藤田元司氏は、長嶋氏と王氏が初めての監督就任した際、日本一になれなかった理由を次のように分析していました。
「“選手の時、俺はこうしてやってきた。だから、他の選手もこうすれば出来るんだ”という感覚が二人とも強かったのではないかな。指導する選手が不甲斐なく思うことも多かったと思うのです。自分のようにすれば出来るんだ、という感覚があると、監督業は務まりません。そこら辺を切り替えるには、現役を退いてからしばらく期間をもたないと、監督業は難しかったと思います。」
そして、再び2人のもつイメージについて触れ、
「一見、長嶋くんのほうが、豪快で明るく、王くんのほうが、まじめで几帳面だというイメージがあるんですが、実態は全くの逆なんですよ。たとえば、ゴルフで一緒に回ると、慎重に、慎重に、手前から刻んでグリーンに乗せていくのが、長嶋茂雄という男。決してグリーンをオーバーするようなうち方はしません。そして、グリーンをどんどんオーバーして、積極的にグリーンを狙うのが、王貞治という男。世間では、長嶋のほうが豪快で、王のほうが緻密に言われるけど、実態は全く逆。王貞治というのは豪快な男で、大陸的ですよ。」
「自分の実態とは違うイメージが先行していったために、そのイメージを守ろうとして苦労したかもしれませんね。」
(※長嶋と王の実像が、世間の持つイメージと逆だということについては、チームメイトである、柴田勲氏、堀内恒夫氏、土居正三氏も同じように証言しています。)
2人のスーパースターをこれほどまで分析をし、明確に言い切れる方がいたのか。藤田さんのインタビューが進むにつれ、プロ野球OBに取材しているというよりは、こんな貴重なインタビューはめったに取れないから一言一句吸聞き逃すまい、という緊迫した雰囲気を、スタッフ全員が自然と共有し始めていました。
そして、ON2人にここまでいいきれる力と言葉を持っていたからこそ、巨人軍が優勝できないときにはいつも監督としてお呼びがかったのだと合点がいきました。しかし現実的には藤田監督が優勝したときには、“長嶋が育てた選手が活躍したから” “王が育てた選手が活躍したから”という評価が付きまといました。
そこで「藤田さんが監督としての正当な評価をもらって無いのではないか。それについては、どう感じているのか」聞いてみました。
「(2人の育てた人材で優勝した)そういう批判はもちろんありましたよ。でも実際にやってみて、正直に、よくぞ、ここまで育てたな、と思いました。それは、感心することのほうが多かったです。育てた選手が活躍するまで監督を続けられなくて、それは無念だったと思います。でも、誰も監督の引き受け手がないのであれば、自分がやるしかないので、外(マスコミ)に目を向けることなく、内に集中して、彼らの育てた選手をどう使いこなすか、監督業に徹することしました。」
そして、現在のホークスの王監督のことに触れ、「最初は、パーフェクトにしようとしすぎたんじゃないかな。でも、今のホークスの監督をしている王くんには、余裕が出てきたのがわかるよね。」
藤田元司氏の人間味あふれる格調高い話に、スタッフ一同感動しつつ、インタビュー時間は予定の1時間を軽く越え、収録テープも3本目、ついに2時間を越えていきました。
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