つらつら日暮らし

優婆塞が行うべき「六重法」について

優婆塞というのは、仏教に於ける男性の在家信者のことを指す。そこで、以下の一節を見ておきたい。

六重とは、優婆塞戒経第四巻受戒品の如し。一には殺、二には盗、三つには婬、四つには妄語、五つには沽酒、六つには出家在家四衆の過失を説く。
    天台智顗『仁王護国般若経疏』巻5


以上のように、優婆塞にとっての「六重法」について、非常に簡潔に書かれている。この内、前者の4つについては、いわゆる声聞戒の「四重禁」と同じ項目である。その上で、『梵網経』の十重禁戒に於ける第5・第6の重戒に該当する2つが入っている。ところで、智顗が指摘するように、『優婆塞戒経』「受戒品」の本文を見てみたいと思う。

 既に授戒し已りて、復た是の言を作すに、「優婆塞には、六重法有り。
 善男子よ、優婆塞の戒を受持し已れば、天女、乃至蟻子なりと雖も、悉く応殺せざれ。若し受戒し已れば、若しくは口で教えて殺し、若しくは身で自ら殺す。是の人、即ち優婆塞戒を失し、是の人尚お煖法を得ること能わず。況んや須陀洹より阿那含に至らんや。是れを破戒優婆塞〈中略〉と名づけ、是れを初重と名づく。
 優婆塞戒、身命なりと雖も、乃至一銭をも偸盗することを得ざれ。若し是の戒を破せば、是の人、即ち優婆塞戒を失し、是の人、尚お煖法を得ること能わず。況んや須陀洹より阿那含に至らんや。是れを破戒優婆塞〈中略〉と名づく。是れを二重と名づく。
 優婆塞戒、身命なりと雖も、不浄観より阿那含に至るを我得するの虚説することを得ざれ。若し是の戒を破せば、是の人、即ち優婆塞戒を失し、是の人、尚お煖法を得ること能わず。況んや須陀洹より阿那含に至らんや。是れを破戒優婆塞〈中略〉と名づく。是れを三重と名づく。
 優婆塞戒、身命なりと雖も、邪婬することを得ざれ。若し是の戒を破すれば、是の人、即ち優婆塞戒を失す。是の人、尚お煖法を得ること能わず,況んや須陀洹より阿那含に到らんや。是を破戒優婆塞〈中略〉と名づく。是れを四重と名づく。
 優婆塞戒、身命なりと雖も、比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷の有る所の過罪を宣説することを得ざれ。若し是の戒を破せば、是の人、即ち優婆塞戒を失し、是の人、尚お煖法を得ること能わず。況んや須陀洹より阿那含に至らんや。是れを破戒優婆塞〈中略〉と名づく。是れを五重と名づく。
 優婆塞戒、身命なりと雖も、酤酒することを得ざれ。若し是の戒を破せば、是の人、即ち優婆塞戒を失し、是の人、尚お煖法を得ること能わず。況んや須陀洹より阿那含に至らんや。是れを破戒優婆塞〈中略〉と名づく。是れを六重と名づく〈以下略〉」。
    『優婆塞戒経』巻4「受戒品」、拙僧ヘタレ訓読


なお、「中略」になっている部分の多くは、人権問題を含む用語が見られるために、削除した。それでも、全体の意図は変わりなく伝えられるために、以上のように訓読した。

さて、智顗が挙げた順番と、第5・第6が入れ替わっていることが気になるのだが、内容的には変わらない。また、戒法の内容といっても、殺生戒は「天女から蟻」とある通りで、一切の生き物を殺してはならないとしている。更には、妄語戒は「不浄観から阿那含」と書いてある通りで、あらゆる境涯を得たと自称することが許されていない。それから、「煖法」だが、これは『大般涅槃経』にその意味が書かれている。

・夫れ煖法とは、即ち是れ智慧なり。
・何の因縁の故に、名づけて煖と為すや。善男子よ、夫れ煖法とは、即ち是れ八聖道の火相なり。故に名づけて煖と為す。善男子よ、譬えば火を攢るが如し。先ず煖気有り、次に火生有り、後に則ち煙出づ、是れ無漏の道も、亦復た是の如し。煖とは即ち是れ十六行なり、火とは即ち是れ須陀洹果なり、煙とは即ち是れ修道断結なり。
    『大般涅槃経』巻36「迦葉菩薩品第十二之四」


煖法というのは、上記では仏陀の智慧のことを指しており、我々衆生が仏陀に到る過程を歩む際の原動力を指しているといって良い。そのため、同じ『大般涅槃経』では「一切衆生悉く煖法有り」とまで述べている。でも、仏性のようなものかと思えば、もう少し、修行の方などに寄せて語られる言葉である。

その意味では、「六重法」とは在家戒のことであるから、それを持つことによって、修行し、煖法(智慧)に向かうという流れを見ることが出来た。なお、北伝の漢訳経典を見る限り、出家者にも「六重法」もある。それはまた、別の機会に見ておきたい。

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