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ハラスメント・いじめ問題を考えましょう

旭川市中学生凍死事件といじめ重大事態の認定

1 旭川市中学生凍死事件

(1)事件の概要

 これまでの報道によると、旭川市の市立中学の女子生徒のAさんが、2019年4月X中学入学後、中学生男女らから、性的な内容も含む悪質ないじめを受け、同年6にはAさんが川に飛び込むまでに至り、警察の捜査により加害者が補導されました。

 同年9月、Aさんは引っ越してY中学に転校したのですが、Aさんはその後もPTSDに苦しんでいたということです。そして中学2年の2021年2月、Aさんは自宅から失踪し、捜索の結果、同年3月23日、公園で凍死しているのが発見されたという事件です。

 この事件では、いじめ被害に対する旭川市教育委員会X中学Y中学などのいじめ対応が不十分であったと批判されています。

(2)重大事態の認定  

 この事件では、2021年4月27日旭川市教育委員会が、この件をいじめ防止対策推進法28条1項重大事態と認定し、いわゆる第三者委員会による調査を開始するとしています。

 報道されている事実からすると、この事件では、重大事態の認定について次の問題点があります。

 ①旭川市教育委員会やX中学は、なぜ当初のいじめ事件の被害を知ってすぐに重大事態の認定をしなかったのか。

 ②旭川市教育委員会やY中学は、なぜAさんの凍死の件を知ってすぐに重大事態の認定をしなかったのか。

 この問題を考える前に、重大事態とは何かを簡単にまとめてみましょう。

 

2 いじめの重大事態とは

(1)重大事態の定義

 いじめ防止対策推進法(以下「いじめ防止法」といいます)28条1項は、いじめ被害について調査をしなければいけない重大事態の要件として

  ①児童等の生命・身体・財産に重大な被害が生じた疑い 

  ②児童等が相当期間の欠席を余儀なくされている疑い

 の2つをあげています。

 ただ法律には書かれていませんが、国の基本方針では、

  ③児童生徒や保護者から、いじめにより重大な被害が生じたとの申立てがあるとき

  も、①の疑いがあると判断して重大事態として調査等に当たるべきものとされています。

(2)重大事態認定の3つの要件

 ①の要件は、いじめにより重大な被害が生じた疑いがあれば重大事態になります。この点は、文科省が、2017年3月に策定した「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」において、「重大事態は、疑いが生じた段階で調査を開始しなければならないことを認識すること」と書かれています。

 実際に問題になるのは、学校がいじめを把握していないとき、学校が被害を把握していないとき、いじめや被害を把握していてもいじめと被害との因果関係がはっきりしないとき、の場合が多いでしょう。

 学校がいじめや被害を把握していないときは、児童生徒からのいじめや被害の申告があれば、いじめや被害の疑いがあるとすべきものとされています。これが③の要件に当たります。

 学校が判断に悩み、対応を誤る多くの場合は、いじめと被害との因果関係です。この場合に、学校は、明確な因果関係を求めがちです。しかしいじめ被害にはPTSDを伴うことが多く、被害者は簡単にいじめの精神的影響から脱却できるわけではありません。したがっていじめから1、2年を経過してからの自殺の企図や自傷行為等も因果関係があるとの疑いをもって重大事態を認定すべきでしょう。

 ②の要件については、国の基本方針では、この「相当の期間」は、年度間に連続又は断続して30日以上の欠席としています。ただ事例としては欠席が続き、転学や退学する場合には、欠席が30日未満でも重大事態の認定が必要になることがあります。

 ③の要件については、児童生徒等からの被害の申立てがあれば、その時点で学校がいじめや被害を把握していなくても重大事態と認定すべきものとされています。    ただこの③の要件はいじめの早期発見という点では必要なことですが、場合によっては現実にはいじめや被害がない場合にも重大事態との認定がなされる可能性があります。児童生徒からのいじめや被害の申告が明らかに不合理な場合でも、重大事態を認定するのが基本ではありますが、このような場合には、学校と児童生徒の保護者とがいじめ調査を開始するかどうかについて十分に話し合う必要があるでしょう。

 

2 いじめ調査の第三者委員会

(1)いじめ調査委員会

 いじめ防止法には、重大事態が発生したときには、学校設置者または学校の下に組織を設け事実関係の調査を行うとされています。これが重大事態調査組織と言われるものです。この組織は多くの場合、調査委員会と呼ばれます。

 国の基本方針では、調査委員会に第三者を加えることにより公平性・中立性を確保するよう努めるものとされていますが、その組織が第三者だけで構成されているものを第三者委員会と呼んでいます。

 調査委員会をどのような構成で作るかは、学校の設置者(公立学校では一般には教育委員会)が判断します。いじめ自殺のような深刻な被害の場合には、教育委員会などの学校設置者の下で設置される第三者委員会が調査するのがほとんどです。

(2)第三者委員会

 第三者委員会については、全国の実情が十分把握されていないようです。2018年に総務省行政評価局が調査した結果によると、全国の60教委の調査では、52教委で平時から第三者委員会委員会が設置されていたということです。これは迅速な対応をする上では必要なことですが、平時に設定していない教委があることや、私学での設置状況はどうかなどまだ実情を調査し改善すべき点は多いでしょう。

 問題になるのはその構成員です。いじめ防止法制定のきっかけになった大津いじめ事件では、教育委員会に対する信頼がなかったこともあり、第三者委員会の委員の半数は遺族の推薦する委員でした。構成員については、特に自殺などの深刻な被害の場合には、遺族の意向を尊重することが必要でしょう。

 

3 旭川市中学生凍死事件といじめ重大事態の認定

(1)いじめ行為と被害事実

 旭川市中学生凍死事件では、旭川市教育委員会やX中学が、なぜ当初のいじめ事件の被害を知ってすぐに重大事態の認定をしなかったのかという問題点があります。

 報道されている事実を前提としますと、教育委員会やX中学は、警察の捜査まであったのですから、いじめ行為によって川への飛び込みという被害事実があったことは重大事態の要件を満たしているとして、重大事態を認定すべきではなかったでしょうか。

(2)いじめ行為と凍死 

 また、旭川市教育委員会やY中学は、Aさんの凍死の事実を知ってもすぐには重大事態の認定をしませんでした。しかしこの点もいじめ行為と凍死の間にある程度の期間は経過していたとしても、Aさんの病状や出欠状況からして、すぐに重大事態を認定して調査を開始すべきではなかったでしょうか。

(3)第三者委員会による調査

 今後、この事件については第三者委員会が調査を進めることになっていますが、調査としては、いじめ被害だけでなく、旭川市教育委員会、X中学、Y中学の重大事態の認定の問題点も詳しく調査する必要があるでしょう。特に旭川市教育委員会やX中学が、なぜ当初のいじめ事件の被害を知ってすぐに重大事態の認定をしなかったのかという点は、その時点での調査の不実施がその後のAさんの自宅失踪、凍死という結果にどのように影響したのかについての詳しい調査が必要になるでしょう。


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