つらつら日暮らし

道元禅師の説法に見える「かけ算」

なんとも凄い話だが、インド人は二桁×二桁の暗算を容易にこなすそうである。やはり、数字について、暗算で扱えるレベルが違っているのだろう。それとも、訓練の成果だろうか?そこで、道元禅師の説法に見える「かけ算」について見ていきたいと思う。

冬至小参に云く。古徳道く「九九八十一、人の能く算の解する無し。両箇五百文、元来是れ壱貫」と。
    『永平広録』巻8-小参4


このように、引用文ではあるが、9×9=81という計算を明らかに説法に利用されている(多くの禅語録には、五五二十五、六六三十六、七七四十九、他がある)。これは、“掛け合わされる”ということが、縁起の様子で「思った以上に数字が増えても、実はその内容は同じ」様子を明らかにしている。かけ算はあくまでも法の様子であり、この世の諸現象は、様々な変異があるけれども、それは諸法実相だというものである。

以上の見解を受けて、次のような説法の数々を見ていきたい。

九部
 一者修多羅   二者伽陀   三者本事
 四者本生    五者未曾有  六者因縁
 七者譬喩    八者祇夜   九者優婆提舎
 この九部、おのおの九部を具足するがゆえに、八十一部なり。九部おのおの一部を具足するゆえに、九部なり。帰一部の功徳あらずば、九部なるべからず。帰一部の功徳あるがゆえに、一部帰一部なり。このゆえに八十一部なり、此部なり、我部なり、払子部なり、柱杖部なり、正法眼蔵部なり。
    『正法眼蔵』「仏教」巻


これは、経典の種類・分類について論じられている「仏教」巻での言葉だが、これもまた、1つの部が、九部を備えているので、九部が九部を備え、八十一部とされる。ここには、かけ算によって、たった1つの教えが、限り無く広がっていく様子を明らかにしている。このような無尽なる拡大もまた、かけ算によって明らかにされる仏法の機能だといえる。

そもそも、このように、多くの種類に分類されつつも、特定の1つに、他の全てが具有されることは、『華厳経』などでも見られる発想であり、無限・無尽なる様子を示すのに適していたのである。しかも、あくまでも数字的に理念化された状況であるから、具体的な物をかけ算するのとは違っている。そう考えていくと、次のような教えも理解しやすいと思う。

これ、八大人覚なり。〈一一各具八、すなはち六十四あるべし。ひろくするときは無量なるべし、略するは六十四なり。〉大師釈尊、最後之説、大乗之所教誨之至極、二月十五日夜半の極唱。これよりのち、さらに説法しまさず、ついに般涅槃しまします。
    『正法眼蔵』「八大人覚」巻


だいたい、数字に関する教えの時には、こういうかけ算の応用がされるが、「八大人覚」についても同様であった。八大人覚も、1つにはそれぞれ8つを備えており、八大人覚を数えると64になる。もちろん、仏法だから、広くすれば無量だが、略すと64になる。我々はすぐに、この「予め与えられた数」にばかり着目して、その中でモノを考えようとしてしまいがちだ。だが、本来は、その数字自体が、どのような「法」に依っているかが肝心である。そう考えてみると、次のような言葉も学びにつながる。

この三十七品菩提分法、すなはち仏祖の眼睛鼻孔・皮肉骨髄・手足面目なり。仏祖一枚、これを三十七品菩提分法と参学しきたれり。しかあれども、一千三百六十九品の公案現成なり、菩提分法なり。坐断すべし、脱落すべし。
    『正法眼蔵』「三十七品菩提分法」巻


仏祖の修行体系である三十七品菩提分法について、その数字を用いて、37×37=1369を導いている。ここまで来ると、軽く暗算するというわけにはいかないから、何かしらの計算方法を用いたと思われる。しかし、よほど数字を扱うのに長けていたと見える。この辺は、「和讃」じゃなくて、「和算」の歴史を紐解いてみないと分からないかもしれない。

ところで、この「三十七品菩提分法」巻に対する江戸時代の註釈書に次の一句があった。

これ十二時に渉り、則ち四百四十四分す。
    天桂伝尊禅師『正法眼蔵弁註』「三十七品菩提分法」篇


・・・つまり、三十七品が十二時(1日のこと)に渉って行われるときには、37×12=444になるという話である。天桂禅師もまた、御自身の計算能力を示しておられるので、採り上げてみた。しかし、こう結果としての「444」という「ぞろ目」を採り上げる辺りが、天桂禅師の意志を感じるようである。

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