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青城澄作品集

詩人あおきすむの書いたメルヘンや物語をまとめます。

引越し

2025-04-23 05:29:48 | 天使がひとり

 

当ブログは、はてなブログに引っ越しました。

 

絵本の続きは、そちらでお楽しみください。

 

gooblogには、長い間お世話になりました。とても感謝しています。

 

またよろしくお願いします。

 

 

 

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天使がひとり・表紙

2025-04-23 02:47:36 | 天使がひとり

 

絵本・天使がひとり

 

 

 

 

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長い髪のシリク・5

2025-04-22 02:10:37 | 長い髪のシリク

  5

やがて、ヴァスハエルと二人の天使たちが、白い袋をいっぱいにふくらませて、車に戻ってきました。天使たちは、人間の嘘の影で満たした大きな袋を、トランクにしまい込むと、ドアを開けて、車の中に戻って来ました。

「ほら、こんなものがあったよ」
とセロムが言いながら、シリクに小さな緑色の石を差し出しました。シリクはありがとう、と言ってそれを受け取りました。石は、菊の花のようなきれいな文様があって、耳を澄ますと、かすかな声で歌っていました。

「みんな悲しんでいた。苦しみに満ちていた」
「助けてあげようね。きっとまた、やって来て、人間たちのためにいいことをたくさんしてあげよう」
二人の天使は、シリクを抱きしめて、言いました。ヴァスハエルは舵を取って、車を動かしました。シリクは石を握りしめました。

車はしばらく、人間世界の上を飛びました。天使たちは、人間世界の様子を眺めながら、心の中でこれから何をしていけばいいのかを、考えていました。シリクは、運転席のヴァスハエルの方を見て、唇をかみしめました。そして、思い切って、尋ねました。

「お上、なぜわたしは、外に出てはいけなかったのですか。わたしも、人間のために、働きたかったのに」

するとヴァスハエルは、かすかにため息をつき、しばし沈黙を噛んだ後、言ったのです。

「おまえはまだ、悪いことをしたことがないからだ」

シリクは驚きました。天使というものは、悪いことというのも、勉強しなければならないのです。つらくても、それができなければ、悪いことをする人間たちを助けることが難しいからです。しかしシリクは、悪いことをするのがとてもいやで、悪いことの勉強をすることを、ずっと避けてきたのでした。

シリクは抗議しました。

「そんなことはありません。わたしは、コオロギを踏んだこともあるし、神の鏡を砂で汚してしまったこともあります」

ヴァスハエルは深いため息をつきました。
「そんなことは悪いことには入らないのだよ。悪いことというのは、もっと難しいのだ」

ほかの二人の天使たちは顔を見合わせました。彼らは、悪いことを教えてくれる教室に行って、勉強をしたことがあるからです。でもシリクだけは、絶対にそこには行きたくないと言って、絶対に勉強しなかったのです。

「おまえは変わった子だ。悪いことは絶対にしたくないと言って、よいことばかりをする。それを悪いことだとは言わないが、とても苦しい道だ。おまえはすべてを助けてやりたいと言って、よいことばかりを頑固なまでやり続けるが、それは本当におまえを苦しめるだろう。そういうおまえは、今はまだ、ゲルゴマキアのようなところに行ってはいけないのだよ。そんなところに行けば、おまえはあまりのことにショックを受けて、消えてしまうかもしれない」

「なんとおかしなことを。魂は消えてしまうことはありません」

「そうだとも。だが、消えてしまうと同じ事が、おまえの身に起こるのだ。今はまだおまえにはわからない。勉強しなさい」

そういうと、ヴァスハエルは、舵を上にあげました。車は高く飛び上がって、人間世界を離れていきました。

天国に戻ると、三人の天使たちは、ヴァスハエルの館について行って、そこの厨房で真実の薬を作る手伝いをしました。ヴァスハエルの作った真実の薬は、金色の真珠のような形をしていて、見るとため息が出そうなほどに美しいものでした。しかしそれを、天国の水で薄めた影の中に入れると、見る間に光が衰えて、小さくなってしまうのです。

シリクはあまりのことに、小さな悲鳴を上げました。しかし、真実の薬が、完全に溶けてしまわないうちに、ヴァスハエルは芥子粒のようにかすかな銀の毒を入れました。シリクは驚きました。なぜならそれは、天使にとってはとても悪いことだったのです。真実の薬に毒を入れるなんて、シリクにはすぐには信じられませんでした。でもその銀の毒のおかげで、真実の薬はみなまで溶けてしまわずに、小さな光は残ったのです。

ヴァスハエルはそれを確かめると、それにきれいな麦粉を混ぜて、柔らかなパンの生地にしました。天使たちは、それを小さくちぎって丸め、清らかな火で焼き上げ、かわいい菓子をこしらえました。

「これを、人間たちに食べさせるのだ。百万個のパンの中に一個の割合で、混ぜるのだよ。そうすれば、人間たちの魂は、少しずつ真実に気付いて、正しい道に戻っていく」
ヴァスハエルは言いました。

「ああ、それはとてもいいことです」
「すばらしいことです」
天使たちは口々に、喜びの声をあげました。シリクは銀の毒のことが少し心に引っかかっていましたが、何も言わずに、みんなと一緒に喜びました。

仕事が終わると、天使たちはあいさつを交わして、それぞれの仕事場に戻っていきました。シリクも、自分の花園に戻って、ひなぎくたちにただいまと言いました。

「お上のもとで、とてもよい仕事をしてきたよ。わたしもいつか、人間世界に行って、人間たちを助けてやりたい」

そうすると、花園のどこかから、コオロギの声が聞こえました。

「ああ、あのコオロギだ。足は具合がいいだろうか。幸せにしてあげることができたのだったら、いいのだけど」
シリクがそう言うと、ひなぎくたちが、少し悲しげに笑って言ったのです。

「シリク、あなたはもう少し、影を勉強しなければ」

「ああ、同じことをお上にも言われたよ。でも、できないものはできないんだ。やりたくないものはやりたくないんだよ。わたしは、悪いことをするのは、いやなんだ。ああなぜ、お上はあのすばらしいお菓子に、銀の毒など入れたのだろう。そんなことをすれば、人間が苦しいことになるかもしれないのに」

するとひなぎくたちがまた言いました。
「真実を知るためには、人間は苦しいことも味わわねばならないのよ」
「ああ、そうだとも。でもわたしなら、毒をお菓子に入れることなんてできない。でも、お上にはできるんだ。それが人間のためなんだね。でも…」

シリクがくちびるをかみしめて黙ってしまうと、コオロギが驚いたように、愛の歌を高く奏でました。シリクが、今にも消えてしまいそうに見えたからです。でもシリクは消えませんでした。シリクはコオロギの心に気が付いて、信じられないほどきれいな笑顔で、答えてくれたのです。

「ありがとう、コオロギよ。…ねえ、こんなわたしは、君たちを悲しませてしまうのだろうか。でもわたしは、どんなに無理をしても、こんな自分しかできない。やっぱりわたしは、みんなの幸せのために、これからもよいことばかりをたくさんしていくんだ」

シリクはまた目を明るくして、言いました。コオロギはほっとしたように、歌を低めました。ひなぎくたちは笑って、もう何も言いませんでした。

かわいいシリクの長い髪が、また一層長くなっていることに、シリクが気づくのは、もう少し後のことでした。


(おわり)




 
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長い髪のシリク・4

2025-04-21 01:28:37 | 長い髪のシリク

  4

やがて車は、天国の門を抜け、天国と人間世界の間にある、中津原に差し掛かりました。そこには月のような太陽があって、緑の草原が豊かに広がっていました。山はみな丘のようで、海はみな池のようでした。いろいろな霊魂が住んでいて、毎日不思議な仕事をしながら、中津原の世界を作っていました。

シリクは車の窓から下を見ました。人間に似ているけれど、かわいい目をしていて、ちょっとウサギのような顔をしている、美しい霊魂たちが、緑色の石に触って、不思議な魔法の儀式をやっていました。
ああ、あれは草にやる水を作っているのだ、とシリクは思いました。遠い昔、自分もあんなことをして、水を作っていたことを思い出したのです。

車は中津原をすぐに通り過ぎ、人間世界に向かいました。前方に、青い人間世界が見えてくると、天使たちは、ため息をつきました。なんと美しい世界だろう。あの中で、今も、嘘や悪がたくさん生きていることなんて、とても信じられない。
ヴァスハエルは舵を握りしめました。そして、シリクの方を少し見て、小さなため息をつきました。

空気の精は一層踏ん張って、エンジンを回しました。地球の引力を感じたからです。ヴァスハエルは舵を回し、車をゲルゴマキアに向けました。天使たちは息をつめました。これから向かうところがどんなところか、わかっていたからです。

そこは、大きな大陸の真ん中ほどにある、黒い大地でした。病気にかかった猫の背のような、生える木もまばらな山々があって、川もやせており、人々は石の多い冷たい土を耕して、貧相な麦を育てては、何とか命をつないでいました。盗みをする人間はたくさんいて、ずるいことをして人をだましたり、何も勉強せずに怠けてばかりいる人間もたくさんいました。人間たちはいつも、互いを馬鹿にしあってばかりいて、傷ついて苦しんでばかりいました。そんな人間の心の中には、薄い闇のような嘘の影が霧のようにいつも立ち込めていて、人間の奥にある美しい魂を、窒息する部屋の中に閉じ込めていました。

この過酷な世界で生きなければならない人間の魂に、少しでも美しい真実を食べさせてやるために、ヴァスハエルはゲルゴマキアにやってきたのです。

やがて車は、ゲルゴマキアの中ほどにある、小さな麦の畑の上空に停まりました。青い麦が風に揺れています。ゲルゴマキアの中では、一番まともな農夫の一家が働いて作っている畑でした。ヴァスハエルにはわかるのです。こんなまじめな人間がひとりでもいれば、天使がそこにやってくることができて、人間を助けることができるのです。

車が麦畑の上で完全に停止すると、ヴァスハエルは傍らの席に置いてあった、大きな白い袋に手を触れました。それが人間の嘘の影を入れるための袋なのです。天使たちは心焦りつつ、ヴァスハエルが差し出してくれる袋に手を出しました。シリクは、もう天にも上るような気持ちで、車のドアを開けようとしました。そのときでした。

「おまえはやめなさい!!」
叫ぶが早いか、ヴァスハエルが外に出ようとするシリクを、手で払ったのです。シリクはあまりに驚いて、車の奥に転んでしまいました。
ユヌスとセロムはただ目を丸くして、ヴァスハエルとシリクを交互に見ていました。ヴァスハエルは苦しそうな顔をして、シリクに言いました。

「おまえは外に出てはいけない。みなが嘘の影を袋にためこんで帰ってくるまで、車の中で待っていなさい」

シリクはヴァスハエルの怒りに驚いて、顔を上げることもできずに、車の後ろの席に震えてうずくまっていました。何が何だかわかりませんでした。だがお上の言うことに逆らうことはできません。

「すぐに帰ってくるから、待っておいで」
「おみやげに、おもしろいものがあったら、持ってきてあげるよ」
ユヌスとセロムは、シリクに優しく声をかけて、車の外に出ていきました。ヴァスハエルも、後を空気の精にまかせ、袋を持って出ていきました。

車の中に残って、うずくまったまま、シリクはしばらく泣いていました。なんでお上が自分をはねのけたのか、わからなかったからです。自分もお上の役に立ちたいのに、人間のためによいことをしたいのに、それができないのなんて、とてもつらいからです。

空気の精が、やさしくシリクの長い髪に風を吹きかけました。悲しまないで、愛しているから、と空気の精はシリクに声をかけました。するとシリクは、少し力が戻ってきて、涙を拭きながら、顔をあげました。

「なんでだろう? なんでわたしは、外に出てはいけないのだろう?」
言いながら、シリクは車の窓から外を見ました。麦畑の傍らには、みすぼらしい木の小屋があって、その奥では、灰色の服を着た人間の女が、赤ちゃんに乳を飲ませていました。シリクはそれを見て、思わず愛を送りました。なんてかわいいのだろう。なんて貧しいのだろう。何かをしてやらなくてはたまらない。あんなによい子なのに、あんな暮らしをしているなんて。

シリクは涙を流しました。人間世界とはこういうものなのだ。絶対に、この世界をよくしてやりたい。そのためには、なんだってしてやりたい。ああ、ひなぎくをもっと白くしなくては。そしてひなぎくをこの世界に咲かせるんだ。そうしたらこの世界は、もっと白く、正しく、美しくなって、あの子も、幸せになれるに違いない。

シリクは涙をかみしめながら、心に硬く決めました。


(つづく)




 
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長い髪のシリク・3

2025-04-20 02:39:54 | 長い髪のシリク

  3

車は岸辺を離れ、天国の花園の上をしばらく飛びました。やがて、天国の門のある、月桂樹の森が向こうに見えてきました。

「これからどこに行くのですか?」
セロムが尋ねました。するごヴァスハエルは舵を空気の精にまかせ、言いました。

「人間世界の、ゲルゴマキアというところに行くのだ」

それを聞いて、ユヌスが驚いて言いました。
「それは、遠いところだ。一体何をしに行くのです?」

ヴァスハエルはふとシリクの顔を見ました。シリクは頬を赤くして、前方を見つめていました。大天使の仕事を手伝えると思うだけで、わくわくする気持ちをとめることができなかったのです。ヴァスハエルはそれを見て、少し困った顔をしました。だが何も言わないまま、天使たちに説明をしました。

「ゲルゴマキアには、影の中をさまよい、悪いことばかりをしている人間がいっぱい住んでいる。そこに行って、袋いっぱいに、人間の心の影を集めてくるのだ」

「心の影を?」
と言ったのはシリクでした。
「そんなものをどうするのですか?」
言ったのはセロムでした。するとヴァスハエルは豊かな微笑みをして、天使たちに答えました。

「人間のための、よい真実の薬をつくるためだよ」

「真実の薬?」
そう問い返したのはユヌスでした。ヴァスハエルは微笑みを変えず、説明しました。

「人間の魂というものは、本当は真実を食べねば生きていけないものなのだ。だが人間は今も、虚偽の世界に生きている。そんな人間の魂を生かすためには、真実の薬を飲ませてやらねばならない。そのことは知っているね」
「はい、もちろん知っています。今も、たくさんの天使の使いたちが、人間たちのもとに真実を届けています」
シリクが言いました。ヴァスハエルはシリクに微笑みかけました。

「わたしはこのたび、人間たちのために、とてもいい真実の薬を新しく考案したのだ。だがその薬は、効き目が良すぎて、そのまま人間に食べさせれば、人間がショックを受けて、とても痛いことになってしまう恐れがあるのだ。それでわたしは、人間たちの中から嘘の影をとってきて、それをできるだけ無力化したもので、薬を薄めて、人間たちに飲まそうと思うのだよ」

「ああ、それはよい方法です!」
とセロムが目を輝かせました。
「きっと人間たちには、よいことになるでしょう!」
とユヌスが続きました。
ヴァスハエルは微笑んで受け取りつつ、シリクの方を見ました。シリクも目を輝かせて、ヴァスハエルを見ていました。


(つづく)




 
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