『パラレル』
長嶋有
2007年・文春文庫
2004年・文藝春秋
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「だって、若くて年商50億とかいってる奴の顔見たことある?」
あれは人間じゃないもの
津田は黒さも半端だから、物書きくらいがちょうどいいね。
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主人公の"僕"はゲーム作家で、かつてピルグリムサーガというヒット作も出したが、今は会社を辞めて浪人状態。
僕の失職が原因か、ほどなく妻は去ってしまう。
それでも、生活は当然のように続いていく。
知人の結婚式、キャバクラ、ホテル・・・
新しい日々が始まりそうでいて、やはり今日は昨日の連続でもある。
昔、どこかの書店(ビレッジ・ヴァンガードだったか)の紹介文で、ポール・オースターの小説を評して「何も起こらない・・・・」と書いてあった。
上手い紹介文だなと思った。
長嶋さんの小説も、何かが起こりそうで起こらない話が多いけど、本作は珍しく具体的にいろんな事が起こるのが特徴。
しかし、この人は奥さんを描くのが巧い。
『パラレル』の前作にあたる『ジャージの二人』でも、"僕"の奥さんは同じような形で出て行ってたので(設定上、この2作が陸続きかどうかは別として)奥さんは同じ人物なんだと思う。
その元奥さんとの距離感。
当たり前だけど、奥さんってのは道ゆく女たちとは別の生き物で、それがいつも巧く書いてあって唸らされる。
ところで、本作で一番印象に残ったのは(奥さんとは全く関係ないんだけど)"青"という女の子が、主人公の友人でプレイボーイの津田を評して口にする冒頭の台詞。
津田はこの小説の核となっている登場人物で、奥深さと浅薄さが同居した不思議な存在なんだけど、
「あいつ、本当はまあまあいい奴だよね」
なんて言うより、コレはずっとステキな褒め言葉だと思った。
■長嶋有
・『猛スピードで母は』 (2002年・文芸春秋)
・『タンノイのエジンバラ』(2002年・文芸春秋)
・『ジャージの二人』 (2003年・集英社)
・『パラレル』 (2004年・文芸春秋)
・『泣かない女はいない』 (2005年・河出書房新社)
■長嶋作品の映画
・『ジャージの二人』 (2008年)
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