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I~これが私~

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『楽園の薔薇』3.闇の人物<4>

2010-12-09 21:30:22 | 小説『楽園の薔薇』
楽園の薔薇

3.ラクリーン家調査「闇の人物」

<4>

「悲しくないの?」
(やべっ!女っぽくなってしまった~~!)
トライドは少し驚いた顔をした後、「ううん。」と小さく首を振る。
ちょっとの笑みを浮かべて。
「なぜかね、泣けないんだ。僕は下町で育ってね。―あれ、イスフィールは教えてないの?」
「あ、うん。昔のことは話さないんだ。」
もう口から出まかせ。
トライドのしゃべる意味も分からない。
「そっか。下町でイスフィールと会ったんだけど。話に戻るよ。僕はその頃泣き虫でね~。今になったら、涙が出なくなっちゃったんだ。」
(下町で?私は外出したこともないのに、どうして?)
そういえば、あの手紙もおかしい。
トライドとの関係は不思議なことがたくさんあった。
(まず、あの手紙の『君がエプスタインの子だと分かって』の文。私は最初イスフィールだということを隠してどこかにいたってことよね。それでトライドと私が下町で育った…。でも、その記憶がない。それじゃあ―)
「イール?」
「は?え、ああ。」
考え込んでいたところを、トライドの声が現実に戻した。
「分かった。俺は、しばらくここにいるから。」
そうして締めくくると、トライドが案内してくれた部屋に入る。
(私の中には、私の知ってるはずの記憶がない。)


外は、もう暗くなっていた。



written by ふーちん


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