今年(2019年)は6月末頃から7月にかけて、「東山(奥羽山脈)」の稜線に厚い雲が発生しているのを時折目にしました。6月29日、「大曲駅」から「秋田駅」行の列車に乗る(飲み会なので車では行けない)ため、改札口がある駅の二階部分から東を望むと「東山」に厚い雲がかかっております。
稜線の上が厚い雲に覆われております。これは「東山」の向こう、「岩手県」側に「ヤマセ(山背)」が吹いていることを現しております。「ヤマセ」は、夏(6月~8月)にオホーツク海に発生する高気圧から吹き付ける冷たく湿った東寄りの風のことです。
「ヤマセ」は通常は「奥羽山脈」に遮られ、「仙北平野」が「ヤマセ」に見舞われることはほとんどありませんが、強く吹くとその一部が山を越えて「仙北平野」にまで降りてくることがあります。写真左手の高いところは「真昼岳」ですが、その頂上辺りで雲がこちら側になだれ落ちているように見えるところがあり、「ヤマセ」の一部が山を越えてきていることがわかります。厚い雲は、湿った「ヤマセ」が「奥羽山脈」にぶつかって上昇し空気が冷えて生じるもので、上空高いところにある雲とは明らかに異なっております。
ちなみに、7月6日に「秋田駒ヶ岳」に出かけた時、天気は晴れにもかかわらず、県境の稜線は肌寒い霧を伴ったやや強い風が「岩手県」側から「秋田県」側に吹いておりました。
7月22日にも我が家から「東山」にかかる雲が見えました。
「ヤマセ」は山にぶつかって上昇する時は気温の低下を引き起こしますが、山を越えて吹き降ろす時は気温の上昇をもたらします(フェーン現象)。「奥羽山脈」をはさんで東側にある「盛岡」と西側にある「大曲」について、6月29日と7月22日の最高気温を調べてみました。
6月29日→盛岡:19.1℃、大曲:24.1℃ 7月22日→盛岡:24.2℃、大曲:28.3℃
「盛岡」は明らかに「ヤマセ」の影響で気温が低くなっております。オホーツク高気圧が発達し強い「ヤマセ」が吹くと、東北の太平洋岸地域は最高気温が20度を下回ることがあり、こうした日が続くと稲の生育に大きな影響を与え、冷害をもたらします。稲作技術が大きく進歩した近年でも、度々「ヤマセ」による冷害が発生し、とりわけ平成5年は、「北海道」から「東北」太平洋岸の米どころが大冷害に見舞われました。米を緊急輸入する事態になったことを記憶している人も多いと思います。
この地域に「ヤマセ」が吹くことは宿命のようなものであり、「宮沢賢治」の「雨にも負けず」に出てくる「サムサノナツハオロオロ歩き(寒さの夏はオロオロ歩き)」は、「ヤマセ」が吹き荒れる時の様子を表した一節です。
ところで、秋田民謡の「生保内(オボナイ)節」は次のような歌詞で始まります。
~ 吹けや生保内東風(オボネダシ)七日も八日も、吹けば宝風、ノウ稲みのる ~
「生保内」は「奥羽山脈」の西麓、「田沢湖線」の「田沢湖駅」がある辺りの地名です。「生保内東風」は県境の「奥羽山脈」から吹き下ろす東風のことです。私は、この東風も「ヤマセ」のことかと思いましたが、いくらなんでも冷害を呼ぶ冷たい「ヤマセ」が、山を越えて少し気温が上昇するにしても豊作をもたらす「宝風」に変わるわけがありません(「ヤマセ」が一部越えてくることはあるでしょうが)。「生保内節」に歌われる「東風(ダシ)」は、太平洋高気圧の張り出しやその他の気圧配置によって吹く東風のことで、やはりフェーン現象によって吹き下ろす暑い乾いた風のことと考えられます。暑さは稲の生育を促し、乾燥は稲の病気を防ぎ、冷涼な山あいの田んぼにはまさに宝風と言えるでしょう。
今年は、時折り「東山」に厚い雲がかかり、太平洋側では「ヤマセ」の影響で稲の生育が遅れ気味のようでしたが、7月下旬からは猛烈な暑さが続いて生育は回復し、作柄は平年作の予想となっているようです。ただ、雨が降らず、猛暑日のような暑さがこれから何日も続くようだと、今度は水不足と米の登熟に支障をきたす高温障害が心配されます。
(終わり)
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