
1、先日の日経の記事
2/6の日経電子版の記事に
『米で細る日本語教育 教員不足深刻 プログラム廃止の動き』
というのがあった。
記事によると、この1月に中部大西洋岸日本語教師会や関係者に対するアンケートで、日本語教育の現状について尋ねたところ、
「5年前や10年前と比べて日本語の学習者が減っている」
と答えた人が40%に達したんだって。
このアンケート自体は回答者25人という、比較的小規模なものなんだけど、
「中国語などほかの外国語プログラムと競争しており、日本語を勉強する将来的な利点をうまく説明できないと、米国の生徒に日本語を選択してもらうのは難しくなる」
というアンケート要約は、妙に納得できるものだった。
2、言葉で考える
この記事が気になった理由は2つある。
理由1:モノを考えるとき、人は言語を使う
数年前、9週間にわたって一切日本語を口にしないという、英語の特訓をした時期があった。
毎日の会話はもちろん、お茶してる時も、お酒を飲んでる時も、おならをしている時も英語という時期を過ごした。
周囲に日本人が居ない環境だったから、日本語で話しちゃう心配はなかったんだけど。
喋るだけでなく、朝、起きた瞬間から、頭の中も英語でモノを考えるってのが特訓のミソで。
そうしないと、脳内で日本語で考えてから英語に変換する癖がついて、会話のペースが遅くなってしまう。
朝、目が覚めた時、「え~っと、今日何曜だっけ?」って日本語で思ったらアウト。
これは割と手こずったけど、考えごとも全部英語ってのが何とか身について。
その副産物として、スピーディーに物事を判断したい時に、日本語は回り道が多くてあんまし向いてないなって事に気づいた。
日本語でモノを考えるとき、自分がいかに沢山のエクスキューズをテーブルに並べて、結論を分かりにくくしてるのか思い知った。
何より主語を曖昧にできるし、述語も勿体ぶったりできる。
語順も含めて、思考速度的には大きなハンディがあるなぁ、と。
(日本語の語彙の美しさの話は、ここではちょっと脇に置いときます)
理由2:世界のなかで、日本は思ってるほどメジャーな存在じゃない
アメリカで仕事した時期、みんなナイスガイだった。
イギリスに住んでると、みんなとても親切にしてくれる。
この数年間で、友達の半分が外国人になった。
だけど同時に、外国人、特にヨーロッパの人たちが、如何に日本の事を何にも知らないか、何の興味もないかも思い知った。
ほーんとに全く興味ないんだよね、あの人たち(笑)
キョウト、スシ、スモウ、とか言うけどさぁ、本当それだけ。
インテリはもうちょっと知ってるんだけど、「嗜みとして」って感じだね。
クールジャパンとかジャパニメーションとか言っても、まだごくごく一部。
2002年の日韓ワールドカップの時なんて、欧州のジャーナリストは日韓が地続きじゃないと知って焦ったらしい(笑)
ちゅうことで、
1「人は言葉を使ってモノを考える。だから、言語は思考そのものである」ことと、
2「俺ら日本人って、決して世界の中心で愛なんか叫んでねーぞ」ってことを
個人的に思い知った後だから、さっきの日経電子版の記事が妙に引っかかったという訳。
世界で何人の人が日本語を理解できるか。
少なくとも日本語の習得に興味を持ってるかって、これからの国力そのものだよね。
人口ピラミッド、労働力、移民、というキーワードを挙げるまでもなく、すでに競争は始まっているって事。
日本はすでに、外国人労働者にとって魅力的なマーケット足りえるか、厳しい選別の対象になっている。
そんな中、日本語学習の訴求力が落ちてるって話は、わりと深刻なお話だ。
3、メタルギアシリーズとの浅いお付き合い
そんでー。
相変わらず、本題に行くまでが長いんだけど、やっとこっからメタルギアのお話。
メタルギアはKONAMIの看板ゲームソフトの一つです。
プロデューサーは小島秀夫氏。
小島作品だと『スナッチャー』(1988年)と『ポリスノーツ』(1994年)は、昔やりました。
アドベンチャーゲームが好きだったんだよねぇ、かつて。
ひょっとして、今はもうジャンルとしては消滅しちゃったのかな?
夢があったよ、アドベンチャーには。
好きすぎて、なんの関係もない映画『フライド・グリーン・トマト』の話の最中に、『スナッチャー』の話に脱線していったりして。
さて、肝心の『メタルギア』については、1987年に出たMSX2の最初のやつを、短パンの脇からキャン玉をはみ出させつつプレイ。
こんな時代(笑)
ふふふ・・・。
これは、メタルギア2かな?
これでも「画面イイね~」って言ってたよ、当時。
画面イイってのは、表現がリアルだって意味です。
当時のクオリティでね。
ボス(右)が、まんまショーン・コネリーやん!ってなツッコミは、今は置いておこう。
まあ、こういう権利関係も含め、ゲームがまだ牧歌的な時代でした。
メッセージ部分も、このカクカクした苦しそうなフォントが堪んない。
ギリギリ、「安っぽい」だけは漢字にできたぞ、みたいな。
で、小島さんが次世代ハード(初代プレイステーションのこと)のスペックを活かしてメタルギア『ソリッド』をリリースした1998年頃からは、個人的ににゲームから遠ざかっておりまして。
飲むのに手一杯で、ゲームについては『ウイニングイレブン』と『グランド・セフト・オート』、まあボクはお洒落なんで「グランセフォー」って発音しますけど、この両シリーズしかやってなかった時代なのです。
という訳で、俺はメタルギアに関しては 語る資格もないくらいの門外漢 だという事を白状しておきます。
1987年にMSX版で遊んでから、今年でちょうど30年!
その間、世に出たメタルギアの主要8作品について指一本触れてないんだからねー。
ついでに言うと、ゲームじたい、2011年に断筆ならぬ(壇蜜ならぬ)断コントローラーしてましてぇ。
お爺ちゃんになって暇になるまで、ゲームに手を出すことは無い訳です。
4、最新作『ファントムペイン』
こっから、ようやく。
『メタルギア』の現時点での最新作。
2015年コナミの『メタルギアソリッドⅤ ファントムペイン』の話。
その技術の進歩たるや、恐るべきもので。
上のほうの30年前のゲーム画面と見比べると、やはり隔世の感がありますね(笑)
デモ画面じゃないからね。
俺の知ってる頃のゲームはオープニング・デモだけこんなで、いざゲームが始まるとカクカクの画面で・・・(笑)
さて。
断コントローラーな俺氏こと夜間飛行氏が、なぜ30年ぶりにメタルギアに接触したかと言いますと。
MGSVTPPテープまとめ
こんな動画を上げてる方がいらっしゃいまして。
メタルギアの最新作ファントムペインの、ゲーム内の会話シーンを集めに集めた音源集。
(時代設定が80年代なので、会話音源が自動的にカセットテープで収集され、後から懐かしのSONYのウォークマン!で聴けるというシステム)
この会話シーンの収録時間たるや、実に6時間・・・。
居酒屋でもなかなか喋れませんぜ、6時間。
先日、キプロスの南北分裂経緯と現況について調べ直す必要があって、ネットをさまよってたら、偶然この動画に行きついた。
このテープ、オセロットからビッグボスへのキプロス情勢のブリーフィングから始まるもんで、
「あら、こりゃラッキー?」
なーんて思って、お皿を洗ったり、部屋を掃除しながらテープ(実際はyoutubeの動画)を流しっぱなしにしとりまして。
ゲーム内のキャラクター同士の会話なんで、当然ながら、キプロスの話ばっかしてくれる訳もなく、すぐに話はフィクション(メタルギア作品内の政情)の方にシフトしていって、結局全然タメにはならなかったんですが(笑)
家事なんかしながら何回かに分割して、全6時間分を聞き終える!という偉業を達成してしまいまして。
要はゲームをやらずして、ストーリーをトレースしちゃったと。
5、『ニュースピーク』と『声帯虫(せいたいちゅう)』
【ネタばれ注意】
英作家ジョージ・オーウェルが1949年に書いた『1984年』は、本作ファントムペインの世界観に影響を与えた一冊です。
『1984年』の世界では、『ニュースピーク』という言語で人間の思考の支配が計られた。
例えば、人民がクーデターを起こすリスクを回避したければ、人民から『クーデター』という言葉を取り上げれば良い。
それから『国家転覆』『反逆』なんて単語も取り上げよう。
日本語だったら、そうだね『下剋上』なんてのも取り上げようか(笑)
そうすると、どうなるか。
人は言葉で思考するので、単語を取り上げられた人民は『クーデター』『国家転覆』『反逆』、おまけに『下剋上』について、考えることさえできなくなるって寸法。
でも、人民に既存の母語を使わせつつ、こうした危険な単語だけを摘出していくのは、支配者的にとーっても面倒。
だから、新たな言語、文字通り『ニュースピーク』を使いなさい。
これ以外の言語を使ったら処刑しまっせぇ、と。
『1984年』は、まあ、こうやって為政者が民衆を支配した話。
一方、本作ファントム・ペインで、敵役スカルフェイスが開発した人類を滅ぼすための最終兵器は『声帯虫』っていう寄生虫。
声帯虫は人間の肺にもぐりこみ、罹患者が特定の言語(例えば英語)を使うと、話者の体内で増殖し、肺を食い破って死に至らしめる。
声帯虫には種別があって、英語株ってのを使うと英語を話した者、仏語株を使うとフランス語を話した者の肺を食い破る。
荒唐無稽(笑)とは言え、・・・凝ってるでしょ?
もうゲームってここまでの設定で作りこむ時代なんだね。
スカルフェイス自身が東欧の出身で、言語的マイノリティであるという人物背景まで細かく設定されています。
本作の中には、変異した声帯虫に感染した研究スタッフと、救出に向かってやはり感染してしまった勇敢な救出隊員たちが、真っ暗な研究施設の中で「ボス、助けてください」「ボスが来てくれた、俺たち助かるんだッ」「ここから出してくださいッ」「こんなところで死にたくないッ」と訴えるのを、助ける方法が無くて主人公が一人ひとり撃ち殺していくという、地獄のようなイベントがあります。
要はね、ついに「言葉」を主要テーマにしてゲームを作る人が現れたんだと。
もともと、監督の小島さんは1998年のメタルギアソリッドの段階で、クルドの女性兵士(スナイパー)を登場させたりして、政治情勢をゲームに取り入れる事に意識的だった。
クルド兵士の女性比率が極めて高いことを世界中が知ったのは、2000年代になってからだったと思います。
早いね、小島さん。
で、その後、メタルギアシリーズのヒット(累計3,200万本だそうな)と共に自身も世界に打って出ていく中で、小島さんもスタッフも確信を強めたんじゃないかと思う。
あまりに大きな言葉の重要性に。
そして、言語って、国そのものだという事に。
(例えば、英語圏をマーケットにするかロシア語圏をマーケットにするかでゲームのストーリーは変わってきますよね、自ずと)
では、長すぎる今回の文章の締めくくりに、『ファントム・ペイン』の冒頭で画面表示される、ルーマニアの思想家、エミール・シオランの言葉を。(スカルフェイスもルーマニア出身じゃなかったっけ?キャラクターのモデルなのかな?)
人は、国に住むのではない。
『国語』に住むのだ。
『国語』こそが、我々の『祖国』だ。
・・・なるほどねぇ、国語が祖国か。
(おしまい)
6.おまけ
まあ、居ないと思いますよ。
居ないとは思うけど、ものすごく時間と体力がある人で。
でも40時間もゲームする気力はなくて、且つ、このダークな世界についていけるって人は、ストーリーを追ったプレイ動画を。
たったの9時間半で(汗)、ファントムペインのストーリーをトレースさせてくれます。
このシリーズの常で、最後の最後に大どんでん返し付き。
今まで自分が延々プレイしていた、このストーリーは一体何だったんだ?というランド・スライド感覚が味わえます。
まあ、ファントムペインというサブタイトルをよーく考えてみれば、ちゃんと題名で大ネタ吐いるとも言えるけんだど。
それにしても最初のキプロス(正確にはイギリス主権基地領域のデケリア)の病院が襲撃される描写。
あの1時間がダーク過ぎるぜ。
<熱帯雨林>
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メタルギアソリッドV ファントムペイン - PS4 |
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メタルギアソリッドV ファントムペイン - PS3 |
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メタルギア ソリッド ファントムペイン (角川文庫) |
野島 一人 | |
KADOKAWA / 角川書店 |
問題について、ある種の真理を言いたかったかもしれません
移民の人々が何年経っても母国語を捨てなかったら
国家に帰属する意識や忠誠心なんて持てません
そして移民の三世や四世は祖国の言葉を忘れても
その国の人間として認められずに差別を受け続けたら
ある日、その国を滅ぼそうと考えるでしょう
つまりどれだけ理想を語っても移民は同化しない
同化させる強い意思と祖国への幻滅がなければ
誰もアメリカ国民やEU市民として誇りに持てません
例え英語が世界共通語となり、世界中の人と話が
出来ても、価値観を共有できなかったら同じ言語を
話す「外国人」として認識します
まして日本語を捨てなかったら、やはり移住先でも
その国の人間になるという意志は持てないでしょう
長らく気付かずすみません。
ご指摘のとおり言語は移住先に馴染む時にも、逆に母国側に引っ張られる時にも重要な役割を果たすと思いますし、現地で差別などを受けた場合には単に言語に精通しているだけではその国を愛せないのもその通りだと思います。
私が住んでいる国は某国の難民を300万人受け入れていますが、結局、個人の思想や努力やその他諸々の要因により300万人1人ひとりに違った将来が待っているので、どこまで行ってもこの人たち全体を指して成功・失敗とは言えないんだと思います。
ただ、その時に良くも悪くも言語が重要な役割を果たすことは間違いないのかなと思っています。