山梨県石和温泉での荒川博氏へのインタビューは2時間ほどに及びました。
唯一無二の“一本足打法”を創り上げた師匠の荒川博と弟子の王貞治。その二人だけにあった “特別な何か”とは?
私の中で印象に残ったのは、2つ。ひとつは、「盲目的なまでに従順な師弟関係」。そしてもう一つは、「偶然の幸運を必然の運命に変えていく力」。
荒川氏は、インタビューの中で「俺が言ったことに、王はいつでも“ハイ”と答えた。王の返事にいつも迷いはないね。師匠と弟子というのは、こういう関係じゃないとだめなんだ。」と繰り返し語ります。つまり、盲目的なまでの従順な師弟関係が、荒川と王にはあり、時間をかけてその信頼関係を築いたことこそが、一本足打法を生み出せた理由のひとつだと思います。
王は、入団3年目でスランプに陥ります。3シーズン目を終えた王の成績。ホームランは4本減って13本。安打も15本減って100本。打点も18減って、53打点。打率も.017減って.253に。打撃に自信がなくなってきた時期であった。
翌年(1962年)巨人軍コーチに、荒川氏が就任する。荒川氏は早々に、王に暗示をかける。
「川上監督(当時)、言っていたよ。長嶋もすごいけど、王のほうが凄くなるかもしれないって。俺は、ベーブルースの記録をぬくのは、お前しかいないと思っている。二人で、ホームラン世界新記録をつくろうな。」
そのとき、王は、照れる素振りを見せることもなく、深く「ハイ」とうなずいた。
それから、荒川と王の地獄の特訓が始まる。
シーズン中も、朝4時に起床。寒稽古に始まり、素振り、素振り。その日の試合を行って、また素振り。終わるのは、いつも午前0時を回っていた。時々、そのまま、朝になってしまうこともある。地方への遠征中ももちろん休まない。朝起きてきた川上監督が朝までバットを振っている王に驚いて、今日の試合は大丈夫か、とたいそう心配したというエピソードもある。
荒川氏から教えられた「努力」の意味を王は次第に理解し始める。「努力」とは、毎日の積み重ねだから、けっして、休まない。手を抜かない。
普段は、荒川氏の自宅で素振りの特訓を行ったが、王の激しい足の動きに、畳が1日一枚ずつ破れていく。荒川氏の自宅の八畳間で素振りをしていると、1日一枚畳が破れていくので、畳の裏表を入れ替えて、16日で全部だめになる。そこで、2日間は破れないような硬い畳を作ってもらったら、こんどは、畳に負けて、王の右足の小指が裂けてきた。
「ホームラン王を取るには、指が一本くらいとれるのは、あたりまえだろ?」
荒川氏が聞くと、王は素直に「ハイ」と返事をした。
唯一無二の“一本足打法”を創り上げた師匠の荒川博と弟子の王貞治。その二人だけにあった “特別な何か”とは?
私の中で印象に残ったのは、2つ。ひとつは、「盲目的なまでに従順な師弟関係」。そしてもう一つは、「偶然の幸運を必然の運命に変えていく力」。
荒川氏は、インタビューの中で「俺が言ったことに、王はいつでも“ハイ”と答えた。王の返事にいつも迷いはないね。師匠と弟子というのは、こういう関係じゃないとだめなんだ。」と繰り返し語ります。つまり、盲目的なまでの従順な師弟関係が、荒川と王にはあり、時間をかけてその信頼関係を築いたことこそが、一本足打法を生み出せた理由のひとつだと思います。
王は、入団3年目でスランプに陥ります。3シーズン目を終えた王の成績。ホームランは4本減って13本。安打も15本減って100本。打点も18減って、53打点。打率も.017減って.253に。打撃に自信がなくなってきた時期であった。
翌年(1962年)巨人軍コーチに、荒川氏が就任する。荒川氏は早々に、王に暗示をかける。
「川上監督(当時)、言っていたよ。長嶋もすごいけど、王のほうが凄くなるかもしれないって。俺は、ベーブルースの記録をぬくのは、お前しかいないと思っている。二人で、ホームラン世界新記録をつくろうな。」
そのとき、王は、照れる素振りを見せることもなく、深く「ハイ」とうなずいた。
それから、荒川と王の地獄の特訓が始まる。
シーズン中も、朝4時に起床。寒稽古に始まり、素振り、素振り。その日の試合を行って、また素振り。終わるのは、いつも午前0時を回っていた。時々、そのまま、朝になってしまうこともある。地方への遠征中ももちろん休まない。朝起きてきた川上監督が朝までバットを振っている王に驚いて、今日の試合は大丈夫か、とたいそう心配したというエピソードもある。
荒川氏から教えられた「努力」の意味を王は次第に理解し始める。「努力」とは、毎日の積み重ねだから、けっして、休まない。手を抜かない。
普段は、荒川氏の自宅で素振りの特訓を行ったが、王の激しい足の動きに、畳が1日一枚ずつ破れていく。荒川氏の自宅の八畳間で素振りをしていると、1日一枚畳が破れていくので、畳の裏表を入れ替えて、16日で全部だめになる。そこで、2日間は破れないような硬い畳を作ってもらったら、こんどは、畳に負けて、王の右足の小指が裂けてきた。
「ホームラン王を取るには、指が一本くらいとれるのは、あたりまえだろ?」
荒川氏が聞くと、王は素直に「ハイ」と返事をした。