向こうが自分を怖れるようになったことがある。

幸い、まわりの人の計らいで、無事、綺麗に決着したのであるが・・・

厄介だったのは、自分を頼ってきたので、自分としては一生懸命面倒をみたつもりなのに、恩を仇で返すような行動をとる人がいたことである。

その人たちは、なぜ世話になった自分に対して、そんなひどい事が出来るのか、その人達の気持ちがまったく理解できないままであった。

ただ、それは稀な出来事であり、これまでの自分の人生は、おおむね、その信念のまま、八方美人的に綺麗事で解決してきた。これは本当にありがたい事だ。

今日は、自らが「極端な人間嫌い」であり、それをテーマに何冊も本を出版している哲学者、中島善道氏の本から「ひとを嫌うこと」も人生ではとても大事な事であるという主張についてまとめてみます。

中島氏によると、日本人の多くが人を嫌う事に対して恐怖感をもっているそうです。最近の若い人を見ていると特にそれを感じます。

街中や電車の中で、身体が触れたりすると、細やかに気づかって謝罪してくれます。人を傷つけたくない、そして嫌われたくないという怖れは、どうやら自分だけではないようです。

今後このような傾向はもっとエスカレートしていくでしょうから、人を嫌うことの意味を洞察して、どう生きるべきかを考えることが必要だと思います。

まず、ネットからの引用です。 http://blog.goo.ne.jp/takasin718/e/fa9690b1bd89e0630ac01570e0dd2a30

哲学者による「私の嫌いな10の人びと」

中島義道著「私の嫌いな10 の人びと」はエグイ本です 。

前々から気になっていた中島義道著「私の嫌いな10の人びと」(新潮社)をやっと読み終えました。 世の中、色んな人がいるということを実感しました。

電通大の哲学教授の中島氏が嫌いな10人は以下の通りです。

1、笑顔の絶えない人

2、常に感謝の気持ちを忘れない人

3、みんなの喜ぶ顔が見たい人

4、いつも前向きに生きている人

5、自分の仕事に「誇り」を持っている人

6、「けじめ」を大切にする人

7、喧嘩が起こるとすぐ止めようとする人

8、物事をはっきり言わない人

9、「おれ、バカだから」という人

10、「わが人生に悔いはない」と思っている人

まあ、こういうタイプの何人かは、多くの人にとって理想的といいますか、お手本みたいな人です。是非、そういう人に私はなりたい、と宮沢賢治のように、叫びたくなるような人たちばかりです。

それが、中島氏の手に掛かると、鼻持ちならない偽善者、もしくは偽悪者に急変してしまうんですよね。

中島氏の見方は、歪んでいるというか、はっきり言って斜に構えているのですが、「こういう物の見方もあるのか!」と新鮮な驚きさえ感じてしまいます。

中島氏の人生観は、以下の言葉に尽きます。 「この世は、どんなに努力しても駄目な時は駄目だし、絶えず偶然にもてあそばれるし、人の評価は理不尽でもあるし、そして最後は死ぬ」 こういう人生観は、若い人に対して道徳教育上好ましくないし、身も蓋もないニヒリズムです。

でも、こういう諦観も、私のような絶望の底に落ち込んだ者にとって、不思議と勇気と力が沸いてきたりします。とはいえ、中島氏は、そういう励ましなんて大嫌いと公言してますから、さぞかし、怒ることでしょうけどね。また、中島氏は、こんなことも言います。

「いつも前向きに生きている人は、自分だけそっとその信念に生きてくれれば害は少ないのに、往々にしてこの信念を周囲の者たちに布教しようとする。いつも前向きに生きている人は、とにかく後ろ向きに生きている人が嫌いなのです」 。

私の友人で、「恩を仇で返す」ような人間がいて、長い間、その不可解さが全く理解できなかったのですが、この本を読んで初めて彼の心境が分かるような気がしました。

そういう意味で、この本を読んでよかったと思っています。 引用終わり

ここまでの感想

このブログの著者と同じで、自分も確かに「人間は善人であるべき教」を布教をしてまわっていたように思います。

だから、恩を仇で返してくれた人にとって、自分の親切は、善意の押し売りで、その分息苦しく思っていたのかもしれません。

笑顔の絶えない、から始まり、物事をはっきり言わない、など自分もあてはまっているようです。

この哲学者が凄いのは、「嫌いな人の定義」など、自分で考えた命題をずーっと考え続けて箇条書きにしてしまっていることです。

後述する本には「なぜ息子が自分を嫌うのか」を3ヶ月考え抜いたと書いています。あまりに集中していたので電車(ウィーン滞在中のことだったそうなので路面電車と思います)に2回轢かれそうになったそうです。

つづいて、今度は嫌いな言葉、10個です。これも、またネットからの引用です。

中島義道『私の嫌いな10の言葉』

http://www.hmt.u-toyama.ac.jp/Deutsch/miyauchi/POPs/nakajimaW.htm

著者の嫌う10の言葉とは、次のとおりである。

①相手の気持ちを考えろよ!

②ひとりで生きてるんじゃないからな!

③おまえのためを思って言ってるんだぞ!

④もっと素直になれよ!

⑤一度頭を下げれば済むことじゃないか!

⑥謝れよ!

⑦弁解するな!

⑧胸に手をあててよく考えてみろ!

⑨みんなが厭な気分になるじゃないか!

⑩自分の好きなことがかならず何かあるはずだ!

どれも説教に使われそうな表現である。なぜ著者はこれらの言葉を嫌うのか。何が問題なのだろうか。

何を隠そう、 [①から⑩] という私が選んだ「嫌いな言葉九選(一〇番目の言葉だけ違うのですが)」は、全部自分の立場よりはるかに他人の立場を尊重することを教え込む言葉。

そして、私はそれが体質的に厭なのであり、(その美点にも増して)それがもたらすかずかずの弊害を指摘したいのです。(47ページ)

端的にいうなら、著者は、「察し合う」を美徳とする日本人のものの考え方に苛立っているのだ。

「体質的に厭」と表現しているが、どのような体質の持ち主に「察し合う」文化が合わないかといえば、感覚が「みんなと一緒」ではない人、感受性が平均値からズレている人である。

このような少数派(マイノリティ)にとっては、これらの言葉は多数派(マジョリティ)の感性の強制的な押し付け以外の何ものでもない。

これらの言葉に著者は、傲慢、怠惰、自己批判精神のなさを感じ取る。なぜなら、これらを平気で口にする人は、自分のスタンダードに何の疑いももっていないから。

自分がマジョリティであることにどっぷりつかっているから。マイノリティの方が正しいこともある、少なくともマイノリティにも存在価値があるなどと考えたこともないから。

⑩は著者もいっているが、他のものとは毛色がちがう。これが口にされるのは、若者に向かって、将来何になりたいの、と聞くような場面である。 いくら好きでも仕事にするのはまずいものもあるし、また好きなだけではどうにもならないこともわかっているのに、こういう言葉を発するのは欺瞞だ、と著者が批判するのはもっともである。

この言葉もマジョリティの感覚(=世間の掟)をそれとなく気づかせる働きがある。

引用終わり 次に、自分が読んだ「ひとを嫌うということ」角川文庫 から印象に残った箇所を抜粋します。

適度に「嫌い」のある人生(154ページより引用)

われわれは、普通相手から嫌われないようにすることに大奮闘したあげくにそれが報われないとなりますと、掌を返したように今度は相手を大嫌いにもってゆく。

相手が嫌っている以上に嫌おうと決意してしまう。 嫌いをゼロにするように努力するか、そうでなければ無限大にもってゆく。

こうした単純な二原色ですべてを塗りこめようとするから「嫌い恐怖症候群」の人生は乏しいのです。

さまざまな強度のさまざまな色合いの「好き」と「嫌い」が彩どっている人生こそ、すばらしいものではないでしょうか。

どこ(職場)に配置されても、あなたを大好きな人ばかりはいないのですから、そしてその理由は理不尽なのですから、自分が崩れてしまうほど耐えがたいのでないのなら、そこで抵抗力をつける技術を学ぶほうが必要です。 引用終わり

感想

好きの反対が嫌いであるとすれば、人を好きになる振り幅の大きさくらいに、人を嫌いになるのも同程度の振り幅があってもいいという論理は納得させられる。

ストーカー行為の後、相手を殺して自殺するというパターンも、この延長で考えればいいのだろう。

嫌われる事に対して、自分の受容度を少し上げれば、確かに人生も、もっと楽になるのかもしれない。

息子に嫌われるという事を前述したが、その理由は「息子の父親である限り、息子に嫌われる」と、なんとなく体感できたそうである。

 それ以上考えると自分を責めつづけることになるので、考えるのをすぱっとやめることにしたそうだ。言い換えると、「人間を理不尽に嫌う」場合など、嫌う理由を考えてもどうしようもないのだ。

そして自尊心を保たねば生きていけないと思い、やはり生きていかなければならないと思ったので、こんな場合、「なにしろ私が嫌いなんだなあ」と確認しながら、その人と冷たい関係を保っていくしかない、それしか方法はないと思ったそうです。

従って、人から嫌われるのを怖れて、必要な事を言わないとか、自分が我慢すれば丸くおさまるからと逃げて、その場しのぎで対応するのは間違いである。

なぜなら、そこで思考停止に陥ってしまうから、あっさりと嫌われている事を認めて心を切り替えて淡々と対応するべきなのだろう。

自分の場合、極端な「嫌われ恐怖症候群」なので、ショッピングに行ったときなど、店員の言うことに逆らわず、サイズの違うものを買ったり、あまり気に入らないのだけど、店員の勧めるまま、買ってしまって後悔するという事も多い。これなども、まず嫌われないためには・・なんて考えるからダメで、まず自分の心に何がしたいか問いかけて、自分の心に正直にならないといけないと思う。

さて、この哲学者は、メンタルが普通ではないようだ。この人のWikipediaによると、自己診断だけど、統合失調症(分裂病)に強迫神経症が並存し、少なくとも境界型精神病患者であったそうだ。だから、著作に興味をもって本を読もうと思った方は注意したほうがいいようです。

本の中に、自分の講演を聞いて、精神に失調を来した人がいると書いてあります。

最後に、自己嫌悪と人を嫌うことのからみについて紹介します。

自己嫌悪とひきこもり 190ページより

わが国の善良な市民を代表するタイプで、彼(女)は人を嫌ってはならないとこと、嫌われてはならないことを人生の公理のように信じこまされてきており、大多数はそれでも適当に公理に反しながら逞しく巧みに生き抜いてきていますが、うまく自分をだませない純粋形態は、ついにこの公理が維持できなくなって、水が低きに流れるように自分を嫌うところに落ち着くのです。

これは「人を嫌ってはならない・・・・」ということを絶対的な価値として信じている「善良な」親のもとに育てられた子に多い。

こういう雰囲気で育ちますと、世間とはそんなに甘くありませんから、他人との対立それ自体が怖くなる。そして他人と対立するたびに自分が悪いという自罰的な方向に流れていく。

中略

自分は嫌いだが自分以外の他人が好きであるわけではない。実は他人も大嫌いなのです。しかし、それは禁じられていると信じているので、自覚的には自分だけが嫌いであって、他人は恐ろしいのです。

中略

こうしてひきこもりへと転落していく。 人生のどの時期においても、他人にぶつかっていく力を獲得してこなかったのですから、常に不戦敗であり、結局はみずからに敗退者という烙印を押して落ち着くわけです。 引用終わり

まとめ

哲学者の立場は、一貫して人を嫌うことです。それは自分が主体なのですが、自分や多くの人は、「人から嫌われないように気をつかう」事を教育されてきているので、相手が主体となるから、少し内容が違うと思います。

最後のパラグラフにあるように、嫌われ恐怖に対しての問題解決は、他人とぶつかりあう力をどう獲得するかであり、その結果、嫌われても構わないと開き直ればいいのだと思います。

そう考えると、自分の場合、まだ挫折を知らない若い頃に、エゴの塊のような醜い上司に自分の信じるまま、思いっきりぶつかっていき、すくなくとも相手を引きずり下ろした経験は、その後の人生を随分楽にしたのかもしれないと思います。

そして、ぶつかり合う事を怖れず、相手から嫌われたとしても、気にしない事です。ただし、人を嫌うとしても、相手の全否定はしない事を勧めます。なぜなら、人生は、いつその人に助けてもらうことになるか分からないからです。

自分も、全否定してやっつけた上司にその後の人生で救いを求めれば、今よりももっと別な道もあったのかと思うこともあるからです。

今回は、あまりにも壮大なテーマでしたが、いずれ機会があれば本を読み返して、哲学者の概念の真髄に迫ってみたいと思います。

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