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青城澄作品集

詩人あおきすむの書いたメルヘンや物語をまとめます。

小さな小さな神さま・3

2025-04-07 01:59:18 | 小さな小さな神さま

「そこにおられるのはどなたですか」
 小さな神さまが驚いておりますと、盆地のちょうど真ん中辺りから、大きな石のようなものがズンと伸び出してきて、それがぱんと弾けました。するといつの間にか、大きなお美しい青年の神が、小さな神さまの目の前に立っておられました。
「これは失礼をしました。あなたがこの盆地の神でいらっしゃいますか?」
 小さな神さまは、突然の訪問の非礼をわびるとともに、ご自身のお名前とご身分を名乗られ、簡略に要件を述べられました。盆地の神は、小さな神さまに、ていねいにお辞儀をされてから、自分の名は大羽嵐志彦の神であるとおっしゃいました。
 大羽嵐志彦の神は、青年のたくましいお姿に似合わぬ、乙女のように清楚なお顔立ちを、そよがせるようにほほ笑まれ、おっしゃいました。
「にんげんを育てられるのですか?」
「はい、ここでこうして拝見して、ぜひに欲しいと思いました」
 小さな神さまは、力強くおっしゃいました。大羽嵐志彦の神は、ほほ笑んだまま、少し困ったように眉を寄せられました。
「しかし、難しいものですよ。最初のうちはかわいいのですが、そのうちいろいろと小理屈を言うようになります。神のことなどおかまいなく、勝手なことをやり始めたり、あれこれと我がままばかり申したり……。近ごろでは、よほど無茶な悪戯もするもので、やれやれ、ほとほと困り果てておりますよ」
「そうはおっしゃいますが、どうしても育ててみたいのです」
「最初はみな、そうおっしゃるのです。あまりにかわいいのでね。しかしそのうち、かわいいだけではすまなくなるのですよ。生半可ににんげんを育てようなどとは、お思いにならない方がよろしい。一度ご自分の土地にお帰りになって、よくよく考え直した方がよろしいかと」
 大羽嵐志彦の神はおっしゃいましたが、小さな神さまのご決心を変えることはできませんでした。
「いや、にんげんがわたしの谷に来てくれるのなら、どんな苦労もいといません。どうか、少し分けてはくださいませんか」
「ああ、それは、いけません」
 大羽嵐志彦の神が、にべもなくおっしゃるので、小さな神さまは驚かれました。
「なぜ? わたしは御礼に差し上げられるものを、何も持っていないわけではないのですよ?」
 すると大羽嵐志彦の神は、ますます困った顔をなされました。
「いや、違うのです。これには……」
 と、その時でした。下の盆地の方から、何やらちんちんと、かわいらしい音が響いてきました。
 小さな神さまが下をごらんになると、ちょうど盆地の真ん中の、木々に囲まれた広場のようなところで、にんげんたちが集まって、にぎにぎしく騒いでおりました。
「おや、あれは何でしょう?」
「ああ、あれは祭の練習をしておるのですよ」
「まつり?」
「年に二度、春と秋、わたしの社ににんげんどもが集まって、舞い歌いながら神と遊ぶのです」
「ほう……」
 小さな神さまは、感心なされて、祭の様子をしげしげとごらんになりました。社の前庭には、白い石を一面に敷きつめてあり、その中で、愛らしく着飾った稚児や乙女や若者たちが、歌ったり、鈴を振ったり、笛を吹いたりなどして、楽しげに笑っておりました。
 それを見ているうちに、小さな神さまは、なぜ盆地の神がいけないとおっしゃったのか、ようやく分かりました。
 にんげんたちが、歌い踊るたびに、その小さな体の奥が、ちらり、ちらりと、炎がひらめくように震えて光るのが見えるのです。よく目をこらしてごらんになると、それらはみな、小さい小さい光の核でした。
 核は、貝の中に秘められたくず真珠のように、それぞれにみな微妙に違う形や色をして、にんげんたちの小さな命の社の奥に、大切に守られていました。そしてそれらの核の前には、全て、蜜のようにとろりと金に光る、美しい滋養の滴が、一つ一つ餅を供えるように、配られていました。
 にんげんたちが歌い踊ると、核の中に金の餅が転がり込んで、それは鈴のように快い音をたてるのです。
(ああ、なんという音だろう……)
 小さな神さまは、お身の上を洞の冷風に拭われるような、驚きを感じられました。なぜならそれは、小さな神さまには、それまでに聞いたこともないような、何とも不思議な音だったのです。
「……やあ、皆で歌っている。輪を囲んで踊っている……。なかなかに良い技ではないか。あれはあなたが教えたのですか?」
「種は植えてはやりましたが、後のことは少しずつ、あれらが工夫して考えました」
 大羽嵐志彦の神は、目を細めておっしゃいました。小さな神さまは驚きながらも、目を吸い込まれるように、再び祭の様子にお顔を向けました。
「おや、ひとり稚児が転んだ。おお、痛い痛い……泣いているぞ。おやおや、若者が抱き上げた……皆が集まってきた。おお稚児が笑った、笑った……なんと皆、仲の良いことだ……」
 小さな神さまは、はっとされました。そしてしばし、呆然と、言葉を失われました。
「にんげんとは、こころまでも、神のまねをするのか……」
 小さな神さまはお顔をあげて、大羽嵐志彦の神を見つめられました。大羽嵐志彦の神は、りんとしたお眉に、深い慈愛をたたえられながら、下界のにんげんたちの様子を、優しく、厳しく、ごらんになっていました。小さな神さまは、大羽嵐志彦の神が、いかにこれらのものを愛しておられるかを、理解されました。小さな神さまは深く恥じ入られ、大羽嵐志彦の神に許しを請われました。大羽嵐志彦の神は、笑ってかぶりを振られました。
「ああ、それにしても、かわいいものだ……。どうすれば、にんげんをわたしの谷へ呼ぶことができるでしょうか」
 小さな神さまがおっしゃいますと、大羽嵐志彦の神は、お眉の辺りに少々思案を乗せられながら、再びやわらかくほほ笑まれました。そして、東に遠くかすむ、青い山影を指さしました。
「あの山の彼方に、にんかなという四方を湖に囲まれた秀麗なる青峰があり、そこにおわせられるにんかなの神に、お頼みになるとよいでしょう」
「ありがとう。では早速訪ねてまいりましょう」
 小さな神さまは、再び深々と頭を下げられますと、懐から竜を呼び、それに乗って飛びたとうとされました。しかし、いざゆかんとする前に、大羽嵐志彦の神が呼び止められました。
「いや、待ちなされ。にんかなは遠く、途中にはいくつかの試練もございます。その水の竜だけがお供では、少々心もとない」
 言うが早いか、大羽嵐志彦の神は、口からプップッと小さな白、青、朱、三色の珠を吐き出されました。三つの珠はくるくると回りながら卵が弾けるように次々と姿を変え、いつしか目の前には大羽嵐志彦の神にそっくりで衣の色ばかりが違うお三方の神が立っておられました。
「我が分け身なる神、美羽嵐志彦、早羽嵐志彦、於羽嵐志彦。道案内にもなりましょうから、お連れになるとよいでしょう」
 大羽嵐志彦の神は、おっしゃいながら、くるくると手を回されました。するとお三方の分け身の神は、あっという間に元の珠にもどりました。
「いや、そこまでしていただいては……」
 小さな神さまは固辞しようとなさいましたが、大羽嵐志彦の神はうなずかれませんでした。
「あなたはご存じないが、きっとこれらの力が入り用になる時がまいります。どうぞお連れになってください」
 大羽嵐志彦の神は、お髪を一筋ほどいてしなやかな緒をこしらえられますと、三色の珠をその緒に連ね、小さな神さまのお首にかけられました。そこまでされると、もうお断りするわけにもゆかず、小さな神さまは、ありがたくその珠をいただきました。三つの珠は、小さな神さまの白い衣の胸に落ち着くと、ころころと涼しい音をたてました。
「ありがとう。ではいってまいります」
 小さな神さまは、一礼をなされると、青い竜に乗って、再び飛びたたれました。空は、あっという間に、希望を胸に灯した小さな神さまのお姿を、吸い込んでしまいました。大羽嵐志彦の神は、遠く空の向こうにお目を飛ばされながら、小さな神さまのために、ゆっくりと頭を垂れられました。

  (つづく)




 
 
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小さな小さな神さま・2

2025-04-06 02:14:14 | 小さな小さな神さま
 2

「谷はこんなにも美しく、満ち足りているのに、この胸の奥に、虚ろが小さなひび割れのように繰り返し生まれるのは、何としたものだろう」
 ある日小さな神さまは、いつものように山のてっぺんにお座りになって、自問されました。するとほほを触れてゆく風が、寂しげな笛のような音で、「悲しまないで」とささやきました。
「悲しんではいないよ。ただ少し考えているだけなのだよ」
 小さな神さまは、にっこりとほほ笑んで、答えられました。しかし、考えているだけでは何も分からぬので、通りかかった季節の雨雲の神を呼び止められて、お尋ねになりました。雨雲の神は、竜のように長い裳裾を空にひきずりながら、小さな神さまの方にお顔を向けて、お答えになりました。
「どうですか。にんげんをお育てになっては」
「にんげん?」
「にんげんは、育て方も難しいのですが、おもしろいものだそうですよ」
「ほう。それは姿が良いのですか? それとも声が良いのですか?」
「にんげんは、神のまねをするのですよ。上手に育てれば、詩歌を作り楽を奏でるようにもなるし、美しい町を造り、美しい庭なども造るそうですよ」
 それを聞いたとたん、小さな神さまのお目から、ぴょんと星が一つ生まれて、火花のように空中でぱちぱち弾けました。
「なんと、詩歌などを!? いや、それはたしかにもしろい!……して、どこにゆけば、にんげんを手にいれられますか?」
「さあ、どうか。にんげんを育てておられる神にお聞きになってはどうでしょう。ちょうど、あの東の山向こうの盆地の神が、にんげんをたくさん育てておりますよ」
「ありがとう。では早速訪ねてまいりましょう」
 小さな神さまは、大喜びで立ち上がられますと、深々と額を下げられました。雨雲の神は、かしこまりながら小さな神さまのお礼の心を受け取られ、やがて風を呼びながら、次の土地に雨を降らせるために、いってしまわれました。
 小さな神さまは、谷を見下ろされますと、ゆっくりと踊るような所作をなされ、滝の周りの水気を、くるくると糸を巻き取るように集められました。凝結した水気のかたまりに、小さな神さまが、ふっと息を吹きかけますと、風と水が瞬間渦のようにぐるぐるからみあい、それはあっという間に一匹の青い竜となって、小さな神さまの足元にかしずきました。
 小さな神さまはその竜の上にひょいとお乗りになると、さっそく飛び立とうとされましたが、その前に、思い出したように、あっと声をあげられました。
「おっといかん、忘れるところだった」
 小さな神さまが、片手でほほをぽっとたたかれますと、お口の中から、小さな白い珠がひとつ、飛び出しました。小さな神さまがその珠に向かって、「わがわけみなるかみ」と呼びかけられますと、珠は火花を放ってぱちぱち弾け、その中から、もうひと方の小さな神さまが、現れました。
「わたしは少し出かけてまいりますので、留守をお願いいたします」
 竜に乗った元の小さな神さまがおっしゃいますと、分け身の小さな神さまは、深々とお辞儀をして、「かしこまりました」とおっしゃいました。
「よし、これでよい。では竜よ、いこう」
と小さな神さまは、東の山のてっぺんをお指しになって、おっしゃいました。すると竜は、洞窟を渡る風のように深い声で「はい」と答え、兎が跳ねるように空に躍り出ました。そして高天を吹く風に乗って一気に東の空へと飛び渡ると、目指す山の上空で、竜はゆっくりと旋回して、やがて静かに頂に降り立ちました。
 小さな神さまは竜から降りられますと、またくるくると手を振って、竜を小さな水気の珠にして、懐の中へと隠しました。そして眼窩の盆地に何げなく目をやられ、その変わった様子に、目を見張られました。
 緑の中を、糸を張ったように、細く白い道が縦横に走っており、その間を、小さな箱のような家々が、川底にはりつくタニシのように、一面にびっしりと並んでおりました。緑の土地は、きれいに手入れをされて、しつけのゆき届いた木々や草花が、行儀よく肩を並べておりました。そしてそれらのものの透き間に、何やらノミのように小さいものが、あちこちできゃらきゃら声をたてながら、動き、騒ぎ、飛び跳ねておりました。
 よく見ると、その道や家々は、稚拙ではありますが、それなりにきれいに秩序だって並んでおり、小さいものたちは、愛らしい知性の萌芽を額に灯らせながら、愉快に笑ったり、手足を懸命に動かして働いたり、辻に立って自分の考えを披露したりしておりました。
「ほうほう……」
 小さな神さまはとても感心なさったご様子で、何度もあごを引きました。にんげんは神のまねをすると聞いてはおりましたが、ここまで似ているとは思わなかったのです。胸の奥で、ざわざわと騒ぐものがあり、小さな神さまのお心の中には、たちまちのうちに情愛がわき起こりました。それは小さな神さまを、今までにないほど幸福な境地へと誘いました。しばしの間、神様はまるで愛子を見つめる母のように、にんげんたちをうっとりと見下ろしておりました。
「おお、これがにんげんか! なんとかわいいものだろう! 盆地の神に、少し分けてもらえないかと頼んでみよう」
 するとその時、空気の一点を鞭打つように、すぐそばで声がしました。

  (つづく)





 
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小さな小さな神さま・1

2025-04-05 01:50:53 | 小さな小さな神さま

  1

 昔、どことも知れない深い深い山の奥に、小さな谷がありました。
 谷は、青々と、湿っていて、絹糸のようなせせらぎや、日の光に力強く盛り上がる緑や、たわわに実る木の実、梢や水辺を飾る色とりどりの花々などがあって、それは美しいところでした。
 せせらぎには、磨いた水のかけらのような透明な魚が、川底の石に紛れた珠玉のように息をひそめていたり、冠のような角をした鹿や、翅に瑠璃をはめこんだ蝶々などが、水を飲みに訪れました。樹上には品よく装いした小鳥たちが巣作りにいそしみ、枝々にはどんぐりを追いかける栗鼠が走りました。
「ああ、美しいなあ。こんなに美しいところは、きっとめったにないに違いない」
 さて、今、谷をおおうもやの向こう、小さな山のてっぺんに、ちょこんとお座りになって、ため息を深々とつきながら、谷を見下ろしておられる小さなお方は、いったいどなたでしょう?
 きらきらしいお顔立ちに、穏やかでやさしいほほ笑みをうかべ、豊かとは言えませんがやわらかくつややかなお髪を、ちんまりと角髪にまとめておられます。赤子のようなお姿をなさってはおりますが、このお方は、この小さな谷をつかさどっておられる、りっぱな神さまでありました。
 この神さまのご本名は、大遅此芽稚彦の神さまと、おっしゃるのですが、ここでは単に小さな神さまと、呼ばせていただきましょう。
 小さな神さまは、しばし満足そうに谷をごらんになっておりましたが、やがてひょいと腰をお上げになると、ほんの一足で谷のせせらぎに降りられ、みぎわに咲いている小さな花に尋ねられました。
「野の花よ、風や光のぐあいはどうだい?」
 すると花は、恥ずかしそうに頭を垂れて、言いました。
「風も光も、ちょうどよいぐあいです」
「そうか。ここで花を咲かせているのは、どんなぐあいかな?」
「とてもうれしいことです。幸せなことです」
「それはよかった」
 小さな神さまは満足してほほ笑まれると、また一足で、今度は木の上の巣のほとりへとゆかれました。
「どうだい、卵のぐあいは?」
 小さな神さまがお声をかけられると、母鳥は、そわそわと翼を動かしながら、言いました。
「はい、順調です」
「そうか。ここで巣作りをして、どんなぐあいかな?」
「ここは暖かく、食べるものもいっぱいあって、子育てにはとてもよいぐあいです。赤ちゃんが生まれたら、ご報告にまいります」
「そうか」
 小さな神さまはうれしそうにうなずかれますと、すいと天に上られ、そのまま飛ぶように天を走ってゆかれました。
 小さな神さまは、谷の一番奥の、小さな滝のところへとゆかれました。その滝の向こうには、小さな神さまが最も丹精してこしらえられた、水晶の洞窟があるのです。
 滝は、頭上を深い緑におおわれた、つややかな黒い崖に、ほっそりとかかっておりました。小さな神さまが滝に近づかれますと、微細な水の粒がしっとりと辺りを包み、光が頭上の梢から射しこんで、小さな虹がいくつか、水気の中に遊んでいるのが見えました。そして、その薄衣のような帳を、小さな神さまがくぐられますと、辺りは急に夜になりました。
 暗く湿った洞窟のあちこちには、天井にも壁にも床にも、水晶の株が無数に植えこんであり、それは輝かしい昼の神を畏れて、星々がすべてこの小さな空洞に逃げこんできたかのようでした。滝がもたらす冷気が、ひえびえと辺りに満ち、微かな空気のそよぎが、水晶の内部に秘められた弦をやさしくかなでて、それは静かで、清らかな宇宙の水辺のせせらぎを思わせる涼しい音楽となって、小さな神さまのお耳を楽しませるのでした。
 洞窟の中央には、小さく平らな岩が横たわってあり、小さな神さまはそこをご自身の御座と決めておいででした。小さな神さまはその小さな御座にお座りになりますと、ひととき水晶たちの調べに御魂を泳がせ、やがて歓喜の息をおつきになりました。小さな神さまの吐息からは、時折小さな星のような光が生まれて、それはしばらくふわふわと空中を漂い、やがて水晶の柱の一つに、ひょいと吸いこまれました。すると水晶は、瞬間燃え上がるように青く光り、ぱちぱちと音をたてながら震えました。しばらくすると何もなかったかのように静かになりましたが、小さな神さまは、水晶の内部で、繭をほどくように先ほどの光がほぐされていくのを、ごらんになりました。やがてその小さな光の糸は、ゆっくりと再び織り上げられて、新しい水晶の株がまた、この世に生まれてくるのでしょう。小さな神さまは、そんな水晶たちのつつましやかな仕組みが、こつこつと行われていく様子を、目を細めながら喜ばれました。
「ああ、よい」
 小さな神さまは、おっしゃいました。すると、小さな神さまがそうおっしゃったとたん、谷じゅうの生き物が、同時に喜びに震えました。小さな神さまが喜んでいらっしゃる。それは谷の生き物たちにとって、この上ない幸せでありました。小さな神さまがこの谷に住んでおられ、にこにこと笑顔でいらっしゃる限り、この谷は永遠に平和で、美しくあることができるのです。ですから、この谷の全ての生き物は、今とても幸せでした。あまりにも幸せすぎて、小さな神さまが時々、ほんの少しの寂しさにお胸を染められることに、誰も気づくものは、ないほどでした。

   (つづく)





 
 
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