夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

しみる 6

2017-01-27 | 紫 銀

沖田総悟は、バイクに乗って故郷の山を走っていた・・。


 

 

「・・・認めてるさ。港も田嶋も・・・。お前たち・・・・・・・他の道場で新選組の失敗を 指摘されると  田嶋は謝ってなぁ・・・。・・・ろくでもない弟子をほおり出して良かったですね・・・と、言われるとすねやがって・・・。総悟が・・・隊長になったて、・・・それは上機嫌で帰って来て・・・一日にやにや・・・して港と・・。」

 

土方と総悟が、久しぶりに返って来て兄弟喧嘩していたので、

石川先生が、らしくない田嶋と港の事をばらすと、野次馬として集まっていた弟子達は笑顔になった・・・。



石川は、不穏な雰囲気を取り繕うとしたらしいのだが・・・


総悟には逆効果だった。

石川先生にぺこっと頭を下げると

沖田 総悟は、弟子たちをかき分けて道場脇の控室から

速足で、出て行ってしまった。


「総悟!!。」


土方は叫んで総悟に声を掛けたが、

それも聞こえないふりをして出ていく。








バイクで山を越え走ったが、

不思議な事に・・・自分の時が止まったようで 

何の考えも浮かばず、

思いつきもしなかった・・・。


寒さで手が悴んでいる。

足のつま先も冷え 感覚はない。

鼻先は凍っているようだった・・・。

バイクは総悟にだいぶ馴染んだ

日陰の白く凍った山道をカーブすると、スリップする後輪。


ふと見ると

ハンドルの真ん中にミュージックプレイヤーが

また立つようにつけられていた。

それに付属したイヤホンが、無造作にハンドルに巻き付けてある。

総悟はおもむろにブレーキを握り スピードを落とすと、ギヤをつま先で落とした。

路肩にゆっくりと止まり

地面に足を付く。

昨夜見た山は、真っ暗で何も見えなかったが、

今は

故郷の山と木々が 日々の暮らしを見せているのか・・・木々達は冬枯した枝を広げてただ立っていた。

山肌ほとんどの木々は裸で 葉が付いていない。

優しい稜線の、先の方まで見渡しながら

どこを通れば・・・山を越えられるのか、

なぞっている自分に気が付く・・・。


師匠の葬儀をすっぽかして考える事じゃない・・・。


ハンドルのイヤホンをくるくると回してほどきながら、

訳の分からない他人の集めた音楽を聴くのも

場違いな気がしたが・・・、

だが、

何の感情も浮かんでいない自分に・・・気付くのが嫌だった。

総悟はヘルメットの中の耳に、さっさとイヤホンを突っ込むと、スイッチを押しバイクを発進させた。


早く江戸に戻り、仕事して紛らわしたい・・・。


ベースギターがリズムを刻むと・・・男が独り言のように歌い始める・・・。

そのミュージックポッドの中の曲は多くはなかったが、

一曲だけが、自分を叩いて来る。

ガンガンと頭を叩き

背中からねじ伏せ、身動きできないようにして

全くその通りと思える 嫌な事を叫び出すのだ・・・。

くだらない歌なのだが・・・。

音を浴びた体は 打ちのめされて空っぽになった。

 


生きていて良かった!

なんて 今間違っても言いたくないし、

そんな夜を探す?

そんな夜もないと知っている。


だが・・・・。

そう

してみたいと

・・・。

似たような事をどこかで

思った気はした。







土方は・・・総悟が居なくなった後、近藤さんと村上さんで、

今後の予定を話し合っていた。

田嶋の火葬を、仲間内だけで執り行う。

その後の儀式も弟子だけで行う事になっていた。

田嶋を偲ぶ会は無い。

田嶋の死は葬儀一切が終わった後、城に通知するだけ。

生前から言われていたもの 

生活に必要だった物を・・・肉体と一緒に火葬する。


土方十四郎は 

じっと拳を膝に置いたまま聞いて居たが・・・

心はここに有らずだった。


近藤は時々土方の様子を見ながら、


土方には

言葉を掛けられない。

見つからないのだ・・・。


ぐれてどうしようもなかった土方をヤクザから一人で救出し、性根を叩き直したのは田嶋先生だった。

土方の・・・時には強すぎる正義感と闘い、

内面にあるやさしさを

不信感に変えてしまう彼自身の恐れ 

それを恐れない男にと・・・辛抱強く付き合うなど

そう言う事は、田嶋でなくては

出来ない気がした。

土方に言葉を掛けられるのは・・・

同じような優しさを持ち、恐れ、すべての裏切りの中で暮らし生きてきた

田嶋先生しかいない




「はい・・・そこは、総・・・ごが・・・。」

土方に話をしていた村上が、顔を上げた。

「・・・すみません。」

失言を謝りながら、土方はなぜさっきから自分の口から 総悟総悟と出てしまうのか・・・。

理解できない。


「・・・・。」

紋付袴黒い羽織を着た村上は

田嶋先生より年上に見えるが、道場の別な師範の弟子だった。

少しだが港や田嶋の先輩である。

田嶋先生は筆頭師範だが 今は 館長にも物が言える重鎮的師範だった。


彼はゆっくり土方を観察するように眺めてから、懐から煙草を出した。

煙草の箱の底を叩いて一本飛び出させると、それを指で撮む。

土方がそれに気が付き、自分の懐からライターを出して かちっと火をつけて

手で火を守り 先輩に火を差し出した。

煙草で火を吸い込むと、煙が上がり 村上は目をしかめて火から離れる。

ライターをしまうと 村上が煙草の箱を振って一本勧めた。

頭を下げて受け取ると、今度は村上がライターを差し出す・・・。


「先生は・・・キセルだったな・・。」

「はい・・・。」

土方は

深く息を吸い込んでから吐き 白い煙が肺と頭に充満し 心を落ち着かせた・・・。


「・・・総悟が心配か?。」

「いえ!・・・・・はい・・・。」

否定しておきながら 肯定する

土方を見て 煙草の灰を落とし・・・。


「あいつは・・・田嶋先生そっくりだ。実際。」

と、村上がつぶやいた。

土方は不思議に思いながら先輩を見ていると

「わしらは、一昨日からここに詰めとる・・・。田嶋先生を送るため、家族にも内緒なんだが・・・。昨日の明け方総悟が 突然現れた。」

ふーっと驚くほどの息を吐き 村上はどこかを見つめている。


「明ける寸前、裏山の斜面を・・・・必死に上がっていく総悟が・・・。」

村上が 懐かしそうに目を細め思い出す。

が、また煙草の灰を灰皿に落とし

「・・・・田嶋は、いつも先に出る。・・・港や儂より・・何の躊躇も無く 先生の為、道場の為に・・・。それが・・・先生との特別な絆だからだと 思っていた。」

と、土方に言う。


「・・・・。」

土方は村上をじっと見つめ。


「あの時に・・・駆けつけたんだ、総悟を・・・許してやれ。・・・田嶋の弟子なんだから、仕方なかろう・・・。」

「・・・・。」

土方は、何かが浮かぶが・・・首を振って下を向き、肩を怒らせた・・・。


「・・・どうした?・・・。」

村上が聞き返すと、

土方は慌てて煙草の灰を落とす。


「あいつは・・・誰にも心の中を見せない。真っ先に火に 危険に飛び込んでいく・・・。それも嬉しそうにだ。」

と、村上に訴えた。

土方の顔をまじまじと眺めた村上は、

道場を出ていく前の土方を見た気がして

懐かしさを覚えたが、沖田総悟の事も同時に思い出し、

「・・・・困ったもんだの。」

と、答えた。













 

 

「なぜ・・・俺に行かせなかった?。」

港は火鉢の炭の火を見ながら 田嶋に問う。

縁側の暗がりに寝転んでいる田嶋に聞いたのだ。

「江戸・・・か?。」

田嶋が外を見ながら答えた。

「そうだ・・・。」

港は部屋の真ん中で座って待つと、田嶋がやって来て隣に座る。

おもむろに腕を組む。

「・・・・。」


「俺には戻ると言ったが、そのつもりはなかったんだろう?・・・だから先生が、無理やり妻帯させ居場所を作った。」

港が言うと、

「・・・ユキには、戻らないと言ったそうだな。・・・・」

田嶋は

「・・・・ユキを江戸に寄こしたのは・・・お前か?。」

と、港に聞いた。

「そうだ。・・・ユキが行きたいと言ったから、金を出した。」

「・・・・。」


「申し訳ないと思っている。・・・・・・ユキを江戸にさえ・・行かせなければ・・・。どう考えても俺が行かなければならなかったのに、お前が・・・戻らない気だと知ったからだ!。・・・ユキなら・・唯一お前が・・・お前から話し掛ける相手だから・・・」

港が田嶋を見ると、田嶋は港を今まで見た事のない目つきで見つめ返していた。

その目が 哀れみなのか怒りなのか・・・。


自分には解らない。

港は頭を下げた。


「すまん。」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しみる 5

2017-01-22 | 紫 銀

土方と近藤 石川が出ていくと、

昨夜の様に田嶋と二人きりになった。

白い布を顔に掛けふざけて寝ているようにしか思えなくなり・・・

港は 忘れていた呼吸をしてみる、それは昨日まで自分が知って居や場所ではなくなっていたからで、落ち着いてまた深呼吸すると・・・20年前の田嶋が 近くに居るような気がした。






震えている田嶋

先生が立ち上がり刀を、重蔵に手渡してしまった。

じっと田島を見据え、田嶋は抗えないのだと悟る。


部屋は暗くなり・・・。

館長の前でただじっと師匠を待っていた。

館長は自分が逃げ出して、次の港が来るのを思い描いているのだろうか・・・。自分を見ながら酒を一人で飲んでいる。

その顔には怒りと蔑みがまじりあった笑みが浮かんでいた。


師匠が自分の前を通り過ぎ、向かいに座る。

重蔵が固めの盃を用意し、師匠と杯を お互いに3度酌み交わした・・・。


横たわった自分の襟を開くとき 師匠が

「・・・恨み言だと思って声を出せばよい。」

と小声で言う。

自分の体は触れてはならない物だと理解ししているので、先生の手が這うと全身震えて総毛だった・・・。

師匠が田嶋の体を舐めだすと、


館長は始まったと

くすくす笑う。

硬直して耐えているが、師匠は胸から腹、腹から腰まで丹念に舐める。

田嶋が体を少し起こすと、師匠が腿を舐める所だった。

「先生!・・。おやめください・・・。」

と耐えきれず悲鳴を上げる。


先生が親友を切ってまで、

実現したい夢だと言う 思いの重さは、・・・・ひしひしと伝わるのだが・・・・

現実を目にすると、田嶋の目からは涙があふれ 

悔しさで唇を何度も噛みしめ、拳を硬く握る。

それだけが自分に出来る抵抗だった・・。

そして起き上がり・・・

師匠に立てた誓いを実行した。


館長が 何か言ったが気にせず田嶋は師匠に唇を預け 自分から先生の着物の帯を解き、動きやすいように緩める。

先生の着物の前を手繰り開け、お返しに先生の性器に触れ

何の躊躇も見せず膝を折り田嶋は前のめりになって、師匠の股間に顔をうずめ、奉仕を始めた。


それを見ると館長は

「やはり・・・生まれ持つ物は直しようがないのだな!。侍は侍の才能、農夫は農夫の才、ろくでなしはろくでなしの才と言う訳か!。」

と吐き捨てた。

田嶋は顔を上げようとしたが、師匠は押さえて続けさせた。


館長は続け

「・・・お前は どうでも港に道場をやる気がないようだが、それは侍に成りきれん。周りが認めぬだろうよ。」

と言う。

「・・・・・・汚れた侍も・・・要らない時代になりましょう・・・。」

と師匠が田嶋に奉仕させたまま答えた。

館長は いらいらしたように重蔵に酒を注がせて飲み干すと、

「それが 名のみの侍か・・・?・・・下らん。・・・・下らん世界なんぞ 儂はもう、うんざりだ!!・・。・・・・お前たちの その嘘にもな!・・・。」

館長はあきれたように 少しだけ開いた庭の障子の方に 盃をあげながら、

「・・・もっと本物らしく演じたらどうじゃ。・・・せめて・・退屈させるな!。」

という。




田嶋は道場の離れに朝方戻って来た・・・。


先生と交わってから、引き離されさらに重蔵と館長に暴行されたので、内出血した顔に、噛み傷や切り傷が体中広がり痛々しかったが、

師匠は慰める事が出来なかった。


「先生私に・・・お暇を下さい・・・。」

と、ぼさぼさの頭を結わき、畳に手を着き深々と頭を下げた田嶋を

じっと見つめていたからだ。

意味は、良く判っている。

自分が許せば、腹を切るつもりなのだろう・・・。

もしくは、港に切られるつもりか・・・。

 

師匠は無言で拒否したが、引かずに頭を下げたままの田嶋を見て

「わしは・・・お前が適任だと、確信しているのだ。」

と、説得を試みた。

「確かに、道場に残した弟子たちに、この様な事態がある事は知らせるつもりはなかったかもしれん。だから、お前が付いて来ると言った時、こうなるかもしれんと思いもした、・・・・だが・・お前に才が無ければ あれは、港にした・・・。」

すると、頭を下げたまま田嶋が

「私は 港に勝てません。」

と答える。

「・・・・真剣勝負ではわからん。」

と、師匠が顎を擦り始め 考えながら答える・・。

「・・・剣を合わせましたが、完敗でした。」

師匠は、禁じていた勝負の存在を知り目を見開いて不快な顔をしたが、田嶋には見えず。

「・・・皆、・・・知っているのか?。」

師匠が聞き

「・・はい・・。同期は全員居りました。」

と、田嶋は答えた。

「馬鹿が!・・。」

師匠が膝を叩いて怒鳴ると 許してもらうつもりがないらしく

「・・・はい。」

と 悪びれることなく答えた。

また沈黙が流れ、



「お前を弟子として・・・拾うと決めた時・・・。」

と、

師匠がその時の話を持ち出すと、

田嶋に異変が起きる。

頭を下げながら呼吸が荒くなり、力が体にみなぎった。

「お前が儂に下らん謝礼をし、儂はお前を追い払った。・・・お前は必死に後を付いて来たが、儂は何度も・・・お前の本性は娼で、侍には成れんと、言ったな?。」

師匠は静かにだが、はっきり田嶋に尋ねる。

田嶋は呼吸がしずらいのか、返事はせず

「うう!・・はあはあ・・。」

と呻く。


「・・・・儂は、客を取って小銭を稼いで来るのを見て、あの時・・・お前を何のために助けたのか・・・。・・・社の屋根が水流で見えなくなったあの・・川の中から、・・・儂を呼ぶ声を何度も聞いて船を出し 命がけでなぜ、助けたのかと・・・後悔した。自分で切ろうとも思ったが、お前は娼夫なのだから仕方が無いと・・で、・・・お前が追ってこれない大きな湖を渡ることにしたのだ・・・。」

師匠が言う。

「くっ・・・。」

田嶋は喉を詰まらせた。

「今でもよく思い出す、・・・大きな波止場でお前は船賃を稼ごうと必死に客を探し・・・小銭を見せて乗せてくれと何度も 船員に詰め寄っていた。・・・出航の呼び声が掛かるとお前は儂を見て、全てを捨てて川に入って行った・・・・。お前は泳ぎ出し・・・儂が乗った船が お前を追い越すのを眺めたよ・・・。」

師匠は脇に置かれた茶托の茶碗を持ち上げると、口元に持っていく。

ゆっくり啜りながら、田嶋が頭を下げながら悶えているのを眺めた。


「・・・俺は娼婦です、港には及びません。」

くぐもった声で田嶋が言う。

「・・・お前は何か叫んだな?手を上げ・・・命乞いなら、儂が戻る事は無かった。」

田嶋は腕を伸ばし上半身を上げたが、首はうなだれてまだ呼吸が荒く口で大きく吸っていた



「・・・・・・・・・・・・お前の姿が見えなくなって、儂の船に行商船が近づいて来た。それで・・・・儂は戻ったのだ。手漕ぎの船はお前に、なかなか近づかず、お前は波の中に見え隠れするようになた。・・・とうとう波に消え・・・・。儂は前と同じように川に飛び込んだのだ。」

「た・・・・耐えられ ません。」

田嶋が苦しそうにつぶやくと 師匠は

「お前は・・・儂の為に死にたいと言った。」

「・・・。」

「それは、儂がいいと言うまで死ねないと言う事でもある・・・。そうだな?」

師匠が身を寄せ 田嶋に優しく言う。

と、田嶋は

「・・・おっしゃる・・・通りです。」

と小声でつぶやいた。

師匠は立ち上がり・・・縁側の方に近づく。

すっと田嶋の姿を確かめながら 障子を開けると

庭の端に

座って頭を下げる石川の姿が見えた。

その 二人に聞こえるように


「・・・一週間以内に、お前の・・・筆頭師範承認試合を港と行う。・・・石川!・・・田嶋の傷を治してやれ。」

師匠はそう言うと、縁側をまわってどこかに行ってしまった。

石川は小さく返事をする。

なぜだか、話を聞いて居たと田嶋に思われるのを恐れてそうした。





田嶋が

身を竦める様に腕を組み ゆらりゆらりと、

町の中を歩いていく。

石川はただその背中を見続け 歩くしかなかった。

隣に並ぶ事も無く・・・・。

並ぶ事が出来ずに 付いていく。・・・前に立って 風除けか・・・人目を避け、道を示してやる事もできないのだ・・・。


その後の港

自分は・・・・・



高揚感・・・。

田嶋と雌雄を決し、未来の道場主の為に 仕立てられた試合に・・・高揚した。


その気持ちが 今、何もかも疑わしいく思わせ

鼻にうさん臭さが充満し、目まで刺激を与えている。

思い出の色さえも変わった気がした・・。


ふと気が付くと・・・

目も前にすっと持ち上がる煙が、

部屋の空気の中に 一人落ち着くように胡坐をかき

巻いて

消えて行く。


下には

すべて終えた田嶋が 

寝ていた・・。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しみる 4

2017-01-20 | 紫 銀

土方と近藤は 昼過ぎ道場に到着した。

道場表玄関で顔見知りの門下生に出迎えられ、言葉少なに上がっていく。道場の畳に上がる前一礼してから神坐の方に進むと、一番前に沖田総悟が座っていた。

土方と近藤は唖然としたが、無駄口を叩く訳にもいかず。

刀に帰った田嶋先生に帰還の報告をする。

その間総悟は振り向きもせず・・・。

いつ、知ったのか・・・。

なぜここに居るのか。

土方は不思議に思う


総悟に声を掛けようとするが、背後から有村が来て肩を2度叩かれた。

有無を言わせぬという目つきだったので 素直に二人は、抜け殻となった田嶋の遺体に会うため山の庵まで上がっていった。




庵に着くと

近藤が奥の間ににじり進み、田嶋先生と対面する。

土方はちらっと縁側の方を見ると開け放たれていた。土方は先生が縁側に座っている姿を思い出し下を向く。

港先生が静かに早春の冷たい空気に溶け込んでいた。

その反対側に石川先生が座っていたが、石川が顔近くの場所から退くと 港先生に脇に並ぶように近藤が進み出て 田嶋の顔にかかっている白い布をそっとめくった。

 

田嶋先生の様に

自分たち3人は武州城主御前の試合で勝利を収め、江戸にと声を掛けられ

近藤と一緒ならと、江戸に送り込んでもらったが・・・自分にとって近藤の背中はいつも田嶋先生のように心強く、離れていても近藤さんのおかげで田嶋先生の存在はいつも いつも感じていた。

今はその背中が・・・悲痛な悲鳴を上げている気がして。 

土方は苦しくなった。


「とし・・・。」


と声を掛けられて、

近藤が自分と場所を交換する番になる。ちらっと見た近藤の目には

うっすら滲むものがある。

「・・・。」

黙って頭を下げて、立ち田嶋先生の前に座る。


「・・・・寝てるみたいだろ・・・。」

石川先生が言うと、近藤が

「・・・・ええ・・。」

と返事をした。



「・・・・す・・みま・・・せん。」

土方が小声でつぶやく。


皆黙って居た。



「・・・謝るな・・・。」

石川先生が 港の代わりに言い・・・。

「・・・田嶋先生なら・・・そう言う。・・・・・・だろう?。」

と付け加える。

近藤は天井を眺めて顔を上げ、赤いシミを見、港先生が振り下ろした時に飛沫した光景が浮かぶ。

そして頷いた。

土方も深々と頭を下げながら

「・・・は・・・い・・。」

と返事をする。





いつまでも去りがたかったのだが、田嶋先生の顔に布を掛けると、


石川先生が、総悟に会ったか?と聞いてきた。

いつ来たのか詳細な話を聞いて驚く。

近藤と土方が黙って居ると、

港先生が


「・・・田嶋が・・・呼んだのだ・・・。」

とつぶやいた。

石川先生も頷き

「今思えば、先代の先生の時も・・・飛び込んで来たんだったな。・・・田嶋と総悟・・・絆は深いのだなぁ・・。お互い判ってたのかどうか。」

と言った、

港先生は

「自覚は・・・あるさ。・・・・・お互い 認めないだけで。」

と言う。


「・・・頑固・・・ですから・・。二人とも。」

と近藤。

「張り合って・・・ますからね。」

と土方も付け加えた。

石川先生が少し笑う。


港先生が固まった体を難儀そうに動かし、二人の方を向くが、近藤と石川と土方は

港先生の心中を推し量り重くなる。一番長く付き合い親友でライバル同士、何を比較しても二人の名前はくっつき

兄弟以上の・・・・

それを頼まれたとはいえ 切り殺したのだ・・・。

何と お悔やみの言葉を伝えればいいのか・・・。

だが、


「・・・おい・・・石川。・・・・お前から先に・・。」

と、港先生が声を先に掛けた。

「あ?・・・ああ・・・。そうだなぁ・・・。お前たち下で何か食わんか?、俺は食う気はせん・・・・が、儂らがいかんと、皆が食わんから・・・。」

と言って、立ち上がる。

近藤が

「いいのですか?・・・先生は・・・?。」

と港先生に声を掛けた。

港先生は

田嶋先生の方を見て

「・・・もう少し・・・話している。」

とつぶやいた。


石川は近藤の袖を引っ張り 二人に去るように促した・・・。




下に戻ると、次々に近藤と土方になじみの門下生がお悔やみを述べて、涙を見せる。

それを一つ一つ慰めながら総悟の元に行くと、総悟は港先生と同じようにじっと、太刀を見てほんの少しでも田嶋の気配を感じられないか、待っているように見えた。

表情はいつも通りだが、目線が時々下向き加減で 自分たちでないと見分けられない、穏やかでない姿。

だが土方は、ずかずか近づくと

「勝手な事を!・・・もう一番下の甘ちゃんじゃねえんだぞ!・・・来るなら来るって!連絡入れればいいだろうが!!・・・どれだけ手分けして探したと思ってんだ阿呆が!!。」

と、総悟を裏方に連れ出してから胸ぐらをつかんだ、暗に元気付けをいつも通りするしかない。

「・・・・・・有給だしゃ済む話でしょうが?!。」

と総悟が土方の腕を払って いつも通り食って掛かると土方は怒って

「はああ?!・・・立場はどうなんだ立場は!有給じゃなく忌引きなんだよこういうのは!!。」

言う、総悟は土方を睨みながら

「・・・血縁関係ないんじゃないっすか?!そんなの 松平の親父が文句言うに決まってんじゃん!・・・馬鹿みたいに全員集まっちまって・・・江戸が・・・すっからかんに・・。」

と言い返した。

「馬鹿はてめえに決まってんだよ!・・・松平の親父も弔問にくんだ!」

と、土方は総悟を突き放す。

「・・・。」

総悟が黙る。そう言えば総悟は良く知らない

「・・・先生は!・・・正式じゃねえが・・・俺たちの 前任者なんだよ。攘夷志士討伐の為、武州藩から選抜されて召集を受けたんだ。」

と教えた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする