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人事担当者のための法律読みこなし術 - 第27回 無効?取消し?撤回

2014-11-02 14:51:04 | 日記

 


吉田利宏  よしだとしひろ 元衆議院法制局参事



■マナカナ(三倉茉奈?佳奈)の見分け方


 似たものを見分けるコツ。いろんな分野でそんなコツを教えてくれる人がいます。例えば、双子の女優のマナとカナ(三倉茉奈?佳奈)。その見分け方は、カナの左目の下にあるほくろだそうです。「ほくろカナ」と覚えておけば、間違えることはありません。大人にとって、見分けが難しいのがディズニーキャラクターの「チップとデール」です。シマリスの兄弟なのですが、なかなか区別がつきません。そんなとき、こういいながら判別するのだそうです。「鼻血デール」。なるほど、デールの鼻だけが赤く染まっています。
 今回、紹介するのは、「無効」「取消し」「撤回」という法律用語の違いです。マナ?カナやチップ?デール以上に区別がつきにくい難物です。


■「無効」と「取消し」


 学問上、「無効」というのは最初から効力を生じないことをいいます。これに対して「取消し」というのは、いったん発生した効力をさかのぼって消滅させる意味に使います。なぜ、最初にさかのぼって消滅させなければならないかというと最初から何らかの問題があったからです。そして、その問題がとても大きく明らかである場合にはそもそも効力が生じないこととして対処します。これが「無効」なのです。

 労働契約法16条では、解雇権の濫用に当たる解雇は無効である旨が定められています。これに当たる解雇なら「最初からなかったもの」として扱えばいいのです。ところが、「最初からなかったもの」とすると不都合が生じる場合があります。次の最低賃金法4条2項のような場合です。


○最低賃金法
第4条 略
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
3?4 略


 労働契約のうち、賃金の額に関する部分が「穴あき」になってしまうと、かえって労働者を保護できなくなる可能性があります。そこで、「無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす」という「補充規定」を置いて保護しています。同じような規定は、労働基準法13条にも見られます。


■「取消し」と「撤回」


 次は「取消し」と「撤回」です。学問上、この二つの用語は、異なる意味で使われます。どちらも効力を失わせる場合なのですが、「取消し」が最初にさかのぼって効力を失わせるものであるのに対して、撤回は、撤回後効力を失わせるという違いがあります。その違いは、効力を失わせなければならない原因が生じた時期にあります。取消しの場合は、最初から問題があった場合です。「許可を与えるべきではないのに誤って許可を与えた」というイメージです。撤回は問題が後で生じた事例です。「許可後に許可を与えるにふさわしくない問題が生じた」。だから取消しの効果は最初にさかのぼり、撤回の場合にはさかのぼらないのです。



 ただ、法律上は「撤回」の意味で「取消し」の用語が使われることが多いので注意が必要です。次の例もそうしたものの一つです。学問上の「取消し」なのか「撤回」なのかは、「問題がいつ生じたのか?」で見分けることができます。「後で生じた問題を理由に取り消す」のであれば、それは「撤回」ということになります。


○労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律
(許可の取消し等) 
第14条 厚生労働大臣は、一般派遣元事業主が次の各号のいずれかに該当するときは、第5条第1項の許可を取り消すことができる。
 一~四 略
2 略


 「来年、海外留学をしてもらうつもりで事務を進めてきたが、取消しになった。その理由は自分の胸に聞いて見ろ!」。もし、そんなことを人事課長から言われたら、取消しの場合と撤回の場合とに分けて、胸に手を当ててみる必要がありそうです。


※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2012年12月にご紹介したものです。


吉田利宏 よしだとしひろ
元衆議院法制局参事
1963年神戸市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、 衆議院法制局に入局。15年にわたり、法律案や修正案の作成に携わる。法律に関する書籍の執筆?監修、 講演活動を展開。
著書に『法律を読む技術?学ぶ技術』(ダイヤモンド社)、『政策立案者のための条例づくり入門』(学陽書房)、『国民投票法論点解説集』(日本評論社)、『ビジネスマンのための法令体質改善ブック』(第一法規)、『判例を学ぶ 新版 判例学習入門』(法学書院、井口 茂著、吉田利宏補訂)、『法令読解心得帖 法律?政省令の基礎知識とあるき方?しらべ方』(日本評論社、共著)など多数。近著に『つかむ つかえる 行政法』(法律文化社、2012年1月発行)がある。


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