夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

おはじき遊び 弐拾弐

2015-03-16 | 紫 銀

ついに

「・・・何 泣いてんだ お前!・・・。」

と総悟の頭をぽかっと殴ったのは 

前より体つきが若干厚くなったトシだった。近藤の様に大人に近ずきつつある彼だが、総悟にはいつまでも目をひん剥いて子供っぽくしかりつける。

周りは ちょっと可笑しそうに見ている。

周りの先輩たちも、決定的な・・・・・子供時代と決別したと判る瞬間を経験したがのが、今のトシぐらいの年だった。

大刀を腰に差し自分で抜き その切っ先に相手と自分の命を掛けた時、戻れないと理解したのだ。田嶋のトシが弟子らしくなってきた。

彼にもその時間がやって来るのはすぐそこだろう・・・・が、総悟と同じように子供のままで居させてやりたいし、頼もしいさの先を見て見たいしという・・・・その場はそんな笑いだった。


「・・・・俺のせいで・・・俺の・・・。」

ギュッと抱きしめている膝が揃っていて可愛い

その膝に総悟がごりごりと額を押し付けていた。

皆が目を合わせながらニヤニヤしている。

田嶋に見込まれながらまだ女の子の様と思ったのだ。

皆 ぐすぐすと泣く総悟を許している・・・・。しかし、

「・・・うぅ・・・先生が・・・・死んじゃう・・・・。」

総悟が漏らすと 空気が一変した。


「・・・・田嶋が・・・どうした・・・・お前一緒に来たんだよな・・・・?。」

と門下の一人が総悟に聞いたので 彼はここに来る前にあった出来事を話した。

自分達の師匠の話を聞くと 一様に黙る。

予てからの悪者を退治した先生に否がないと

御上の御採決があり、自分達も胸をなでおろした所なのだが・・・・・自分達が考えている以上に 道場関係は深刻で甘くないようだ

そこに港がやって来て 門下生の一人からこそこそと 今の話を耳打ちされた。


「・・・・・・・・あの馬鹿!!。」

港が怒ると 門下生たちが立ち上がり彼を見た。

彼らが港と何やら談合している間に 総悟は自分の未熟さを嘆き 泣くばかり。


突然 ひょいっと首の後ろを掴まれて持ち上げられると 見るからに一番大きな男の芝に肩車された。

いつも米を担いで道場にやって来る男だった。

「ほい・・・・。上で泣いて鼻水垂らすまいぞ?」

と優しく微笑んで自分に言う。

高く担ぎあげられてみると 門下生一同皆が当たりをかたずけていた。

負けの多い道場が 大会会場の後かたずけ役なのだ・・・・普段はした事のない仕事を彼らはお互いに尋ねながら動いている。それでも要領の良い港が指示を出し 間もなく終わる。


「あ!俺も手伝います!先生に そう言って来たんだから・・・。」

と総悟が慌てて言うと 皆がニヤニヤして彼を見た。

トシも雑巾をバケツに水を 思いっきり絞りながら


「これから 鬼ごっこだよ・・・・。お前が鬼の・・・・。」

と言う。

総悟には何の事か分からない。

しかし門下生は 一人一人総悟の足や体を心配するなと 叩いて行くと、

自分や田嶋の事を 彼らがどうにかしようとしている事が雰囲気で感じ取れた。

じんわりと家族の居ない総悟にも 彼らの心が静かに伝わり 涙が流れると、

彼らも奮い立ったような・・・・ 嬉しそうな顔で総悟を見る。

総悟は 同門兄弟の様に扱われているのだと 今理解した。



そして一同は 道場に一列に並んで頭を深く下げると荷物を 大八車の荷台に置いた。


「お前ら・・・・・。気をつけろよ・・・。」

と大会付きの医者として来ていた石川が 皆の荷物を預かると負傷した者を連れて 先に大門から出て行く。

するとすぐに口に黒い布を巻いた男が荷台を確認し 負傷した門下生を調べ始めた。

総悟狩りだった。

その怪我した門下生でさえを木刀で叩こうとするが さすがに仲間に止められている。

それを道場の中からトシ達が見る。


「よし・・・・・。堂々と出て 後で散るしかないな・・・。」

「そうだな・・・・。」

誰かが言うと 立ち上がりそのまま大門に向かって歩き出した。こちらは15人程の集団で 天然理心流の段位を取った者と 若い内弟子のトシや近藤等だった。弱い者や 怪我人は先に石川と返したのだ。


彼らが門をくぐると ざっと口々に布を巻いた男達が

倍は集まっただろうか 門下生を取り囲む。

「・・・・敵討じゃ!!覚悟せい!!・・・。」

と黒ずくめの内の誰かが怒鳴ると 彼らが一斉に剣を抜いた。


殺気が一気に湧き上がり 芝の背中 羽織の中に張り付いて隠れている総悟にも

ピリピリと分かるほどだった。

「笑止!!・・・・・・我が師匠の事か?・・・・御上の采配に異を唱える事になる・・が、その申し出は 受けて立つ!。」

港が言うと こそこそと新入りなのだろうか港の事を 道場副代表だと隣の者に聞いている。

「応!・・・・。」

港達を取り囲んだ男たちが剣を構えた・・・・。


「待て!・・・・・・・・・・・この場で果たし合いをすれば、この場をお貸しくださった道場に迷惑がかかる!・・・・・。」

と、黙ってにじりよって来る相手に言う。

胸元まで相手の剣が近寄るが 挑発に乗らず

「ではどこで やり合うのだ・・・・。」

と相手の真ん中にいた男が聞いた。

「このまま街を抜け丘の上に 我らが菩提寺がある!・・・そこではどうか・・・・。」

港が言うと 相手の殺意が引いて行く。

了承されたかどうかと言う時に港が前に進むと 相手は二つに分かれて道を譲った。


ものものしい一団が街中に差しかかると 街中の者たちも何が起こるのか察しがついたのか 果たし合いだ 果たし合いだと口々に広めた。

野次馬も後からついて来て大変な行列になってしまった。

目下話題の一門同士が 険しい顔つきで歩いていけば目立ってしょうがない。


町の目抜き通りまでさしかかりやや道幅も広くなると 港は後ろから付いてくる仲間に

「散れ・・・・。」

と合図をする。

これが狙いで 場所を変えようと持ち出した訳だが、いつもの様に

今日とは言った訳ではない・・・。

いつもこんな感じでただの喧嘩になり散り散りにならせる方が多い。わーわーともみ合い街中の備品が壊れたり散らばる、その中を港は芝を庇いながら4,5人引き連れて逃げていた。

港は殊更目の敵にされ、相手も街中だと言うのに人目もはばからず剣を抜き執拗に港を追った。芝が自慢の組み手を一心流の門徒に披露するたびに背中の総悟はずり落ちて、とうとう足が一本落ち

敵に見つかるはめになる。

「あ!!・・・居たぞ!!・・・餓鬼だ!!。」

と港に向かっていた男が 芝の背中の総悟を指さした。

芝の背から総悟の足がずるっと伸び 芝が背を伸ばすと総悟は地面に落ちた。

「掴まれ!・・・。」

と芝が伸ばした手を無視し 総悟は細い路地に向かって走るので港が

「馬鹿!!待て!!・・・。」

と声を掛ける。周りは

「行け行け!!・・・その餓鬼を打ち取れ!!。」

と殺気立ち総悟の後を追いだした。

ちっ!

と港は舌打ちして自分の剣に掛った男を蹴り飛ばすと、総悟に向かって走り出した。走り出しながらすぐに総悟の後ろ姿と、敵の振り上げた剣だけしか見えなくなり、音も遠のいた。すぐに彼らの動きがスローになり追いこす自分の速さに驚く。

しかし、細い路地の向こう 大通りで戦っていた一心流の剣士が

路地を走ってくる総悟と 追う自分の仲間に気が付いた。

港はそれを見、思うよりも早く 壁か用心桶か分からないが踏み総悟を飛び越え、男が彼に向かって剣を振りおろすのを見る。

剣と総悟の間には到底間に合わなかった。

「貰った!。」

と敵の男が嬉しそうに眼を見開いた。

しかし、総悟は鈍く光る剣先をどこかで感じたのか見もせず するりと避けたのだ。

それを確かめると港は 総悟を切りつけた男の右手首を切り落とし 着地した。すぐに反転し

狭い路地で並んで自分に追い付き 切りかかる剣を見ると自分の剣を上に振り上げる。

ぎいん!と、

一人の剣を受け付け もう一人の剣は柄に食い込んだ。とっさに左手で総悟に手を伸ばし胴の帯を掴むと引っ張ると、

「お・・・。」

引っ張られて総悟が自分達の前を通り過ぎる。 一心流の剣士達は 総悟斬りたさに一心に港を押した。すると・・・・・

手首を切られた男がおかしくなったのか悲鳴を上げながら 港の肩越しに仲間に助けを求めようとする。切られた手から血が一心流の男の目に掛ると 港を押す力が一瞬緩む。

港はその男を背で担ぐように引き上げると、路地の男どもに向かって投げおろした。

総悟は血を浴びない様に路地に張り付いていたが、港は

「来い!・・。」

と言って総悟を抱えると港の浴びた血が 総悟についた。

後は どう走ったか・・・・良く判らなくなった・・・・。






次の日に 目が覚めて見ると神経質なほど磨き上げられた家の布団で目が覚めたのだ・・・・。

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おはじき遊び 弐拾壱

2015-03-13 | 紫 銀

今日は 剣道大会の日だった。


「ほら・・・行くぞ・・・・。」

と 道場の勝手口で

ミタケさんが沢山握ったおにぎりを ぶすっとしながら黙々と竹の皮に包む総悟に 田嶋 が声を掛けた。

近藤とトシは剣道の大会に出る為8歳~15歳の生徒を引率して 朝から先に出かけていた。田嶋は 引率せずに生徒たちへの差し入れだけを持っていく事になって居たのだ。

大きな荷物を背に持たされて しぶしぶついて行く総悟。 

途中街中でゴロツキが数人屯していたが田嶋を見るとこそこそとどこかに消えていく。

「お互い 人目をはばかる身になってしまったなぁ・・・・。」

と田嶋がぽつりと言う。

「・・・・・・お師匠様は 全然平気ですよね・・・・。強いから・・・・。」

と総悟が答えた。

「いや・・・・・・・・・夜が 一番怖い。」

田嶋が総悟の前を進みながら答えた。

「・・・・え?・・・・・でも 俺がそっと部屋に入っても、先生はすぐ目を覚ましますね。・・・・どうやって 鍛えたんですか?」

と背負った大きな風呂敷包みをちょっと揺すりながら 総悟が田嶋を追いこし覗きこむ。

総悟はやっと田嶋の肩口程に背が伸びた

少年剣道大会の会場が近ずいたので 嬉しそうに・・・・少し高揚した頬を緩めて笑う。自分が出れなくても見に行くと決まった時は やはり嬉しそうだった。

田嶋は 見つめ。


「・・・・・・・なに・・・・・夜襲われれば 直ぐに起きるようになるさ・・・・。」

と呟いた。

目の先に、大会会場の看板が目に入る。

そこから総悟の顔から笑顔は消え・・・・興味しんしんに目を見開く。




会場ではトシが 小さい子のお母さん役とお父さん役を一手に引き受けて 走り回っていた。

どこの道場でも若い弟子がこの役を引き受けているらしく ちびを抱えたり宥めたり忙しく 試合の内容どころではない。

「だから・・・・・便所に行って袴を押さえてやれって言っただろう・・・?匠は固い袴に慣れてないんだから 小便引っ掛けるの分かってただろう・・・?。」

とトシは 8歳の子を押し付けたちょっと年上の少年を叱りつけ 

外の水場で泣く子 匠の袴を洗っている。

水は冷たく、泣く子の袴をぎゅうぎゅうと絞ると きちっとした縦の折り目は無くなりしわしわ ごわごわになった。

それを見た年長組の者がうわーと言う顔をしたので 8歳がまためそめそし始める。

トシは口を曲げ、裾をビンビンと引っ張って少し直したが おもらしした感の拭えない袴になってしまった。

3人が黙って少し袴を眺めてから周りを見回すと 水場の木の枝には 袴がいくつか干してあり、替えの袴は無さそうだった。


総悟は 差し入れの荷物を そんな彼らに手渡した。少し見学した後


田嶋が大会主催の道場主たちに挨拶に行くと言うので ついて行くと言った。

田嶋は総悟に良いとも、駄目だとも言わず先に歩きだし 総悟は付き人であるが故、職務を遂行する為黙ってついて行った。


大会は武道館と書かれた大きな道場で行われていたが 

道場主各流派を治める総主達は 隣に隣接した神社の詰め所に集まって居た。

田嶋は 大きな二間続きの畳の間の奥、襖を開け放たれた間に 頭を下げながら入って行く。

総悟は言われた通り手前で 正座をして両手を付き 頭を下げたままじっと待っていた。


この武蔵野にある剣術道場の流派は、大体は四つの流派に属していたので長の数は4人だった・・・・。


田嶋の刀は普段はしないが、総悟に預けられている。


田嶋は声を掛けられたので 正面に座る年期に入った男の手前にずいっと体を前に進める。 

また正座し直して両手を着くと頭を深く下げ


「失礼いたします・・・。」

と言った。


右に二人 左にもう一人の眼光の鋭い年寄りが 田嶋を見ていた。

総悟は言葉を発する事を禁じられていたので ピリピリと背筋が寒くて仕方がない。

長い沈黙の後


正面の年寄りが

「・・・・・相・・・わかった。」

という。

田嶋は黙ったまま聞いているが、ごくりと唾を飲み込んだ音が響く。


「・・・・・・老師は・・・・息災か・・・?。」

と右隣に居た年寄りが聞いて来たので 田嶋は頭を下げたまま

「はい・・・。」

と答えた。



その後、田嶋は失礼しますと言って下がった・・・・。

会見後


田嶋が 考え事をしながら歩き出した。

道場に帰って居るようだがついつい川に向いてしまうようで

川の流れの良く見える所に座る田嶋の隣に 総悟も並んで座った。


久々の外出が嬉しかったせいか、緊張が解けたせいか総悟は 今し方のことについて語り始めた。


「あの爺さん達は師匠と同じだなんて変ですね。だってよぼよぼしてて 声だって聞き取れないくらい小さかったもん。俺 全然怖くありませんでした。」

と言いながらけらけらと笑う。

「やっぱり俺は天然理心りゅうがいいや・・・・。」

と言いかけた時、田嶋が川面を見ながら


「俺が 今日どんな格好してるか 分かるか・・・?。」

と尋ねて来た

「はい?・・・先生は 藍の着物に白い襟・・・・白足袋に下駄と風呂敷の手提げ・・・です。」

と田嶋の姿を振りかえって言う。

「・・・・・・。」

「・・・・どうして・・・?。」

総悟はなぞなぞなのかと 斜面ちょっと上の田嶋に向き直る。

田嶋は川を見ながら

「俺は今日あそこで腹を切れと言われれば 切るつもりでいた。・・・・その白装束だ。」

総悟に白い足袋が目に入る。

「・・・・。」

「お前が声が聞こえないと言った老師様は 俺に一心流を教えてくれた恩師だ。・・・・・・俺はこの前 三つ葉を取り戻すために その門下生を切ったんだ。」

総悟はすぐに

「なら・・・俺が・・・・!。」

「お前の問題じゃない。・・・三つ葉に お前をうちに預けてくれと言った時から 俺の問題になった。・・・だから お前が責任取ろうなんて真似だけは死んでもするなよ・・・・。俺達全員の恥になる。」

「・・・・・。」

「・・・・わかったな・・・・?。」

と田嶋は初めて総悟を見ると 言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・。」

と言ったが

総悟は その場にじっとしていられず


「・・・・・皆の 手伝いをしてきます・・・。」

と言うと 武道館に戻って行った。


頭の中にぐるぐると田嶋の言った事がめぐって来る。


武道館では大勢の子供達が一斉に竹刀を振るっていたが その嬉しそうなはしゃいだ声に一層責められているようだった。

午後遅くになると 大人・・・道場の門下生達がやって来た。

小さい生徒を母親にやっと返し 保護者からの大会成績などの質問攻めに

何とか答えきると トシと近藤は息を大きく付き やっと自分の大会に参加した。

トシは3回戦まで行くが一心流の相手に負けた。

近藤も惜しい所で 一心流に負ける。

総悟はじっとしていたが 天然理心流の門下生はほぼ一心流に負けて帰って来た・・・・。



「まだ・・・握り飯残ってるか・・・?。」

と門下生の飯島が小手を 痛そうに振りながらやって来た。

「・・・あれ・・・?。」

返事がないので 端っこに蹲っている弁当番の総悟を 寝ているのかと覗き込む。

良く見ると、鼻水も重そうにずるずるとすすりながら しゃくりあげている。


「あれれ・・・・。」

飯島はじぶんで握り飯を一つ取ると 近くにいた仲間を見た。

知らん・・・。と言う風に手を拡げる。

良く事情が呑み込めないが 子供をあやすのは苦手だと 一歩引くと

「お前は・・・?。」

と飯島が真柴に結果を聞くと

「・・・ダメ。」

と真柴が答えた。すると 総悟はまた泣き始めるのだ・・・・・。

試合から戻ってきた面々は その一連の流れを見て首をかしげ

握り飯を黙々と食べる。

 

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おはじき遊び 弐〇

2015-03-12 | 紫 銀

総悟は 少し欲張りな所が有った。

金に困っていたせいでと言うより 人から認められたいという・・・・遅ればせながらやって来た子供で、 愛情も知識も足りていない飢餓児童だった。


夕方 日も暮れ始めると 街から大人の門下生たちがやって来る。

道場を皆で一通り磨くと 型の鍛錬が始まる。

気合いを内に秘めゆっくりと太刀筋をおさらいする。

総悟は静かな・・・・・木刀だが・・・・・剣と一体となる大人の振る舞いを見るのが好きだった。

誰がどのような敵と太刀を交わしているのか・・・・・想像しながら眺める。

自分はやっと覚えた一の太刀二の太刀を さらうが、 ついつい他者に見とれてしまう。

「・・・総悟・・・・。」

等々力と言う男が 型のおさらいを終えて総悟の所に戻って来る。彼は周り当番で道場の仕事をするくらい熱心な男で、港とも仲が良かった。

「・・・・あんなに竹刀の日は嫌がってたのに・・・・稽古に出て来たんだなぁ。」

と小さめの胴の防具を付けている総悟に 言った。

今日は久しぶりに竹刀を使って稽古を付ける日で、一人相手に何人も対峙するという体力的にきつい内容だった。名乗りを上げているのは若手だったが、相手はいろんな戦法で挑んで来る 勿論総悟は竹刀で相手をしてもらう気だった。

「今度・・・・剣道の大会が有るんだ・・・それで優勝する!。」

と 気合いを込めるように手ぬぐいを頭に巻いた。

藩内の武術大会で剣道の少年部門には 優勝すれば奨学金という物が付いていた。裕福でない家庭の子にも武術を続けさせたいと言う配慮だろう。


「・・・お前は ガキ相手に竹刀振った事無かったんじゃなかったけ?。なんでまた・・・?。」

と尋ねた。等々力は総悟が同じ年代を毛嫌いして 午前中の稽古に出ないのを知って居た。

田嶋も敢えて総悟を口の悪いガキの中に入れていない。

総悟の防具の面の紐を 等々力が締めてやると

「・・・・先生が 馬を売ったんだ・・・・。だから 取り返そうと思って・・・。」

と言う。

「・・・・・ああ?・・・・石川がもってったって言う・・・・道場の馬?。なんでお前が・・?。」

と等々力が総悟に聞いた。

「・・・・・先生は 誰にも教えないって言ってたのに おっちゃんたちは 来てるだろう?・・・・多分 姉上の薬代の為だ。だから馬も石川先生に 売ったし・・・。」

等々力は 総悟を見ながら顎を掻いていた。 

万が一優勝したとしても・・・・・奨学金が彼の思う様な使い道にはならないと思うのだが・・・・ 

港から総悟の事も姉の事も告げられている。等々力や他の何人かは、飲む時だけでなく道場に打ち込みに来始めたのも まあ田嶋の為だった。

「・・・・俺達のは この腹の肉を落としたいだけだよ。」

とわき腹をさすって見せる。

総悟は面を付けたままちらっと等々力の腹を確認すると 竹刀を持った男達の列に並んだ。

等々力は総悟に腹を黙殺されずっこけたが、その腹をポンポンと叩きながら道場を出て行った・・・。


今日は 港が師範を務めるらしく 竹刀を持つと 一番前で号令をかけ始めた。




暫くして道場から

腕も頭も痛いらしく 総悟が頭頂部を押さえながら厠に出て来た。

厠は道場の周り廊下の奥だが 脇に防具置き場がありその前だ。その物影から

「おう!馬鹿弟子!・・・・剣術しか習わないんじゃなかったけ・・・?。」

と田嶋がからからと引き戸を開けて出て来た。

「・・・・・。」

総悟が無視すると

「お前面一本何て 取れないだろ?・・・・・大人相手じゃどこにも届かないし。」

とからかった 総後のクラスは 11歳~15歳までのはずだが 今日はそれに似通った体格すらいない シニア18以上死ぬまでの大人のクラスだが。

竹刀を持つと言う事は決まった場所に打ち込み決めなくてはいけない。

今等々力達がしているのは 色んな武術を加味した天然理心流の稽古で、総悟の出たい剣道とは別物だった。

総悟は袴の片足をたくしあげていたが 用が終わったらしく戻すと 外の手洗い場で手を洗う。


「・・・・・。」

彼はつんとして田嶋の脇を通り過ぎる。

「・・・・・お前は大会にゃ 出さないよ。」

というと 総悟は怒って振り返り

「なんで!!。」

と声を荒げた。

田嶋は 総悟を見ながら


「・・・・・だって 団体戦だもん。お前は 昼間の誰とも・・・仲良しじゃないだろう・・・?。」

と言う。

総悟は はっとしていたが ちょっと悔しそうな顔をすると

道場に戻って行った。

総悟はそのまま道場の端で 深々と頭を下げると 終了の挨拶をした。

総悟が戻って来たので 等々力が急ぎ労おうと近寄ると 

彼はそのまま立ちあがり去ってしまった。

総悟が頭を下げた所を見て 立ち止まる そこにはぽたぽたと・・・・・

汗か涙かの水滴・・・・・。




その夜 等々力や港に田嶋は呼びだされ 町はずれの屋台に居た。

スキマ風も凍りつきそうだが 足元に火鉢を置きながらおでんをつまんでいる。

「なんで泣かせたんだ?!・・・・・」

と等々力が田嶋に詰め寄ると 港が

「まあまあ・・・総悟は 生徒じゃない。単なる預かりだ 田嶋の弟子だとは名乗ってないだろう・・・?。」

と田嶋を見た。

「・・・・。」

だまって升酒をすする 

等々力が

「何故だ・・・?。オカマだって道場の雰囲気さえ壊さなきゃ受け入れてんじゃん・・・。」

と田嶋と港の双方を交互に見た。

「・・・・・。」

田嶋は まだ黙っていた。

「・・・俺達は血判を押して 絆は血よりも濃く いついかなる時も正義を貫く・・・と 誓うだろう?・・・。」

と港が言い。等々力は

「だから?。妾の子やゲイが駄目だってのか?・・・・・・それに総悟は ついこの前・・・・・女の子に告白するって言ってたから そっちではないと思うぞ?。」

と言う。

田嶋は等々力の顔を見直した。

「・・・・・。」

「・・・・・。」

田嶋は少し赤くなり それを見た港のつり上がった眉が余計に吊りあがる。


「はあ・・・?・・・・・なんだよ。・・・総悟が剣道の少年大会に出るか出無いかって話だろう・・・?。」

等々力は二人を見た後 大根を大きく持ち上げて一口で食べると コップの酒をごくごくと飲んだ。 港は

「・・・・・あんな細っこいガキ 剣の才能ないよ。・・・・俺が引き取って 勉強させる。俺の勘定方になら入れてやれる、なに・・・・女性にもてそうだから すぐ結婚して子供も出来るさ。」

と港も コップの酒をやけ気味に煽った。

田嶋は下をじっと見ている

「・・・・・総悟は痛みをこらえ、俺の所に来た。・・・・あの幼さで自分の始末をつけようと川にも飛び込んだ。借りにも士族の子が苦界に落ちれば もう元は愚か命で清算させられる・・・それを俺は・・・・・侍にしてやると言って生き恥をさらさせた。・・・・・俺が彼に出来る事は一つだけだ。」

と田嶋が言った。


すると 等々力は

「だが・・・・・自分の剣は殺人剣だと 弟子に教える事を自分で禁じたんだろう?・・・・総悟にお前が教えてやらないなら 天然理心流はおろか・・・剣士にすらなれないじゃないか。」

と田嶋を見た。

港はコップ酒をお代わりした後 すすり 等々力の言葉に頷いた。

「・・・・・確かに・・・・・・・・俺はただ血を浴びる事が好きな刺客だ。トシや総悟には・・・・・・守らなきゃいけない正義を教えられない・・・・。」

港が

「・・・ならば俺に預けろよ。城に努めりゃ立派な侍だ。・・・・俺の尊敬する部長の剣が竹光だろうがなんだろうが俺には頭を下げるに足る人物で、誰も気にしやしない。お前が総悟に剣を持たせたくないが傍に置いておくと言うのは あいつの為にはならない・・・・。周りから何と言われてるか知ってるだろう?・・・・・お前のおもちゃじゃないんだ。」

田嶋が港を見る。


すると等々力が

「・・・・・・・まあ・・・総悟に肩入れする気持ちは 分からないでもないがなぁ・・・。」

と言った。

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