ハラスメント・いじめ問題を考えましょう

大阪地裁染髪禁止校則裁判の判決を読む(その1・染髪禁止校則は違法か)

2017年9月、大阪府の府立高校の女子生徒が

染髪禁止の校則に従った頭髪指導を何度も受けたため不登校となったとして、

大阪府に対して慰謝料など約226万円を請求する訴訟を大阪地裁に起こしました。

 

この訴訟は、約3年半にわたって審理され、

2021年2月16日に判決が言い渡されました(大阪地裁令和3年2月16日判決)。

大阪地裁は、判決で、染髪禁止校則は違法ではないとしましたが、

学校が。原告が不登校となった後に教室に生徒の席を置かなかったことなどは

違法として、慰謝料として30万円を認めました。

 

この判決は、マスコミにも大きく取り上げられましたのでご存知の方も多いでしょう。

この判決文は、裁判所ウェブサイトという検索サイトで公表されましたので、

ネットで読むことができます。

判決文には報道されていない重要な事実がいろいろと書かれています。

それらの事実を紹介しながら、この判決を3回に分けて読んでみましょう。

 

この判決では争点として次の3つを設定しています。

それは、

(1)染髪禁止校則と指導方針は違法といえるか

(2)学校の頭髪指導は違法といえるか

(3)原告が不登校となった後の学校の措置は違法といえるか

の3点です。

 

まずこの回は、(1)について考えてみましょう。

この高校の「校則」と「指導方針」はどういうものでしょうか。

判決によると、この高校の生徒手帳に、生徒心得として次のように記載されていた

ということです。

「頭髪は清潔な印象を与えるよう心がけること。

ジェル等の使用やツーブロック等特異な髪型やパーマ・染髪・脱色・エクステは

禁止する。また、アイロンやドライヤー等による変色も禁止する。

カチューシャ、ヘアバンド等も禁止する。」

またこの高校の頭髪について、生徒に説明している「指導方針」は

次のようなものだったということです。

「頭髪検査の結果、校則に違反しているときは、原則として4日以内に手直し

(地毛の色に染め戻すこと)をしなければならない。

それがされない場合や不十分な場合は、さらに4日以内に

手直しをしなければならない。

指導を拒否していると見られる場合には、厳重注意、特別指導、

出席停止等の措置を講じる。」

 

さて、校則や指導方針が違法かどうかを決める判断基準は何でしょうか。

判決は、「学校は、その設置目的を達成するために必要な事項を校則等によって

一方的に制定し、これによって生徒を規律する包括的権能がある。校則等が、

社会通念に照らして合理的なものであれば、

その包括的権能に基づく裁量の範囲内として違法とはならない」としています。

 

判決の違法性の判断基準の出発点は包括的権能です。これはその言葉のとおり

非常に広い権能です。

この権能に基づく裁量の範囲内、つまり違法とならない範囲は

相当広いものとなるでしょう。

このような広い裁量を認めるのはこれまで裁判所が採ってきた考え方です。

 

判決は、この広い裁量を前提として、この校則の目的は、華美な頭髪、

服装等を制限することで生徒に対して学習や運動等に注力させ、

非行行動を防止するためのものとして正当であるとしました。

そして、校則によって生徒としての活動を推進させることにより、

学習や運動等に注力させるという手法は合理的であるとしました。

 

また判決は、中学校以下の学校教育と異なり、生徒は自ら高等学校の定める

規律に服することを前提として

学校を選択しており(この「自己選択」が根拠になるかは後の回で考えます)、

その制約は生徒に過度な負担を課すものではないから

社会通念に反しないとしました。

 

もう一つの違法性の判断基準は、原告が主張している考え方です。

それは、どのような髪型にするかは憲法13条で保障されている

人格権ないし自己決定権に基づくものと考えます。

校則が、この人格権や自己決定権を制約するのは、

教育目的に基づいて必要性合理性がある場合に限るというものです。

 

なんだ、合理的、社会通念というか、必要性、合理性というか、

という違いだけではないかと思われるかもしれません。

しかし両者は、違法となる範囲が大きく異なります。

原告の主張の出発点は生徒の自己決定権です。

それを制限するだけの必要性、合理性という違法性の判断基準は、

判決のいうような包括的権能による裁量よりも違法となる範囲は広くなるのです。

 

ではどう考えればよいのでしょうか。

問題は、この校則違反にどこまでのペナルティを科すかにあります。

まさに「心得」として、身だしなみの範囲で、

先生からの注意だけで終わるのであればペナルティとはいえないでしょう。

しかし、本件では、校則違反の指導方針として、

出席停止までの措置をするとされています。

 

実際に本件では、後の回で紹介しますが、学校側は、この生徒に対し、

指導に従わない場合は別室指導になり、文化祭に参加できないことや、

修学旅行に参加しても他の生徒とは別行動にするとまで告げています。

 

このような措置は校則違反に対するペナルティというべきものでしょう。

この校則違反にこのようなペナルティを科すというのであれば、

校則を守らない生徒が、染髪により、学習や運動等に注力できず、

非行行動を起こすことについての

客観的根拠が必要になるというべきでしょう。

この校則があれば非行防止ができるだろうという

漠然とした考え方では根拠になりません。

 

本件訴訟のように、生徒から慰謝料請求をする場合、

校則が違法であることは生徒側が立証すべきものとされています。

しかし、校則は、学校側がさまざまな専門的かつ

実践的な教育的配慮から制定しているのですから、

学校側にそれが違法ではないことを立証する必要性があるのではないでしょうか。

 

そうであれば、本件のような校則裁判では、学校側が、染髪によって、

生徒に対し、学習環境や学校生活を含め、どれだけの悪影響があるかについて

それを裏付ける証拠(証人も含みます)を提出すべきことになります。

もちろん原告側も、染髪と学習の遅れや非行とは関係がないことについて、

裁判官を説得できるだけの証拠を提出することが必要でしょう。

校則裁判では、このような客観的な裏付けに基づく判断が求められます。

 

最近はブラック校則として、地毛証明や下着の色指定などが

取り上げられています。

学校生活にルールが必要だとは言っても、

明らかに人権侵害といえる校則は変えていかなければなりません。

ただ、明らかにブラックとまでいえないグレー校則をどうするかは、

その校則がその目的達成のための客観的な裏付けがあるかどうかで

ブラックかどうかを判断すべきではないでしょうか。


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