「従軍慰安婦法案」の審議を許すな

2006年04月29日 | 政治 経済
■参議院に七度目の法案提出
 去る3月29日、民主・共産・社民の三党と無所属議員が共同で、「戦時性的強制被害者問題の解決の促進に関する法律案」を参議院に提出した。
 発議者は、(民主党)岡崎トミ子・円より子・千葉景子・和田ひろ子・喜納昌吉、(共産党)吉川春子、(社民党)福島瑞穂、(無所属)糸数慶子の8人で、賛成者は73人。
 長ったらしい法案の名前を聞いただけでは何のことかよく分からないという人が多いだろうが、略称で「従軍慰安婦法案」とも呼ばれていることを知れば内容の見当はつく。すでに1990年代の論争で決着のついた従軍慰安婦問題をいまだにいじくり回している政党や政治勢力が国会に存在するのだ。しかも、共産党や社民党がやっているというならわからないでもないが、にせメール問題に揺れてガタガタになっているとはいえ、自民党に代わって政権奪取を目指しているはずの民主党がその動きの中心を担っているというのも驚きである。
 慰安婦問題に関する立法措置の動きが最初に起こったのは、2000年からである。この年は民主・共産・社民の各党がバラバラに法案を提出していたが、2001年3月には三党が初めて共同で参議院に法案を提出した。それ以来、毎年のように法案提出を繰り返してきたが、いずれも審議未了で廃案となって今日に至っている。今回参議院に提出されたのは、2001年以来通算7回目となる。
 今国会の残りの会期は実質3ヶ月弱だが、議院運営委員会が内閣委員会への付託を決定すれば審議入りすることになる。

■狙いは国家責任と国家補償
 参院事務総長に法案を提出した後、院内記者クラブで会見した提案議員は、「アジア外交転換のためにもこの法案成立が大切である」と強調した。
 この法律の制定を推進してきた運動団体である「『戦時性的強制被害者問題解決促進法案』の立法を求める連絡会議」も同日、声明を発表し、次のように述べた。
 《これまで日本政府が責任を回避する盾にしてきた、「女性のためのアジア平和国民基金」も来年3月に解散します。海外からの声に押されてということでなく、進んで自発的に、日本政府は「慰安婦」問題についての取り組みを仕切り直して、被害者・被害国からも受け入れられる解決策を打ち出すべき時です。》
この声明で注目されることは、政府が一九九五年の村山内閣時代から推進してきた「女性のためのアジア平和国民基金」を「日本政府が責任を回避する盾」であると決めつけていることだ。つまり、この法案の狙いは、アジア女性基金という民間の補償方式に反対し、慰安婦問題について日本国家の責任を正式に認めさせ、慰安婦に対する国家補償を実現させることにある。

■法案の概要
 法案は全13条からなり、10年間の時限立法である。その骨格にあたる部分を取り出せば次のようになる。
 〈1〉まず、この法律の目的については、次のようにうたわれている。
 《この法律は、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の関与の下に、女性に対して組織的かつ継続的な性的な行為の強制が行われ、これによりそれらの女性の尊厳と名誉が著しく害された事実を踏まえ、そのような事実について謝罪の意を表し及びそれらの女性の名誉等の回復に資するための措置を我が国の責任において講ずることが緊要な課題となっていることにかんがみ、これに対処するために必要な基本的事項を定めることにより、戦時性的強制被害者に係る問題の解決の促進を図り、もって関係諸国民と我が国民との信頼関係の醸成及び我が国の国際社会における名誉ある地位の保持に資することを目的とする。》
 〈2〉次に、二つの主要な言葉の定義が与えられる。
 《この法律において「戦時における性的強制」とは、今次の大戦及びそれに至る一連の事変等に係る時期において、旧陸海軍の直接又は間接の関与の下に、その意に反して集められた女性に対して行われた組織的かつ継続的な性的な行為の強制をいう。》
 《この法律において「戦時性的強制被害者」とは、戦時における性的強制により被害を受けた女性であって、旧戸籍法(大正三年法律第二十六号)の規定による本籍を有していた者以外の者であったものをいう。》
二つ目の項目で、「旧戸籍法の規定による本籍を有していた者」とは、日本人のことである。だから、この法律にいう「戦時性的強制被害者」とは、日本人を対象外としているのである。
〈3〉「名誉回復のための措置」について次のように規定する。
 《政府は、できるだけ速やかに、かつ、確実に、戦時における性的強制により戦時性的強制被害者の尊厳と名誉が害された事実について謝罪の意を表し及びその名誉等の回復に資するために必要な措置を講ずるものとする。》
 《前項の措置には、戦時性的強制被害者に対する金銭の支給を含むものとする。》
〈4〉政府は問題解決の促進のための「基本方針」を定めなければならないが、その内容には次の事項が含まれる、とされる。
 ?名誉回復のための措置の内容及びその実施の方法等に関する事項、?その措置を講ずるに当たって必要となる関係国の政府等との協議に関する事項、?いまだ判明していない戦時における性的強制及びそれによる被害の実態の調査に関する事項、
 〈5〉総理府に、特別の機関として、「戦時性的強制被害者問題解決促進会議」を置く。会長に内閣総理大臣を充て、委員は、関係行政機関の長のうちから、内閣総理大臣が任命する。また、〈4〉の?の調査を行うために調査推進委員会を置く。

■3つの疑問
 法案を一読してまず気付く素朴な疑問を3つ上げてみる。
第一は、「戦時性的強制被害者」とは結局どういう人々なのか、という疑問である。この言葉から素直に連想されるのは、「戦場で強姦の被害に逢ったかわいそうな女性たち」というイメージである。強姦という、れっきとした犯罪の犠牲者である。はたして、そんな人々が多数存在したのか。
第二は、なぜ、外国の女性だけを「名誉回復」の対象とし、日本人の「被害者」は除外するのかという疑問である。
 第三に、もし、「被害者」への補償という実質を考えるなら、「アジア女性基金」という民間の組織による補償でも構わないはずなのに、それを拒否する人々がなぜこの法案を推進しているのかという疑問である。

■崩壊した「従軍慰安婦強制連行」説
まず、歴史的事実の確認から始めよう。1930年代に中国との戦争が始まってから、日本軍は「慰安所」と呼ばれる施設を業者に提供して営業させることを始めた。その目的は、戦地で強姦事件が発生するのを予防することと、性病の蔓延をふせぐことだった。慰安所で働く女性は「慰安婦」と呼ばれた。売春業者に連れられて戦地に働きに来た女性が慰安婦だったのである。
このように書くと、日本人は特別淫乱な国民であるかのように誤解されかねないが、こうした問題は古今東西を問わず、軍隊につきものの普遍的な現象である。例えば、ナポレオン戦争の時のフランス軍は、戦死者の十倍の数の兵士が性病で使いものにならなくなった。1942年中国大陸に派遣されていたアメリカ空軍航空部隊では、昆明の売春宿に通いつめたパイロットと地上員の間に性病が蔓延して、戦闘機の半数が飛び立てなかった。だからどの国の軍隊でも、兵士の性欲処理のための施設をつくったのだ。
 日本の慰安所で働く女性は国内で働く遊郭の女性と本質的には何も変わらない。むしろ戦地の方が遙かに高収入が得られる有利な仕事であった。だから、国内外を問わず、当時も戦後も、これを問題にすることなど考えられなかった。ところが、ある要素と結びつくことで、俄然日本の戦争犯罪追及のネタに仕立て上げられるに至った。その要素とは、「朝鮮人強制連行」である。
 1965年、朴慶植『朝鮮人強制連行の記録』という本が出版された。これが起点となって、戦前日本に渡ってきた朝鮮人は強制連行された人々であるという「神話」がつくられた。1980年代には、教科書にも書かれるようになっていた。
 1990年、社会党の本山昭次議員が国会で「従軍慰安婦も強制連行されたのではないか」と質問した。これがこの問題の始まりである。つまり、「朝鮮人強制連行」という虚構の上に建て増されたのが、「従軍慰安婦強制連行」だったのである。
 しかし、1991年から1997年までの論争を通じて、強制連行を主張する陣営は敗北した。強制連行を証明する確かな証拠を提示することが出来なかったからだ。強制連行説を推進してきた朝日新聞は、97年3月31日の特集記事で、「『強制』を『強制連行』に限定する理由はない。強制性が問われるのは、いかに元慰安婦の『人身の自由』が侵害され、その尊厳が踏みにじられたか、という観点からだ」と書いた。あれほど吹聴してきた「強制連行」を、どんな職業にもつきまとう「強制性」とすり替えたのである。

■「戦時性的強制被害者」は虚偽概念
そこで慰安婦強制連行説にかわって持ち出された論点が、慰安所のような施設そのものが「強姦センター」であり、「性奴隷制」であって、戦争犯罪にあたるというものだった。その権威付けのために、1990年代の後半には国連人権委員会の場が利用され、クマラスワミ、マクドウーガルといった外国の人権活動家に資料を渡して旧日本軍の「慰安所」を告発させる作戦がとられた。2000年日本で開かれた「女性国際戦犯法廷」は、そうした流れのクライマックスだった。
 法案のいう「戦時性的強制被害者」とは、こうした流れを受けて造語された虚偽概念である。一定のイメージを喚起する言葉だけがあって、対応する実体がない。
 1991年12月、金学順ら韓国の元慰安婦が、日本国を相手取り国家賠償を求めて東京地裁に提訴した。以後、続々と慰安婦裁判が提訴されたが、判決では国家賠償を認めたものはない。韓国についていえば1995年の日韓基本条約で国家間の戦後処理は終了しており、相手国の個々の国民は、要求があれば自国の政府に請求すべきだからである。
 1995年、社会党の村山内閣は「アジア女性基金」を設立し、右の理由から政府として補償は出来ないが、日本国民からの募金を中心とした民間の基金を支援する形で元慰安婦の女性に補償する道を開いた。本来、そんな必要はないともいえるが、すでに多額の補償が支出されている。
そこで、最初の3つの疑問に答えることにしたい。
第一に、「戦時性的強制被害者」とはすでに明らかにしたとおり、指示対象は旧日本軍の慰安所で働いたことのある売春婦である。?戦時、?性的強制、?被害者、という3つのコンセプトを組み合わせた言葉の詐術で、それら売春婦を戦場の強姦事件の被害者のイメージに仕立て上げたものである。
第二に、日本人の「被害者」が除外されているのは、職業として戦地で働いていただけなのに、そのことを根拠に日本政府から金をせしめようと考える、はしたない日本女性はただの一人もいないからである。これは日本人として誇りにして良いことだ。
 第三に、法案提出グループが「アジア女性基金」に反対するのは、補償の実質ではなく、日本国家の犯罪と責任を認めさせ謝罪させるという政治的目的があるからである。法案の本質が反日・反国家運動であることがわかる。この亡国法案を決して許してはならない。

 *以上の文章は、会員制月刊雑誌『力の意志』(サンラ出版)06年5、6月号に「〈亡国の法案〉戦時性的強制被害者問題解決促進法案」と題して、2回にわたって掲載したものです。転載の許可をいただいた同誌と増田俊男氏に謝意を表します。

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