夜中の紫

腐女子向け 男同士の恋愛ですのでご興味のある方、男でも女でも 大人の方のみご覧下さい。ちょっと忙しいので時々お休みします

沁みる’ 27

2017-09-26 | 紫 銀

 将軍もその周りも 

城代家老も、

ここ には来ると言う。


貧しさゆえに売られた者や 一旗揚げたい者

落ちてきた者。

ここに生まれついてしまった者。

彼らの呟く罵りや恨み言の中には、人間らしい小さな優しさが 小さく埋まっている。それはひどく痛々しく感じる、

それがここの会話の特徴でもある。

ここに生きる者ならば、

真正面から それを聞き取って居ては生きていけない と言う事を良く知っていた・・・。

 

銀時には、それが沁みついているらしい・・・。



「・・・おい!銀時・・・俺は滝川と名乗って ある街に出入りする。・・・そこにはどんな情報も集まっていて、俺たちに必要な物がそこにはある。・・・だが、無事帰ってこれるかどうかは 判らない。」

と、桂小太郎は 友の訃報を聞いて郷里に戻った時に 銀時に切り出した・・・。

何人目かの仲間の遺体。

それを引き取った時に 桂小太郎が銀時に言ったのだ。

「・・・おう・・・。」

と、

銀時はそう答えた。

桂は何時になく苦汁に満ちた顔をしている。

だが、友の死のせいだと決め、詳しい訳は聞かずにおいた。

 

「その事を聞かれても・・・高杉には言わないでおいてくれ。」

桂は賢い男で、見た目にそぐわず情けに熱い男だった。

銀時はそれを知っている。

自分とは違い他人の話をよく聞き 情報集めに人を上手く使える男で、その情報の重さを良く理解している。

その桂が、それを集めに一人で行くと言う。

人に任せられない、危険な場所なのだと、理解できたが

小太郎は誇り高い男なので ダメと言ってもやり通すと・・・知っていた・・・。


「・・・・なんで俺に言う?。」

銀時が刀を腰に刺さず 肩に担ぎ柄でとんとんと凝った所を叩きながら 小太郎を眺めていた。

大柄で不愛想。

刀を振らせたら鬼神のような男だったが、中身はひょうきんで、寂しがりな所もある

まるで憎めない 天邪鬼と呼ばれた男 

それが坂田銀時だった。

世のきつい所しか見て来なかったのか、人を信用する事はあまり無いのだが、一度約束を守らせたら これほど信頼と言う言葉に値する者は他には居ないだろう・・・。

松陽先生が信頼して自分の最も近く置くのも頷ける。

 

 

は、珍しく困った顔になった・・・。

ふっと桂が笑う


銀時は自分より背が高いのに 上目使いに自分を見て頬を掻いている。

「・・・またややこしい事 しでかすんじゃねぇだろうなぁ・・・。」

その顔は、先生が一人で出掛けると言われた時にみせる 半分、寂しそうな顔が出てしまっている、

困っている時の銀時が 近ごろは可愛く見えて 可笑しくなるのだ・・。

「・・・俺たちは、幕府を潰す。・・・それを誓い合っただろう?。」

俺は だいぶ心を開いた銀時が好きだった・・・。

 

「俺はそんな約束した覚えはねぇ・・。」

と、銀時が答えた。

「だから・・・俺が帰ってこなくても、晋介と共に・・・事を成せ。先生がおっしゃるように・・・皆で笑いあって生きれる世の中に・・銀時。」

精いっぱい笑って返す。

だが、銀時は目を反らし

「は!・・・俺たちの住める・・・だろうが!・・・・俺には笑いあう必要なんてねぇ、・・・なんで俺に言う?。」

怒ったように呟いたので

 

「・・・お前だからに 決まってるだろうが。」

小太郎はそうどこか遠くを見ながら言った・・・。

 

 




スラム・・・遊郭街の裏路地の汚い建物の中。

男たちは、あの仕事から解放され、

何事も考えず折り重なるように寝床に着く。

一様に肌に触れあう事をお互いに嫌いながら、口数少なく眠りにつくのだ。

だが、少し離れた目貫通りの方は 光がピカピカと光り、

爆音の中に悲鳴と、叫び声や何かの割れる音が聞こえて来ていた。

銀時も窓の外を眺めながら、それらを眺め野良猫の様に目を光らせる。

 

妙に肌に馴染んで仕方のない・・・、

それがむかついている・・・。

・・・馬鹿二人見つけたら 何が何でも抱えてずらかってやる。・・・

ため息を吐きながら、窓を閉め眠りについた。

 

 

昨夜は桂に会ったものの、晋介の話が出来なかった。

店に抱え込まれた客の情報は、用心棒をしていても中々手に入らないと言う事が判った。

この蒼の町にいる可能性は低いらしい。

赤の町に潜り込むには 客として行くか

だが・・・そんな軍資金は無い。

溜まるまで待つか・・・


そんなことを考えて

薄いせんべい布団の中で肘を抱え寝返りを打つ、、、


辺りは真っ暗闇だった。

背なかが独りでに緊張する

じわっと汗が噴き出る感覚があり、誰かに殺意でも向けられているのかと・・・

じっと目を閉じたまま辺りの気配を窺うと


獣の瞳に灯った最後の光のような 危なっかしい光。

が見えるような気がする・・・。

つぶらな瞳がこっちを見ている・・ガキだ・・・。

地面に這いつくばってごろごろどたどた 闇の中で何かから逃げようとして暴れまわっていた。

ガキの首には鎖が巻き付いて、繋がれた野良猫の様に体全体で鎖から抜け出そうとしていたのだ・・・。

後ろに引っ張ると、自然と地面に這いつくばる。その目先には死体の山と炎。

その中のある男の手に 彼の鎖は繋がっているのだが、男は死体の山の中の一人だった。

はあはあと、暴れているそれは 大人の腰にも届かないぐらいの男の子だったが、女の子のような袖の有るべべを着せられ、丈は長かったのかびりびりに破られていた。

無言で鎖を引っ張っている手が、ぬるぬると滑る。

ぐいぐいと首を後ろに引くのを、 この死体達に討ち勝ち、

埋める手間を惜しんだ男達が、繋がれたガキ毎火を放つ。

後で判るが・・・山賊・・・。

・・・なぜ山賊と知っているのか・・・

 

彼らは

野良猫が焼け死ぬのを面白がって眺めている。


ぴちゃぴちゃと鎖が音を立てる。

死体から血と言うか体液と言うか・・・

燃料がしみ出して鎖の先に付き それが燃え上がる。

その頭の白いガキが、死体に背を向け前に向かって走り出そうとすると、両足を繋いだ鎖に乗っかって転ぶ。

顔はしかめるが また黙って前に走り出そうとする・・・ 

首の鎖はガキの首の皮膚を挟みぎゅるっと引き裂いた。

ぽたぽたと血が汗の様に地面に落ちる。

首が締まり前が見えにくくなってもガキは 背後の闇に必死に逃げようとしていた・・・。



後ろからは真新しい血の匂い・・・

体から血が噴き出す独特の音が鳴り始めた・・・。

ガキは ついにがっと首の鎖を握りしめ

「うああああ!・・・。」

と雄たけびを上げる。



・・・・何・・っつー夢を見てるんだ・・・


銀時は眠りながら息を吐き 

寝相を変えて 

深い眠りに自ら落ち夢から逃げた。








だが、その夢は また銀時に近づいた・・。


モノ黒の夢。




両手に砂を掬っては立ち上がりざーっと何かに掛ける。

何も考えずに掛けているように見えた

が・・・手の下には生き物のような物がちらちらとして、ガキは、その上に砂を掛けていたのだ。


さっきとは違う木立の中で、木の根に足を取られながら歩き、砂を掛けた。

だいぶ消えてきた。

そう思う・・。

チリチリと焦げ臭い髪が燃えている匂い。

だが、消えてきて白い煙が上がる。

そのもの の前にしゃがむ。


ガキの銀時が・・・積もった砂を指で払いのけた。

すると砂の下から 肌が出て来て 良く見ると男の顔だと分かる。

瞼が出て来て鼻先も出た。

しゃがんでいたガキの銀時は 足の鎖を気にしながら男の頭を回り、男の顔から砂を落としていった・・・。

男は死んでいる。

どう死んだのかと傷を・・・体の傷を探すと、足は片方無くなっているし、片腕も無い。

向こうで燃えている死体と同じなのだと理解した・・・。

はっ!と


自分に向けられる視線に気が付いた。

すぐさま男の陰に隠れようとしたが、男は立ち上がらない。

銀時は刀を探したが、近くには無いようだ。

木の枝でも・・・と、木の根を目で追いかけ、暗がりで何か掴むと

もうその男が、燃える目を自分に向けて すぐ傍にいた・・・。

血に染まった上下の作務衣に 滴る血。

あざけるように笑っている・・・。

死者を笑うなんて人間のする事じゃない・・。

そこに殺されている男が 自分に教えた言葉だった。

ガキの銀時は、木の枝を持って悪魔の方に向かっていく、


ぞっとするほど切れ味の良い刀で、男が 自分の持って居る武器の木の枝を縦に切って来た。

銀時の手に刃が届きそうだが、刀の刃は逸れ

枝を切り払い落す・・・

悪魔のような男の片方の手が、自分の頬を思いっきり払った。

びたん と、頬が鳴り横に飛ばされたが、鎖が死体と離さず銀時を近くに落す。

見た事も無い恐怖。

逃げる・・・。

銀時は体中から聞こえる恐怖に従って さっきの様に鎖毎引っ張って動こうとしたが、

悪魔は、死体の上に足を置き、死体を動かすのを許さなかった。


「おやおや・・・。ペットですか・・・。」

すずのような声。

恐ろしく気持ちが悪い。

悪魔に男を触られたくない。

そう思った銀時はもう一度辺りを見回した。

何かを探し回るペットの銀時を見て

面白そうに くすくす悪魔が笑う。

「これを あそこから引っ張り出したんですねぇ・・・。犬なら大した忠犬ですね。・・・・ですがお前も、人を殺したことあるんでしょう?」

と、銀時を見る。

銀時は両手で石を持ち上げると渾身の力を込めて、悪魔の足を潰しとやろうと、上から叩きつけた。

悪魔の男はひょいっと片足を上げて それを避けてしまう。

ざくっと、銀時の襟の部分を 刀で貫き

地面に縫い付けると、刀から落ちた血が、銀時の着物をみるみる赤く染めていった。

悲鳴や泣き言を一言も叫ばない銀時を見て

悪魔は、興味を持ったように

銀時の腰に帯として撒かれた縄を掴み

高く持ち上げ、顔を覗き込んだ。

さっきの恐怖は薄れて、

憎しみが宿る目でじっと悪魔を見つめる。


「・・・これはお前の刀ですね・・・。柄が 子供用にうんと短い。」

そう言って、悪魔が刀を見せながら銀時を見る。

銀時は幼いながらも、凶悪だと言う人間を何人も見てきたが、全く光の宿らない黒い瞳を見るのは初めてだった・・・。

怖い相手程その光が小さいと言うのも、本能で知っていた。

本能が この男を悪魔 人間ではないと言っているのだ・・・。

「・・・。」

「ふん・・・刀さえ持てば人は殺せます。年なんて関係ないんでしょう?・・・。」

「・・・・。」

「私はここに住みたいんでね・・・夜盗狩りしてるんですよ?お前たちが、この地を離れてくれないもんでね。・・・お前はこれのペットなんですか?それとも夜盗の一味ですか・・・?。」

「・・・。」

銀時は十分に理解できていたので 黙る。

「答えないと殺しますよ?・・・喋れるんでしょう唾は正常に飲み込めてますよ?。」

と悪魔が饒舌にしゃべる。

銀時は、長い髪の色が・・・自分と同じようだと

吊り下げられながら思っていた。


「面倒くさいから・・・死にますか?」


面倒くさい それは納得できたので頷いた。

すると悪魔は嬉しそうに、

「ほ・・・これと?・・・へー・・・忠犬として?仲間として・・・?。」

と、銀時に聞く。

・・・その顔は少しだけ羨ましいのか、悔しそうに 銀時には見えた。

銀時は内心 この悪魔を悔しがらせたと、嬉しくなって笑っていたが、

「・・・・。」

黙っている・・・。

ジャラジャラと垂れ下がった鎖が持ち上げられ、

腰の縄から悪魔の手が外れると どすっと地面に落とされる。

「・・・っ・・。」

足がぎりぎり着くかつかないか・・・首が締まった。

悪魔は怒ったらしい・・・ 

また瞳が死体の炎に照らされて揺らめいていた・・・。

意識が遠のく中で 銀時が悪魔を見ると、

その炎をうらやんでいるように見えた・・・。

こいつはおかしい・・・。


「どおせ、お前はさらわれてきたか、戦争孤児か・・・。これだってお前の親じゃないだろう?・・・その年で相手をさせられて もう飼いならされたって訳ですか?!・・・。ふん!」

さ・・・っき・・・と・・・口調がちが・・う。


ブラックアウトしかかった。

このまま殺されるのか・・・と思った時。


「・・・いいでしょう。・・・私が 飼いならしてあげましょう・・。」

と聞こえた・・・。







「・・うわ!・・・。」

そう言いながら、





銀時は、ウナギの寝床で、半身を起し首を擦る・・・・。


「・・・・夢・・か・・・。」


汗をかき 気分も少し悪い。

隣に寝て居た男が、

「・・・夢かちゃ・・ん?」

等と 寝言の返事をした

 

銀時は自分に

ここはあの山中ではないと教え込むため、きょろきょろと見まわした。


その様子を、眼鏡・・・眼鏡をして寝ていなかったが、

彼は静かに見ていた。


「・・・。」

銀時は顔を両手で擦るように覆い

 

それに苦く 苦しめられた。




それからと言う物、

銀時は、眠るのが嫌になる

寮に戻り、外を眺める彼に・・・

少し年上だと判った眼鏡が、酒をコップに注いで銀時の方に差し向けた。

酒を飲んで良い年かどうかも判らないが、

師匠は 高杉たちと自分は同じ年だとして禁止した物だ。

ふと、兄弟の様に過ごしてきた者の顔を思い出す。


「ほら・・・特効薬。」

眼鏡は腕の立つ男だった・・。

その酒を取ると、ぐいっと煽る。


「あ・・・これ 知ってる。」

銀時の一言に 

眼鏡は首を振りながら

笑った・・・。

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沁みる’ 25

2017-09-10 | 紫 銀

治安維持法・・・

テロ防止法案  風紀紊乱及び共謀罪

今の江戸にこの法がある限り、大衆は口に絆創膏を貼り眼鏡は、幕府が見せるもの以外に見れないIT眼鏡でも掛けるしかない。

 

 

旧知の友の為 桂小太郎がどこかに行ったのは判っているのだが、病院に担ぎ込まれた桂の友は無事と言える姿ではなかった。

桂の姿が見えなくなって以後返された友は、高杉に小太郎を探してくれと病床で懇願し意識不明に陥った。

 

唯一残した手掛かりと言えば、彼が握って帰って来た一本の紙縒り。

今で言えばミサンガのような物だ、遊女が客に次に真っすぐ自分の所にたどり着けるようにと、小指などに結んだりする。

上級遊女の花魁の物ならば、見せれば予約がすんなり入ると言う代物でもある・・・。

 

だが、それが何だか判らない、

松陽塾の塾生は、一様に手に取って眺めたが、見当がつかない様子だった。

刀を帯に刺し羽織を直した高杉はひょいっと それを取り上げると眺める。

よりを手の中で解いて見ると。

細長い色紙の下に霧島と文字が書かれている。

「小太郎・・・。」

高杉 晋介は唇を噛むと眉をひそめた。

その彼の姿を見た その場にいた5人ほどの若侍は、ドキッとして動きを止めた。

皆口には出してはいないが、男の中にも色気の有る者が居て、いかに友情を大事にして居たとしても 身を置く位置を考慮しなければその色気に絡め捕られて身動きできなくなる そんな雰囲気を彼は持って居た。

高杉は正に、それを自覚し始めたようだ。

はっとしたように、一同を見直してから目つきを怒らせると

「何でもない!。」

と仕切りなおすように言う。

友から変な目で見られればそういう態度になるのは当然だが、近ごろはそれが納得できない高杉だった・・・。だからわざと前髪を伸ばしてみたりしている。

小さい頃は 良く お小姓さんと馬鹿にされて年長者にとびかかって行ったものだ。

 

気を取り直した塾生の一人が

「こいつは幕府の要人に囚われていたのだろう?小太郎は代わりに幕府役人に囚われたんだろうか・・。」

と、桂を心配して言った。

高杉は

「いや・・・幕府の役人ならば番所の外に捨てられるはずだ。だが、こいつは神田川の支流の、川っ淵で見つかったんだろう?・・・あそこは迎え船の発着場がある当たりだ。」

と言った。

確かに船着き場はあるが、迎え船という意味の分からない塾生たちはひそひそ口ごもりながら考えだした。

それを横目に高杉は・・・

「・・・今からどうするか・・俺が考える。・・・銀時にはこの話はするなよ・・。」

そう言うと、病室を出て行った・・・。

 

 

病院の廊下を歩きながら、ある光景を思い出す。

春に・・・

 

桜が散る中を、いい香りの着物を振りながら女達・・・と言っても自分より年上だが

彼女たちが自分の手を取って 白い物が舞い散る中を、小走りに走っていく。

道端には黄色い花が咲き、木からは花びらが舞う。そこに向かって伸びていく白い腕は、色取り取りに着飾った袖から抜け出したがっているようにも見えた・・・。

「助さん 助さん・・・私のも結んで!。」

そう言われ、着飾った娘に抱きかかえられ高く上げられると

桜の枝に彼女たちの持つ より紙を枝に結んだ。

 

今見ると、手が大きくなったせいか、前見た物より短い気がする・・・。

春の甘い記憶だった。

 

 

 

 

 

不夜城の歓楽街はそんな清々しい風も吹かない場所にあった。淀んで甘ったるい饐えたその空気は嫌悪に値するが、多く吸い込んでしまうと何かが足りないと言う気がしてくる。

それを埋めるように、きらびやかな通りから一歩奥に入ると息使いがおかしく成ったような・・・それが聞こえているような・・・

闇がそこここに作られ、赤い光の中に呻き、身を落としたくなるのだ。

ごくっとつばを飲み込んで、高杉晋介は遊郭街の大鳥居を通り抜けると下を見ながら歩き続けた。

彼が店の前を通ると、騒がしい女の客引く声が止まり、

高杉を見ると口笛を吹く女。

意を決したように高杉が上の看板を見ようと、目を流して配ると、女が細かい格子戸の向こうで、崩れるほどだった・・・。

きゃーーと悲鳴が上がると高杉が少し動揺して、道のど真ん中に移動する。

辺りを見回しても、自分の探している店は見当たらないし、

四方に伸びた道の奥まで 店を探しに行かなくてはならないのなら、自分一人では見つからないと悟った。

困りはしたが、誰かに助けを求める事も出来ず立ち尽くす。

 

暫くすると・・・

 

「綺麗な兄さん・・・。ここに来なくても、外で十分に遊べる顔ざんしょう?・・。」

と、女衒らしき男がやって来て尋ねた。

店の前に立つ男らしく、女衒は金持ちそうな客にしか声を掛けてこないのが普通だが、その男は高杉に声を掛けてきたのだ。

「・・・・。」

高杉は黙って居る。

それを眺める女衒も まあまあの顔だった。

そう悪い顔では店の前立つ事は出来ないのだ・・

「それにしても・・・整ってるねぇ・・・橋向の・・・ではないんでやしょう?。」

その意味を理解している高杉は、むっとして睨むと、女衒は手をあわせて謝った。

「まあ、あっしの見込み違い。お許しになって・・・。その代わり若旦那がお困りになっている事・・聞きましょう。・・・どいつをお探しで・・・?。」

と聞いて来た。

高杉は、こんな者に関わりたくなかったが、小太郎の顔を思い出し

女衒の耳元に手を当てるとこそこそと話した。

 

その結果・・・

 

 

通された座敷に高杉が座る。

8畳一間の部屋だったが、その店では広い方だった。

なぜなら、その娘はその店の看板だった。

酒も飲まずにただ通されたまま座る高杉の背中を、遊女は襖を開けたまま立ち止まって眺めていた。

高杉も、背後の女の気配に振り返らずにそのまま座して待っている。

さっきとは違う この店の女衒が背後から入って来て、

「姉って・・・本当に・・・血を分けた兄弟じゃないでしょうね。・・・それだけは・・・あっしも気が引ける。」

そう言いながら、女衒は慌てながら高杉の前に来てへたり込んだ。

「旦那・・・兄弟に通せないのはご承知のはずでしょうね。何かあってからじゃあっしが捕まっちまう!。」

すると 背後で 室内に入り切れず襖にもたれ掛かっていた女が、

「わっちには、男兄弟は居ないよ・・・。そのお方は、元雇い主の若様さ。」

と言った。

女衒はそれを聞いて腰を浮かして喜ぶと、

女を高杉の前に座るよう促した

「お前は幸せもんだねぇ・・・お前を思い出してわざわざ買いに来てくれるなんて、なんて心優しい旦那さんなんだろうねぇ・・・よっぽど尽くしておやり。・・・酒を持ってくるからね。」

と、言いながら男は出て行った。

 

二人は顔を見るまで時間をかける・・・。

が、一目高杉と目を合わせると遊女は 感嘆したように

 

「立派におなりで・・・和助だと言われても・・・後ろ姿を見るまでは判りませんでした・・・。」

と泣きそうな声で言った。

「・・・竹・・・。」

高杉が女の方に顔を向けると女は、手で口を押えて涙を流す。

 

竹は、高杉家で下女をしていたが、出入りしていた姉が悪さをして捕まると、一家は高杉家に奉公する事が出来なくなった。

死罪になりそうな姉をかばうために親は、竹をたちの良くない商人の家に奉公させた。だが、案の定すぐに竹は身売りされ江戸に出されたのだった。

高杉は幼少、この幾分年上の娘 竹に面倒を見てもらっていたので、愛着が有り、商人の家に行っても時々竹を見舞いに行ったのだ。

高杉家は竹との交流を快く思っていなかった。

 

だから 高杉の父は本人の罪でもないのに奉公を差し止めたり、身売りされるのも止めなかったのだ。

 

ただ、江戸の篭屋に居る

とだけ最後の手紙が来た。それで

吉原で篭屋を探したが みつから無かった・・・。

 

 

 

女は じっといつまでも眺めていたが、高杉は納得できないようでただ黙って座っていた。

先程の女衒がやって来て 甲斐甲斐しく酒の膳と食べ物を並べると、嬉しそうに高杉を褒めた。

「若旦那?若様?・・・兎に角、そのかんばせじゃ後で浮竹が みんなにいじめられるでしょうなぁ・・・あははは・・。」

 お猪口を高杉に持たせると何杯も勧めて飲ませた。

高杉の様子を見て はじめなのだろうと値踏みしたのだ。

「まあ・・・あっしの言うこっちゃないけども・・・。初めてを・・・元乳母にねぇ・・・。いくら情が残ってるって言ったって・・・・親子丼ぶりには違いない訳だし・・・若様が後で辛く成らなきゃ 良いんでしょうけど。・・・やめた方が・・・?似た子なんていっくらでも居るんだし 変えるなら今ですよ?。」

と、女衒は浮竹と高杉を見比べながら言う。

浮竹は部屋に入って襖は閉めたが、襖の前にへたり込むように座ると、襖を覗き込むようにそっちに顔を着け、指は襖絵を辿っていた。

流石に女衒に女を変えろと言われると、

彼女はカリカリと爪で引っ掻いた。

それを見ながら女衒は

「こういちゃなんだが・・・浮きちゃんはもう3年も ここに入ってるんだし・・・・新子ならねぇ・・・若様にはお似合いでしょうけどさ。」

とあまり自分の話を聞いて居ない二人を見、

膝を叩いて言った。

「・・・ま!・・・・よござんしょう・・・これも吉原・・・って事でね・・・。」

そう言うと腰を上げ 浮き竹に向かって

「本当に・・・いいんだね?。」

と念を押した。

浮竹は女衒を見なかったが、大きく頷いたようだ。

 

お膳に3本のお銚子。

そんなに飲んだ事のない高杉だったが、ぐいっとのなまきゃ居られないとでも言うようにペースを上げた。

浮竹は背後からその様子を見、帯と着物を直し 髪も何度も直す。

いつもは着物と言っても柄の付いた襦袢だが、おはしょりも上げず だらしなく裾を引きずるように着て客に会う。

巻いただけの細い帯は 客の指が掛かればそのまま下に落ちてしまうし、ただ前を合わせただけの着物は足を取られたり、胸を触りたい客が入れやすいようにする着方だ。

後ろを振り返らない高杉の向こうで、竹はスンスン鼻を鳴らしながら着物を着なおし終え正座して座る。

高杉は様子を背中で感じると

そっと後ろの様子を窺って、畳に両手をついてぐるっと身を回した。

向かい合った遊女は、少女に戻っていて

俯いて震える手で何度も涙を拭いていた。

幼い頃見た面影を思い出し 高杉は覗き込んで声を掛けようとしたが 言葉が見つからず、仕方なく自分が座っていた座布団を足の下から引き抜くと

「ん・・・・姉や。」

と、当時の調子で座布団を勧めてみたが・・・

彼女は泣くばかりだった・・・。

失敗したと思ったのか高杉は、もう少し少女に近寄って覗き込み、袖を指で撮むとぐいぐい引っ張って 泣き止むように促した。

だが浮竹には それが無性に過酷だと感じる。

幼い頃は幸せだったのだ・・・それを思い出すからだ。

将来恋するなどと思いもしない相手、小さく目のくりくりした弟

彼を、いつも背中にくくり付けられ、背中を蹴っては自分を馬の様に走らる。

それが最初は憎たらしかったが、

どんなに揺らしてもしっかり小さい両方の手で掴んだ手、

嬉しそうに喉を鳴らす・・・いつしか自分も嬉しくなった。

彼をおぶったまま 家に遅く帰ると、家の女中がものすごく怒り、耐えきれず泣くのだが、背中から

「竹は泣かんでいい!・・・お前なんか嫌いじゃ!。」

といつも背中でどたどた暴れ 女中を追い払ってくれた。


それがどんなに嬉しかった事か・・・。

熱々になった頬と体 くったり背中で寝てしまった高杉 和助を引き剥がすと、いつも背中の着物を最後まで掴んでいる・・・。


この子は、どんなお侍になるんだろう・・・。

 

そう思った相手 高杉は、今

刀は吉原大門で預けてはいるが

絣の着物を体に馴染ませて 肩幅も広く厚いくなり 組んだ足も倍以上に長くなっていた。

手の指は節々からすらっと伸びて形が良く その手は自分の着物とつながっている。

髪は黒く見覚えのある分け目とつむじ。

垂れた前髪の中に大きな黒い瞳と切れ長の目じりにゆっくり睫毛が瞬いた。

「和助ぼっちゃま・・・。」

浮竹が片方の袖で半分顔を隠しながら言うと 高杉は安心したように笑った・・・。

自分に向かって笑った幼かった顔と 凛々しい顔が リンクする。

その時のどうしようもなく・・・深い恋に落ちた。

 

一瞬にして

それが幸せです

と言いながら 彼の為に死ぬ時を心待ちにするような・・・

そんな恋だった。

 

 

浮竹はにっこり笑って


「どうなさったんで?・・・坊ちゃま?。」

と、言った。

 

高杉は照れたように顔を赤くして目をそらした。

「坊ちゃまは やめてくれ・・・竹。・・・・やっと見つけたのに。」

彼女の決心など何も感じていないのか

高杉は酒を竹にも勧めた。

くいっと飲むと、遊女の前で少し照れた高杉を見て 身体がぞわっと反応する。

それを手で撫でて宥めながら 高杉に笑いかける・・・。

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沁みる’ 26

2017-09-10 | 紫 銀

小太郎と言うより、晋介までもが、あの不夜城に入ってしまったので

連れ戻さなくてはならない。

そこで、物心ついた時から頭が白い銀時は

頭を染め、黄泉の入り口のような地下に続く入り口の前に立つ。

さほど大きくも無く、華美でもない金属の扉。

ここから中の住人の出入りはほとんどないが、中の仕事に従事する者はここから入らねばならない。

本物の赤門と言われる関所じみた正門は、なじみ客か、新規の場合は身分の証明が義務付けられている(札束で済む) か、紹介者が一緒でなければならないと言う事だった。

高杉晋介は、なぜだか顔パスで入ったと言うのだ・・・。


 



「ははは!・・・門番の良くんでしょ?腕は立つんだけど、頭殴られたとかで、あんまり覚えられないんだって・・・。」

花街へのエレベーターの一つを下りると、街には男ばっかりがうろついていた

そこできょろきょろしていると、

小柄だが色白の、年で言うと13、4,の男の子が声を掛けてきた。

白の多い浴衣が、子供っほいのだが、見ようによっては女にも見える。妙になつかれた銀時・・・。

「女が居ねえな・・・。」

と、銀時は、その男の子に話しかけた。

彼は少し笑いながら、銀時を覗き込んだ。化粧が落ちて居ないのか 

下瞼が赤く 上を見て伸びた首は細かった。

「お兄さんは用心棒だったよね・・・。ここは蒼の町。女の町は赤の町・・・。兄さんは蒼の町の用心棒なんでしょ・・?。」

そう言った。

「え・・・・。霧島・・・ていうのは・・?」

と銀時が聞こうとすると、少年は

「美山霧島さんでしょ・・・。彼はこの蒼の町でも向こうの赤の町でも通用する兄さんだから、時々赤の町にも呼ばれるんだよ。花魁に先客が付いてたりすると、霧島兄さんが呼ばれて、試されるんだって。・・・・にいさんこっちこっち!」

男の子が、銀時の袖を摘まんで付いて歩き、路地を曲がるように引っ張って誘導する。その力のなさに少しだけドキッとなった・・。

「・・・男 だろ・・・?。」

そう言うと、

「だって最高位の花魁買おうとしてる客だよ・・。どっちも心得てるのが普通じゃない・・・?霧島兄さんだって男花魁の一人だしねぇ。」

そう言いながら、前の方を指指さした。

暗がりだが、真っ青の照明を建物に当て、屋根の反りを際立たせたお茶屋が、威風堂々建っている。


夜になっても、地下の照明は変わらなかった。

人口の太陽が決まった時間につくと言う不自然さ。風も規則的過ぎて肌への当たりが堅い気がする。

ただ空気は媚薬と言うか、嗅ぐとけだるさに襲われて動きが鈍くなる気がした・・・。


早くあのくそ真面目を見つけ出して、ここから出さねばならない・・・。

お茶屋敷、中から細い格子付きの花窓にぞろぞろと男たちがやって来て並び座りはじめた。地上の夜が来たのだ。

中央には豪勢な銀色のふちと黒の生地を張られた椅子が置かれ、

菊の紋章が 背もたれの上部に金と銀で飾り彫りされている。

ここは菊屋なのだ。

そのナンバー1が座る椅子。

大体は客の予約が入っているので、不在な事が多い 

彼の顔を見る事も叶わない。

銀時は見回り警備の為に 店先に立つ事になった、

隣の店の中を覗いてみると。

昼間に話を聞いた男の子が 首に鎖を付け上半身裸になって四つ這いになっていた。

鎖は柱に繋がっている・・・。

自分の店に目を戻すと、やはり彼と同じような年ごろの男の子が

自分の順位の札を正座の股に挟んで座り、番号の札に顎を乗せたり腕をからませたりして客を待っていた。

隣の店とは趣向が少し違うらしい。


「・・・あんたはノーマルなんだって?。」

店の間口の反対側に立っていた 同じ店の用心棒だと言う男が歩いて来て

話し掛けてきた。

その男は眼鏡をかけた優男で、近寄られると冷たく感じる。

どこか冷めていた。

内面の冷たさを表しているかのように、笑顔を見せられてもちっとも嬉しくないのだ。


「・・・そうだな、女が好きだな。」

良く判らないが、銀時がそう言うと眼鏡の用心棒が

「ここではどっちでも、って顔してないと。店主どもに睨まれる。そして、睨まれたら面倒だ。」

という。

「へーー・・。」

銀時が興味なさそうに 客が通りを歩くさまを見ていると、早速道の奥でがやがやとし始めた。

「今日も始まったぜ・・・。上客争奪戦!。」

ぽんぽんと肩を叩かれて、眼鏡が歩いて行くので付いて行くと、各店の女衒たちが、掴みあっている。客は面白そうに眺めて笑っているのだが、彼らは、どっちが先に声を掛けたかと言う事でもめ始めているようだった。

その内の女衒の一人が隠していた栓抜きで、自分をこずいている同じ女衒の顔を払ったので 血が辺りに飛び散った。

すると一斉に、野次馬が広がって、その輪の中に女衒を守るための用心棒が割って入る。

用心棒はここが舞台だと言わんばかりにもったいぶって、顔を切った相手を睨みつけると、

「おうおう!へなちょこの分際でうちの店のもんにちょっかい出しやがって!。」

と啖呵を切った。

切った女衒サイドの用心棒も割って入って来て

「じゃかあしい!!・・・このお客は先月から伊勢屋の滝川に付いてんのじゃ!・・・てめえは引っ込んでな!。」

と怒鳴る。

銀時の隣に居た眼鏡は、滝川と聞いてすぐさま割って入って行く、

銀時もあわてて入って行き、輪の中心に出てしまう。

周りの男たちは新入りの 年端も行かない銀時を見て大いに盛り上がる。

騒ぐ男たちをきょろきょろ眺めていると、音がして拳が飛んで来た。それを手の平を開いて受け止めると、そのまま握って止めた。

おお!と歓声がして他の用心棒が ここぞと飛び込んできたが、眼鏡が彼らの動きを止め。

銀時が相手の腹に拳を入れると その男は九の字になって転がった。

それを見た切られた女衒を守る男は真っ赤になって怒りをあらわにした。


眼鏡は、怒りに震えあがった相手を見て

っち!と舌打ちする

銀時に、

「滝川を守んなきゃならねぇ!。」

と言って、数人敵を指さし

「程ほどに!。」

と言い、自分も相手にとびかかって行く。



滝川の客を守りながらその店まで何とか入ると、喧嘩はお開きになった。

眼鏡と銀時がまた元の店の前に分かれて立つと、観光客がじろじろと二人を見物した。間口分離れた所から眼鏡が腕組みし

「・・・これも店の威光の一つ。美丈夫と用心棒 どっちも店の花なんだとよ。」

と、笑いながら客が入るのを見送った。

銀時が興味なさそうに店の中を見ると

まだ店の中央の椅子には誰も居ない。

・・・喧嘩が一晩に数回有って、銀時達は仲裁したりされたりして

一晩が終わり、朝方になると銀時は 眠くてあくびばっかりしていた。

眼鏡も首が凝ったのかくるくる腕を回している。

もう上がりだと言うので

店に入って警備室に仮眠しに行く時、

あの椅子を見ていると

「・・・お前は美山の紹介だったねぇ。」

と、ごついがスタイルの良い男が着物の衿をなおしながら 蹴上がりで銀時に声を掛けてきた。

少し長い袖と、太めの帯を床に垂らしながら体に捲く

その姿は意味あり気だったのだが・・・、

銀時と眼鏡は顔色も変えずにその脇を通り過ぎた。

ばらっとその帯が銀時の足の上に落ちる

銀時は彼を見ると、

「・・・霧島はここには座らないよ。あいつはこっちでは通用しないんだから。」

と言った。

「・・・・?。」

銀時が不思議そうな顔をすると、男が見つめ

「あいつは不義を働いたからね 滝川になって嫌な客の相手をさせられてるのさ・・・。・・・なんであんなのがいいのかねぇ・・・皆へんだよねぇ。」

と、銀時の頬を撫でた。

銀時は顔を振って眼鏡の後に続く。

次は娼館内の警備

と言うより、後片付けの手伝いだった。

デビューしてないガキどもが走り回る。

それを手伝ってやっていると、ぐいっと納戸に襟首を引き込まれた。

どさっと、積み重なった座布団の上におちる。

一瞬見えた腕が白くて細かったので、嬉しくなって引きずり込まれたのだが・・・。


引き戸を締め、辺りに気付かれたかどうか気にしている、

桂小太郎だった。

 

「なんだ!て前ぇーか・・喜んで損した。」

と銀時が言うと、小太郎は

「しーー!馬鹿!見つかんだろ!・・・・・お前あれほど目立つなって言ったのに!。」

と言う。

「ふん!そんな事より、馬鹿は見つかったのか?・・・お前が、ここに入り浸りだなんて言うから あいつがとち狂たんだろうが。」

小太郎は、銀時の胸に人差し指を立てて説教しようとしていたが、

外から子供がバタバタ走って近寄って来る音がしたので、小太郎は片方の肩だけ脱ぎ、頭を掻きながら足を組んで座っている銀時の前に腰を下ろす。

「いいか銀・・・・・・晋介が見つかるか、家老が見つかるか・・・それまで大人しくしてろよ!いくら難しくても・・・ここでは・・黙ってないと・・・面倒な・・」


と、言いかけると、引き戸が突然がらっと開き、

小太郎が銀時に抱き着いた・・。

「ほら!やっぱり!・・・美山兄さんここに居たでしょう?!。」

と子供が自分の方を指さして言った、

桂が銀時の口を押えて、その上からキスしていたので、もごもごとしか文句が言えない

「こら!霧島!!・・・そう言う事は客にやれって言ってんだろうが!・・・こいつ本当に兄貴か?!・・・お前も離れろ!。」

子供の後ろから納戸を覗いていた店の番頭の一人が、小太郎のおかっぱ頭を力任せに引っ張った。

「ぎゃ!。」

変な声を出して、小太郎が納戸の廊下にばたりと倒される

廊下の明かりでよく見るとその体には、いろいろな所に赤いあざがあり淫靡な事の跡なのが、銀時にも判る・・・。

艶めかしい肩を突き上げて上半身を起こすと、

「そうだよ!・・・いいじゃないか 久しぶりに兄ちゃんにあったのに!・・・。」

と片膝をゆっくり立ててその上に手をのせ。

置いてけぼりの銀時を睨んで見せた。

番頭は小太郎の姿に見とれたように動きを止めたが、我に返ると

その脇をずかずか入ってきて、

今度は銀時の襟首を両手で乱暴に引っ張り上げ、

「兄貴だか何だか知らねえが!いい気になってオッ立ててんじゃねえぞ!この・・・。」

と 番頭は言いながら、銀時の股間を握む

それが思ったような硬度ではなかったので、語気は弱くなり。


「・・・兄ちゃんは、女にしか興味ないよ。だから、用心棒に呼んだんだ。」

、小太郎がくすくす笑う。

すると番頭が怒ってまた 小太郎の髪を掴み上げたので、小太郎は

「嫌ぁーーー!。」

っと大声を出して泣き真似をする。

銀時はただあっけにとられ・・片眉を上げてそれを眺めっていた。

女優と言うか男優と言うべきか、吐き気はするが演技とは思えない演技力だ。

すると

「・・・あ!はいはい・・・はいはい。」

とまた後ろから男がやって来た。

その男の着物は絣の着物で見るからに高そうな物だった。

「ぱぱぁ・・・。」

小太郎が変な声を上げたので銀時が目を見開く。

「ああ!はいはい・・・どこでしか?こっちでしか?・・・はいはいちょっとごめんなさいよ。」

と言いながら、

小太郎を番頭の手から救い出し抱き起す。

銀時はぞーっとしたが、

がっちりむっちりなその男は、膝を付いて小太郎をお姫様抱っこして立ち上がった。

「怖いよー。」

小太郎はその男の胸に顔をうずめて男の首に両腕を巻き、

そのまま連れされれようとしている。

「ん?・・・もう大丈夫でしよー!ねー・・。」

店の主人が登場したのだ。

だが番頭は、それを見なかった事にして、あらぬ方を見つめて固まった・・・

しかし、我慢しているせいで汗と呼吸は荒いままだった。


銀時が・・・凍り付いて見送ると、

同じく凍っていた番頭が動き出し、小僧共に用事を言いつける。そして、

「旦那・・・旦那が・・・弟に甘いからって!、お前には大きな顔させんからな!。」

とだけ 銀時に言い残し、番頭は去っていく。

銀時はため息をつき、彼の心労を思いやった。





小太郎は・・・


部屋に入って、2階の外に向かってせり出したバルコニーに座って本を読んでいた。

だが文字は自分の中には入ってこない、

ある言葉を思い出していた・・・。



松陽塾の4天皇たちと、高杉と、自分で、江戸に遊学しに来てすぐの事。

いろいろな事を学びつつ

それぞれの実力が分かって来るにつれ、高杉は将来日本になくてはならない侍だと言う事が分かる。

見た目もそうだが 彼は他に見ない逸材の一人だった。

その彼が兄のように慕う4人。自分は彼らには遠く及ばない・・・。

ある時4人が、そろってどこかに行くと言うので、付いて行こうとすると、やんわり断られた。

ならば高杉と自分は、食事をしているこの席で彼らを待つと言う。

近ごろは、少し批判的な事を言うだけで逮捕されそうになっているから彼らを心配して言ったのだった。

すると、年上の先輩の一人が、意味あり気に高杉の顔を見て

「・・・お前たち、童貞は捨てたか?。」

と聞く。

そんな事考えもつかなかったので、答えられずにいると・・・

の先輩が・・・

「漢が女を買う意味は 何だか判るか?。」

と聞きなおした。


「・・・なぜですか?厳密にいえば己の子孫を残すため・・、ですが・・漢たるもの 子孫を残すよりも、世に何物かを残すために 捨てようと残そうと・・・それは必要でないでしょう?。」

と高杉が高杉らしく真面目に答えた。

彼ならば・・・そのまま、生きて死んでいくのだろう・・。

「・・・桂・・・貴様はどうだ?。」

と自分に聞かれたので、

「江戸でも日本でも半分は女ですからね、・・・だけど、童貞ってことになると・・・正直何だかわからないけど、何かは、欲しい気はしますね。」

と高杉を見ないように答えた。

睨んで居るに決まっているからだ。

「ははは・・。だから、買うか。・・・お前は正直で良い。それが正解だろう。女は愚鈍で大食漢だが、悪者には成りきれはしない・・が、男が何かをなそうとした時に、どこからかうねりの様な物をぶつけて来て邪魔したりする存在だ。地球上に半分は居るのだからなぁ。・・・だから味方に付けねばならないのだが、・・・女の正義と言う物は良く判らない代物だ・・・。」

4人は一人の話を聞きながら 頷き酒を飲む。

「はあ・・・。」

桂は、良く判らないと言う元気のない返事をした。

その背中をバンバン叩いて男が

「まあ・・・良く知らないと、女に足を救われそうにるなって事だ。・・・お前たちは近寄っただけで女の呪いにかかりそうだからなぁ・・・。」

と言った。

「尚更・・・女は必要ないじゃないですか。」

高杉が怒ったように言う。

「そうではない。晋介・・・。うまく使えば、良いと言ったのだ。扱い方を知らねばならないとな。・・・己の子を産む女の扱いは、別物なのだしな・・・。」

先輩がそう言うと

高杉と自分は黙った。

・・・女は 使う物ではないのでは?

と高杉も思ったに違いない。


すると先輩がそんな自分たちの心の中を見透かして


「ははは・・・だからお前たちが心配なのだ。これからは、女の罠などいくらでも使ってこよう・・・。・・・これから先、女と 自分がなしたい事、大事な友・・・。どれを取るか・・・そういう選択を迫られるとも限らんぞ?」

そう笑う。

すると高杉が大きく息を吸って

「・・・それは 最初から決まっております。言うまでもない。」

と言い切った。

その姿はみじんも陰りが無く 美しささえ感じた・・・。




それを窓の外を見ながら思い出した桂は。

膝に頭を付け片方の膝を抱えながら


「・・・・言うまでもない・・・。」


と呟いた。

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