かつて、野火明は「天才」の名を欲しいままにした映画監督であった。
二十年ほどキャリアのある映画関係者なら、彼の名前か彼の代表作「ダイヤモンドの月」のタイトルを何度も目にしたことがあるはずである。
当時、この「ダイヤモンドの月」は、各映画賞を次々とかっさらっていったのである。
「ダイヤモンドの月」さえなければ、と、くやしい思いをしたコンペ出品者も多いことだろう。
また、彼にあこがれて映画を撮り始めた若者も多いことと思う。今は、みな中年になっているだろうが。
この文を書いている星野は「鉄ドン」という、超短編バカ映画のイベントの代表をしているのだが、そんなぼくも全く逆方向と言ってもいいぐらいシリアスな「ダイヤモンドの月」に夢中になったのだから、野火明の出現のインパクトは映画界だけにとどまらなかった。
そんな天才、野火明だが、いつの間にか表舞台から姿をくらまして、ぼくだけでなく世間的にも忘れ去られようとしていた。と、いうか、ぼくはすっかり忘れていました。
だが、彼はずっと、チャンスを狙っていたのである。
最高の脚本、最高のキャスト、最高のスタッフ、それらがそろうのをずっとずっと待ち構えてたのだ。たぶん。
知らんけど、たぶん、そんなんやと思う。
本人もよほど自信があるのだろう。公開前に映画祭に応募して「ヒューストン国際映画祭」では実際に、金賞をかっさらっているのだ。
そして、自信のあらわれなのか、やけくそになっているのか、映画の冒頭部分を三十分もインターネット上で公開するという乱暴なことをしているのだ。
そんな天才、野火明の「何年ぶりやねん!」とツッコミを入れずにいられない新作である。大阪でこの映画に客が入らないことがあったら、大阪の文化レベルが疑われるのは間違いない。まあ、大阪の人はそんなことあまり気にせんのかも知れんが、世界が認めた映画なのだ。
と、ここまで読んできて「野火明」と「鉄ドン」の両方を知っている方は、「なんで『鉄ドン』が野火明を応援してるの?」と思われてることだろう。
じつは「鉄ドン」では、バカ映画オムニバス映画を製作中で、その中の監督のひとりが野火明なのだ。
天才、野火明のバカ映画、どんなものになるのか興味あるでしょう? 早く見たいでしょ?
でも、その前に「蟻が空を飛ぶ日」を見て、彼がこの次にどんなものを撮るのか想像するのもいいと思います。
さあ、シネ・ヌーヴォへ、レッツゴー十匹!
「蟻が空を飛ぶ日」だけに、ありがとう! って何?
9月21日の初日は大入り満員(しかも補助席まで出した)とのこと。
10月4日まで、よろしくお願いします。
劇場窓口で「鉄ドン(てつどん)」と言えば、当日1500円のところ、なんと1000円になる「鉄ドン割」実施です。