つらつら日暮らし

釈尊伝に於ける授戒の教化について

或る釈尊伝を見ていたら、授戒による教化について書かれていたので、それを見ておきたい。

 爾の時、世尊、諸衆生の化を受けるに堪えるを知りて、即ち之を教化す。
 宜しく建立すべき者は教えて建立せしめ、其の住処に随いて、便ち成就することを得。
 応に三帰を受くべきは三帰法を授く。
 応に五戒を受くべきは五戒を授与す。
 応に八関斎戒の法を受くべきは即ち八関斎戒の法を授く。
 応に十善を受くべきは十善法を授く。
 応に出家すべき者は、出家を得せしむ。
 応に具戒を受くべきは具足戒を授く。
 是の如く次第して、展転漸進して、迦毘羅婆蘇都城の園林に至りて住す。
    『仏本行集経』巻52「優陀夷因縁品第五十四上」


同経は、釈尊のみならず、その親族や弟子などについての伝記も集大成したものであり、内容はそれほど古いわけでは無い。よって、上記の内容についても、実際の釈尊の教化だったかどうかは不明であるが、しかし、教化に於いて様々な授戒を用いていた可能性について検討されるべきであるといえる。しかも、釈尊実際のところではないとしても、本経が編集された時期のインドに於いて当たり前だった可能性があるといえる。

それで、ここで教化に用いられている戒本は、以下の通りである。

・三帰戒:仏法僧の三宝への帰依
・五戒:在家者の五戒
・八関斎戒:八斎戒
・十善:十善戒
・出家:沙弥十戒
・具戒:具足戒(『四分律』なら二五〇戒)


ここから、いわゆる「菩薩戒」が含まれていないことが分かる。ただし、「十善戒」は大乗戒にもなるので、この辺の判断が難しいところだ。また、これらの授戒を次第して、徐々に釈尊自身が教化していた、ということになっている。それで、これはおそらく、必要な人に、必要な戒を授けていたということだったと思うのだが、この辺、大乗経典だと以下のようになる。

是の大涅槃微妙経典亦復た是の如く八の不思議有り。一には漸漸に深まる。所謂、優婆塞戒・沙弥戒・比丘戒・菩薩戒なり。
    『大般涅槃経』巻三十二「師子吼菩薩品第十一之六」


このように、『大般涅槃経』であれば、授戒の実質的なゴールとなる菩薩戒に至るまで、徐々に深まっていくとされている。しかも、この考えは、天台宗系などの「授菩薩戒儀」にも導入されて、徐々に深まるように授けている。先ほどの『仏本行集経』との違いは明らかである。

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